トリップ


リクエストありがとうございます。



探偵の素質。
事件を呼び寄せ、依頼人の心を掌握し、鋭い観察眼で現場の異変をキャッチする。
真相をつまびらかにする声音は落ち着き払い、誰の心にも染み渡る理路整然としたロジックが犯人の心を封じるサイコロ錠をぱりんと破壊。決意と隠ぺいを砕かれた犯人はこうべを垂れ、肩を落として両手を差し出すのだ。強固な銀の手かせが嵌められ、そっと警察に連行される。
その後ろ姿には、野望と悲しみと血にまみれた罪の重さがのしかかる。それは彼を一生、苛み続けるだろう。

私はポルポ。苗字はいつの間にか捨てさせられた。憶えてはいるけれど、使う機会もないのでいつだってただの『ポルポ』である。おっぱいがおっきくてお金がいっぱいあって、大の大人の男(おのおの、ジャンルは違えどイケメン指数が高い)を九人養ってもなお余りある貯金は六つの口座にじゃらじゃら預けてある成金なタコだ。かつてはギャングスターの幹部としてストレスまみれの生活を送っていたが、ご存知のとおり今はしがらみから解放されてイヤッホオオオオオ!と自由をかみしめる自営業に従事する。悠々自適かつ堕落した生活ですみません、周りがハイスペックすぎてやることが基本的に皆無なんだわ。先日起こったことをありのままに言うと、これ来週までにやっといてーと回した仕事の報告書は翌朝に返ってきた。こんなスーパーヒットマンが九人もいるもんだからさ、ぶっちゃけ私の仕事って……ナニ……食べることか?金髪の青年からは"あんたは生きて、笑っててくれよ"と並みの女がクラッときてしまいそうな微笑みの爆弾を向けられた。私はセルフでボタンを押して自爆した。かわいいー!ニコッとした笑顔最高に可愛いー!でも言ってることは飼い殺し宣言。あんたは物騒すぎるんだ。何回か死にかけてるからな、気持ちはわかるがな。
こんな説明なんてしなくても、私と『彼ら』の関係はたった一言で表せる。家族。血のつながりがなくたって、きっといつからか私たちはそうなっていた。
リゾット。プロシュート。ソルベ。ジェラート。ホルマジオ。イルーゾォ。メローネ。ギアッチョ。ペッシ。
ああ大好きだなあ、と一人でにまにまする。漫画を読みながら関係ないことを考えて表情筋を緩めていたせいで完全に不審者だけど気にしない。だって家にはいまリゾットしかいないもん。そんでリゾットはスルーしてくれるもん。もんとか可愛い子ぶっちゃった。まだアラサーの域には踏み込んでないと信じたいから許せサスケ。
ぱらりとページをめくる。真相が解明される場面は必然的にセリフがメインになるから、小説でも読む気分でさくさくと文字を追う。このトリック、なかなかいいなあ。もっとも私の暗殺チームちゃんならもっともっとずっとうまくやるけどね!こんな雑な殺し方はしないよ!私は何と張り合っているんだ。スタンド使いと一般人は土台が違う。
続きの巻を読もうと席を立ち、本棚から一冊取り出す。残念ながら特定の本を特定の順番で引き抜いて奥のスイッチを押せば隠し通路が……みたいな仕掛けは用意していない。いつかやりたいんだけどね、匠の技でリフォームするのが面倒くさくてさ……。建築に特化したスタンド使いとかいないかな……。
ついでに何気なく本棚を眺めまわす。そろそろ新しいやつを買わないとな。横積みはたまにやっちゃうけど、あまりよくないし。
と、視線がある背表紙に惹きつけられた。
「トリップマシン……」
そう、いつだったか、フリマだったか何だったかで購入した『まほうのどうぐ』だ。
ざっくり言うと自発的に異世界トリップを体験できる超絶オタク特化なアイテムである。本の形をした小物入れ、と見せかけてまじで本やゲームをいれてパタンすると、その世界に行けてしまうという超優れもの。夢だ。少年心と好奇心をくすぐってくすぐってくすぐり倒して悶えまくらせるずるい秘密道具である。
左手に漫画を。右手に道具を。
私がなにを考えたかなんて、もう、推理するまでもない。
ついでにフッと思った。
「(暗殺チームのみんなの名前、コードネームの一種っぽいな)」
ふむ。
ここは一人で遊びに行くより、誰かについてきてもらったほうがいいかもしれない。
なにせ、片手に持つのは探偵漫画だ。某有名極まり、タイトルを言えば誰もが『ああアレね』と頷く大人気シリーズ。探偵ものだからもちろん人が死ぬよ!主人公の周りでは月間何件の事件が起きていることやら、そろそろお祓いに行ったほうがいいと思う。
死にそうになったら即座に帰還すればいいとはわかっているものの、ちょっと心細い。ポルポさん実はチキンだから。タコだけどチキンだからさ。
うーん、と悩むふりをする。うなりながらも足は勝手にリゾットちゃんの部屋へ向いた。ノックしてもしもーし。まあちょっと開いてるからすぐわかるんですけどね。在室していても私が入りやすいようにドアを開けておいてくれるんだよ。優しいね。リゾットの半分は優しさでできているんだよ。え?あとの半分?三割が母性で一割が常識で残りはスパイス程度の殺意じゃない?知らんけど。
「リゾットちゃぁん。ちょっと旅行しない?」
「……日本か?」
「ある意味ね」
かくかくしかじか四角いムーブ。
ざっくりした説明で事情を理解した彼は(すげえわ)、ぱらぱらぱら……と漫画をめくって読み流した。
「お前が好きな漫画だな」
「うん。どう?私一人だとチコッと物騒かなと思ってね」
「同行するのは構わない。他の奴らは?」
「あんまり大所帯で行ってもねえ。どういう状況に置かれるかわからないから様子見って感じでさ。今回は二人……ってのはどう?」
「わかった。……どうすればいい?」
「手つなぐ」
私よりも大きな手。あたたかい。今日のリゾットは恒温動物だ。少し乾燥しているから、あとで"ハンドクリーム、出しすぎちゃったから貰ってくれない?"という合コンテクを披露してみよう。あっハンドクリーム持ってねえや。部屋の引き出しにあるわ。まあいいか。ちっちゃいことは気にしないでぶっちぎって生きていこうな。
カチリ、鍵穴に鍵を挿し込んでまわす。
まばゆい光がファンタジーオカルティクスマジカルマシンの隙間という隙間からあふれ出し、やがて私たちをのみこんだ。




2017 0413