すべての終わりに
スラグホーン先生は先の戦いで腰を痛めて休職中。よって、魔法薬学の授業は助教授だったネエロ先生が受け持つことになった。
淡々と行われる授業の中、欠伸をかみ殺すハリー君が一人。相変わらずグリフィンドールとスリザリンの間の席に座る私からは、彼の横顔がよく見えた。
さてさて、何というべきか。
戦いの勝利者はハリー君だった。
緑色と赤色の閃光がぶつかり合った真ん中の点から破裂するように広がった光は私たちの印象に強く残り、今も夢に見る生徒がいるという。そんな彼らは一様に、興奮した様子でハリー君を称えていた。
ハリー君の奇跡の生還に塗りつぶされてはいたが、実は私も奇跡の生還を果たしている。恣意的な奇跡もあったもんだ。私に、なぜか、なぜだか強い信頼を抱いてくれているハリー君たちは私の生存を喜ぶとともに、どういうからくりで死の呪文を受け流したのかということを強く知りたがったが、その辺りは私の秘められしパワーということで誤魔化しておいた。ジェラートの魔法について詳しく説明する必要はないだろう。なにせ禁術に近い、新たに構築された理論であることだしね。ジェラートさんパねえッス。
あの後、ボロボロになったホグワーツはひと月の時間をかけて修復された。魔法省の職員もホグワーツの職員も総出で魔法をかけ続けた結果、元の綺麗な城の姿に戻っている。ホグワーツ自体にも自動修復の魔法が掛かっていたようで、予想されていたよりもずっと短い時間で私たちは補習地獄に投げ込まれることとなった。
犠牲者が出なかったわけではない。
フェリックス・フェリシスの幸運は互いに作用し、人々の間で打ち消されたこともあった。誰かにとっての幸運が誰かにとっての不運であるというのはありうることだ。悲しみと興奮と歓喜に包まれ、ホグワーツは緩やかに元通りの時間を取り戻す。
進路を決める必要もある。私は特別難しい方面に進むつもりはないので他人事として眺めていられるが、今年度の授業にはかなりの遅れがある。意識の高い進路を持つ生徒たちは空白を取り戻す為に必死に知識を詰め込んでいた。大変だねと言ったら闇払いを目指すことにしたドラコ君にどつかれた。おねえさんは君の進路にびっくりだよ。パンジーは彼のお嫁さんとして花嫁修業に励むのよと言っていたが、どこまでが本当なのか。私もテキトーなことをぶっこく時は将来の夢はお嫁さんですと答えるようにしているからイマイチ信じきれない。汚い大人ですみません。
「あんたは本当に結婚して家を持つことになるんでしょう?」
むしろリゾットが嫁に来いって感じですけどね。自分の姓がクソ長くて面倒でテストの解答用紙の記名欄からはみ出さなくなることを考えるとネエロ姓には心惹かれるけど、もうテストを受ける機会もなくなるわけだし、リゾットも自分の家にこだわりはないようだし、響きからすると私が嫁入りするよりリゾットが嫁入りした方が興奮しない?
「しない」
ばっさり切られた。
「あたしは自分がパンジー・マルフォイになると思うとすごく嬉しいけれど」
「入学する前からずっと好きだもんね、ドラコ君のこと」
「ふん」
照れたように鼻を鳴らして、パンジーは呟いた。
「……ポルポ・ネエロは似合わないかもね」
「逆は?」
「ネエロ先生はリゾット・ネエロでしょう。そんな感じがするわ。しっくり来ているもの」
この点についてはお互いの意見が合致した。じゃあどうしたらいいんだろうねと首をかしげる。魔法界にはお互いの姓を保ったまま結婚出来る制度があったんだっけ?
「うーん、難しいわね。もう一生婚約者のままで居たら?」
「それ面白い」
リゾットにとっては笑えない出来事だろうけど。
プロシュート先生によるDADA講座は大人気だ。プロシュート先生のファンが一人、また一人と増えていく。ペッシも自慢げで、いつもニコニコと絶えない笑顔がより輝いていた。
俺も兄貴の自慢になれるように頑張るよ、とペッシは言っていたけれど、全力で患者に向き合って治療を施す彼の姿はもうプロシュートの自慢になっているんじゃあないだろうか。彼らの心情がハッキリとわかるわけではないけれど、プロシュートのペッシを見る瞳が暖かく、時折誇らしげであることは確かだった。
「ルーピン先生と同じくらい楽しい授業だよ」
ハリー君にとっては最大の褒め言葉なのだろう。よかったねと言うと、もっと早くこうなっていたらなあと、恐らくハリー君は去年のことを想い出して肩を落とした。スネイプ先生との確執は消えつつあるが、スネイプ先生がハリー君にまったく別の種類の敵対意識を抱いてしまったので互いの刺々しい態度は変わっていない。なにせ公衆の面前でハリー君がスネイプ先生の秘密を暴露してしまったもんだから、先生としてはたまったものじゃあないんだろう。
彼は校長職を公式に辞し、今はホグワーツから遠い、川の近くのスピナーズ・エンドに戻っていた。
「結局、七年間お世話にはなれませんでしたね」
戦いの後、大事をとって入院した先生に―――スネイプさんにそう言うと、彼は顔をしかめた。私がお見舞いに持って来た花を花瓶に活けていると、不機嫌な声で私に言う。
「残念かね?」
「すっごく」
頷いたら鼻で笑われた。
「まったくもって不可解だ。我輩の授業を受けたがる生徒など君くらいではないか?」
「ドラコ君とかも受けたがってますよ」
「想像で物を言うな」
怒られちゃった。ごめんねスネイプさんとドラコ君。ていうか自分に人望がないことは知ってたのね。わざとそうしていたのかガチでそうだったのかはどうでもいいことだけど(グリフィンドールに対してのガチさが他の所にも表れてしまって負のスパイラルに陥っていた可能性が微粒子ドコロジャナイレベルで存在するよね)私にとってはいい先生でしたよ。可愛いし。
「可愛い……?貴様の感性は理解しがたい」
スネイプ先生はベッドの上で居心地悪そうに身をよじる。
その目が私の手元を見て、ぱちりと瞬いた。
「……ポルポ、それはどうした?」
「え?」
今日爪先綺麗にして来たんですよ、先生に会うから整えておかなきゃなって思って。
「ふざけている場合か。それは……指輪ではないか!?」
あっ、はい。すみません。反射的に謝ってから手ごと薬指を見せる。指輪貰ったんですよ。
「そんな軽く報告する奴があるか馬鹿者!……エンゲージメント・リングか?」
「はい。貰いました」
「いつだ?」
打てば響く。そんな感じで質問が飛んで来て面食らう。なんでそんなに食いついてるんだろう。まるで私よりもスネイプ先生が喜んでいるみたいだ。貰ったのは一週間前です。すごく丁寧に贈ってくれましたよ。私も何か渡した方が良いのかなあ。どう思います、先生。
「私の知ったことか。自分で考えたまえ」
そうします。何なら喜んでくれるんだろうね。リゾットって何を貰うのが嬉しいんだ。
「しかし……そうか……、とうとう……」
スネイプ先生は私の手を取ってまじまじと指輪を見た。そんなに見られると照れますねえと言ったが華麗に無視。手を握ったまま、そうか、ともう一度呟く。ぶつぶつと口の中で何かを言って、ちらりと上目づかいで私を見た。なにそれ可愛い。食べろってこと?いいよ、食べるよ。フォークとナイフ持って来い。
「……」
何かを言いたげな視線はすぐに逸らされた。追いかけて顔を覗き込むと、ふいと顔まで背けられる。
「式にはお呼びしますね」
冗談だったんだけど、スネイプ先生は真面目な声でシリアスなことを言った。私を呼んだところでお前に利はないだろう、と。利とかそういう問題じゃあないと思うんだ。私が呼びたいから呼ぶんだぜ。でも友人代表として祝辞を読むのはパンジーだから譲れないわ。
「誰が読むか。私はお前の友人ではない」
つれないなーと思っていると、スネイプ先生は指で私の薬指をなぞった。くすぐったいです。
「長かったな……」
スネイプ先生のため息。な、なんかごめん。心配かけてたのかな。
それから、開いていたドアからリゾットが入って来て私とスネイプ先生の繋がれている手に注目したりスネイプ先生が慌てて私の手を払い除けたり(ひどいと思う)指輪について二人して問い詰められたりと、面会時間は濃密に過ぎて行った。
帰り道、ダイアゴン横丁に立ち寄って買い食いをしてふと思い質問をする。ハイヒールを履いているから、私の頭の位置は本当の高さよりも少しリゾットに近い。いやあ、このヒールの感覚イイネイイネ。
「スネイプ先生がいないと寂しい?」
リゾットは、そうでもない、と答えた。
「去年からセブルスは薬学教授ではなくなっていたからな」
まあ、それもそうか。
書店の前を通りがかると、人だかりが出来ていた。その中に、頭一つ飛び出た男性を二人見つける。ソルベとジェラートだった。
「なんだろうね」
「……あぁ、"ギルデロイ・ロックハート著書サイン会"だそうだ」
ひょいと人混みを避けて見えた看板には、確かにそう書かれていた。何やってんだあの人。普通に小説家として返り咲いちゃってるよ。女性ファンよりも男性ファンが多いようだ。ヤジを飛ばされても笑顔で応えられる彼のメンタルに乾杯したい。スゴイよ、ロックハートさん!そしてたぶん、ソルベもジェラートも彼のファンという訳ではないんだろうなあ。祭りがあったら参加する精神か。私も一人だったら参加していた気がする。興味もあるし、今度ロックハートさんに会うまでに読んでおこう。
「あっ、ポルポ!久しぶりだね」
「セドリック君」
私たちはもう『不死鳥』とはあまり関係がない。築かれた友情やその他の繋がりは断ち切れていないけど、グリモールド・プレイスに集まる機会は確実に少なくなっている。だから、こうしてセドリック君とチョウちゃんと顔を合わせるのは久しぶりだ。お互いに偶然の再会を喜び合って、ほぼ同時に私たちは口を開いた。
「デート?」
「デートの邪魔しちゃったかな?」
顔を見合わせて笑う。お互いデートか。私たちのは厳密に言うと帰りの途中だけど、寄り道をして買い食いをして並んで歩いているのならもうそれはデートみたいなものよね。
セドリック君たちも照れくさそうに笑って、指を絡めあった手をちらりと見せる。お邪魔しちゃってごめんよ、馬に蹴られない内に私は退散するわ。ひらりと手を振ると、彼らもそれぞれ、繋いでいない方の手を振ってくれた。意地でも手は離さないラブラブ精神にあてられてちょっとMPが減った。リア充幸せになってくれ。いやもう、マジで。
リアルが充実している人たちと言えば、意味合いは多少違うが、フレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリーもかなり充実した魔法界悪戯トリッキーライフを送っているようだった。彼らの噂は風に乗るなんてレベルじゃなく、ホグワーツで生活していれば嫌でも耳に入って来る。嫌でもというのは表現的なもので、別に嫌なわけじゃあないんですよ。不愉快なものではない派手な悪戯は見ていて笑いがこみ上げるし、悪戯グッズは生徒たちの元気の源になっている部分もある。安定した雰囲気が一番だ。ソルベとジェラートの所には、彼らからの手紙が届くらしい。
プロシュートとペッシの家以外はリゾットを含めてみんな闇にどっぷりつかっていた家系だったのだけど、色々と問題を抱えた彼らの生家は此度の戦いで右から左へごうごうと吹き抜けてしまうくらいに風通しがよくなった。みんな面倒なことから解放されて、のびのびと今まで以上にフリーダムに生きている。持ち家があるのに私の家でのんびりしている辺り、まあ、えっと、これは大意なんだけど、お互いがお互いのことを大好きなんだろうなあと窺い知れてこちらまで幸せな気持ちになって来る。九人みんながほのぼの暮らしていると涙が出て来るのは何でしょうね。これなんて病?もう治療のしようがないから病院は結構です。
親世代と呼ばれるシリウスたちも、抱えている問題や自分に付きまとうイメージを払拭する為に社会活動に勤しんでいる、らしい。実はその辺りのことはよく知らないのだ。シリウスは"シリー"の正体がバレないようにと私を避けているし、ルーピン先生とは元教師と元生徒という弱い結びつきしかない。プロシュートやペッシから又聞きする限りでは、平和に忙しい日々を過ごしているみたいだよ。良かったね、本当。息子さんが可愛くて仕方ないルーピン先生と一人独身貴族を貫いてハリー君にべったりなシリウス・ブラック。うん、先行きが不安。
学校での交友関係もつつがない。
短い休暇を終えてて学校に戻ると、ネビル君とは相変わらず魔法薬学でペアを組むし、ルーナちゃんとはすれ違えば少しお話をする。ジニーちゃんとはいまだに手紙のやりとりが続いていて、ロン君はメローネたちに突っかかり、ハーマイオニーちゃんがそんなロン君を止めてパンジーと舌戦をやり合ったり、私と中庭でのティータイムを楽しんだりもする。リュシアン少年は徐々に自己の立場を確立していき、ちょっぴりヘタレなところはあれど、イルーゾォとも怯えずに会話が出来るようになっていた。
そんななんてことのない日常を超えて、ある日、私はハリー君に声をかけられた。
「ポルポ、一緒に来て欲しいところがあるんだ」
元はスリザリン席と呼ばれていた場所で夕食をとっていた私に話しかけるハリー君は、落ち着いた眼をしていた。眼差しは優しく、意志に満ち溢れる。丸い眼鏡の向こうに若々しさと、決意を乗り越えた強さが見える。稲妻型の傷はもう彼を縛らない。誰のことも縛らない。
そんなディ・モールト根性のある青年に連れられて、私は校長室の扉をくぐった。
螺旋階段はエスカレーターのように自動で私たちを上階へ連れて行く。マクゴナガル先生は微笑み、「少し用事がありますから」と言って代わりに部屋を出て行った。
歴代の校長が描かれる肖像画の中に、白ひげを蓄えた半月眼鏡の老人が並んでいる。彼は片目をぱちりと開き、私を迎えた。
「おぉ。よく来てくれたのう、ポルポ。ハリー、ありがとう」
「いえ、お気になさらないでください。僕も出ているね、ポルポ。本当は合言葉だけ教えれば良かったんだけど、なんだか一緒に来たくなったんだ」
口説かれてるのかと思ったわ。非モテだから優しくされると転んじゃうよ。ありがとね。
ハリー君が出て行くと、喋らない私たちの間には沈黙が降りる。ダンブルドアは額縁の中でひげを撫で、紅茶でもどうかね、と微笑んだ。冗談だと解っているので、私は丁重にお断りする。すると今度はお菓子を勧められた。お爺ちゃんのジョークは面倒くさい。
「杖を折ってくれてありがとう」
ダンブルドアは瞳に柔和な光をたたえた。いいえ、と社交辞令を言う。いいんですよ、アレくらいね。どうしたらいいんだよと真剣に悩んだこともあったけど私は元気ですから。
「君にも苦労をかけたのう」
「そうかもしれませんね。でも、私よりハリー君たちの方が余程ですから、なんとも言いづらいです」
私自身色々な人に迷惑をかけているから、素直にその労わりを受け取ることは難しい。本当、みんなには苦労をかけててすみません。
「こういうものは比較せん方が良い」
正論をありがとう。ところでどうして私を呼んだんですかね。ニワトコの杖ブチ折りナイトフィーバーについてのお礼だけをするつもりならこんなふうに人払いをする必要もないだろうから、もっと別の用事があるのだろうけど。
疑問を浮かべて真っ直ぐにダンブルドアの絵具の瞳を見つめると、老人は目を伏せた。
「死ぬと、色々なことがわかるものじゃ。多くの予感の奔流に流されかけ、わしは何か、感覚的に、ある確信を掴んだ。ただの老いぼれのざれごとと笑って欲しい」
オッケー、なんじゃらほい。
ポルポちゃんのおっぱいってやっぱりファンタスティックだよね、みたいな、そういう気軽かつお下品な話が飛び出して来るとはもちろん考えていなかったし、大げさな前振りをすることに構える気持ちもあった。だけど、そんな気構えじゃあ足りないくらいの衝撃が、ダンブルドアの口から飛び出した。
「君たちがここにいてくれてよかった」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。"君たち"というのが彼ら九人と私を示しているのだと、私の優秀な頭は―――ごめんすごく誇張した。私の頭はコーラを飲むとげっぷが出るというくらい当然のこととして理解したが、その意味がうまく呑み込めない。私たちがいて良かった?
その言い方は、まるで。
「わし自身にも意味はよく解らぬ。ただ、わしは、何かを見たのじゃと思う。『死』の奥にある俯瞰した世界から、この世を見つめて確かに思うたのじゃ。"君たちがここにいてくれてよかった"と。これは君の胸にだけしまっておいておくれ」
最後の最後に怖い言葉を残すお爺ちゃんだ。微笑みの裏に何が隠れているのか知れたものじゃない。
「君には解るかのう?わしの言葉が何を意味しているのか……」
探るようにきらきらした瞳で真っ直ぐに見つめられたので、私は自分に出来る最高の笑顔を返した。
「さあ、わからないですね」
ダンブルドアも微笑んだ。
「ならば、それはそれでよい。またいつかどこかで会おうぞ、ポルポ」
そうですね、またいつかどこかで。
しかし結局、私がダンブルドアと会話をしたのはこれが最後だった。
階段を下りながら大きく息を吐く。
めっちゃ怖かった、鳥肌立った。誰だよ『死』の奥に、えっと、なんだっけ、俯瞰した世界を用意したやつ。針串刺しの刑に処します。
「どうしたのポルポ、顔色が悪いけど……」
ガーゴイルの像の前で待っていてくれたハリー君が私を心配してくれた。マジか。私の顔色って結構変わりにくいと定評があるんだけど、よっぽど怖かったんだな。
卒業の時を迎え、私たちはホグワーツ特急を降りる。私の胸には色んな意味での感動が渦巻いていた。なんか、まともに学校を卒業したの、すごく久しぶりだ。今までまともな学生生活を送って来なかったから感動もひとしお。あと、メローネとギアッチョの卒業ガウンとキャップ姿が可愛すぎて涙が出た。
パンジーと別れ、ハーマイオニーちゃんとハグをする。さようならとまた会おうねを言い交わし、私たちは学び舎を後にした。
心底から思う。マジで長かった、この七年。
「何言ってんだよ、お前。人生はまだまだ長えんだぞ」
イルーゾォが呆れた顔をする。ホルマジオが苦笑する。そうだねと同意した私の声はなんだか、自分でも意外なくらい幸せそうだった。迎えに来てくれたみんなの顔が夕焼けに照らされ、すごく綺麗に見える。正直に言うと、メローネが笑う。
「でもポルポの方が綺麗だぜ」
その言葉でいったい何人の女の子を泣かせてきたのか、怒らないからおねえさんに聞かせておくれ。
「家でゆっくり聞かせて貰えよ、腹減ったから帰ろうぜ」
ホルマジオに肩を抱かれよろめく。うわっ力強いなこの男、と対抗心を燃やしわざと身体をぶつけると彼はげらげら笑った。力では負けていても胸囲では負けない。燃え上がる謎の闘志。
「リーダーたちは夜に来るんだったか?」
そうだよ、ギアッチョ。仕事が終わったらすぐにだってさ。
「夕ご飯用意して待ってようね」
「んだな。一緒に作ろうぜ、ポルポ」
「おにいさんたちが色々教えてやるからさ。手とり足とり」
ソルベとジェラートが私の荷物を持ってくれた。人混みではぐれないように背の高い二人が私たちを先導して、その後にぞろぞろと続いて歩く。
みんなと一緒に居られて、ホグワーツで勉強をして。ヤベエこともヤバイこともYABAIことも半端じゃないこともたくさんあったけれど。
「(楽しかったな)」
薬指には指輪が光る。反対の手で撫ぜて、自然と頬が緩むのを感じた。
はてさて、これからどうなるんだろう。未来への想像はやまない。私はどうなるんだろう。みんなはどうなるんだろう。ハリー君たちはどうするんだろう。
色々な人の人生が交錯して、誰かから、"君たちがいてよかった"と言われる人生を歩んだ。これからも、そうなるのだろうか。もしもそうならなくても、どちらでも良い。大切な人たちがいて、楽しいことがたくさんあるのなら。
ホグワーツ特急が蒸気を吐き出し、私たちはもう二度と通ることはない―――かもしれない柱を潜り抜ける。
キングズクロス駅の景色が迎えてくれて、もう見慣れた街並みが夕暮れの忙しなさに満ちていた。