ハーマイオニーの手紙


 ハリーへ。
 ねえハリー、私すごいものを見ちゃったわ。ポルポのことなんだけどね。
 夏休みの間、私はポルポと『シャーロック・ホームズ』のシリーズについて手紙や電話で議論を交わしていたの。現代でトリックが使えるかとか、ワトソンの考え方はどうだったとか、ホームズの真実の探求への好奇心に似たものを感じたことがあるかとか、とても有意義な時間だったわ。
 それに触発されてなんとなくベイカー街に行ってみたくなったから(前にも行ったことはあるんだけれどね)、夏休みの間に観光しておこうと思って出かけたの。つい先週のことよ。そこで何を見たと思う?
 ベイカーストリートには偶然にもポルポがいて、私と同じようにベーカー街221Bの前で警官と一緒に写真を撮っていたわ。それだけなら私もポルポに声をかけて一緒に観光しないかって持ち掛けるんだけど、なんと、ポルポの隣にはネエロ先生がいたのよ!
 私服だったけれど、遠目からでも二人だって解ったわ。
 思わず隠れちゃったけど、ネエロ先生にすぐ気づかれちゃった。彼に続いてポルポも私に気づいたからこそこそしているのも恥ずかしくなって合流したの。
 二人はベイカー街にデートに来たんだって言ってたわ。彼女も私と同じでホームズの話からベイカー街に興味を持ったんですって。ついでに銀行で通帳記入をするんだなんて言っていたからどういうことか訊いてみたら、彼女ってマイナーな日本の文学作品ををイタリア語に翻訳する内職をやってるんですって。どうしてイタリア語なのか不思議だったけど、彼女の生家はイタリアの血が入っているから言葉にも堪能なのかもしれないわ。どれくらいの収入があるのか(恥ずかしいけど)興味を持っていたら、無造作に通帳を渡されてびっくりしちゃった。普通そういうのって隠すんじゃないかしら。
 あんまり詳しくは書かないけど、通帳の名義はネエロ先生で(ポルポは文学作品の良さを知らしめたいだけで、お金にはこだわってないみたいだったわ。でもネエロ先生のことだから、そのお金は全部ポルポに渡すつもりだと思う)、その……、ニンバス2001が10本は余裕で買えそうだったわ。ポルポはどこを目指しているのかしら。
 私はそのまま別れるつもりだったんだけど(人の恋路を邪魔したら馬に蹴られるでしょ?)ポルポが「さみしいよー」なんて冗談を言って抱き付いて来た時にとんでもないことに気づいて、不覚にも一瞬動けなくなったわ。
 驚かないでねハリー。
 ポルポとネエロ先生からは同じ香りがしたの。
 ネエロ先生の香りをどうして感じたかっていうと、それは偶然だったんだけど……
 私がポルポたちに気づかれて接触することになった時、ポルポよりもネエロ先生が私に近い方向にいたから、ポルポのところに駆け寄るとネエロ先生の横をすり抜ける形になったのよ。そこで微かにいい香りを感じて、ネエロ先生もそういうオシャレをするのねって意外に思って記憶していたんだけれど、まさかポルポと香りを合わせているとは思わなかったわ。
 ううん、もしかするとポルポがネエロ先生に香りを合わせたのかもしれないわね。
 学校ではこういうことができないから、デートの時にだけでもお互いの香りを同じにしてつながりを深めたい……ってことかしら。あなたはどう思う?
 結局そのあとは手を振って別れたわ。ポルポは何度も名残惜しそうに振り返ってくれたけど、ネエロ先生は相変わらずクールでつい笑っちゃった。
 私、ネエロ先生とポルポのことを少し心配していたの。名目上の婚約者だっていうし、ネエロ先生は学校ではあんなに寡黙で、ちょっと冷酷に見えるでしょう?スネイプ先生と同じような扱いをして嫌な目で見る人もいるから、ポルポはそういう偏見を持たないって知っているけど、プライベートでぎすぎすしていたら可哀想だなって思っていて……だけど、そういうのは全部杞憂だったわ。ネエロ先生はポルポのことをどうやらすごく好きみたい。
 だってあのネエロ先生が、私を振り返るポルポの手を取って、自分から手を繋いでいたんだもの。
 なんだかそういうのってとても素敵だわ。
 それじゃあ、また学校で。
 親愛を込めて、ハーマイオニーより。