0日目


不思議な本を手に入れた。
本っていうか、本型の小物入れに近い。ほら、あの、本の形をしてるけどページはめくれなくて、表紙を開くと中が空洞になってるアレ。オシャレグッズとして、私も一度は欲しいと思ってたんだよね。魔術書みたいな装丁で格好いいじゃん。
ちょうどいいや、とフリーマーケットで購入したその小物入れには、鍵がついていた。売り子は言う。
「この鍵をなくしてはいけませんよ。絶対に。そうでないと『扉』が開かなくなっちゃいますからね」
そりゃそうだ、と頷く。中のものが取り出せなくなってしまう。
彼はにこりと微笑んだ。玩具を前にした子供のような笑顔だった。
「中には本を入れるといいですよ。ゲームなんかでもいい。でも、鍵はなくさないように」
「はあ……」
本といっても、一冊だけしか入らない気がするんだけどな。

オススメされたので、一応、物を入れてみることにした。
日本の友人が激烈に推してきたので空輸した作品だ。サブカルに通ずる弱小サークル(に見せかけた人気なヤツ)の書き手とは趣味が合う。
自宅のリビングで、本型の小物入れにそれを入れる。リゾットは出かけているので、家の中には引きこもりの私しかいない。
蓋を閉じ、鍵をかけた。
密閉されているはずの箱の、隙間という隙間から、まばゆい光があふれ出た。私は咄嗟に顔を腕で庇い、目を瞑る。
まぶたを開けたとき、私は違う場所に居た。





20150829