シビル・トレローニーは未来の夢を見るか?
夏の湿った雨が窓をかすめて落ちてゆく日のことだった。
シビル・トレローニ―は深い眠りとうつつの狭間を彷徨い、知らず天井に手を伸ばす。
彼女の瞼に覆われた目にはリトル・ハングルトンの不気味な墓地が映り、身を抱くように少年を拘束する死神に似た石像は鎌を携え今にも命を刈り取らんと村を睥睨しているようだった。
周囲には黒いローブを纏い、銀の仮面で正体を隠した魔法使い達が並ぶ。
捕えられた少年は男達に何事かを叫ぶ。その声は水の中にいるように不明瞭で、シビル・トレローニーは聞き取ることが出来なかった。
少年が必死に手を伸ばす先には少女が居た。濃い金髪を胸の前に滑らせ、頭は力なく俯いている。ふらりとよろめきながら前に進む姿は、まぎれもなく魔法によって操られた者の其れだった。
抵抗力のない少女は小男の杖に操られるまま、だらりと垂れ下げていた腕を持ち上げる。左手にはナイフが握られ、掲げられた右腕を深く深く切り裂いた。
夜のリトル・ハングルトンに血の花が咲き、少年が彼女の名を呼ぶ。周囲から漏れ出でる嗤い声の中に、一人きつく拳を握る影がある。其のブロンドの髪をローブに隠す男は少女の姿から目を背けた。
「ワームテール……、此れの姿を手ひどく痛めつけておくといい……。そうすればリゾット・ネエロは我らに従わざるを得なくなるだろう……」
少女の身柄を盾に取る卑怯な方法を選び取った男は、冷えた指先で少年に触れた。長い爪を首の肌に食い込ませ、薄い唇の間を切り裂いたが如き笑みを浮かべて見せる。いたぶるように魔法を弄べば、少年は憎々しげに男を睨みつけた。
小男は震える手でさらに杖を振った。杖先が少女を支配し、彼女の手が再び動かんとした、まさに其の時だった。
赤い閃光が小男の小脇をすり抜け、少女の手から刃物を弾き飛ばす。
全員が振り返り、視線の先には倒れ伏していたはずの少年の姿があった。
怒りをあらわに杖を構えた彼が攻撃をされるよりも早く、ハリー・ポッターは駆け出していた。本人ですら、自分に其れ程の力があるとは知らなかったが、血をしたたらせる少女にぶつかるようにして肩に背負う。視界の端にちらついた赤色の閃光を転げながら避け、地に落ちたままの杯を呼び寄せる。
ハリー・ポッターは土に汚れた少年と手をつなぎ、舌打ちを押し隠した彼はハリー・ポッターに代わって、しっかと少女の身体を抱え込んだ。その腕の力は、本人すらも気づかないほどに強いものだった。
眠るシビル・トレローニ―を激しい眩暈が襲う。
彼女は吐き気を堪えながら目を覚ました。
「あら……、あたくし……」
つい先ほどまで、何か重要な夢を見ていた気がする。
しかし思い出そうとしても思い出せない。夢の欠片はシビル・トレローニーの指の間からするりと抜け出し掻き消えてしまった。
占い師にはよくあることだ。
シビル・トレローニーはベッドサイドの眼鏡を掛け、霧雨の濃い夏の朝に起き出した。