神回避だぞえ!ポルポさん!


ハーイ!元パッショーネ所属現必殺仕事人モドキの上司たるポルポさんは再びのパッショーネ幹部時代に異世界トリップだよ。 ひとたび厄介事が起きれば財布の札束で大活躍。厄介事がない時も身内や食べもののことを考えてるから大丈夫だよ。ディアボロ?なにそれおいしいの?

"は?今ですか?イタリア語?イタリア語ですよね。マジですか?リアルにおっしゃってます?"と連続で喰らったボディブローに対して必死で反応した私の困惑は間違ってない。観光雑誌を買ってホテルでパラ読みしてたところにスティーブンさんから電話がかかってきて(彼の番号は無駄にするのがもったいないので登録しておいた)ちょっと顔貸せやと言われたら私でなくても引っくり返る。ごろ寝で読んでたのに起き上がっちゃったじゃん。
30分後に迎えに来てくれるそうだ。誰が迎えに来てくれるんだろうな。またスティーブンさんかな。私はあの人をアッシーにしてて、ヘルサレムズ・ロットの女性たちからタコ殴りにされないか。ポルポだけに?誰うまっていうか全然うまくなくてごめん。
彼らの行動理由が言葉通り、"パッショーネへの誠意"であるとはどうにも考えられない。諜報活動を無理強いされた可哀想な私に対する同情でもありえない。そんなお涙頂戴な展開で世の中がうまく回るなら、私は喜んでボロ泣きする。
何が目的なのかな。お金の取引は成立したのだし、これ以上、関わる理由はないと思うんだけどな。まさか私の美貌カッコワライカッコトジに気づいたライブラ一同が私に一輪の薔薇を差し出して健全なお付き合いを申し出てくれるとかか。トンデモ過ぎる。どんなライブラメモリアルだよ。私はゲーム内では完璧なステ上げを見せるが、現実では自分が何をすればどのステータスが上がるのかも認識できていない雑魚だ。ご飯を食べればおっぱいが成長するというのは知っている。ビジュアル的には、ブロック崩しがお似合いだ。誰も得しない"ポルポ"のブロック崩し。精神的ブラクラに近い。想像して死んだ。
またクラウスさんたちに会うのならば、多少は恰好を整えておかねばならんだろう。これがホルマジオに会う、とかそういう話だったらメイクも直さないんだけど、たぶんあっちではクラウスさんが待っている。クラウスさんだぞ。相手はクラウスさんだぞ。大事なことだ。
お化粧崩れがないか確かめて、リップグロスを塗っておいた。口紅も持ってるけど、私は口紅というものは鏡にメッセージを書くための道具だと思っているので、自分の唇にはあまりくっつけない。
鏡から遠ざかって自分の顔を見たが、色気ってなんだっけな、って具合でそれほど大人っぽく見えなかった。肉体が、26歳から数年若いからだろうか。
ルームスリッパからヒールに履き替え、バッグを肩にかけて部屋を出る。
言われた時間よりも10分ほど早かったが、そう待たずにお迎えが私に声をかけた。まだ開発されていないソシャゲを懐かしんでいた私は、渋谷凛たんのボイスを頭から追い出した。
お待たせしました、から始まるテンプレ過ぎて教科書に載りそうな会話をし、車に乗り込む。ドアは開けてくれた。この人に案内してもらえたら、楽だし、気持ちよさそうだ。ボスがライブラにお金を突っ込んでて良かった。おかげさまで関係ない私が女心を満たしに満たされている。だってブチャラティくらいしかやってくんないよ、今じゃ。いや、お仕事に関係した移動だったり、TPOによってはみんな開けてくれるけどさ、自発的に後部座席のドアを開けて、降車時には頭がぶつからないよう手をかざしておいてくれるイケメンは貴重だ。個人的には国宝である。金で保護したい。こんな考え方だからブラック・サバスと共存できていたんだろな、私。両手の五指に指輪をじゃらじゃらつけてぶくぶくに太った成金貴族みたいな思考だ。"ポルポ"や垂金権造にはなりたくないね。ブラック・ブック・クラブみたいなものってイタリアンなギャングの世界にもあったりするのかな。
私は氷泪石兄妹のエピソードを思い出しながら、開かれたドアをくぐった。軽く遠慮して入ったら漫才師の登場みたいな会釈をしてしまって精神的にキツイ。せめて道連れにできる相方がほしい。
クラウスさんがすぐに立ち上がり、私に手を差し伸べた。どもども、と握りがてらハグをする。挨拶挨拶。挨拶って言っときゃなんとでもなる。いい香りがして興奮した。そういえば出会ったときもさっきもやってなかったので、うららかな微笑みを心がけてスティーブンさんにも腕を広げる。こっちもこっちで実に最高だ。彼ほどではないが、体格的にちょっとだけリゾみを感じて、ものっすごく帰りたくなったのは割愛する。
私は彼らにしたのと同じように、残りのふたりとも頬を合わせた。バーガーショップですれ違ったのは、やはりこの少年、主人公か。もうひとりの青年(……だよね?)は、場所と特徴を見るにツェッドかな。触れて確信した。この感触、まさに想像通り、確実にツェッドだ。彼も自分をツェッドと名乗った。
「私はポルポ。よろしくね」
0レベルの英語力と0ドルの微笑を振りまいてから、少年に顔を向ける。
「君は、さっきすれ違ったよね?」
「あ、はい、僕はレオナルドです。……憶えてたんですか?あんな一瞬だったのに」
「君みたいな可愛い子の顔は、忘れようったって忘れられないわよ」
「少年のような可愛い子の顔は忘れようとしても忘れられないそうだ」
「イ、イタリア人……」
ただの趣味嗜好だし主人公っぽかったから憶えておいただけなのだが、好意的な誤解だったのでそのままにしておく。そして私の語学力が皆無なせいで、通訳をつとめてくれるスティーブンさんがレオナルドくんを口説いたような形になった。邪な想いが溢れちゃう。
勧められたので、ソファに腰を下ろす。何を飲むか訊かれ、アイスティーをお願いした。オレンジジュースはなさそうだ。あったら狼狽する。誰が飲むの?レオナルドくん?クラウスさん?可愛すぎて訴訟。
アイスティーを飲んで頭を冷やす。クラウスさんとスティーブンさんが、レオナルドくんに目くばせをした。やっぱりなんかあるじゃん。レオナルドくんが、こくりと頷くのが見えた。
「それで、ご用件はなんでしたっけ。情報をくださるとかなんとか」
「ええ。すべてを開示することはできませんが、ご容赦ください。ご質問をいただければ、都度お答えします」
長くなりそうだ。
ツェッドの存在を確認できたので、ここにも差異が出てなければ、原作1シーズンの主人公勢は全員集まっている。私たちがイレギュラーなだけで、こっちは流れ通りでしょうから、ほぼほぼ間違いない。
主要な構成員の数も名前も能力も知っちゃってる私が求める情報って、スリーサイズくらいしかなくないか。
こちらの出方をじっと待つ彼らに問おう。あなたが私の、じゃあなくて。
「メンバーの中で、皆さんが"この人が一番カッコイイ、オア、カワイイ"と思う人って誰ですか?名前は言わなくていいんで、私の知らない人だったら、トレードマークでお願いします」
まともっぽい人inライブラの4人における、各位への印象値最イケメンと最きゃわたんを知りたい。
クラウスさんが眼鏡の奥から、私を見つめた。
「名前は必要ないとおっしゃる?」
「正直ね、知っちゃうとね、ボスに報告しなきゃいけないから面倒なんですよね。あともう、言葉遣い、雑にしてほしいんですけど……」
「ご事情はお察しするが、一組織に属するものとして、それはいかがなものなのだろうか?」
やったあ、私にはもったいないくらいの敬語の壁が一枚はがれた。
「知ってるのに報告しないっていうのは、そりゃ良くないですよね。我らがボスへの叛意とも取れます。でも、知らなきゃあ問題ない。だって知らないんですもんね。仕方ないですよ、知らないんだから」
持ってないものはどうしようもない。
まあ、持ってるけど。
指を組み、真面目な顔で、クラウスさんはちょっぴり考えてから首肯した。
「私は、彼ら全員を、個性豊かではあれど素晴らしい人物だと感じており、誰への印象が最も優れ、突出している、とは一概には言いきれないのだ。あなたへの回答としては相応しくなく、申し訳ない」
個性豊かではあれど、ってところにロマンが詰まっていそうだ。
順序として、スティーブンさんに視線を遣る。彼は思考を表現するように、手で顎に触れた。
「そうですね……」
「もうちょっと口調をラフに」
命知らずな要求だ。相手が良識のある大人で助かった。
「……そうだな、僕もクラウスと意見が似ているが、個人的な"カッコよさ"を言わせてもらうなら、一番はクラウスだと思うよ」
「じゃあ、ツェッドくんは?」
「僕もクラウスさんだと思います」
「"カワイイ"のが?」
「どうしてそうなるんです!?"カッコイイ"のがですよ」
「逆に最悪なのって誰?」
ツェッドが沈黙した。どう表現すれば角を立てずに兄弟子をこき下ろせるのか、言い方を探してるのかな。彼は苦しげに、「僕はすべての方を尊敬しています……」と絞り出した。痛みに耐えてよく頑張った。ライブラの面子を保った根性に感動した。
「レオナルドくんは?」
少年の答えも、右に倣った。
「僕の中では、クラウスさんが一番カッコイイです」
予想してたけど、クラウスさんは強い。本人以外は満場一致だ。力量と人望がものごっつい。
納得顔で質問を終えると、スティーブンさんが微笑みの種類を切り替えた。ソルジェラを思い出した。その節は、死んだことにしてしまってごめん。
「ところで、話は変わりますが」
「もうちょっと口調をラフに。私を待ち合わせによく使われるモニュメントだと思って」
「僕はモニュメントには話しかけない」
「ですよねー」
私も話しかけない。
スティーブンさんが続け、レオナルドきゅんの可憐な眉間にしわが寄った。
「ポルポさん。あなたは不思議な話を信じるかい?」
すげえ信じてますね。
「えーと、たとえば古い屋敷のクローゼットから異世界に行ってしまったりする話だとか?」
「たとえば、ファンタジックな敵と味方の区別をハッキリつけられる人間が、敵でも味方でもない存在を見つけてしまう話だとか」
自然とレオナルドにゃんに移りかけた視線を、瞼で遮って隠す。
敵と味方の区別をつけるのは、レオナルドくんの視界を彩る"人間のオーラ"だ。
意味がわからなくて混乱した私は、とりあえずめっちゃ察しが良いふりをした。信じます信じます。
「見つけたらどうするの、こんな感じで事情聴取?」
「うん。こんな感じで事情聴取。話が早くて助かるなあ」
「質問が拷問に変わりそうで怖い。ウミネコはニャアニャア鳴くんだよ」
「すまん、なんの話だ?」
「なんでもない」
ニャアニャア泣いてるけどウミネコじゃなくて私です。
敵でも味方でもないって何?敵ってアレでしょ、血界の眷属でしょ。オーラみたいなのが赤い羽根みたいなんでしょ。オーラの色は見たことないけど、千差万別なんだから前例のない色があったっておかしくないはずなのに、どうしてここまでするんだ。なんでそんな重要な話を私にばらしちゃうの。今のパッショーネがめっちゃ悪そうなボスを冠にする組織だと知っているだろうに、幹部である私に自分たちの切り札を見せる理由が読めない。よほど答えを得たい事柄、と考えると私のオーラは放置できないくらい問題なのかな。何を隠そう特質系ですからね。水見式では葉っぱが食べ物に変わりますからね。変わらないし念能力もないわけだが、現実逃避でもしないとやってられない。何が狙いかが読めない。アッ、もしかしてアレか?答えを得たあとはヘルサレムズ・ロット特有のエロ漫画によくありそうな異界の能力を使って私の記憶を改ざんしちゃうパターン?真剣にやめてほしい。
どうせ記憶は調整できる。だから彼らは、数日後にはイタリアに帰って手出しができなくなってしまうおっぱいを前に、自分たちの内情を切り崩してでも確認しなければならなかった。私が新しい敵であるのか、ただのレアキャラなのか、"パッショーネ"に同じようなやつらがゴロゴロローリングしているのかを。個人的にはただのレアキャラだと思うよ。もちろん言わない。
「ポルポさん。あなたはご自分の身に何があってそのような事態になっているのか、把握しているだろうか」
クラウスさんへの返答は、いくつもあって選びきれない。私は人生2回目だし、スタンド使いだし、異世界のトリップ女だし、ここの常識には合わないこともあるだろう。ひずみとして奇妙な点が表れても笑えるくらいには異物だ。もちろん言わない。
沈黙は金雄弁は銀という格言もある。困ったときは深刻そうに黙り込もう。相手が頭のいい人であればあるほど、勝手に察してくれる。
彼らは優しい人たちだったので、深読みの方向が斜め上にぶっ飛んだ。思わしげな声が、私の内面に踏み込もうとする。
「私は、本来ならば問える立場にはないが。これはこの変容した世界において、見過ごせる話ではないのだ。無礼を承知でお聞きしたい。……"組織"で、思い当たるようなことはないかね」
答えづらい。組織も含めていっぱいある。
「いっぱいありますね」
「やはり……」
ごめんボス。もっとクソ組織って思われた。
おっと、言葉遣いが汚い。お上品に行かなきゃね。
ごめんボス。もっと下劣な組織って思われた。
「私はどんなふうに見えてるの?」
当然の疑問を口にする。スティーブンさんに促され、レオナルドたんがおずおずと語った。私はここでようやく少年に目を向ける、という大切な小芝居を打った。
特異な気配。混じり合った色。
「ははあ」
混じり合った色ねえ。
目を伏せる。スタンドの話か、前世の話か、世界を越えた影響か、判断しづらいな。私の頭では答えが出せない。おそらく私がすべてを打ち明けない以上、誰にも答えは出せない。
誰にも答えは出せないけど、答えをその辺からテキトーに生み出せるやつはいた。
バッグの中で電話が鳴る。了承を得て画面を見ると、すっかり見飽きたボスの名前が点滅する。クラウスさんとスティーブンさんに見えるようケータイを掲げ、私はまた、スピーカーフォンのボタンを押した。テーブルに置く。咄嗟に何かを言おうとしたレオナルドとツェッドに向けて、スティーブンさんが人差し指を立てて自分の唇に当てる。不意打ちの可愛らしい動作に死にかけた。それリゾットにやってもらいたいやつだ!進研ゼミで見た!!
何も知らぬボスは、私に話しかけた。
「ポルポ、今、どこにいる?」
「ホテル」
「ひとりだろうな?」
「実はお腹にもうひとり……」
「わたしの知らぬ間に何をしている?」
「仕事ですかね」
「まさかいかがわしい仕事ではないだろうな?本当に色仕掛けを使ったのか?どこの馬の骨だ?」
「冗談だよ。なんの用ですか?」
ディアボロは、本日3回目となる注意事項を読み上げた。
「観光中でも周囲に気を配れ。どこで誰が見ているかわからないぞ。滞在を認めるのは今週までだ。週末には必ずわたしのもとへ帰還するのだ。そして、ポルポ」
「はいはい」
「"スタンド"については誰にも話すな。ヘルサレムズ・ロットにはパッショーネの関係者はいない。"矢"も迂闊に使うな」
「はい。誰にも話さないように気をつける」
満足そうな声が私の忠誠を褒めた。忠誠なんて誓ってないけど、こんな砂上の忠誠ごっこで許してくれてるの凄い助かる。ボスは私に、いや、金の矢に甘い。勘違いしてはいけないししたくもないが、この寵愛カッコワライカッコトジがあるのは"矢"のおかげだ。18歳の私が身を挺して金の矢を呑み込んでくださり無事に生き延びたがゆえに大事にされている。
イタリア語を理解できる人物によって室内の空気が警戒的な匂いを孕んだが、その警戒は、保たれながらも、次のボスの言葉でわずかに緩む。私への哀れみに近い感情とボスへの嫌悪が、誰かの胸のうちの蝋燭に点った。ハチャメチャな街でも、彼らの倫理と善良さは年中無休だ。私たちよりも、ずっと。
「お前と初めて会ったのはいつだったか。わたしは今ではお前を刺し、組織に引き入れたことを幸運だったと思っている。お前は血まみれで、いつ死ぬかわからないと焦ったが、結果としてスタンドを得たお前はわたしの下にある」
「酔っ払って道に迷い込んだだけなのに急に刺されて誘拐されるなんて想像もしなかったなあ」
「だが、生きている。結果が大事だ。そうだろう、ポルポ?」
「そうだね」
「くれぐれも内密にするんだぞ」
「うん。頑張りますね。ボスも夜道とか気をつけてね」
「外には出ない」
優雅なる引きこもり乙。
二言三言、自分の仕事の愚痴が入ったが、電話はつつがなく切れた。ディアボロ、ありがとう。そっちの評価は面倒なことになったと思うけど、全部事実だからしょうがない。ヘルサレムズ・ロットにおわすライブラの面々とイタリアはネアポリスに坐すパッショーネの繋がりは金しかないんだから、まあ問題ないよね。金の切れ目が縁の切れ目と申します。ライブラ様ほどになればイタリアの一ギャングからの支援がなくても活動を維持できるし、困るのはボス、貴様だ。盛大にプギャりたいが、さすがに性格が悪すぎるので粛々とボスに星1つをつけた。大丈夫、たぶんパッショーネは無事だよ。牙狩りーズだって、血界の眷属でもないあなたに襲撃はかけないさ。世の中にはクズ組織なんていっぱいあるからな。でも夜道は気をつけてね。気をつけなくてもいいけど。
黙り込んだマルチリンガルな男性方に、私は電話を指さして見せた。
「こういうやつだから、お金以外では付き合わないほうがいいですよ。ホント」
「いや、そういう問題か……?要所要所でかなり物騒な話が出てたぞ」
「ヘルサレムズ・ロットじゃあ午後のコーヒーブレークと何ら変わりのない状況でしょ?」
「どんなコーヒーブレークなんだ?」
念能力者に捕えられて車で輸送される危険度Aクラスの大泥棒のボスが楽しんでるやつだ。ぱちぱちとあどけなさを演出してわざとらしく上目づかいで瞬きしてみると、スティーブンさんが呆れた顔をした。可愛くはなかったらしい。こんな屈辱は初めてだ。もちろん、初めてではない。屈辱でもない。
「ここではそう物騒じゃあないが、そっちは海を隔てたイタリアだろう。"スタンド"というのは何なんだ?刺されたというのは?"矢"を使うとどうなる?」
これこそまさに矢継早。話が早くて怖いなこのイケメン。ライブラって何?ラスボス級が一堂に会してない?マジ敵に回したくない1000%LOVE。対峙した瞬間、話術も物理も構わずワンパンで沈められるわ。
釈明みたいな説明については、自分で考えるまでもなく、ボスのおかげで良さげな理由ができたので、まるまる転用する。
口止めされたけど、こうなった以上は隠しておくと我々だけの問題ではおさまらないゆえに暴露しまーす、という趣旨を超丁寧にオブラートで包んでワンクッションを挟む。ごめんなボス。あなたの忠実な部下は2日ぶりに、きさまときさまの組織を非人道的な地点まで引き摺り下ろします。
「ボス以下数人の幹部は特殊な能力を持っていましてね。能力者同士は引かれあう。生まれ持っての能力者がボスに引かれ、導かれるように彼の悪のカリスマと金と甘い汁に食いついて、パッショーネという組織が出来て行きました。たぶん」
数人の幹部以外にもスタンド保持者はいっぱいいるが、そこは割愛しよう。ここで説明したってどうにもならない。
「しかし絶対的に数が足りない。当たり前ですね。引かれ合うとはいえ、スタンド使いが集まる確率はアサリの中に真珠が入ってるそれよりずっとずっと低い。めっちゃ低い。すっごい低い。でもここで出てくるのが、ボスが言っていた"矢"です」
そもそもこの"矢"がすべての原因だっていうのは割愛しよう。ここで説明したって、やっぱりどうにもならないし本題じゃない。
「"矢"はスタンド使い養殖マシンです。10000人のうちの1人が能力の素質を持っていたとすると、"矢"は対象を刺すことでその1人の素質を引き出すことができる」
更になんと、今ならもれなくパッショーネへの入団権もついてくる!最低のオマケだ。
「最初はボスが持ってたんだけど、刺されちゃった私がその"矢"を吸収して自分の能力と一体化させちゃったもんだから、ああして釘を刺して来たってわけです。お話終わり。信じようが信じまいがどうでもいいけど、お仕事以外で使うつもりはないのでご心配なく」
私はロジカルな話し方なんてできなかったが、彼らは私の弱弱しい立場と(笑うところだ)ボスの血にまみれたドジっ子な所業を、説明の分だけ理解した。
空気がピンと張っている。クラウスさんが問いかけようとしてやめたことを、スティーブンさんが引き継いだ。
「9999人はどうなる?」
「能力が目覚めなくって、おしまいです。私は仕事上刺すことだけを求められていて、能力が目覚めた彼らが逆上して襲い掛かって来ても困るので退避しますから、その人たちの身元も何も存じ上げません。繋がりは切れます」
ブラック・サバスには攻撃力も防御力もない。ジョースター家に代々伝わる戦法、あるいは無差別格闘早乙女流奥義敵前大逆走を取らせていただく。
合った視線が探るようなものだったので、ボカした部分もこのイケメンには伝わっているのだろう。クラウスさんも理解したに違いない。そしてその怒りは私には向かない。なぜなら私は、これまでのボスからの電話を聞く限り、明らかに組織の"部品"であるからだ。誘拐され、名前を奪われ、不必要な寵愛を受けパシられる女幹部。
先日はボスが直々に、私に脅しをかけてきた。卑劣な脅しだ。私は植えつけられた過激なトラウマを引き合いに出されスパイごっこまで強要されて可哀想だった。私だってそんな人を前にしたら"わあ可哀想だなあ"くらいは思う。私でさえそうなんだから、たとえヘルサレムズ・ロットやライブラや牙狩りがとんでもない世界観を持つとしても、こりゃあもう大したことだ。非道である。身体は奪われても心までは屈したりしないってやつよ。これ前にも言ったな。即堕ちしない即堕ちしない。冗談じゃあないぜ。
今回の電話でも痛々しい過去が(そっちじゃなくて!)暴露された。ちょっとわざとらしかったけど、私が"伝えたい"と意図した部分は伝わった。混じり合う色のオーラはボスのせい。全部ボスがわるい。時臣と同じくらいボスがわるい。ごめん、時臣さんは別にそこまで悪くないです。雁夜おじさん視点だからああなるんだ。
私が自分で弁解しただけならばここまですんなりはいかなかった。だが今、何よりも信憑性と影響力の高い我らが強くてカッコよくて粉砕玉砕大喝采なボスによる"真実"を全員が耳にした。"真実"には決して辿り着けないはずのボスが、偽りの"真実"において矢の保持者を無自覚に助けるなんて、笑い話にもなりゃあしない。まあ一部は置いてけぼりだったけど、クラウスさんとスティーブンさんが聞いた。それでいい。
「だから変な色なんじゃないですかね」
知らんけど。
結論を暴投すると、クラウスさんは指を組んで、深く息を吐こうとした自分を隠した。
「丁寧なご説明、痛み入る。あなたの居る組織と、秘匿されるべき能力に関する詮索をしてしまったことはお詫びしたい。こちら側が情報をほぼ一切開示していないにもかかわらず、核心に迫る事情を打ち明けてくださったことへの感謝も申し上げる。もちろん確証はないが、今のところはあなたが説明してくださった"スタンド"が原因である、と考えざるを得ない」
他の説を言ってないもんね。すみませんホント。転生してるしトリップして来てるんです。ごめんなさい。

ヘルサレムズ・ロットでスタンド使いを量産するつもりはない、という点については意外なほどあっさり納得していただけた。ボスの悪行の履歴が短期間で積み重なりすぎて、相対的に私の株が上がっている。無論、納得したふりをしただけな可能性も結構なレベルで存在する。誰とはスティーブン言わないけどスターフェイズ。
レオナルドたちに私の数百倍上手な解説をしたクラウスさんとスティーブンさんは、未知の能力と、そのインモラルなギャンブリックさに改めて顔をしかめた。遠きイタリアで行われる不道徳な行為は、スタンドと無縁な彼らには嗅ぎ取りようがなく、未確認の敵が現れるかもしれない、と危惧も抱いただろう。 でもそこんとこだけはパッショーネは関係ないから誤解しないでね。ボスもうちの手の者はいないって言ってたし、そこは信じていいと思うんだ。ボスが"ホテルでひとり寂しく観光中の休憩を楽しんでいた私"に嘘をつく理由は皆無である。
だったらパッショーネの関係者以外のスタンド使いが街にいる可能性があるんじゃね?とガイアが私に囁くが、ンなモンは囁かれる前からわかっていることだ。こわやこわやと言っておきながら放置するのは、ここが"ヘルサレムズ・ロット"と"パッショーネ"が同時に存在する、どちらの原作ともチコッと外れたパラレルワールドであるからして、何れの本編にも何の影響も及ぼさないであろうと推測できるためである。となるとライブラとスタンド使いの戦いを見てみたい気持ちも発芽しなくはない。欲望に忠実な部分はギャングの金持ち幹部っぽくて実に宜しい。
もちろん当然当たり前だが、彼らの中で話がまとまるまでの間、私は一切口を出さなかった。黙ってボーッと身内のことを考えるタイム。あああ可愛いよぉ。
ちなみに、話自体は、ヘルサレムズ・ロットでレオナルドくんが私と同じような"混じる"オーラを持つ人物を見つけたら、それはスタンド使いだと考えよう、という方向でまとまった。私自身への謎な嫌疑は晴れたが、他に対する注意は払われたままだ。違ったらッべーな草生えるわと思っても真面目な顔で頷くしかない。そりゃあそうだわ。そんなもんだわ。私だってよくわからんのだ。何も言えん。これ、もしこの仮説と違ってただ私がプラチナ系のレアキャラだった場合、私怒られない?確証のない判断基準だから怒られないとわかってはいるけど怖いよね。なんやかんや言ったけど(言ってないけど)ヘルサレムズ・ロットにスタンド使いがいたら昏迷極まるってレベルじゃあない。私が帰ったあとにしてくれ。面倒事はノーセンキューなのだ。やむを得ない理由でAAは省略する。
とりあえず、私はもう一度だけ、心の中でボスに謝った。反省はしないけど、利己的に彼の人物像を叩き落として踏みつけてロードローラーで押しつぶした感が半端じゃない。実際に足蹴にしている。
一応、良心が疼いたので、付け加えておく。
「でもイイトコもあるんですよ。お金いっぱいくれるとか」
「ポルポさん……」
スティーブンさんがすべてを放棄した。数年間意に沿わぬ任務を強いられ身に降りかかった惨い仕打ちで感覚を狂わされた憐れな女ポイントが10くらい追加されたようだ。ここまであらましを知った人からの優しい反応は久々だなあ。
「少年、僕の代わりに言ってくれ」
振られたレオナルドくんは、躊躇いたっぷりで引きつった声を出した。
「お話を知らない僕が言えることじゃありませんけど、……そのフォローでは、まったく何も好転してないんじゃ?」
「だよねー」
全然イイトコロじゃない。ずっこい大人にしか見えない。全面的に同意した。もうどうにもできない境地に至ってる。わかってたけどごめんなディアボロ。社会的な死に至る病だ。非は、私ときさまで2:8くらいじゃなイカな。
ねえボス。私たち、運命的に相性が良くない。






20150902 20151009