さあ、バケーションタイムだ


学期末の恒例行事といえば、スネイプ先生へのお礼参りである。今年もお世話になりましたありがとうございましたと本来の意味で寮監を拝みに行くと、彼は去年よりも鬱々とした表情で私を迎え入れた。なんと今年は紅茶が出て来た。デレかな?
紅茶が飲みたいネーと言ったわけではないのだけど、出て来たのでせっかくだから頂いておく。ミルクと砂糖を入れずに飲むのが礼儀なのかなあとイギリス流のアレソレを思い浮かべながら紅茶の銘柄を当てようと四苦八苦していると、熱いので飲みあぐねているのかと勘違いしたスネイプ先生が熱冷ましの魔法をかけてくれた。やっぱりデレかな?
「ありがとうございます。いただきます」
スネイプ先生も自分のカップを傾けて、上品に琥珀色を楽しんでいた。うーん、まあ楽しんでいるのかは謎だけど。なにせ何を食べてもおいしくない顔をする人だ。
ひと口飲む。適度に暖かくて香りがよくてとてもおいしかった。ここにジャムを落とす人もいるけど私はミルクと砂糖の方が好きだなあ。でももし落とすのだとしたら苺ジャムが一番だと思う。色々なジャムを落として実験がてらティータイムを楽しんだことがあるけれど、苺ジャムのちょっとした鉄さびっぽさが好きだった。血の味は嫌いなんだけど、中身が苺ジャムだと思うとおいしく感じる。苺ジャムはすばらしい。パンに塗っても良し、スコーンにつけても良し、ヨーグルトに入れても良し、紅茶に落としても良し。
「先生は紅茶をストレートで飲むタイプですか?」
「君に関係があるのかね?」
質問に質問で返すなって言ってたよ、吉良吉影が。テストも0点になっちゃうよ。関係はないんだけど世間話の一環ですよ、こういうのは。積極的にコミュニケーションを取ってお互いの仲を深めていきましょうよ。今更ですけど。
「本当に今更だ」
ですよねえ。
二人して黙って紅茶を飲む。気分が落ち着くねえ。
「ポルポ、貴様は……」
スネイプ先生がカップを置いた。
「貴様はこれからどう生きる」
みんなと一緒にのんびりやっていきたいなって思ってますよ。
「この情勢ではそれも叶わんだろう」
どうやら真剣に訊ねているらしい。私に持ち掛けるには不似合いな話題だと思うが、リゾットにはもう訊ねて、納得のゆく答えを手に入れられなかったりしたのかもしれない。リゾットって流れに身を任せるところあるしなあ。でも私だってそうだよ。大切な人が関わっていなければ流れに身を任せて大人になってゆくさ。誕生日プレゼントは友人のうち七割から食べ放題のチケットを貰った世知辛い16の夜。
「だとしたら、情勢が変わるのを待つだけです。悪は打倒されるっていうのが定石ですから」
「楽天的すぎる」
「そうでしょうか。でも、うまく行かない筈がないですよ」
だってハリー君が頑張ってるしドラコ君も参入したしシリウス生きてるし、圧倒的じゃないか不死鳥の騎士団は。ルシウスさんは、まあ、非戦闘員に数えるとしても。原作でもルシウスさんって非戦闘員でいびられ役みたいなところがあったから不死鳥の騎士団にいてもあんまり戦わないんじゃないかなって予想をしているよ。闇の陣営にまた寝返られたらかなわないから、みんな表舞台には出さないようにするだろうし、ルシウスさん自身も自分たちのことは"ゲスト"として保護して欲しがるだろうし、ダンブルドアも戦力になるかならないかわからない人たちを戦わせようとはしないだろうし。私の予想って本当にテキトーなんだけど。
「……貴様、今適当なことを言っただろう」
え、なんでそんな失礼なことを言うの。イギリス紳士はどこへいったの。
「貴様が物を深く考えているはずがない。……ふぅ、大方ポッターが猪のように猛進し帝王を倒す、という筋書きを考えているのだろうが」
すごい合ってる。
「……うまく行ったとして、そこにポッターが生き残っている確証はない。それは貴様にとっては望ましくないことなのではないかね」
うん?なんでそんなこと聞いてくるのかな。なんとなく訊きたくなったのかな。自宅のテレビで映画を観賞している時にとりとめのない質問を投げかけてこちらを困らせて来る彼女かよ。なにそれスネイプ先生萌える。
ハリー君が生き残っているかいないかというのも気になるけどそれは大筋の流れとして確定していること、じゃないか?シリウス・ブラックが生き残ったせいでハリー君が死ぬパラレルワールドに突入してしまった、なんてことが考えられなくもないけど、確かめるすべもないし、そうじゃないと信じておきたい。ジョジョの世界でジョジョが死なないように、ハリポタの世界でもハリポタは死ぬまい。そういう考えだ。確かに楽天的かも。
むしろ私が心配なのはスネイプ先生の方なんだけど。スネイプ先生ってなんか死亡フラグを自分で勝手に立てて自分で勝手に回収してそうなイメージがあるんだ。偏見なんだけど一種死に急いでいるというか未練がないと言うか不幸体質というか。実際に死んじゃったシーンを読んだ時のあの衝撃ったらなかった。死んじゃうの、こんなに死亡フラグを立てている人がガチで死んじゃうの、英米文学やべえ。そんなことを考えて三回くらい読み直したけど間違いなく死んでいて放心したのは前々世での可愛い思い出だ。あの頃は魔法界はおろか、漫画の世界にだって生まれ直すとは思っていなかったけれど(そりゃ、当然よね)、こうしてみるとあの頃の自分の肩を叩いてやりたくなる。私、その世界の中に生きてるんだよって。
「私の心配をしている余裕があるのかね。……帝王がネエロを狙う限り、貴様もその魔手にかかる可能性はある。自分のことを気にするほうが先だろう」
「ありがとうございます」
「礼を言われる意味が解らんな」
でも今のって"我輩は貴様のことが心配なのだ"って意味じゃん。お礼を言わないほうが不自然。
言葉のやりとりの糸が切れたように、私たちは黙り込んだ。ほとんど同じタイミングでカップの持ち手に指をかけて、スネイプ先生はカップに口をつける。私は砂糖を一つ入れてかき混ぜながら、スネイプ先生が目を伏せるのを見ていた。スネイプ先生は私には目を向けずに言った。
「……貴様は、死ぬなよ」
ほらな、と私は内心で指をさす。また死亡フラグ立ててるよこの人。放っておいたら死んじゃいそうなんだもん、放っておけないよねえ。
かといって私にうまいことが言えるはずもない。だがしかし大丈夫、私も先生も死にませんよ。あなたは死なないわ私が守るもの?
「私のことは先生が守る。先生のことは私が守る。お互いに助け合って生きましょう」
死亡フラグに支配されたこの空気を払拭したくてかなり大げさなことを言った。
スネイプ先生は鼻先で私の言葉をせせら笑うと、足を組みかえてデスクに肘をついた。
「私を守るのかね、貴様が?―――ミス、君は確かO.W.L試験で闇の魔術に対する防衛術に『可』の成績を取っていたと我輩は記憶しているが、『優』も取れないような生徒に教師のことを守る力量があるとでも思っているとは思い上がりも甚だしい」
「えっ、自己採点では『良』だったのに『可』だったんですか?」
「一部判別しづらい単語があったそうだ。教師に教科書の記名を頼んだりするからこうなるのだ、解ったら来年からは自分で書きたまえ」
クリリンの、じゃなかった、アルファベットのPのことか。ひどい。アレで減点かよつらすぎる。那珂ちゃんのファンやめます。
精神的に大破していると、スネイプ先生は皮肉の表情から一転、苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。
「試験といえば……レスティンに伝えておけ。"この大馬鹿者"とな」
「え……あ、はい」
一体何をしたんだ、イルーゾォ。もしかして進級試験で審議が必要なほど悪い点数を取ってスネイプ先生がホグワーツの教育会議に出廷したとかそういうことかな。わあ、結果が返って来る7月が怖すぎる。
ありがとうございましたまた来年もよろしくお願いしますと礼をしてスネイプ先生と別れ、列車のコンパートメントでイルーゾォにこの言葉を伝えても、内容の意味はよく理解できなかった。イルーゾォは困ったような顔をして言及を躱してしまったし、他のみんなに尋ねてもニヤニヤするばかりで答えてくれなかったのだ。


夏休みの中旬、フクロウが試験結果を運んで来た。
家に集まっていた全員で無感動に開封し、中身を見る。私は自己採点で予想がついていたし、他のみんなはイルーゾォを含めていつも通りの成績だろう。高をくくっていた私はテーブルの上に放置されていたイルーゾォの進級テストの成績表を覗き込んで、耐え切れず素っ頓狂な声を上げてしまった。イルーゾォは全12科目中取得している8科目すべてで、優等の証である『O』を獲得していた。
スネイプ先生の言葉はこれを示していたのか、と学期末に言われたことを思い出す。あの時は意味がわからなかったけど、なぜか急に本気を出したイルーゾォへの皮肉だったと今ならば理解できた。ベリッシモびっくりした。
「な、な、なんで本気出してんの!?」
「俺だってそういう気分の時はあるし」
「ええええ!?」
そんなわけないでしょ!?
イルーゾォの肩を揺さぶって問い詰めていた私に種明かしをしたのはホルマジオだった。
「こいつよォ、アンブリッジに呼び出されて腐った林檎扱いされたんだよ」
え、そうだったのか。
時期を訊ねると、ホルマジオは優秀すぎる記憶力を活用し、四月の終わりから五月の初旬だと答えた。その頃ってちょうど私がフレッドとジョージにテスト破壊を提案した時期じゃないかな。私がテストをぶち壊すことを考えている間、イルーゾォは今までの成績をあげつらった攻撃を受けていたとは。
だけどその程度で態度を改めるようなら、今までこんなに落第すれすれを生きていなかったのでは。浮かんだ疑問を投げかける。
「あァー、……腐った林檎っつーのは周りも腐らせるからっつってよォ、俺らやオメーごとイルーゾォを退学にすることもできるぞっつって脅したんだとさ」
「えっ……」
トゥンク。考えるより先に胸が高鳴った。つまりそれって、イルーゾォがホルマジオたちの為に本気を出したってことじゃん。それってナニ?ラヴ?アモーレ?リーベ?愛じゃん。愛でしかありえないじゃん。
「イルーゾォ……!」
感激して、椅子に座っていた彼に思いっきり抱き付く。大きなおっぱいにぎゅうぎゅう抱き寄せると、だから言いたくなかったんだよマジオこの野郎、とくぐもった怒りが飛び出した。たぶん今のイルーゾォの顔は赤い。可愛いなあこの子可愛いなあ。
「マジオじゃねェーっつーの」
ホルマジオの声はイルーゾォには届かなかったようだ。
黒髪の彼はため息をついてされるがまま私に身を任せると、私の気が済むまで撫で繰り回されてくれた。ありがとう。
一通り可愛がって熱くこみあげた想いを消化した私に更なる爆弾を落としたのはやはりこの男、ホルマジオだった。いかつい剃り込みが何より様になる青年はニヤニヤと目を弓なりに細める。
「ダメ押しでリュシアンもオメーに頼んだんだよな。"ポルポセンパイを退学にさせない為に勉強してください"ってよ」
リュシアン君の気持ちを考えるとそんな場合じゃないのは解っているんだけど草が生えた。ヤバイ、弟に"お願いします勉強してください"って言われるイルーゾォヤバイ。その場面を考えて心の中で壁を殴った。見たかった。モールト見たかった。

シリアスをぶっ飛ばしてしまったが、終わり良ければ総て良しということなのだろう。
ホグワーツを卒業してリゾットと結婚することを至上命題に掲げる私である。せっかく婚約者同士なんだから色々なイベントを経験しておきたかったが(例えばリゾットに懸想する女性とリゾットを奪い合ってみたりとか)リゾットの性格上そんなイベントに私を巻き込むはずもなく、結果だけを見れば今年も無事に過ぎて行った。
色々な人のメンタルをぶち壊したアンブリッジも、禁じられた行為の数々を庇いきることの出来なかった魔法省のお役人さんによって冷たい塀の中へ押し込まれた。踏んだり蹴ったりだっただろうけどさすがに自業自得としか言いようがない。
闇の帝王が復活し、魔法界は混乱のさなかにある。ソルベとジェラートは学校を卒業後は死喰い人になると思われているし、ホルマジオたちだって捨て置かれはしない。イルーゾォも今年こんなに優秀な成績を残してしまったから、リュシアン君よりも重宝されるようになるかもしれない。リュシアン君の立場がまた弱くなっちゃうね。もういいよ君たちまとめてみんな私の家に嫁においで。そんなことを言うとまたイルーゾォに呆れられちゃうから言わないけど、スネイプ先生といいリュシアン君といいルシウスさんといい、なんか幸の薄そうな子を放っておけないんだよな。こう言っては失礼だけど、私は捨てられている犬や猫を見ると拾いたくなるタイプ、らしい。フーゴちゃんの時もそうだったもんね。
メローネも稀代の天才だし、ギアッチョも有能な魔法使いだ。トライ・ウィザード・トーナメントで優秀すぎる結果を残したことは記憶に新しい。そんな中で私一人まったくなんの功績も残せていないが大丈夫か。いや、好成績を残して闇に重用されたい願望はないんだけど、ちょっと寂しいよね。私も何かみんなに並び立てる能力があれば面白かったのに。やっぱりおっぱいか?これだけは誰にも負けないぞ。
「来年は女王さんと一緒に学校生活を送れないんだな」
「つまんねえ一年になりそうだよな」
そんなことを言っているが、ソルジェラはお互いがいれば人生楽しそうだぞ。
「なあ、ポルポは将来どんな職業に就きたいんだ?」
「ん?そうだなあ……」
あんまり外に出ないでいい仕事が良いよね。あるいは、外に出てもいいんだけど、痛かったり、すごく疲れたりしないお仕事。慣れた仕事は元締めのものだから参考にはならない。そう言われてみると将来の展望なんて持ってなかったな、大人なのに。大人なのに。
だけど、せっかくだし。
「このまま翻訳の内職を本業にしたいよねえ。せっかくトリリンガルになれたんだし」
日本語とイタリア語と英語だよ。便利だから活用したい。
「お前らしいよ」
「それこそせっかく魔法が使えるんだから、マグルの世界で一儲けしちゃえばいいのになー、ポルポってマジメだよな」
あくどすぎてついていけない。さすが、イイ感じになった女の子との付き合いが面倒になったから魔法薬ですべて忘れさせちゃおっかなーなんてのたまっただけはある。その時はイルーゾォと一緒に全力で止めた。法律違反はまずい。
「でもなんでそんなことが気になるの?」
不思議に思うと、ジェラートは何を当たり前のことを訊くんだろう、という顔をして首を傾げた。
「先に知ってたら、女王さんのことをその職場で待ってられるだろ?」
「その方がぜってー面白えしさ」
なるほどね。頷いて、それから問い返す。
「元々二人はどこに行くつもりだったの、進路的な意味で」
「俺らはまだ"能力"の再現がし切れてねえと思ってっからさ」
「それを研究するつもりだぜ。モラトリアムってやつさ」
「……」
それを研究し終わったらどうするんですかね。魔法界で暗殺チームなんか始めちゃうのかな。最強すぎるね。魔法界ってアバウトだから、パッショーネ仕込みの暗殺術かっこ物理かっことじに加えて魔法力を手に入れた彼らにかなうターゲットなんていないんじゃないかな。
「その時はその時さ。何にしても、ポルポが俺らを率いてくれるんだろ?」
「騎士は女王さんが卒業するまでは刃を研いでおくってことさ」
そうですか。絶好調なようで何よりだ。
「確認するまでもないと思うけど、……闇の方向には興味がないんだね、みんな」
「ポルポがないなら俺らもねえよな、ジェラート」
「だよな、ソルベ」
「あっち面白くなさそうだしさ」
「俺は面倒くせえこたあゴメンだからな」
「俺らも光が当たるシゴトじゃなかったけどよォ、どうにも考え方が合わねえよな」
「選民思想なんざ今の時代古いだろ」
徹底した意識があってわかりやすかった。在り得ないとは思っていたけど、やっぱり死喰い人チームは在り得なかったみたいだ。不死鳥が壊滅しかねないから私的にはセフセフ。アブネー。
目をつけられてはいるだろうけど、どうなんだろう。普通に回避しちゃってそうな気もする。だって彼らだし。私の暗殺チームは最強なんだ。ごめん"私の"とか誇張した。アイドルは誰のモノでもないよね、わかるってばよ。
「ぶっちゃけさ……」
みんなってヴォルデモートのことを殺せると思う?
「殺せるだろ」
あっさり頷いたのはイルーゾォだった。非常にたのもしい。むしろなぜ魔法使いたちがアサシンを放たないのかということを不思議がっている顔だ。あのね、普通の人は君みたいに鏡の中を移動できないんだよ。メローネとプロシュートとリゾットの全面協力のもとでイルーゾォの能力もかなり開発されてきている。イルーゾォがリゾットとプロシュートとメローネに開発されている、と言うと誤解を招きかねないから正確にね。イルーゾォの能力が、かなり開発されてきているんだよ。
「普通の人間なら殺せるよなあ、ソルベ?」
「ただなー、闇の魔術を使ってるかもしれねえだろ?ジェラートの禁術みてえな感じでさ」
「容姿の著しい変貌っていうのが気になるね。ただの死にぞこないが復活しただけじゃあそうはならないし……蛇みたいな姿っていうのはスリザリンと引っ掛けて自分で整形したのかもしれないけど」
自分で整形するヴォルデモート。完全に笑いが堪え切れない。どんだけスリザリンに誇りを持っているんだ。
「興味あんのか、オメー」
ギアッチョは活き活きとし始めたメローネを押しのけてリンゴジュースの瓶を抱え込んだ。そんなことしなくても誰も取らないよと思ったけど、高くなった日差しが窓から直に当たっていて暑いのかもしれない。瓶を抱えて涼むギアッチョがめちゃくちゃかわいいので放置した。未成年は学校の外で魔法を使っちゃいけないもんね、うんうんわかるわかる。我らが暗殺チームのみんなの杖も監視されてるもんね、一応は。魔法が解禁されたソルベとジェラートに"涼ませて"と頼まないところがギアッチョらしくていいと思う。
問いかけられたメローネは目を輝かせて頷いた。もしも俺の予想が当たってるとしたらスゴク興味深い、とその端正な唇が恍惚に歪む。忘れがちだけどこの子、変態なのよね。暑さにもめげず、がっしりとしてきた腕で私を抱き寄せたメローネは、むぎゅむぎゅと頬に頬をこすりつけた。その動き気に入ったの?
「その予想って?」
まさか真実に辿り着いてるんじゃあるまいな、と恐る恐る探りを入れる。遅い声変わりを迎えるメローネだったが、活き活きとした声は昔とちっとも変らない。
「ホークラックスって知ってるかい?人を殺すと人間の魂っていうのは傷ついて裂けるらしいんだけど、その分裂した魂を一つ一つ別の媒体に収めることで本体が死なないようにするっていう禁術があるのさ。人間たる魂を自分から引き裂いて本体から離すわけだから、人間たる魂の欠片を失った使用者が人間らしい姿で居られるわけがないだろ?闇の帝王が人間離れした容姿だっていうのも、一度ポッターに倒されたにも関わらず復活したっていうのも、こういうふうに仮定してみるとドラマチックで面白いなって思ったのさ」
100点満点の答え来ちゃったわ。
しかし満点だよ正解偉いねメローネたんさすがだハスハスペロペロ、なんて言えるはずもない。余りに突飛な予想にげらげらと笑うソルジェラ、呆れ果てるギアッチョ、感心するホルマジオ、未知の禁術を知るメローネにドン引きするイルーゾォをぐるりと見回した私は当たり障りのない正直な感想を言うことにした。君の考察がちょっと怖いよ。正解的な意味で。
「だけどもしそうだとしたらさあ、オッサンがどこのナニに魂を移してるかっつうのを調べねえと殺せねえんだろ?面倒くせえな」
「あぁ、面倒だぜ。だからこそやりがいがあるのさ」
「変態の考えることは解んねぇな」
ヴォルデモートを変態扱いしたギアッチョの発言に笑いかけて死ぬかと思った。水を飲んでいる時にそういうことを言うのはやめて欲しい。噎せないように非常な努力が必要だった。
「もし一つでも残ってたら死なねェ……んだよな?」
「そうだね」
ホルマジオは顎に手を寄せた。とてもよく似合う仕草だ。17歳の身体を持つ男は有り余る男性ホルモンの影響をこの中のだれよりも受けている気がする。メローネも結構ガタイのいいタイプだけどホルマジオには敵わない。こいつ男らしすぎる。頼りがいってレベルじゃねーぞ。あ、一番男性ホルモンを発しているのはたぶんプロシュートね。あれはもう胸元からむんむん出ていると思う。ニャンコが続出である。ホルマジオのものとは種類が違う気がする。
「……面倒だよなァ、このまま生かしておくのもよォ?」
「確かにな」
素早く同意したのは意外なことにギアッチョだった。リトル・ハングルトンで殺されかけたことを根に持っているのかもしれない。
「メローネの予想はあんまし外れねェしオモシレーからオメーの言う通りだと考えるとするが、分霊箱っつーのは普通に踏み砕けば壊れるモンか?」
「最大幾つまで分割出来んだよ?」
「破壊することによって破壊者に影響は?」
「ちょ、ちょい待って、なんでそれを知りたいの?」
突っ込んだ質問が立て続けになされたので、思わずポルポストップ。ホルマジオもイルーゾォもギアッチョもソルジェラもメローネも、私を見てきょとんと可愛らしく目を瞬かせた。なんでって、面倒だからさっさと壊しちまってジユーになりてえからだけど。頭を抱えた。こんな現実ってひどすぎるよ。誰かイルーゾォ呼んで。あっダメだイルーゾォはここで助けにならないことを言ってるんだった。メローネはメローネで「さすがに踏み砕くくらいじゃ壊れないんじゃないか」とか「最大数は知らないけど分母がデカくなるほど一個の力は弱くなるだろうね」とか「破壊者の資料がなかったからわかんないけど、俺たちが隠すとしたら呪いの一つや二つは掛けるだろ?発想は同じさ」とかさくさく答えて行ってしまっているし、嫌な流れに冷汗が背中に流れそうだ。こんなところで涼みたかったわけじゃないのにラフメイカー冗談じゃない。
「それ、何か特徴はねえの?探すにしても放置するにしても見分けがつかなきゃ不便だぜ」
イルーゾォは腕を組んだ。特徴かあ、と唇に人差し指を当てたメローネは、その変態性とは真逆に透き通った空色の瞳を私に向ける。何か思いつくかい?と言われて思わず鎌をかけられているのかと脳内で壁を殴ったがそんなことはなかったようで、さてねえ、と解らないふりをしても何も起こらなかった。
「でもさ」
"なぜか"困っている(いやむしろ、自分から困りに行っている)彼らを見かねて少しだけ口をはさむ。本当にどうしてこうなった。
「彼にとってそれって大切なものなんでしょう?魂の定着ってやっぱり自分にゆかりのある物を選びがちだし、定着させた後は厳重に守りたいと思うんじゃないかな。彼や彼の部下が守っていて、呪いがかかっていて、近づこうとする人を寄せ付けないものがあったらきっとそれが怪しいんじゃない、かな?」
ギアッチョは、そりゃあそうだろうな、と呟いてリンゴジュースを口にした。私も当たり前のことを言った自覚はあるよ、許してよ。凡人だから原作知識を振りかざすしかないのさ。ていうか私が口をはさんだ理由は、"つまりすげえ探しづらいから諦めて"っていうことだったんだけど伝わってるかな?伝わってくれてる?オブラートに包んで確認をとると、ソルベとジェラートは気障な笑みを浮かべた。
「パズルは難しければ難しいほど燃えるのさ」
全然伝わってなかった。頼むリゾット早く来てくれ。抑止の輪より来たれ常識の守り手よ。
脳内でゆっくりと召喚の呪文を唱えること五回。
ようやく仕事を終えて暖炉からやって来たリゾットが別段抑止力にならないということを知ったのは、疲れを癒すため彼に抱き付いてぐったりと身を預けた頃だった。ヴォルデモートの生命に関する予想を聞いたリゾットは、いつもと変わらない口調で言ったのだ。
「それについては調べたことがある。強力な魔法具か、創世歴時代からあるようなスペルを使えば壊せるだろうな」
お前もかブルータス。止めてやれよ部下を。
危険なことには巻き込まれて欲しくないという私の願いはむなしく、彼らは自分から物語の渦中に首を突っ込み始めてしまったのだった。

え?ああ、"シリー"の飼い主の話?そういえば言及していなかったっけ。
ペッシたんに訊いたところ、"シリウス・ブラック"が"シリー"の飼い主だって説明してくれたよ。とっても苦しい説明だったけど、ペッシたんが可愛かったからすべて許した。そうなんだ飼い主の元へ戻れてよかったねペッシたんには残念だったかもしれないけど、と真心を込めて労わると、ペッシたんはホッと息を吐いて微笑んでいた。その微笑みを思い浮かべて、心の慰めとすることにする。
リゾットの香りを深く深く吸い込んで、ふはあああと息を吐いた私は、リゾットに抱き付いた体勢のまま目を閉じた。もうどうにでもなあれ。