さあ、DAタイムだ
ドラコ君とパンジーと、それからいつものメンバーでご飯を食べていたら、ハリー君がスリザリンテーブルにやって来た。君って勇気あるよね。
「ポルポ、食べ終わったらちょっと付き合ってほしいんだ」
「いいよ。ついでに君も食べてく?」
「えっ、いや……それは……いいよ……」
ですよねー、知ってた。
またねと言い交わして首をかしげる。私、何かしたっけな。スリザリンテーブルにやって来てまであんな風に呼ばれるなんて初めてのことじゃないか?ギアッチョでもメローネでもドラコ君でもなく私を指名するところに裏を感じる。メローネたちのことはちらりと見ていたから、もしかして彼らなら連れて行ってもオッケーなのかもしれないが、表向きに呼ばれたのは私だけなので今回は話を聞いて来ることにしよう。
ポテトを食べるリュシアン少年のコップにミルクを注いでみると、リュシアン君はありがとうございます、と小さい声で言ってからそれをちまちまと飲み始めた。
「つうか、なんでお前がそいつと一緒に飯食ってんのかわかんねえんだけど」
「私もよくわかんない」
一度だけのつもりだったんだけど、リュシアン君が私にぴったりくっついて離れなくなってしまったのだ。食事の時や談話室にいる時しか一緒に過ごすことはないけれど、その間は私の背中に隠れるようにして距離を取りながら、みんなとの会話に加わろうと必死になっている。私が言ったのってそういう意味じゃあなかった、いや、それでいいのか……?世界が広がるという意味では正しいかもしれないけど、そういうことじゃないような気が……。
レスティン家はよくわからない。
「ぼく、僕は、ポルポ先輩に見ていてもらいたいんです……」
「あんたの人選は間違ってるわよ」
「ポルポにかい……!?」
「オメー、こいつにナニ吹き込んだんだよ?どう見ても親鳥にくっつくヒナじゃねェか」
私もよくわからないんだってば。訊きたいのはこっちの方だ。確かに"見ている人は必ずいるよ"とは言ったし、様子を気に掛けるつもりでもあったけど、ここまでぴったり密着取材をするなんて言ってない。リュシアン・レスティン24時。いやいやいや、13歳の少年に慕われることに何も感じていないわけじゃないが(具体的に言うと萌えとか)なんていうか、何度も言うけどそういう意味じゃなかった。今では言葉を間違えたなと実感している。
ここで突き放すわけにはいかないことはみんなにも説明したから、彼らも理解してはいるのだろう。でも呆れたくなるのは仕方ないよな。私にはどうにもできないよ。そしてパンジーの言葉とドラコ君の驚愕が突き刺さる。人選間違えてるっていうのは私が一番言いたいよ。もっといい指導者がいるはずだよね。
「でも、ポルポ先輩がいいんです」
ヴァン師匠がいいんだよお、と脳内で某ファブレの青年が叫んだ気がしたのですべてを許容した。
「お前がいいならいいけど。……なんか丸くなったな、お前」
「オメーのせいじゃねェの?」
意外そうに目を瞬かせたイルーゾォに冷静なツッコミを入れたのは相棒ホルマジオだった。私も言おうか迷ったけどホルマジオの方が一足早かった。
「俺かよ?えげつねえのはソルベとジェラートだろ」
「俺らは見てただけだぜ」
「そうそう、あれはイルーゾォちゃんのせい。弟君がカワイソウだったぜ」
まったく可哀想とは思っていなさそうな態度だった。ギャングジョークについていけないリュシアン君が俯いてしまう。
やっぱり私が何かを言うより先に、パンジーがその背中をばしんと叩いた。
「シャキッとしなさい、スリザリンの格が落ちるでしょ」
「は、はい!」
叱られたリュシアン君は背筋を伸ばして私を見た。うん、みんな私のこと見て来るけど何か言ってもらえないとアイコンタクトとかできないんだよ。長い付き合いのみんなからは生ぬるい感情しか読み取れないし、共同生活をしていたリゾットですら集中してないとわかんないし、ペッシちゃんくらいだよ、目が雄弁なのは。
だけどこういう時は黙って首肯するに限る。ニコリと微笑んでみると、リュシアン君もホッとしたように微笑んだ。そんなに私の様子を窺わなくても、見捨てたりしないんだけどなあ。その辺りは慣れないと仕方ないかあ。
くい、とメローネに袖を引かれたので振り返る。メローネは15歳とは思えない嫣然とした笑みを浮かべ、綺麗な唇から愛を囁いた。
「そのガキよりずっと、俺の方がポルポのことを好きだぜ」
知ってる、と声は出さずに答えようとすると、リュシアン君ががたんと立ち上がった。なんだなんだと注目されても気にせず、少年はまろい頬を真っ赤してメローネに叫んだ。
「勝手に決めないでください、僕だってポルポ先輩のことがすごく好きです!」
「年季が違うって言ってるんだぜ、レスティン。俺はポルポとずーっと一緒にいた。あんたは違う。俺はポルポの下着の色を知ってるけどあんたは知らない。そういうことさ。ちなみに今日はレモンイエロー」
うわすごい正解。
「いやその理屈はおかしいぞミスターアトマ!?ポルポも普通に答えるな!」
「誰かこの変態をスリザリンからつまみ出して!」
「こいつの下着なんか興味ねえよ!!」
「ポルポ先輩になんてことを言うんですか!」
「ぎゃっはっはっは!メローネマジウケる!」
「ぶひゃははもうだめもう、女王さん黄色なの、似合う、すげえ似合うと思うぜ女王さん」
みんな言ってることがバラバラすぎて聖徳太子もびっくりだよ。
もちろん私は聖徳太子じゃないので、全力で暴露されたブラの色のことなどサンドイッチに挟んで胃袋へ。もう勝手にやっててくれ。どうにでもなあれ。
ハーマイオニーちゃんに渡された硬貨を手のひらの上で転がして陽に透かす。ハリポタのファンなら誰しもが手にしたいと思うだろうアイテムだったが、残念なことに私はノーセンキューAA略。実際にこの世界を現実として生きているとこんな危険なことには勧誘禁止だぜと思ってしまう私は悪い子。オーブンに指を挟んで自分をお仕置きしないとハリポタファンに殺されてしまうような思考だ。それなんてドビー?
「あなたは去年、とんでもない目に遭ったんだから。自分の身を守らなくちゃ」
そう言ったハーマイオニーちゃんによりダンブルドア軍団と名付けられた集会に引っ張り込まれたわけだが、そのままなんやかんやあってメンバーに入れられてしまった。どういうこと?本当に何が起きたかわからなかったし超スピードとか催眠術とかそんなチャチな問題じゃなかった。もっと恐ろしい集団の押しの強さというものを味わったぜ。
「本当はプロシュート先生に顧問になって欲しかったんだ」
そう語ったのはハリー君だった。
「だけど、免職されたプロシュート先生が生徒と頻繁に会っていたら不審に思われるだろうって先生自身に言われて目が覚めた。僕たちの活動は秘密裏に行わないといけないのに、現職の―――解雇されたけれど、僕たちの中ではまだプロシュート先生はプロシュート先生なんだ。その先生を巻き込むわけにはいかない」
杖を構える青少年たちに指導をしながら、彼はよどみなくこれまでの経緯を説明してくれた。ヴォルデモートに対抗する力を手に入れる必要があること。今のDADAやアンブリッジは頼りにならないこと。誰もやらないのなら自分たちが立ち上がるしかないということ。
集まったメンバーの中にはハリー君たちをはじめとして、ネビル君、ジニーちゃん、フレジョ、なんかクィディッチで見かける人、チョウちゃん、それからセドリック君など様々な寮の生徒がいた。そこにスリザリン生の姿はない。私は完全に浮いていた。二人組を作る時にあぶれることにだけはなりたくないものだと余計なことを考えていたら、当たり前のようにスリザリン生を含めることに対しての批判が飛び交い、あわや力づくで追い出されそうになったがそれについては抗議したい。私は連れて来られただけで自分から参加したいなんて言ってないぞ若人よ。だから忘却術とかそういう剣呑な手段に訴えるのはやめよう。
彼らを押しとどめたのは、ハリー君たちだけではなかった。
「僕はポルポが参加することに賛成する。ポルポは去年例のあの人に傷つけられたし、スリザリンだけど、スリザリンっぽくなくて、僕と毎年魔法薬学でペアを組んでくれていることは知ってると思う。ポルポは誰かに言いふらしたりするような人じゃないよ」
ネビル君は意外なほど力強く私の肩を支えてくれた。
「わたしも賛成するわ。ポルポは悪い人なんかじゃない。わたしのことをいつだって助けてくれたし、励ましてくれた。スリザリンに組み分けされても、その心は卑怯なんかじゃない」
ジニーちゃんはみんなに伝わるように大きな声を出して私を擁護した。大きくなったねと場違いにも感動してしまう。
「少ししか話したことはないけど、ポルポは悪い子じゃないってすぐに解ったよ。チョウのことも助けてくれていたしね」
「そうよ、彼女は私のことを助けてくれた。ついこの間まで忘れていたみたいだけど、それってつまり彼女にとって人助けは特別意識して行うことじゃないっていう証明じゃない?そんな人が"仲間"の不利益になることをするはずがないわ」
セドリック君とチョウちゃんもしっかりと頷いて私の参加を支持する。
「考えてもみろよ、ポルポちゃんは"あの"変人の女王なんだぜ?」
「こんな面白そうなことを無粋にばらしたりしないさ」
「じゃなきゃプロシュートが大切に思ったりするはずない」
「みんなおつむが固いのさ、ジョージ」
仕上げにフレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリーの軽妙な会話がなされ、場の空気は完全に支配された。
スリザリンから毛嫌いされているような人たちがこんなにも言うのだから、ポルポという人物はそう悪いやつじゃないのだろう。そんな雰囲気が醸されたので、私は慌てて否定した。
「いやいや、私はそんなにいい人じゃないよ」
みんなちょろすぎだって!とは思ったけど言わなかった。それはさすがにひどいだろう。
私が差し挟んだ正直な否定の言葉は謙遜と見做されたようだった。泥沼だ。もがけばもがくほど沈んでいき、底に足はつかず集団の中にうずもれてしまう。こんなのって困るよ、私は魔法を使うと激しくエネルギーが消費されてお腹がめちゃくちゃ空いちゃうし、何より面倒じゃん。疲れることと痛いことと面倒なことは嫌いなんだけどなんかその内二つはすでに満たされている。若い子のエネルギーについていけない。誰か私をリレミトさせて。
「みんな、あなたが参加することを望んでるわ」
ダメ押しはハーマイオニーちゃんのこの言葉だった。有無を言わさず、手に何かを握りこまされる。そっと開いて見てみると、そこには魔法のかけられた偽造硬貨があった。うわあ。
もうこうなってしまってはどうしようもない。ジャパニーズソウルは押しに弱いのだ。英米の押し強すぎ。ジェントルに来てくれよ。
「メローネとかがいると、指導役が増えていいんじゃないかな……」
褒められることの多いまなこでざっと人数を数えたところ、すでに偶数が揃っている。私が加わると奇数になる。最悪だ。
ぼっちを防ぐためにとんでもない変態の名前を挙げると、彼の『稀代の天才』たる実力を知る面々は一様に頷いた。それもいいかもしれない、誘うのはポルポにお願いしてもいいかな。そう言われてしまって思わずアルカイックスマイル。そうだね、この世には言い出しっぺの法則というものがあるね。
メローネは目を丸くした後に、あんたがそういうのに参加するなんて意外だね、と嘘偽りのない感想を述べた。だよね、私自身そう思うよ。成り行きというか断り切れなかったというか敵認定されるのが面倒だったというか。
そんな金髪の青年はすらりと成長した身体とますます磨きのかかった妖艶な美貌を武器に女子をメロメロにしつつ、無駄に至近距離で杖の振り方を教える役目を果たしていたりする。頬を染めて恥じらう少女に愉悦しているのかしら。確かにメローネの性別を感じさせない表情からはまったく意識出来ない力強い手に杖の握り方を直され後ろから抱かれるように手首の動かし方を指南されている女子は傍から見ているととても可愛らしい。私だって眼福だ。しかしなぜだろうね、メローネの楽しみ方は私のものと似て非なる気がして仕方がない。
ハリー君のエクスペリアームスは冴え渡っている。必要の部屋のあちらこちらには武器を弾き飛ばされ用済みとなった人型の的が転がり、ハーマイオニーちゃんがそれに活力を戻して生徒たちの方へ向かわせる。そんなハーマイオニーちゃんも時々ストレスを発散するように強烈なボンバーダを放って的を粉々にしていた。
「ポルポ、演習をしようよ」
持ちかけて来たのはセドリック君だった。チョウちゃんはハリー君直々にエクスペリアームスの練習をつけてもらっているようで、手持無沙汰なのかもしれない。暇そうにしていた私を哀れんでくれたのではないと思いたい。君の気遣いに多謝。ありがとね、おねえさん心の中で泣いてるよ。
向かい合って杖を構えてから、そういえば私ってまともに呪文を唱えたことがないなあと気づいた。こっそり練習しているのは熱冷ましの魔法だったり消失呪文と出現呪文だったりと日常で便利に使える魔法ばかりだから、攻撃には慣れていない。呪文を食らって痛い思いをするのは嫌なので、私になりに本気を出そうと心に決める。なんだかメローネがはらはらと私を見守ってくれている気がするけど気のせいかな?
セドリック君は女の子である私に気を遣い、痛みのない魔法を使ってくれたようだった。
「リクタスセンプラ!」
ざっと教科書と原作を読んだ記憶が蘇って顔色が蒼白になる。これってくすぐりの呪文じゃなかったっけ。
死ぬわ。
魔法でくすぐられたら笑い死にするどころじゃない。くすぐったいのは駄目なんです。慌ててプロテゴで防いでパッと思いついた魔法を使う。シレンシオー!ただし魔法は尻から出る。出ないけど。
セドリック君はぱしんと口を押さえて苦笑した。杖を下ろしてこくこくと数回首を動かしたので、フィニートを唱えて状態異常沈黙を解除する。まだ心臓がバクバク言ってる。死ぬ。ほんと危なかった。これから数回集まって顔を合わせる生徒の前で笑い転げることにならなくて本当に良かった。私のなけなしの外面というものが崩れてしまう。
「付き合ってくれてありがとう、ポルポ」
「こちらこそ」
軽く握手をして、笑い合う。はははこやつめ、やってくれよるわ。
私がくすぐりに弱いと知っているメローネは、安心したような残念なような、心情の絡まりあった顔をしていた。私が勝利したことに素直な喜びを見せてほしいものだね。沈黙呪文は結構ズルい手だったとは思うけどさ。無言呪文も使えない学生なんて黙らせてしまえばちょちょいのちょいだ。文字通り口封じってやつ。ギャングだったのでマジモンの口封じもいくつか見て来たし指示したことがあるが、魔法みたいに便利なものが使えればもっと楽に済んだこともあったろうに。
魔法を二つも使ったのでとてもお腹が空いた。
私が杖をあんまり振らない理由にはこのこともある。元々燃費が悪いのに加えてこんなふうにエネルギーを消費してしまうと、ガチで生活に回す体力がなくなるっちゅうわけや工藤。舐めていた飴ちゃんはなくなりかけていたのでチョコレートを取り出す。
チョコレートの糖分が回るまでの間、練習の休憩をしているルーナ・ラブグッドちゃんとお話をすることにした。だんだんと自分の身体が暖かくなっていくのを感じる。チョコレートとは偉大だ。
「もうお腹空いてない?」
「うん!大丈夫、ありがとねルーナちゃん」
「うぅん、あたしは話してただけだもん。ねえ、セストラルってすごく可愛いと思わない?」
「私はあんまり好みじゃないかな。馬は好きだけど」
「ふうん、そっか。何色の馬?」
格好良ければなんでもいいよと言うと、ルーナちゃんは夢見がちな声音を楽しそうに踊らせた。
「じゃあ今度、イーソナンとグレニアンの写真を見せてあげる。パパの本に写真が載ってるの」
「おお、ありがとう。魔法生物はロマンだよねえ」
「うん」
調子に乗ってもぐもぐとチョコレートを食べ、のんびりとみんなの訓練を観察する。そんな気楽な時間を送っていた私は、惰性で食べ続けたチョコレートの満腹感が副次的に何をもたらすのかということを意識の外に置いていた。
理解したのは夕食の席だった。
まだお腹が空いていなかったのでオレンジジュースだけを飲んでいた私は、周囲に座るパンジーたち九人以下スリザリンテーブルすべてに揺れるような衝撃を与えた、らしい。
「あのポルポが……食事を摂らない……!?」
ドラコ君の貼りついた恐怖の表情にちょっと引いた。ごめん。
しかしイルーゾォは立ち上がりホルマジオは身を乗り出しメローネは泣きそうな表情で私の素肌にペタペタと触れ熱を計り始めギアッチョは目を見開いて硬直しソルベとジェラートは顔を見合わせパンジーは緊張したように胸を抑えリュシアン少年はおろおろと私のローブに縋りついてくる。スリザリンテーブルのざわめきは他寮のテーブルにも伝播し、グリフィンドールのテーブルから数人の驚く声が聞こえた。ねえ、私がご飯食べないってそんなにおかしいことかな!?
おかしいことだな、と思い直した。あんなにご飯ご飯言ってたもんね。
私は静かにゲンドウポーズをとった。周りに及ぼす影響を考えることにしよう。
局地的に大騒動となった夕食事件から時間は経ち、プロシュート、トレローニー先生だけでは収まらずダンブルドアまでが免職の憂き目に遭ったと知ったスリザリン寮談話室はまた別の話題で賑わっていた。ダンブルドアの進退など今の彼らのはどうでも良く、この喧騒はひとえにアンブリッジ高等尋問官兼学校長から令された"男女は20cm以内に近寄るべからず"という悪法のためだ。
「絶対やだ!」
メローネは食べてしまいたくなるような可愛らしい表情で唇をとがらせ頬を膨らませ、私の腕にぎゅうときつく抱き付いてくる。20cmくらいいいじゃん足一つ分より少ないよ、と慰めてみたものの、いつもドラコ君にひっついているパンジーでさえ高等尋問官親衛隊に選ばれたにも拘らず憤慨して、誰の目も届かない寮の中でだけはいつも以上にドラコ君への執着を見せていた。
「じゃあさあ、女王さん。メローネを"変装"させちまえばいいんじゃねえ?」
女子に、ってことかい。
そうだぜと躊躇なく肯定された。ホルマジオが正論を口にしたがスルーされ、いやあんたらスルーしてんじゃねえよ!と相棒であるところのイルーゾォが後を引き継いだ。こちらに対してはジェラートが反応して笑い転げた。そんな必死にならなくたって俺らも無理強いはしねえよ、と杖を玩びながら言う。
「俺らも今年で卒業だし?センパイとして手向けにナニかしてやりたいってワケ」
「可愛い後輩君にさ。解るだろ、イルーゾォちゃん?」
そうそう、7年制のこの学校で最上級生に進級しているソルベとジェラートは、今年の夏に学校を卒業するのだ。このトリックスターたちが学校という檻から広い世界に解き放たれるかと思うとゾクゾクする。寒気で。
「でも俺、マスクしてるからバレちゃうぜ」
「取ればいいだろ!?」
「ポルポがおねだりしてくれないと取らねえもん」
「意味がわかんねぇええメローネきめえええ」
ギアッチョの吐きそうな顔が今日も可愛い。ちなみにおねだりする気はないです。足一つ分未満なんだからいいじゃん。ただ並んで歩いていれば問題ない距離だよ。
むしろ悩んでいたのはパンジーだった。あたしもソルベ先輩にお願いしたらいいのかしら、と不穏なことを呟いていたのが聞こえたが、ドラコ君にこれ以上びぃえる疑惑をかけないほうがいいと思うよ。原因は私だというのは無視。都合の悪いことからは積極的に目を逸らして以下略。
0.5
さてさて、O.W.L試験も近づく初夏。スリザリンの一部生徒を除外すると、学校中がアンブリッジに辟易していた。一部生徒というのはドラコ君やクラッブ、ゴイルなど、高等尋問官親衛隊に志願した生徒たちのことだ。パンジーもドラコ君と同じように志願し隊員となっていたが、彼女は男女20cm令状に内心でひどく反対しているのでアンチアンブリッジ派に分類することにしている。
そんな季節に私がナニをするかといえば、フラグ立てだ。万が一にでも原作のイベントが狂ってしまっては大変なので、不安定な要素は取り除いておきたい。
手紙を使ってフレッドとジョージを学校の隅に呼び出した私は、彼らに一つの計画を持ち掛けた。
「ソルベとジェラートに聞いたんだけど、君たちって学校を抜け出すつもりでいるんだよね?その前にアンブリッジの鼻っ面をへし折ってやりたい、とか思わない?」
「……こいつは驚きだ。確かに思ってたけど」
「ポルポちゃんからそんな言葉が出るなんて予想してなかったぜ」
私だって普通ならこんなことは言わないさ。
ウィーズリー・ウィザード・ウィーズの規制は非常に厳しい。アンブリッジはWWW製品を見つけ次第燃え滓に変えているし、所持している生徒には厳しい処罰を与えている。フレジョの収入は激減だ。もしこのまま、ハリポタ五大イベントには数えられるあの盛大な二人の門出が資金不足で行われない、などということになれば大変だ。フリットウィック先生のガッツポーズも拝めないしアンブリッジの度肝も抜けないしフレジョも良い最後を締めくくれないだろう。
そんなお節介から、私は提案をする。
「私がお金を出すから、盛大に、パーッと、テストをぶち壊すような勢いで悪戯を仕掛けられないかな?」
「……こいつも驚き」
「ポルポちゃんって意外と過激だな!好きだぜそういうの」
「ちなみにギリギリ頑張っていくらくらいなら出してくれる?」
預金額の半分の数字を伝えると、二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
「よーし、じゃあそれを空っぽにするくらいにやってやろう」
「契約成立だ。俺たちが今までの誰よりインパクトのある脱出劇を見せてやるよ!」
フレジョの気合を前に、私は内心で拳を握りしめた。よし、フラグ立てた。