パインサラダを期待して


美味いサラダを作ってやるから楽しみにして行って来いよ、と見送ってくれたソルジェラに手を振って、私はリゾットと共に聖マンゴへ向かった。
そこでダンブルドア先生とハリー君、それからハリー君、ハーマイオニーちゃん、ロン君と合流すると、ダンブルドア先生の死力を振り絞るような『姿現し』でくるりんぱと移動する。踏みしめた地面は知らない土地のもので、吸い込んだ夏の空気もどこかひやりと冷たかった。
人の少ない村。そういう印象を抱いたが、もしかするとみな静かな性質を持っているのかもしれない。
ダンブルドア先生はハリー君とロン君に手を借りて、ゆっくりと歩みを進めた。その姿はステルス魔法によって見えなくなっていたが、乾いた土をローブの裾がわずかにこすって、彼の歩んだ後には痕跡が残っていた。私たちはそれを消しながら、透明マントを着ているハリー君たちについていく。先生の残す足跡は私たちの目印となった。
本当ならギリギリのところで引きずらない構造になっているのに土ぼこりを巻き上げてしまうのは、ダンブルドア先生が前かがみになって力なく歩いているからだ。老人は魔法力をかなり消耗し、体力も呪いで削り取られている。癒者の見立てでも、もう長くはないらしい。その先の短い命を引きずって、老人は歩いていた。
「聖マンゴを襲わせるわけにはいかぬからの」
万一にでもダンブルドアの生存が露見し、多くの患者を抱える病院に大変なことがあってはいけない。彼は育った地であるゴドリックの谷に療養の床を移すことに決めた。今日はその日だ。
付き添いは必要ないと言ったダンブルドア先生だったが、唯一ハリー君たちには共に来るように言いつけた。ついでに呼ばれたのが私だ。リゾットは私を一人にしない為に同行を申し出てくれた。うっかりさらわれたりしては目も当てられない事態に陥るのでこちらに異はないが、よく考えるとどう見ても私たちはお邪魔虫です、すみません。
亡き人が眠る墓地へは、いかに図々しい私といえど入ることはしなかった。それくらいの気遣いは出来るんだよ。出来るんだったら。
ハリー君たちが一つの墓石の前で話をしている間、私はぼんやり村を眺めることにした。リゾットと手を繋いだり、腕を組んだり、距離を縮めていたりはしていない。もうだいぶ"以前"に近づいた身長差にしっくりしたものを感じながらただ隣り合って立っているだけだ。私に不満はないし、リゾットも、たぶんだけど、何も思っていないんじゃなイカな。
身長差としては、あとはハイヒールを履けば完璧だね。26歳と28歳だった頃はいつもハイヒールを履いていたから、そろそろ履きたくてうずうずしている。かつかつとヒールの音を立てるのが楽しいのだ。脚も綺麗に見えるしね。
そういえば、とリゾットの静かな瞳を見上げて思い出す。リゾットって今年で28歳か。めっちゃウケる。私が17歳でリゾットが28歳というこの現実なんなの。ヤバい。時空が歪んでる。11歳差ってスゴイよな。私たちは私たちで記憶持ちの転生を遂げていて特にお互いに違和感を抱いていないけど、傍から見たらここ数年、ネエロ先生は完全に犯罪者扱いだったのか。私童顔だったしな。パッと見はロリ婚約者と冷酷無慈悲な闇の魔術のおうちのご当主とかウケる。
にしてもこの人、22歳の頃からあんまり外見的に変わってないんだけど波紋の呼吸でもしているのかな?前の世界でも思ったけど基本的にみんな若々しさを保っているよね。もちろん28歳というのはまだまだ若いですよ。若いですけど、元々雰囲気的に数十年の貫録を持っていた"ネエロ先生"だからこそ余計に不老感が漂っている。だから新入生の女の子から告白されたりするんだよネエロ先生。カッコいいもん。どうにかしろそのフェロモン。え?プロシュート?あの人はマジで不老。全然変わんねえもん。格好いい方向にしか進化しねえもん。どうなってんだこの世の中は。
「私たちはどうして呼ばれたんだと思う?」
思いの外ハリー君たちが長くお話をしているので、私も手持無沙汰になってしまった。いつまでもリゾットを見つめているわけにもいかないので、誤魔化しがてら話題を振る。
「あ、いや、うん。正確にはね。呼ばれたのは私だけですけど」
「俺はまだ何も言っていないが」
「言いたげだったわよ」
言葉は正確に使わないとダメですよね、リーダー。わかります。
へらへら笑うと、リゾットは私の頬をむにりと摘まんだ。なにその抵抗の仕方。年々可愛くなっていってないか?どうにかしろその可愛さ。どうなってんだこの世の中は。スタッフー!
「ダンブルドアの意図は知らないが、大方、何か遺しておきたいものがあるのだろうな」
「そうよねえ……遺産ってやつ?相続物?何をくれるんだろう」
ハリー君にはスニッチが。ハーマイオニーちゃんには本が。ロン君には灯消しライターが。
それなら私には何が贈られるんだろう。全国スイーツバイキング無期限自由入場チケットとかだったら嬉しいが、そんなわけがないのは知っている。いや、しかし待てよ、相手はあのダンブルドアだ。ユーモアあふれるお爺ちゃんだ。ひょっとすると、ひょっとするかもしれない。
「待たせたのう」
ダンブルドア先生は修繕された自分の家にひっそりと姿を隠して戻ると、外から様子がわからないようにする魔法をかけた後で透明化を解いた。
ソファに腰を下ろし、懐かしむように目を細める。半月型の眼鏡の向こうでいつもきらきらと光っていた瞳は力を失い、ちょっぴり湿っぽくなっていた。弱ってるよお爺ちゃん。
空中から茶器が取り出される。まあ飲めよと言われたので遠慮なくいただく。
「ハリーらを呼んだのは、両親の墓を見せたかったというのもある。これからの話をしたかったという気持ちもあり、わしの最期の言葉を聞いてほしかったという気持ちも。……色々な感情が混じり合ってのことじゃ」
「最期だなんて、先生!」
「いいのじゃ、ミスグレンジャー。わしはそう長くはない。今年の冬は越えられんし、秋も危ういところじゃというのはわし自身がよくわかっておる」
ハーマイオニーちゃんもそれはよくわかっているのだろう。痛ましい表情で口を噤んでしまった。私はお茶を一口。めっちゃ熱かった。嫌がらせかと勘違いしてしまうほどに熱かったので無言で熱冷ましの呪文をかけた。
「わしは……」
ダンブルドア先生が色々と語り始めたけど長くなりそうだったのでここはスルーの一手。リゾット聞いておいてくれ。
「……」
面倒なことを押し付けてんじゃねえよって言ってる?私だって嫌だよお爺ちゃんの話って長そうだし、アレ全部ハリー君たちに向けて言うことでしょ?あるいはネエロ先生。だって私に言ったところでどうにもならんし。本題を話す時は気を惹いてくれるに違いない。リゾットのことでも考えておこう。リゾットって可愛いよな。
リゾットって可愛いんだよ。クールな猫かと思いきや静かな大鷲のようだったりするところとか、月下が似合いそうなのに夏の日差しの下でも"ああこの人は生きている"と実感してなぜか涙が出て来そうになるところとか、触れれば切れてしまいそうな殺気を放ってもすぐにその刃をおさめて平常心を取り戻すことが出来るところとか、あとから"さっき怒ってくれた?"って訊くと"……そうだな"ってテキトーに答えるか"怒ったという言い方は正しくない"と自分の感情を分析し始めて真剣に応答して来るかで反応がわかれるところとか、面倒なことがあるとやりすごそうとするところとか、何気にスルースキルが高いところとか、プロシュートと話をしている時に目を伏せて、ふ、と息を吐き出すように笑うところとか、ソルベとジェラートに玩具にされても無視を貫くところとか、たまに仕返しをしているところとか、メローネの行動をたしなめているところとか、ギアッチョの器物損壊を指摘してそのたびに修繕費の予算を組んでいたところとか、学校でギアッチョが問題を起こしてもその仲裁役を自ら買って出る"リーダー"であるところとか、ホルマジオとお酒を飲み交わして比較的饒舌になるところとか、イルーゾォがくだを巻くのを見て自戒するのかいつも以上に無口になるところとか、ペッシと並んでキッチンに立って袖を捲る時の指の動きとむき出しになる前腕などいとをかし。趣がありすぎて死ぬ。かわいい。リゾットは可愛い。めちゃくちゃ可愛い。こんなかわいい人間がいていいのかってくらい可愛い、と毎回毎回思うけれど、もちろんリゾットに限った話じゃあない。ただリゾットはギャップというものがあってだね。余計に可愛く思えるのだよワトソン君、わかるかなこの萌えが。とにかくリゾットは可愛い。
二十個ほどの結論が出たあたりでダンブルドア先生は私の名前を呼んだ。
「聞いて居らんかったじゃろう?」
「はい」
素直に認めるとロン君が声を上げた。僕も無視しておけばよかった!ひどいことを言うと先生が泣いちゃうよとたしなめる。お前に言われたくないしダンブルドアは泣かないだろと反論されたけどダンブルドアだって人の子だ。泣くさ。
「君を呼んだのは他でもない。他の子らにはわしの死後相続が行われるようすでに手続きがしてあるが、君にはそうではない。結果として巻き込むことになってしまった今、君にもこの魔法界の今後を―――託す必要がある」
そういう重いものを背負わせるのはやめて欲しい。正直にノーセンキューAA略を表明するとダンブルドアは笑った。
「しかしそうも言っておられんのじゃ。君には重要な仕事を頼みたいのでな」
重要な仕事とは。
ダンブルドア先生は懐から細い棒切れを取り出した。言わずと知れたニワトコの杖だ。彼はそれを私に差し出した。
え?
ハリー君が納得したように頷く。ポルポ、受け取って。そう言われても困る。リゾットを見上げると、彼も私を見ていた。ぱちりと瞬きして、ダンブルドアに顔を戻す。え?
老人はお茶目にウインクをした。
「君にはこれを折ってもらいたい」
「……パードゥン?」
え?今?
「いや、今はその時期ではない」
君はいずれリゾットの身柄のために狙われることとなるじゃろう、とダンブルドアはゆっくりと言い聞かせるように説明をする。まるで小さな子供を言い包めるような言葉選びだ。誰にも言ってないけど私はこの中でダンブルドアについで年上だからな。アレ?本当はリゾットの方が年上になっちゃったんだっけか?アレ?えーっと、私が25と27と17で、リゾットが28と、えー、わかんねえな。真ん中に挟まってる経歴が全然わかんないし怖くて聞けない。いいや、私はリゾットよりおねえさん。そういうことにしておこう。
「君にはあやつの前でこれを折って欲しいのじゃ。……君が言ったのじゃよ、そうすることでヴォルデ―――」
おおっと、かべのなかにいる。じゃなくて。おおっと。
「あの、言っていいんですか?その人の名前」
「……そうじゃな、君は聡明じゃ。罠を仕掛けられているとも考えられる。言わん方が良かろう」
「僕、そんなこと考えもしなかった……」
「ハリー、あなたは迂闊すぎるのよ。もっとよく考えなくっちゃ」
「そりゃ無茶だぜハーマイオニー。みんながみんな君みたいな秀才じゃないし発想力があるわけじゃないよ。こいつは特別ヘンなのさ」
ハリー君がぼろくそに言われてるけどごめん、おねえさんは知っているだけなんだ。なんとなくそんなおぼえがあるなっていうことで忠告をしただけなんだ。ダンブルドア先生のことだからそういうのを除ける為の呪文も敷いていそうだなって今思った。私ナニ偉そうなこと言ってんだ顔から火が出そう。うわ恥ずかしい。ダンブルドア相手に。ひええ恥ずかしい。笑っちゃうな。
「受け取ってくれるね、ポルポ」
お爺ちゃんは私にヴォルデモートのメンタルをバキバキに折って欲しいそうですよ。そうかい。自分で言ったことを否定するようでアレなんですけど、今ここで杖を折ってダンブルドアと一緒に埋葬しておいて、エルダーワンドを求めて墓を暴いたヴォルデモートが折れた杖を目にして絶望っていう流れも面白いんじゃないでしょうか。
「それはイカン!」
ダンブルドア先生は大げさに首を振った。びっくりしてちょっと身体を引く。なんでダメなの?
「それでは奴の驚いた表情が誰にも見られずに終わってしまうじゃろう?」
なんてやつだ。鬼畜め。人の心がないのか。ダンブルドアは人の心がわからない!そんな理由で弄ばれるニワトコの杖ちゃんのことも考えてよお!あっダメだ一連の言葉は全部私に返って来るブーメランだわ。

渡された杖を持て余す。暇を持て余した神々の遊びならぬ杖を持て余したポルポさんの遊び。もっぱら手の中でくるくるとペン回しの練習をすることにしか使えないニワトコの杖。うーむ、無駄遣い。
ゴドリックの谷から帰還した私たちはそれぞれの決意を胸に7月後半のウエディングパーティーで会うことを約束してお別れを済ませた。ウエディングパーティーというのはウィーズリー家のビルさんがフラーさんと婚姻を結ぶに際して催されるご両家の披露宴みたいなもんだ。三校対抗試合の代表選手繋がりでギアッチョが招待されたので、私は彼のパートナーとして出席することになっている。なんだかんだで忙しい夏休み。
私がダンブルドアに会うのはアレが最後になるだろうし、ダンブルドアもきっとそう思って杖を託したのだろう。もう彼に身を守るすべはない。杖の所有権がどこまで感知されるものなのかは知らないが、ダンブルドアが誰かに殺されたとしても、その"誰か"が私に辿り着くよりも先にきっと私は杖を折る。そして杖を折った私は腹いせに殺される前にリゾットたちに全部任せてトンズラをするって算段だ。完璧。今立てた計画だけど完璧。
「お前も厄介なモン押し付けられたよな。リーダーは止めねえの?」
「止めた」
「ジジイがごり押ししたってことか?」
「いや、ポルポが受け入れた」
「何やってんだよ!?」
「だって粘ったって仕方ないし……」
相手はあのダンブルドアだよ。死を前にしたあのお爺ちゃん、ただでさえ一筋縄ではいかないのに加えて崖っぷちに立っているものだから後にも退かず前進して来るのみだ。話が長くなるしもっと面倒な条件を付けくわえられてはたまらない。例えば効率よくヴォルデモートの前に引っ立てられる為に囮っぽいことをしろ、みたいな無茶振り。そんなこと言われても困るからな。何もしてねえのに目をつけられているんだから隙をチラ見せしておけばあっちから掛かって来るだろうし、まあこちらから攻めて行った方がアドバンテージを取りやすいのは確かだけど、ヘンに動いてうっかり殺されちまったらもう全員らめえ血液がフットーしそうだよぉと血管から刃物が飛び出して来たり色んなものが鏡に入れられたり小さくなって踏みつぶされた人間が転がりまくったり氷の彫像が増えたり銃弾が飛び交ったり敵味方入り乱れ立ち回りずばばばばドカーン、なんていう事態に陥るんだろ?闇の陣営なにそれおいしいの。
本気出せば闇の陣営なんてピチュれちゃうのかなあ。
ぼけーっとクッキーをつまみ、食えない笑顔のソルベとジェラートに想いを馳せる。壊滅、させられそうだなあ。
二人はキッチンで洗い物をしている途中だ。チーズクッキーを作って、そのまま片付けに移行している。先に食べていてくれと言われたのに待っているのも逆に申し訳ないかなとなけなしの気遣いをしてお先におやつ。
私が彼らに闇の陣営の殲滅をお願いしない理由は結構たくさんあるが、代表的で解りやすいものを挙げると、それはハリー君が分霊箱だと知った瞬間躊躇なく彼らがハリー君を殺しにかかりそうだからだ。主人公勢を敵に回しちゃあいけない。フェリックス・フェリシスなんかじゃ追いつかないほどの幸運が彼らの周りには廻っているからね。主人公の敵は死ぬ。これ、世界の道理。うう、色んな意味で胸が痛い。暗殺チームかっこ涙かっことじ。
「自分から厄介ごと背負いこんでどうすんだよお前……」
「折ればいいだけだから良いかなって」
「ハゲの目の前にいるっつーこたァ、オメーがハゲに捕らわれてっかハゲがオメーんトコまで来てるかのどっちかじゃねーかよ。自分の身も守れねえくせに簡単に言ってんじゃねー」
「私、こう見えてプロテゴは得意なタイプだよ」
「どういうタイプだよ……」
防御大事。
「最悪の場合は折ってすぐ『姿現し』で安全な場所に逃げるとか、悪いけどイルーゾォに傍にいて貰って鏡に飛び込んで逃走するとか……」
「俺の『死んだふり』で女王さんを"殺し"ちまうとかな」
「この世界の奴らには死んだ人間が生き返るって発想がそもそもねーからあれほどオッサンの生還にビビってんだろうし、『死の呪文』を二度重ね掛けする奴もいない。……となると話は簡単だろ?」
あらチート。ありがとね、ソルジェラ。そう言ってもらえると気が楽だわ。
「俺がこいつを鏡に入れた方がリスクは少ねえだろ。その場から"離脱"するんだから」
そうかも。いざって時はお願いねと頼むと、ギアッチョが舌打ちした。
「あー……クソッ、面倒なこと持って来やがって。いっぺんこっちの身になってみろってんだ」
「ブフッ、ギアッチョちゃんの身になるって、ぶふっ、何年も俺たちのことを思い続けて見つけたと思ったけどどんな流れなのか全然わかってなくてビビりまくりで?厄介ごとを嫌がっているのに周りにいる俺たちのせいで"変人"なんてレッテルを貼られちまって?うっかりポッターたちに巻き込まれて何度か死にかけて?闇の帝王の復活に立ち会い?今は完全にダンブルドアから面倒くさいことを頼まれて辟易しているポルポちゃんが?」
「何年もポルポのことを捜し続けて?見つけたと思ったけどツンツンした態度しか取れなくて?厄介ごとに巻き込まれてるポルポを散々罵倒してるのにうっかりメローネに巻き込まれて"変人"っつうレッテルを貼られた挙句トライウィザードトーナメントでイレギュラーの代表選手に選ばれちまって?闇の帝王の復活に立ち会い?ポルポが服従させられてるのを見てブチキレて?あわや殺されかけたところをオッサンに麻痺させら、ぶはっ、させら、さ、ふふ、させられて助けられ?あとあとそのオッサンに重々しく謝罪されたギアッチョちゃんの身になってみるって?」
「ぎゃはははは!」
「可愛すぎる立場じゃねえ!?どっちもどっち過ぎてヤベーだろギアッチョ!ポルポとあんまし変わんねえよ!どっちも苦労してるって!」
ギアッチョはむっつりと黙り込んでしまった。頬杖をついて完全にふてくされている。ソルベとジェラートも絶好調でやり込めるのやめてあげればいいのに。それ半分以上屁理屈だぜ。あと苦労してるのはだいたいあんたらかメローネのせいだからな。十人中の三人に他の七人がツッコミをする必要があるなんてこんなの絶対おかしいよ。
抱腹絶倒。ソファの上でごろごろ転げ回るソルベとジェラートにからかわれすぎて機嫌を悪くしたギアッチョが、テーブルの上に放置されているニワトコの杖をがっしと握りしめた。あ、そういえばこの杖なら"におい"はついていないわけか。
ギアッチョは思いっきり杖を振りかぶった。すわ呪文か乱闘か。おいおい仲間割れはお止めと声をかけるより先にギアッチョの手から杖が放たれ、節くれだった細い棒切れの先端がソルベの頬にぶち当たった。
「イッテエ!ギアッチョ、物投げんなって!」
「仮にも死の秘宝だぜ」
そうなんだよな。これ死の秘宝なのよね。ハリー君が揃えないといけないものなんだよ。決して今みたいに人に向かって投げていいものじゃないんだぜ。もちろん折っていいものでもないんだろうけどまあそこは。そこはね。あのダンブルドア大先生が許可したことですから私なんぞが異議を唱えるというのもおかしいのだが、いいのかな。ダンブルドア先生としてはこれをハリー君に渡してハリー君に『死』の真実へ辿り着いてほしいと考えるんじゃないのかな。
まあ、いいのか?別に死の秘宝をすべて集めたから不死身になるってワケじゃあないようだし。

気楽に考えていたがよくよく掘り下げてみるとダメかもしれない。
夢の中でハッとあることに気づいて目が覚めた。忘れてしまわない内にベッドから起き上がって、サイドテーブルの引き出しから杖を取り出す。ニワトコの杖で明かりをつけてみるとめちゃくちゃ明るくなった。お前は加減というものを知らんのか。
「いや……ダメ……じゃないのか?」
珍しく独り言ちてしまうくらいには動揺していた。この杖の所有権はハリー君の命運にかなり深く関わって来る。この杖の所有権がハリー君にあったからこそヴォルデモートは禁じられた森でハリー君を殺せずにいたのでは。
「(いやいや、そっちはどうでもいいのか?)」
ヴォルデモートとハリー君の間に繋がりがあるというのが問題だから、ニワトコの杖の所有権は別に良いのか。ガチンコの対決だったらハリー君の方が若さ体力未来パワー主人公オーラ何をとってもヴォルデモートを上回っている。イケメン度は過去のヴォルデモートの方が上だったかもしれないけど今は違う。ナウい風が吹いているのはハリー君の周辺だ。
うん、大丈夫大丈夫。
私は枕に頭を戻した。大丈夫大丈夫。信じ込めば何でも大丈夫。
所有権は永久に葬り去られる。誰のものにもならない杖は誰の力にもならない。ハリー君の力にも、ヴォルデモートの力にも。『死』の真実に辿り着く道は一つではなく、ハリー君なら必ず到達する。
なぜならそれは―――……