ここは任せて先に行け


えっ、とハリー君が驚いた。服の裾を掴まれて思わずそちらに目をやると、照れたように手が離れる。
「ポルポは一緒に来てくれないの?」
代弁したのはハーマイオニーちゃんだった。彼らはなぜか私の家で朝食を摂ったのち、ホグズミードから秘密裏にホグワーツへ乗り込む作戦を立てていた。
行かないよ、私には学校があるからね。そもそも私はヴォルデモートから狙われている三度の転生を果たした非モテ喪女かっこ巨乳かっことじだということを除けば普通の学生なのだ。単位は欲しいし出席日数も大事。隠れなくても普通に暖炉か特急で戻って問題のない身なのでギアッチョとメローネと一緒に数分か数時間の旅のどちらかを選んで登校したい。
適切にかいつまんで伝えると、どことなくハリー君ががっかりした顔をした。
「そうだよね……ポルポは隠れる必要なんてないんだ」
逆にどうして一緒に行くと思ったんだろう。必要に思ってもらえたのは嬉しいけど期待には応えられない。ごめんねと謝ると、ハーマイオニーちゃんが首を振った。
「いいの、私たちの方こそごめんなさい。ポルポが私たちと一緒に来てくれることが当たり前だと思ってしまったの。ヴォ……、例のあの人に狙われているあなたも危険なんだから、メローネたちと一緒に気をつけてホグワーツで待っていて。すぐに追いつくわ」
「ハーマイオニーちゃんたちも気をつけてね」
私よりずっと危険なのは君たちだ。シリウスも一緒に行くんだっけ?
「ええ、ホッグズヘッドに協力者がいるってドビーが教えてくれたから」
アバーフォース・ダンブルドアのことだ。ハリー君たちは彼を訪ね、ホグワーツへ戻る為の道を教わる。アバーフォースがホグズミードのホッグズヘッドというバーにいることは、ハーマイオニーちゃんが言った通りドビーが説明した。
ドビーがあのバーにいたのは偶然だったんだってさ。
ホグワーツにしもべ妖精として従事していた頃、ホグズミードで食材や新しいレシピを探していたドビーにアバーフォースが接触したのが二人の出会いだったという。ホッグズヘッドの裏口から店に入ったドビーは、そこでダンブルドアによく似たアバーフォースに親近感を抱いた。ホグワーツの様子を差し障りのない程度に話したり、代わりに面白い情報を仕入れたりと、ドビーは諜報として知らずの内によく働いた。その情報の中には現在の『不死鳥』の運動の役に立っているものもある。ンッンー、日常のナニがどう作用するかなんて本人には解らないモノですな。
ハリー君たちがグレゴリー・ゴイルの屋敷でペンシーブ越しに助けを求めた時も、ドビーはあの場にいたそうだ。
流れとしてはこう。シリウスの持っていた鏡の欠片で連絡を受けたクリーチャーが『不死鳥』本部で焦るソルジェラと鉢合わせる。よっクリーチャー何してんだい、ポッターたちが捕らわれた、へえそうかよ、っておい今何て言ったポルポが一緒?
焦るソルジェラという響きにハテナマークが隠せないが、その時のソルジェラはちょっぴり焦っていたらしい。けろりと笑いながら言っていたので真偽のほどは解らないが、魔法の携帯電話でギアッチョから―――半泣きのリュシアン君をつかまえて事情を聴いたギアッチョから連絡を受けた二人はそのままホルマジオに連絡。ついでにリゾットにも連絡をして、"動く"許可を貰った。そういうところはチームの名残があってめちゃくちゃベネ、と興奮したのもつかの間、四人の話は尽きず私を苛んだ。心配したんだぜと言われるのはまだいいのだけど、このドマヌケと罵られては胃が痛む。アレって私が悪いのかなあ。でもごめんね、心配かけたよねと平に頭を下げて何とか事をおさめたクリスマス休暇。
クリーチャーからシリウス・ブラックの救助信号を聞いた二人はそこに私も居ると知って無言。マジで無言だったらしい。イルーゾォが言ってたよ。
ドビーは独断で私たちを、いや、ハリー君たちを助けに来ようとしたんだってさ。だけどアバーフォースはそれを止め、誰か人数を増やすようにと助言した。結果的にそれは正しい。一人で来ていたら、きっと物語の通りにナイフであぼんしていただろう。言葉が汚くてごめんよドビーたん。
助言を受けたドビーはクリーチャーに連絡し、『不死鳥』本部に誰かいないかと訊ねた。そこで名乗り出たのがソルジェラ、そしてホルイルだったというわけさ。数分のうちに起こるには密度が高すぎるアレソレ。
五人はそれぞれ準備を整えてからホッグズヘッドに集まり、ゴイルの屋敷に『姿現し』。あっ、イルーゾォは鏡の中で移動したんでしたっけね。そんでもって私たちを助けてくれたというわけさ。
え?なんでソルベとジェラートが天窓からダイナミックお邪魔しますを選んだかって話?カッコいいからじゃないかな。理由があるのかもしれないけど私はわからん。意表を突ける……とかか?
「気をつけてね。ホグワーツで待ってるよ」
ホグワーツに来るまでは問題ないんだよなあ、たぶん。それから後がプロブレムまみれなだけでさ。

また同じようなことがあってはたまらないので、私たちは暖炉での移動を選んだ。
スリザリン寮に戻ると、パンジーが談話室のソファから立ち上がって駆け寄って来る。
「ゴイルとクラッブが全身打撲で入院したって話だけれど」
ああ、と悲惨な場面が脳裏によみがえった。シャンデリアの下敷きになった青年の姿はぐったりとしていたし、あの後彼らは縄で巻かれて、どうなったんだろ。『不死鳥』に通報されたことは解ってるんだけど、『不死鳥』の方から病院にアクセスがあったってことは余程重傷だったんだろうな。まあシャンデリアが上から降って来たんだもん、重傷じゃない方がおかしいか。ジョン・マクレーンじゃあるまいし。
「いったい何があったんだ?カローは怒り狂ってる。兄のアミカス・カローと連絡がつかなくなったって言って、ついさっきもリュシアンに八つ当たりをしに来たんだ。幸い、プロシュート先生が止めてくださったけど……」
「アミカス・カローと連絡がつかないものですから、プロシュート先生はDADAの教師を務めることになったんですよ、ぐすっ」
あら出世じゃん。よかったねとここにいない先生に祝辞を述べておく。リュシアン君がぐすぐすと鼻をかみながら、これはすばらしい選択だとおもいます、と何度も首を振った。リュシアン君泣きすぎ。鼻も目も頭も痛くなっちゃうよ。
「だって僕の責任ですうう、ポルポ先輩がああ」
ウーン、可愛いから全部許す。次は背後に気をつけようね。お互いね。
「まったく、今のホグワーツはつまらないったらないわ。これで卒業になるなんて、七年間の幕引きにしたら最低だと思わない?」
一通り再会を確かめ合うと、パンジーは鼻息荒く腰に手を当てた。
「同感だな」
同意したのはギアッチョだった。不愛想に頷いて、どっかりとソファに腰を下ろす。
クリスマス休暇明けの今日はまだ授業がない。私たちは暖炉の傍に陣取って、人けのない談話室に話の花を咲かせる。
禁じられた呪文を下級生に行使せよと強いる今年のDADAは最悪な授業だった。スリザリン生の中には抵抗のない者も居たようだけど、多くの生徒が激しい嫌悪感に身震いをしたのは記憶に新しい。クリスマス休暇の少し前のことだ。"変人"たるメローネやギアッチョを快く思わない生徒が彼らとペアを組みたがる事件も勃発したが、そんな混乱の中で授業自体を取りやめさせたプロシュートの判断は正しかった。
しかしまあ、言葉は汚いけれど、担当教諭としてのさばっていたアミカス・カローはソルジェラによって指先一つでダウンに追い込まれ今は『不死鳥』に確保されている。助手という立場だったプロシュートが教壇に立つというのなら、きっと良い授業に変化するだろう。ちょっぴり楽しみだ。今後の授業が全部つぶれてしまう可能性からは目を背けて期待に胸を膨らませる。うん、きっとね、楽しい授業になるよね。魔法界で一番受けたい授業がそこにある。二番目はリゾット教授による魔法薬学講座。私の腹筋がうなっちゃう。
いや、だけど本当に授業が全部つぶれちゃったらヤバイぞこりゃ。全員が緊急の補習を受ける必要が出て来てしまう。私はこれから平和になるホグワーツで楽しい最後の学生ライフを満喫したいんですけどね。どうなっちゃうことやら。
「ポッターは?」
声のボリュームを落として、パンジーがこちらを窺う。ハリー君の現状を伝えると、彼女はフン、と綺麗な形の鼻を鳴らした。
「どんな手段で来るのかは知らないけれど、別にあいつ自身が"アレ"を壊す必要なんてないんでしょうにご苦労なことね」
それを言っちゃあ元も子もない。確かに誰かに任せれば良い話かもしれないけど、ハリー君の性格上そんなことはしないだろう。特に今のハリー君は"最後の分霊箱"としての責任を果たそうと躍起になっている。一種無謀ともいえる行動の裏には覚悟があって、ロン君にもハーマイオニーちゃんにも、誰にも止められない。そんな見ていることしか出来ない苦しみを味わっているのは、もしかすると二人だけではないのかもしれなかった。
同じ組織に属して元々持っていた敵意が薄れたのか、ドラコ君とパンジーはだいぶハリー君たちに馴染んでいた。一瞬でも名前で呼び合うほどの打ち解け方だ。今は桃色だったり薔薇色だったりする話はえんやこらと置いておくとするが、二人はハリー君たちの行方を気にする程度には彼のことを心配している。ハリー君が一人で事を進めようとすると知って、複雑な思いを抱いているようだった。
「パンジーたちは秘密の通路については知らないんだね」
「グリフィンドールの集会にあたしたちが呼ばれるわけないでしょ。あたしたちが"あっち"を裏切ったことは知っていても、『不死鳥』だってことは暴露してないんだから」
ロングボトムやウィーズリーには知られているけれど、と付け加えられる。それもそうだよね。
そもそも『不死鳥』の存在はいまだ秘密裏のままだ。レジスタンス運動が行われていることはじんわり知られて来ているし、ダンブルドアの遺志を引き継いだ人間が多くいることもまた同じだったけれど、『不死鳥』という形が直接露呈したことってたぶん、ない。あるのかもしれないが私は知らん。パンジーとドラコ君は表立って自分たちの所属を明らかにするようなタイプではないし、ホグワーツで厄介ごとに巻き込まれるならばと沈黙を選んだのだろう。
「ポッターが戻って来たら、スネイプ先生はどうなさるのかしら」
「さあ……」
原作通りに行くと激つらプンプン丸で痛む胃を抑えてポッターを"殺す"為に帝王に捧げようとするのだろうけど、ヴォルデモートの立ち位置もスネイプ先生の現状も悟りづらい今は先が読めない。
「どこまでも"裏切り"のフリをするのか……それとも戻って来て下さるのか……」
スネイプ先生との間に確執のないドラコ君は、まだ素直に教授のことを慕っていた。
思案に耽るドラコ君の横顔はどことなくルシウスさんに似ているなと感じる。場違いにも親子の繋がりを確認して感動してしまった。うんうん、今度ルシウスさんに教えてあげよう。ドラコ君ってルシウスさんにそっくりですねって。いや、生え際のことなんて何も言ってないよ。
「あぁッポルポ、なんでマルフォイを見つめてるんだよ!見つめるなら俺にしてくれない!?」
「はあぁ?!ちょっとあんた、ドラコに手を出したらただじゃ済ませないからね」
金髪と黒髪の同級生に絡まれてしまった。見つめていたことは否定しない。美青年に見惚れていましたと白状すると、メローネはドラコ君を指さして、自分を指さした。
「俺の方がずっと優れてる」
「ちょっ……君、それは僕に失礼じゃないか!?母上にもパンジーにも褒められたことがあるんだからな!?」
「ドラコ先輩それは論点が違います!もっとまともに反論してください!」
どれよりナニより、リュシアン君が正論を言ったことに全員が驚いていた。かくいう私も驚いていたのだが、表に出さないのが大人ってものだろう。リュシアン君の天然がちょっぴり入っている目線の高いツッコミ、嫌いじゃないよ。
微笑ましくその場を見守っている私(私が原因であるということはこの際無視しよう)に、思い出したようにメローネが言った。
「そうだ、ポルポ。毒も傷もある程度なら治癒できる薬を作ったんだけどさ」
「はっ?……君、それは大発明だぞ。毒も傷もだって?一つで両方?」
「ん?そうだぜ。ちまちましてたら時間が無駄だろ」
暗殺者乙。
でもその発明ってスゴイよ。いつの間にどうやって作ったの?
「二年の時に……」
「二年!?き、君それは先立って発表していたら魔法界に君の名が刻まれたぞ!?」
「早とちりすんな。二年の時にこいつが採取したバジリスクの牙の粉末を使ったってだけの話だ」
「あとリントブルムの肝臓な。去年リーダーが俺にくれただろ?アレ、助かったんだよなー。ちょうど欲しかったから」
「あ、あぁ、そうか……」
説明したギアッチョはお礼の代わりかパチンと一つウインクを向けられ、思いっきり顔をしかめた。星でも散りそうな見事なウインクだったよ。それ私にもやってくれないかな。頼んだらやってくれるんだろうけど、あの種のあざとさは対ギアッチョでしか発揮されない気がする。ちょっとくやしい。
「開発したのは最近さ。それで、『毒も傷もある程度なら治療できる薬』なんて呼ぶのは面倒だろ?でもパッとイイ名前が浮かばないからさ、ポルポに命名してもらいたいんだよ」
そんな重要な役割を私に任せていいのか。確かにホルマジオよりはセンスがあると思うけれど(これは一例だ。なにせあの剃り込み男は自分の猫に白黒斑という名前を付ける)そういうのは自分でやった方が思い入れが出来ていいんじゃないかな。
そうは思ったが、要求されているのなら応えようじゃないか。
「秘伝タブレットで」
パッと出て来ると言えばこれだろ。
「液体だけど」
液体か。
「じゃあ、エリキシル剤」
「グラッツェ、ポルポ!ならこれはエリキシル剤だ」
「安直ね」
そう言うなよ、解りやすくていいじゃん。

今年新たに寮監に就任したスラグホーン先生がスリザリン寮にやって来た。私はそのことを下級生の女の子に教わって知り、パンジーと一緒に首を傾げる。それからすぐに思い当った。あぁ、ハリー君をかくまっている人を炙り出すのか。
「スリザリン生はみな大広間に集まりなさいと先生が仰ってました」
明日からの授業に向けて宿題の点検をしていた私たちは、レポート用紙を置いて着の身着のまま寮室を出る。ありがとうねとお礼がてら世間話でもするかと思ったら、下級生はそそくさと立ち去ってしまった。ポルポしょんぼり。
ニワトコの杖をスカートとシャツの間に挟み、底冷えする石造りの城を寮生の列に加わって歩く。いつもここに隠してるんだよ、普通こんな所まさぐられないからね。メローネくらいだよ、触って来るのは。イギリス人はみんな紳士だ。
ひそひそと言葉を交わす声は絶えず、生徒を引率するスラグホーン先生も止めようがないと知って苦く眉根を寄せていた。
大広間にはすでにレイブンクロー生が集まっており、私たちはその斜め後ろを陣取った。立ちっぱなしの集会って疲れるよね。校長先生のお話が長すぎて途中で貧血を起こして倒れてしまう子が出たりするんだよ。校長先生のお話という響きでスネイプ先生が長ったらしく粘着質に囁くような声でお説教をする姿が浮かんでしまって笑った。似合う。めっちゃ似合う。グリフィンドール生がぶっ倒れたら減点するのかな。校長になったからそこまで職権乱用は出来ないか。いや、彼ならもう吹っ切れちゃってやっちまうかもしれない。
教員の場には主要な授業を受け持つ各先生方が立ち、並ぶ。その中にはプロシュートとリゾットの顔もあって、そりゃあそうだよなあと一人心の中で頷いてしまう。来ない筈がない。
すべての寮の生徒が大広間に集まると、スネイプ先生は花火に似た音を一発放って生徒たちの囁き声を静めた。頼む、びっくりしすぎて寿命が縮むから先にひと言添えてくれ。
「この中にハリー・ポッターをかくまっているものがいる」
黒衣の袖を後ろに流し、スネイプ先生はかつかつとゆっくり足音を立て、生徒の塊で囲われる十字路を歩いた。冷ややかな眼差しを追っていた私はふいに先生と目が合って、先生は断ち切るようにそれを逸らした。
「賢明な者ならば、何をするべきかは見えているはずだ。ポッターの居場所を知っている者は、今、ここで、名乗り出ろ」
ところで、さっきから気になってるんだけど。
スネイプ先生のローブ、ちょっとズボンに巻き込まれてめくれてるんだよね。わかるかな、トイレに行った後とかにスカートを挟んじゃう感じに似ている。腰あたりの布がベルトに巻き込まれているのかな。チラッチラ足元が見えて可愛いんだ。緊張感なんてふきとんじゃうよ先生。
指摘するべきかしないべきか悩んでいると、隣のメローネが私に囁きかけた。
「なんかめくれてね?」
「ゲホッ」
むせた。静まった大広間に私の咳ばらいが響く。危ない危ない、大笑いしてしまうところだった。
私をぎろりと睨んだスネイプ先生は低い声で、ミス、何か知っているのならと彼が言いかけたところで、「スネイプ!」と突如上がった聞き覚えのある声に、グリフィンドール席のみならず四寮すべての生徒がざわついた。ローブの袖を翻したスネイプ先生が片眉をしかめ、ポッター、と名を呼ぶ。
「自ら出て来るとは感心な……」
「さっきから気になっていたことがあるんだ。ポルポもきっとそれを言いたかったんだと思う。スネイプ、お前のローブの裾はマヌケな捲れ方をしている!」
スネイプ先生の血の気の少ない頬に朱が差す。
「なっ……貴ッ様、言うに事を欠いてそれか!!よくもぬけぬけと出て来られたものだ……、貴様らも気づいていたのか?」
問われたリゾットとプロシュートの動きは同時だった。リゾットは黙ったままスネイプ先生の背中を、つ、と指さし、プロシュートも場違いな青年の指摘に笑いで肩を揺らした。
「確かにな。めくれてんぞ、セブルス」
「リゾット……プロシュート……!気づいていたのなら早く言わんか!」
そそくさとローブの背中を整えて怒鳴るが、リゾットは堪えた様子もなく無表情で、スネイプ先生の言葉に「悪いな」とまったくそう思っていなさそうに謝罪する。もちろん、"まったくそう思っていなさそうだ"とか"無表情だ"とか、そういうのは私の主観だ。もしかするとめちゃんこ申し訳なく思っているのかもしれない。ウッ、それどんなリゾットなのかすごく気になるから態度に表してほしいな。
もうこの場の雰囲気は完全にハリー君に掴まれている。末恐ろしい青年だ。
スネイプ先生はぜはぜはと息を乱して肩を怒らせる。一瞬で猛烈に体力を消耗したようだ。スリザリンはもやしっ子が多い。ガッツはあるのに体力がない悲しみ、わかるよ。私も基本的に体力がないからツッコミに全力を傾けるとすぐ疲れちゃうよね。
「とにかく!ポッター、何食わぬ顔でいるが、ホグワーツに戻って来たということはどういうことか解っているのだろうな。帝王はお前をご所望だ」
「あぁ……解ってるさ。きっとスネイプ、お前よりずっと」
スネイプ先生が一瞬息を呑んだ。すごくセクシーな息の呑み方だったので、私までハッとしてしまう。こ、ここにヘブンがあった。頼むハリー君、もう一回見たいから今一度スネイプ先生の度肝を抜いてくれ。ワンモアプリーズ。
願い空しく、ハリー君が二の句を告ぐ前に大きな音を立てて扉が開いた。ばああんと遠慮のかけらもなく大人数によって押し開けられた扉は、壁にはね当たって両サイドにいた人に軽くぶつかる。いつかのリゾットのようにそれを静かに閉める人はおらず、いつかのスネイプ先生のように長い口上を述べ新入生の心をキャッチ&リリースする人もいなかった。
先頭に立つのは、片脚が義足で片目が索敵の役目を果たす魔法眼である闇払いだった。どん、と床を杖の足で突くと杖先から炎が噴き出す。スネイプ先生はそれを生徒に当たらないよう魔法の風でぐるぐると螺旋状に跳ね上げた。
「どうでもいいこと言っていい?」
「ん?何だいポルポ」
「今ここでどうでもいいこと言ったら殺すわよ」
「やっぱやめとくわ」
スネイプ先生が元気良く魔法を使っているところを初めて見た気がする、なんて本当にどうでもいいもんね。言わないわ。イキイキと杖を振るっている先生はもっと別の所で見たかったよ。
「ポッター、ここは我々に任せて先へ行け!」
「つうかこいつなんでココにいたワケ?」
「さっさと行きゃあいいのにな」
ソルジェラ、シャラップ!