冥土の土産に教えてやろう


ハリー君は叫んだ。
「ネエロはお前のものにはならない!ポルポも、僕たちも、お前に屈することはない!」
Exactly.(その通りでございます)
ハリー君の言葉に全面的に同意。私は長い物には巻かれる主義だし、最初の人が右のナプキンを取ったならもちろん私も右のナプキンを取る。それが空気を読むってことだ。だけど私は気に入らないこともしんどいことも面倒なことも疲れることもごめんなさいアイムソーリーご縁がなかったということでノーセンキュー。ヴォルデモートの側につくとか波乱の予感しかしない。屈するって言葉は私たちから最も遠い場所にある言葉だ。屈するなんて単語が通用するのは薄い本の中でだけ。くっ私はお前に屈したりなんかしないぞ身体は奪われても心までは好きにはさせない。おっともう完全に雑念まみれ。しばらく喋れないと邪念が溜まってしまってイカンね。
どうせならベリッシモ格好良くキメたいよなあと、"死んで"いる間にさまざま考えていたことを総括して、この言葉で号令をかけることに決める。リゾットの腕の中、ばっちり開く朱い目でヴォルデモートをプギャーして。
「いい?」
「どうぞ」
リーダーの許可が下りたからもう何も怖くないぜ。
「"おまえたち"、"やっておしまい"!」
アラホラサッサー!とは誰も答えてくれなかったけど(そりゃあそうよね)、とりあえず秘奥義ならカットインが入ってるだろうなってくらい気合の入った攻撃が死喰い人達を襲ったし、ハリー君のひと言で奮起した『不死鳥』組たちが状況把握と同時に駆け出した。事態は再び混戦状態へなだれ込む。名だたる幹部をすでに多数失っている死喰い人たちは劣勢だ。何せこっちにはマルフォイ一家とシリウス・ブラック、ルートン夫妻、フレジョ、マッド・アイなどそれこそ色々な意味で高名な魔法使いがガッツリ揃っているのだから。加えて暗殺チームだぜ。まったく嫌になっちまうよなこんな現実。私に向けられるはずだったアバダケダブラfromヴォルデモートはそもそも呪文を唱えるより先に刃物で内側から喉をやられて嫌な音に替わっていた。
「敵に回したくないわ」
「このまま殺すか?」
質問する余裕があるところがまた怖い。頭を切り飛ばすの?可能そうだね。
「でも……」
これはハリー君の仕事だから、私たちは憂さ晴らしをしたら隅っこの方で様子を見ているとかそういうのはどうかな?
「そうだな。俺たちも出来れば、"この"魔法を使うのは控えたい」
喉を押さえて嗚咽するヴォルデモートちゃんを置いて、リゾットは悠々と戦場を突っ切ってプロシュートの隣へ戻った。そろそろ私も動けるようになって来たので下ろしてくださって構いませんよ。
「リゾット、やっぱり魔法じゃイマイチ手応えがねぇと思わねーか?」
「何の手応えだ?」
「テメーは魔法じゃあ本気にならねえってハナシだよ」
「そうでもないが」
リゾットが首をかしげると、メローネがきょとんと眼を瞬かせる。
「へえ、本気になることがあるのかい?」
「必要があれば動いているだろう」
「"物理で"だろ?」
「人のことが言えるのか、ジェラート?」
指摘されたジェラートは今まさに、死喰い人の残党を踏みつけにしているところだ。
「だって魔法ってまどろっこしいんだもんなー」
「そもそも杖を握らなきゃいけねえってトコがさあ?片手が塞がるだろ?」
私なんかは楽しいけどね、修羅場に追い込まれたことがないからそう思っているだけかもしれない。
「イヤ、オメーはかなり修羅場に立ってんだろ」
「むしろこっちがお前に巻き込まれてんだよ!!」
イルーゾォはそんなに怒らなくてもいいじゃん。今は私の立ち位置の話じゃなくて魔法と杖と物理の話だったじゃん。
氷の障壁が魔法を阻む。メローネはギアッチョの後ろからギアッチョにエールを送る。ギアッチョがそんなメローネを蹴り飛ばして、メローネは何度蹴られたのか知らないけど、土まみれのローブであははと笑った。
「ウワワッ、"シリー"、危ない!」
ペッシたんが声を上げて、杖を振る。杖の先から釣糸がすばやく伸び、釣り針が一人の男をひっかけた。力任せに引っ張られ、シリウスはギャアと悲鳴を上げた。しかし彼が今までいた場所に緑色の閃光が二つ突き刺さって、シリウスは別の意味で蒼白になる。
ずるずるとこちらまで引きずられたシリウスは、ぜはぜはと荒く息を吐いてペッシにお礼を言った。ペッシは首を振って、釣り針の刺さった傷を心配する。
「い、いや、これくらいどうということはない。た、助かった、しかし、その、わ、私は"シリー"ではない!」
そこかよ。いや、気になったけど今指摘するところはそこじゃあないだろ。
ちょっぴり天然が入っている疑惑のあるペッシちゃんは慌てた様子で謝罪した。
ごめんよシリウス、俺、ちょっと間違えちゃった。いやいいんだ気にしないでくれペッシ、私も同じ名前を付けてしまったのがいけないんだ。
マジで今はそんなことをしている場合じゃない。なんかちょっとこの空間ほのぼのしちゃったよ。周りには死喰い人の悲鳴が飛び交っているけど大丈夫か?
「大丈夫だろ、もう相手は死に体だ」
私の肩越しに城の方を見て、イルーゾォは冷静に言った。頼もしい言葉だ。

「ポルポせんぱあぁい」
情けない声出してんじゃないわよとパンジーの声がぴしゃりとリュシアン少年を打った。パンジーはそのまま私にも平手を食らわせて、諸に頬を叩かれた私はふらりとよろけて、何が何やら解らないままとりあえずの謝罪を口にする。
「ごめん、パンジー」
「ひと言相談しろって言うのよ!」
「は、はい」
すみません、でもあの場にパンジーはいなかったし……というのは言い訳だよね、わかってる。草の根分けてさがしてでもほうれんそうしないといけなかったよね。報告連絡相談は大事だ。心配かけてごめんね。
パンジーに抱き付くと、彼女は憤慨をおさめないまま私を粗雑に抱きしめた。
「後でポッターにも言ってやらなきゃ」
「まったくだ!」
ドラコ君も声を荒げて怒っている。
そのハリー君は、広場の中央でヴォルデモートと対峙していた。
「スネイプはお前の手下じゃなかった」
そして再び始まるスネイプ先生の過去暴露。「ポッター貴様おぼえていろ」とルシウスさんに羽交い絞めにされるスネイプ先生の叫びがこだましたが、全員がスネイプ先生の制止を却下した。
「ニワトコの杖の所有権はそもそもダンブルドアから移っていなかった。お前がやろうとしたことはすべて無駄だったし、もしもポルポが折らなかったとしても、杖はお前のものにはなっていなかった!ポルポ、こういう時君ならなんていうんだっけ!」
急に話を振られてびっくりしたけど慌てず騒がず落ち着いて回答。
「"ざまあ"」
「それだ!」
それでいいのかハリー君。また一つ、青年にネットスラングを教え込んでしまった。
ハリー君は杖を取り出した。ヴォルデモートもまた、杖を構える。ちなみにヴォルデモートの口の端からは血が滴っている。さっきメタリカで攻撃されてたもんね。そんなんで呪文唱えられるんかな、と思ったけどそうだったわ、無言呪文ってものがあったわ。アバダケダブラだけはみんなだいたい口に出すけど、それはもしかするとアレなのかもね。"殺人を犯す"という決意の表れが無意識のうちにそうさせているのかもしれないね。テキトーなことを考えましたが、考えるだけなら自由だ。
二人は同時に腕を上げ、ヴォルデモートは所有権のない誰かの杖を、ハリー君は自分の、柊に不死鳥の尾羽が埋め込まれた馴染みのある杖を振った。