アルバス・ダンブルドアの告白



クリスマス休暇も遠ざかった冬の日、スリザリン寮はある話題でもちきりだった。スリザリン寮だけではなく、すべての寮の六年生が期待に胸を膨らませていたかもしれない。
「『姿現し』の授業ですって。特別講師が魔法省から呼ばれるらしいわ。プロシュート先生の監督がついているらしいから、女子の申し込みは増えるでしょうね」
プロシュートも出て来ると聞いて驚いたが、申込用紙を提出しに行くパンジーに引きずられて職員室に向かう道すがら、私は身をもってその理由を知った。凄い人混みだった。なるほど、生徒に対して教員の人手が足りないのか。
「ちょっと、なんであんたは名前を書かないのよ?まさかファミリーネームを書くのが面倒だから、なんて言わないわよね?」
私のファミリーネームのことは言わないでくれ。毎回テストで凄い時間を取られてつらいんだ。
「だって、私は『姿現し』を習得しなくても困らないし……」
うっかり間違えて"ばらけ"ちゃったら怖いし、もし途中で魔力が足りなくなってエネルギー切れになっちゃったら、なんて考えるのも恐ろしい。着いた先で空腹にぶっ倒れるのは勘弁。世の中には電車や車や飛行機という便利なものがあるし、魔法界には煙突飛行というもっとすごいものがあるんだよ。『姿現し』を使ってどこかにダイナミックお邪魔しますをする予定もないから覚えなくていっかなーと思ったんだけど。
「バカ。覚えた方が絶対に楽なのよ。ホルマジオ先輩とイルーゾォ先輩だって覚えてるでしょう。あのイルーゾォ先輩が覚えてるのよ!?」
イルーゾォはただ鏡の中での瞬間移動が可能になるから修めただけだと思うんだが、まあ確かに"あのイルーゾォが『姿現し』のテストをパスした!?"と昨年ちょっぴり話題になったような気がしなくもない。アンブリッジの騒動でかなりうやむやになっていたし修得証明書が与えられたのは夏になってからだったので、それほど目立ちはしなかったけど。
「イタリアにだってジャパンにだって行けるのよ。こういう言い方はしたくないけれど、タダよ?」
「うーん」
「何悩んでるのよ!あたしと一緒に受講したくないの!?」
「そ、それはしたい」
「ほら、名前書いて!」
「はい」
なんだか釣られた気がする。

ある日の朝、ハリー君がスリザリンテーブルまでやって来てメローネを呼び出した。メローネは臆せずグリフィンドール席までハリー君と並んで歩いて行ってふんふんと頷きながら何事かを会話し、またしばらくすると食べ残していたシリアルを処理しに戻って来た。なんだったの?
「前にナメクジパーティーで俺が"ダンブルドアと俺の予想は合っているかもしれない"って言ったのを憶えてたみたいでさ。ダンブルドアが闇の帝王のどんな秘密を探っているのかをわざわざ教えてくれたんだよ。律儀なガキだよな」
今は一応同い年なんだからガキって言うのやめたげてよお!
くすくすと笑うメローネは、ハリー君の実直さよりも自分の推測がどんぴしゃりで正解を突いていたことに喜んでいるようだった。ホークラックスという禁術の名前をどこで知ったのかは存じ上げんが、もしかするとメローネならこのまま隠された分霊箱にも到達してしまうかもしれないなと思ってしまうような、欲求に正直で無邪気な表情だった。無邪気に見えるのはたぶん彼が今16歳の姿をしているからだろう。25歳でこの表情をしていたらそりゃさすがに許されん。いや、うーん、許されるか。メローネなら許されるわ。誰が許可しなくても他ならない私が"許可"するわ。可愛いもん。
「つーこたぁダンブルドアは……」
「あぁ、分霊箱を探しに出てるんだろうね。手がかりは"帝王"に所縁のある物かな」
「だよなァ。ソルベとジェラートに連絡入れとくか。あのジジイが動いてんだったら任せちまった方が楽だよな?」
ホルマジオの言葉を否定したのはイルーゾォだった。
「別にいいんじゃねえの、好きにやらせとけば。どうせ分霊箱捜索にかこつけてイギリス旅行でもしてるつもりなんだろうし」
青年らしいしっかりとした、しかし隣にいるホルマジオに比べるとほっそりした手が新しい水を注ごうと水差しをつかむ。
「オメー、結構そういうネタに寛容になったよな?ポルポの影響か?」
「こいつにはナニ一つ影響なんか受けてねえから!一緒にすんな」
イルーゾォがわざとホルマジオのパンに水を零した。うわッオメーナニしやがんだ信じらんねェとホルマジオは慌てて水差しの傾きを元に戻したが時すでにおすし。いや遅し。パンは浸水しぐずぐずになっている。もったいないことをするなあと思っているとギアッチョが杖を取り出した。何も言葉を発していないのに、見守る私の目の前でパンの横に一握りの氷が転がる。パンは余分な水分を失っていた。ホルマジオはその氷をイルーゾォのコップに入れてやって、しょーがねーなーとため息をついた。
水を生み出す呪文や脱水の魔法はあるけど、水を氷に変化させる呪文は一般的じゃない。いや、どっちかって言うと"物を凍らせる"のではなく"特定の水分を氷につくりかえる"呪文なんて需要がそんなにないから学校の中ではマイナー認定されているというだけか。物を冷却する魔法は別に存在していて、夏に冷たい飲み物を飲みたくなったらそちらを選択する人が大半だ。かぼちゃジュースが主流の魔法界に氷はなじまない。あるっちゃああるんだけどね、そういう呪文も。脱水のスペルではなく氷を生み出す方向でパンを復活させたところは、なんだかギアッチョらしくてとても良いな、と思ってしまった。場違いな感想だったかもしれん。
「それよりもアレなのね。ギアッチョはもう無言呪文は会得しているのね」
「あ?……まあな。オメーはまだなのか?」
「まだだぜ」
なぜかメローネが答えてくれた。いつも私の練習を見てくれているからかな。私よりも私のことを知っている男メローネ。
ホルマジオは"魔法"を面白がって口に出して唱えているけど、イルーゾォなんかは人前で必要以上に喋ることを嫌って無言呪文をひっそりと多用している。さすがに鏡の中に入る時は自分に"制約"でも課しているのか例の台詞を呟いているけど、もしそれがただの習慣だったらどうしよう可愛いね。
「ポルポってイマイチ無言呪文の活用性を理解してないところがあるよな。興味だけじゃ習得できないぜ」
「口に出した方が威力は増すし、重要な局面ではみんな喋るんだからいいかなーって思ってたんだけど……」
でも待てよ、よく考えたら無言呪文を使えば無言で相手を縄で捕えたり無言で相手の……スネイプ先生のローブを捲る悪戯な風を起こしたりできるのか。なるほど。手の内も読まれないしタイムラグも少ない、と。無言だから誰がやったかは解らずただやり場のない怒りを近くにいたグリフィンドール生に当てるスネイプ先生。グリフィンドール生には悪いけどちょっと興奮する可愛さだ。動悸が激しい。
「私、がんばるわ」
「なんだこいつ急にやる気になって気持ち悪いな」
失礼なことを言うイルーゾォは申し訳ないがこの際無視だ。私、がんばります!

私だって一人で行動する時くらいある。いつもいつもべったりしているわけじゃないのさ。
図書館にでも行こうかと二階の廊下を歩く。冷えた大理石の廊下は靴底から足裏まで冷たさを伝えてくるようで、こりゃもう靴下にホッカイロを貼っていなかったら耐えられなかっただろう。今メタリカで足裏のホッカイロを操られたら私の足はズタズタになる。嫌な想像をしてしまってない筈のタマがヒュンするね。いつもながら下品な雑念である。
医務室の前を通り過ぎる時、少し扉が開いていたので中を覗き込んだ。ペッシの姿が見えたら癒されるなあと思ったのだ。
中にいた生徒は私の視線には気づかず、扉の影になって見えないペッシに挨拶をしたようだった。ペッシの声がやわらかく言葉を返していた。もちろん彼も暇じゃあないだろうし、私も図書室に用事があったのでそのまま素通りをするつもりだった。今ではちょっぴり後悔している。
何故ならその一時間後の現在私の目の前でカップを傾けているのはダンブルドア校長であり、私たちを取り囲むのは歴代校長の絵画であり、不死鳥のフォークスであり、古びたタイプライターや動く羽根ペンや静かに回る天球儀などのありとあらゆる魔法道具であったからだ。
なぜこうなったかというと、それはペッシ医療補佐―――ああ、医療事務員から昇進してペッシ医療補佐になったんだよ。お祝いの席でプロシュートが弟分の(この世界では真実弟なのだけれど)活躍をちょっと自慢げにしていたのをよく憶えている。そのペッシ医療補佐と私が医務室の前で邂逅してしまったからなのだろう。
どうやら生徒に挨拶をしたペッシ医療補佐は医務室の外に出かける間際だったらしい。大きな身体でちんまりと扉を開け、他の患者に迷惑がかからないよう気を遣った彼は、手を振って別れる気満々だった私を呼び止めた。
「どこに行くんだい?」
「図書館だよ。新しい小説でも借りて来ようかなと思って」
ホグワーツの図書館はとても広く、棚の高さは天井にまで達するほどだ。そんな膨大な蔵書の中からお目当ての本を探す作業は楽ではないが、生徒の、そして教員の手助けとなるのが、図書館の入り口に立つイルマ・ピンス司書だ。"あの"フィルチ先生と付き合っているのではないかという熱愛報道が一時期ホグワーツ中を駆け巡った程度には厳しい女性だが、彼女が操作する魔法盤に憧れを寄せる生徒は少なくない。図書館に収められる本の記録がすべて詰まった魔法盤はマダム・ピンスの操作によって起動し、ホログラムのような映像が浮かび上がり直感的に棚を示す。隣に控える自動速記羽根ペンが、ライターから吐き出されるメモ用紙に棚の番号と本の場所をメモし、彼女はそれを生徒に渡す。子機として、杖に反応する検索盤も存在するのだけど、マダム・ピンスの持つディスクは特別に"魔法的"で格好良かった。マグル出身の恐れを知らぬ戦士もとい生徒たちは、人の少ない時間を狙ってこっそり彼女に話しかけるのだった。私もそんな命知らずの一人である。
ペッシはそうなんだ、と明るく笑って、俺は三階に用事があるから途中まで一緒に行こうよと誘ってくれた。お言葉に甘えて、他愛のない話をしてゆっくりと廊下を行く。外廊下に差し掛かった時、ペッシは窓から外を見下ろして、ハグリッドと並んで歩くプロシュートの姿を見つけパッと私を手招きした。並んで見下ろすと、こちらに気づいたハグリッドがプロシュートの肩を叩き私たちを指さした。プロシュートはペッシと私を見て唇の端に笑みをたたえる。ペッシが手を振ると一つ頷き、ポケットに突っ込んでいた手をひらりと軽く持ち上げた。
「格好いいよね、兄貴」
「そうねえ」
どうやったらあんなふうになれるんだろう、とペッシは苦笑した。いつまで経っても追いつけないやと頬を掻く。ペッシの格好よさとプロシュートの格好よさは並行しているように思える。ペッシの決意とプロシュートの力量は交わらない。ペッシは誰かに"兄い"と呼ばれることはないだろう。でも、二人が目指している方向はおんなじだ。それでいいと思うんだけど、ペッシはやっぱり"兄貴みたいに"なりたいみたいで、プロシュートとハグリッドが立ち去った方向を名残惜しげに振り返っていた。
気を紛らわせる為にプロシュートの兄貴っぷりについての議論でも持ち掛けようかと思ったが、分かれの岐路は近づいて来ていた。ペッシはこの階段を上って、私は角を曲がる。それじゃあ、とお互いに笑顔でバイバイしようとしたが、今度私を引きとめたのは階段の上から現れたダンブルドア先生だった。
「おお、ペッシ先生。君を待ちかねてここまで来てしまったよ」
「えっ、わ、すみません。俺ついうっかりして時間を……?」
「いや、いや。年寄りはせっかちになってしまってのう。ミス、君もペッシ先生と一緒に来ていたのかね?」
焦って腕時計に目をやったペッシをなだめると、ダンブルドアは私に笑顔を向けた。数年前よりも疲弊しているように思えた。
「道が同じだったので途中まで一緒に来たんです。私は暇人なので時間を潰しにこれから図書館へ」
図書館の方を指さす。ダンブルドアは私の示した方向を見やると、半月眼鏡の奥の目を細めて微笑んだ。
「時間を潰すというのなら、折角じゃ。わしとペッシ先生と共にお茶をせんか?」
「えっ、校長先生、ですがそれは……」
「構わん。……君の信頼する彼女になら、もはや隠すことはないじゃろう」
かくして、目の前で勝手に展開されていくダンブルドアの固有結界に巻き込まれた私は、私とダンブルドアのどちらをも慮るペッシのおろおろした表情を肴にティータイムを迎えることとなったのだ。

「女子と紅茶を楽しむ機会は少なくての。好みの茶葉があると良いんじゃが……ラトゥナプラは好きかね?」
紅茶の銘柄とかいちいち記憶してないからぶっちゃけなんでもいい、とはさすがに言えない。
目の前にお茶っ葉の缶をいくつも並べてくれたダンブルドアにお礼を言って、一つ一つ、私のためにお茶に詳しくなったペッシちゃんの説明を聞く。ふむふむ、ラトゥナプラっていうのはチョコレートの風味がするのね。おいしそうじゃん。ダンブルドア先生のお勧めは?
「わしは最近ニルギリの良さに気がついたところじゃ。スッキリした香りが嫌いでなければニルギリをミルクで、甘くして出そう」
「じゃあそれでお願いします」
「校長先生、俺が淹れましょうか?」
ダンブルドアは笑った。こういう時の為に魔法はあるんじゃよと『出現呪文』で空中にティーセットを取り出すと、ふんわり浮かせてテーブルに置く。茶葉をポットに入れる時は手作業だったけれど、お湯は杖先から注がれ、砂時計は独りでに引っくり返った。便利ですねと言うと、こういうのは慣れじゃ、いつか君も息をするように魔法を使う時が来るとも、と老爺の微笑みが生暖かく私の未来を保障した。
「ペッシ先生、それでは頼んでもいいかのう?」
紅茶が抽出され、私が一口飲んで息を吐いていると、ダンブルドアはペッシに声をかけた。ペッシはカップをソーサーに置いて力強く顎をひいた。
「はい。いつもの通り、少し時間がかかります」
「構わんよ。ミス、君はこの後に授業があるかね?」
「いえ、あとは夕食を待つだけです」
「ならば重畳。……わしの話を少し聞いて居ってくれ」
ダンブルドアはまた杖を振り、今度はお茶菓子をテーブルに並べた。ぱちりと瞬きをして、食べていいのかな、と意図を汲むと、ダンブルドアに促される。
ビニタイで閉じられた小さな包みを開けて、中から一口サイズのマカロンを摘まむ。イギリス仕様なのか英米はみんなそうなのか、とてもビビッドなカラーをしていた。口に含むとしゅわしゅわととけて消える。おいしかった。感想と同時にもう一つ食べると、ダンブルドアとペッシがくすくすと笑った。食い意地が張っていてごめん。
ダンブルドアの差し出した手を取るペッシは、くるりと宙に杖で円を描く。そこから一つの小瓶が落ちて、ペッシは難なくそれをキャッチした。右手でダンブルドアの手をさすり、左手で器用に小瓶の蓋を開ける。膝の上に瓶を置いて、中の軟膏のようなものを指ですくった。
「少し冷たいです」
そっと、ダンブルドアの薄く黒ずんだ力のない手に薬を塗り込む。どんな感覚がしているのか、ダンブルドアは目を閉じて震える息を細く吐き出した。脳裏にペッシ×ダンブルドアなんていうクソみたいなカップリングのワードが浮かんだけど本当にクソだな。私の脳みそ仕事しすぎ。たまには休んでいいんだよ。有給出そうか。
目を閉じたまま、ダンブルドアは言った。
「この手を見て驚いたじゃろう、ポルポ」
いつの間にか名前を呼び捨てである。
そうですねとお昼の番組でお約束の相槌を打つと、校長先生は目を開いて己の手を見下ろす。
「君はミスター……、いや、メローネ君の友人じゃ。もしかすると、あの……ひどくひどく優秀な彼から、この魔術の名を聞いたことがあるかもしれん。……"ホークラックス"。聞き覚えはあるかね?」
「えぇ」
聞き覚えっていうか、まあ、読んだっていうか。言わないけど。
やはりハリーの言った通りじゃな、とダンブルドアの疲れたような声が自嘲を帯びる。ハリー君はホークラックスについてダンブルドアから聞いた時、メローネがあなたと同じ予想をしていたようでしたと伝えたのだろうか。そしてダンブルドアは、マジかあいつ頭良すぎじゃねなんかヴォルデモートと思考似通ってね?パねえー。そんな感想を抱いたのかもしれない。知らんけど。
「詳しく説明する必要はあるかね?」
「いえ、特には」
二重の意味で。すでに内容は既知であるし、これ以上聞くとなんか話が長くなりそうだという二重の意味で。
「まだ確証は得ておらんが、わしはヴォルデモートがホークラックスを使用したと思っておる。メローネ君もそう予想したようじゃな。ホークラックスは魂を分割する、極めて危険で、悪質で、厄介な代物。わしはそのうちの……恐らく二つをすでに見つけている。しかし奴がいくつのホークラックスを作っているのか、その肝心な部分が見えぬ。ハリーにはその真実を探るよう指示を出した」
そうですね。実は知ってました。はい。言わないけど。
「校長先生、それは……あまり生徒には言わないほうがいいんじゃ……」
躊躇いながら校長の話に口をはさんだペッシは、心底から私のことを心配してくれている。
ペッシは、彼の八人の仲間がホークラックスについて調べていることは知っているけれど、私が"それに対して関わらないほうがいいよ絶対関わらないほうがいいよ絶対だよ"とフラグ満載の忠告をしていることについて誰より同意してくれている。私が巻き込まれたことについては憤りを感じているけど、他のみんなにも危険が及ぶようなことは推奨できない、と懸念しているのだ。今のところ一番私の味方になってくれている。あのリゾットですら傍観の姿勢をとるこの現状で何より頼れるのはペッシちゃんだけだよ。
「すべては言わんよ、ペッシ先生。……君は死んだ両親に会いたいと思うかね?もしも会う術があったとして、それに手を出すと思うかね?」
両親を暗殺チームに変えて考えるね!ゆっくり考えていいのかな。私のメンタルは紙装甲だからみんなと会えるならホイホイ使っちゃうような気もしなくもないけど、刹那的な再会ってもっと心が渇いてさらに欲深くなっちゃいそうだからなあ。メンタル弱いからそういうの、きつい。どうするかなあ。いざ前にしてみないと答えなんて出ないわよそんなの。あと私優柔不断だからな。前にしても答えは出ないかもしれないな。自分がアホすぎてつらい。
「それでいいんじゃよ、ミス。……わしは少々欲が過ぎた。やはりイカンのう、力を前にするのは」
「そんな軽くていいの」
「ふむ、自業自得とはいえ、余命も一年となると若い者にすべてを打ち明けたくなるものじゃ」
「えっちょ……余命一年」
そんなことまで言っちゃっていいの。ペッシちゃんが焦ってるけど。
「ヴォルデモートの呪いじゃ。蘇りの石を加工した指輪に、奴の魂が宿っておった」
「ダンブルドア先生はそれを破壊した時に……その……この傷を……」
マジかそこまで話しちゃうのか。分霊箱の話が来た時にちょっと嫌な感じがしていたっちゃあしていたんだけど。
「……君たちは不思議じゃ。何をするか、わしにも解らん」
「私にもわかりません」
「ポルポそれは……いや、ううん、確かにわかんないね」
身もふたもない私の言葉を止めようとしたけど止め切れないペッシたんが可愛い。予想外の動きをする人間が少なくとも三分の一を占めているからどうとも言えないよね。おまえのことだソルベジェラートメローネ。
「じゃが、もしもホークラックスに近づくなら……メローネ君の予想に従い、ホークラックスを探そうと言うのなら―――……君たちにはそれだけの理由があるとわしは思っているが―――……充分に気をつけるのじゃ。そして、この一年の内ならば。わしの元へ持ってくるのじゃ。わしはそれを破壊するすべを持っている」
「ちなみのその破壊するすべとは」
「君に教えることは出来ん。……許してほしい。これは念の為なのじゃよ」
だよね知ってた。古代魔法とかで破壊したのかな。それともグリフィンドールの剣を使ったのかな。今のところはダンブルドアが所有しているはずだ。
「紅茶は冷めてしまったかな?」
「あ、いえ。冷めてもおいしいです」
問われてようやくお茶の存在を思い出し、とってつけたように飲んだけど確かにすっかり冷めていた。味に変わりはないんだけど、ともう一口飲むと、ダンブルドアが魔法で温め直してくれた。ありがとうございます、本当便利ですね。レンジでチンとかしなくていいんだもんな。
「呪いのネックレスの件については、君の友人はどのように考えているかな?」
「……あの、私じゃなくて本人たちに訊いた方が早いんじゃないですか?」
「ほっほ、それもそうじゃな。すまんのう」
「いえいえ」
別にいいんだけど。私じゃあメローネたちの考えの一端も理解できていないんじゃねえかなーと思っただけなんで。あとちょっとダンブルドアとメローネたちの殺伐としたお茶会が見てみたかった。その時は呼んでくれ。
「そうじゃな、いつかぜひ君たちと茶会を開いてみたいものじゃ」
ダンブルドアは億劫そうに生きている方の手を使ってお茶菓子を手に取った。封を片手で剥がそうとして四苦八苦していたので、そんな時こそ魔法を使えばいいのにと思いながらも手に取って開けてあげると、ダンブルドアはまるでそれを狙っていたかのようにほっほっほと笑った。
「ついでに食べさせてくれると有り難いんじゃが」
「ペッシちゃん、食べさせてほしいんだって」
「えっ、俺ですか!?」
「いやいや、君ではないぞ。しかし食べさせてくれると言うのなら」
ダンブルドアは口を開けた。ペッシがなぜか恥じらいながらその口にクッキーを放り込む。なんだこれ。
「君も一口どうじゃ?」
「あ、いや……まだマカロンあるんで……」
ダンブルドアがまた微笑んだ。
「ちなみに」
せっかく場のよくわからないシリアスな空気が一掃されたのでさっきから気になっていたことを問いかける。
「どうして治療をペッシ……医療補佐に頼んでいるんですか?秘密裏にする理由は解りますが、あなたは出来るだけこちらを……メローネたちをホークラックスから遠ざけておきたいと考えていらっしゃるように思えます。ぶっちゃけ"闇の魔法使い"っぽいし」
「君は歯に衣を着せんのう」
ある意味で一番言われたくない人に言われてしまった。
「ふむ……簡単な理由じゃよ。マダム・ポンフリーはいささか患者に厳しすぎるきらいがあってのう。わしがこうした問題を抱えていると知れば医務室から出してくれじゃろうから、ペッシ先生に頼んでおるのじゃよ」
なるほど。理解可能だった。
「ちなみにホークラックスについてルシウスさんはなんと?」
「……」
お爺ちゃんが沈黙した。
「そういえば、訊いておらんかった」
忘れられてマシタワー。脳内でプギャーしておいた。