ハロードリンク


目が覚めたら、私は知らない部屋に寝転んでいた。
「……アレ……?」
いや、知らない部屋じゃなかった。懐かしい匂いのする、知っている部屋だ。
本棚はいくつもあり、そこには日本の文学作品だったり、日本の文学作品だったり、日本の文化について研究された資料だったり、日本独特の薄い本だったり、ジャパニーズコミックスだったりゲームの攻略本だったりがぎっしりと並んでいる。ラックにはゲームソフトが詰まって、一番最近に取り出したのだろうパッケージは、几帳面じゃない私の性格らしく、ちょっとだけ角が飛び出ていた。
ここは私の部屋だった。
私のものと言ってしまうのはもうおかしいかもしれない。私が『ポルポ』になる前、××という名前で生きていた頃のことだ。おかしいな、なんでこの部屋に。
手を見る。子供の、白人の手だ。足も棒切れのように細いし、胸はちょっと年頃にしては大きいくらい。頬にかかる髪はくすんだ金髪だし、ていうか気づかなかったけど『私』は畳の上のせんべい布団ですやすや眠っている。えええ?
思い当るのに時間はかからなかった。そういえば、いつだったか、こんなことがあった気がする。私がジョジョの世界で自分が『ポルポ』だと自覚した時から見た夢。夢の中で私は元の家に戻り、物に自由に触れることが出来た。誰にも知覚されない寂しい夢だったけど私にはジャッポーネカルチャーというお友達がいたから何も思わなかったよ。
本を引き出すと、眼鏡のガキンチョが表紙で独特の笑みを浮かべるコミックスはたやすく手に収まった。開けるし読める。読める……読めるぞ!心の中のムスカ大佐が大暴れ。まだジョジョの世界でもハリポタの世界でも発売されていない巻をむさぼるように読んでからハッとした。こんなことしてる場合じゃないんだよ。
鏡越しだったから死んではいないと思う。精々が石化だろう。まったく、ヒロインをかばって石化してしまうヒロインの友人だなんて意味が解らない位置にポジってしまうことになった。そういうのはロンとかの役目だろ。ヒロインはロン。ヒーローはハーマイオニー。うん?なんかおかしい?おかしくないおかしくない。
石化しているだけだとしたら、きっとハリーたちが事件を解決してくれて、マンドラゴラをとろ火で煮込む作業もつつがなく終えて、しばらく待っていれば現世に戻れるはずだ。完全にここをあの世扱いしているけどまあいいよね、未知の現象という点では変わらないし。
さて、そうするとどうなるのかな。何日くらいの猶予があるんだろう。あんまり長引くとリゾットが単身で秘密の部屋を探り当ててバジリスクの頭をバジリスクのケツから突っ込む、みたいなストレス解消を思いついてしまうかもしれない怖い。私はリゾットを何だと思ってるんだ。そんな下品なことしませんよね、わかります。私もしません。誰ならやりそうかしら。ソルベとジェラート?狂気じみたことは彼らに任せておけばいい気がする。イルーゾォもちょっとやりそうなにおいがするよね。私だけがエイトセンシズで感じているのかな。
戻れない可能性を考えるのは止めた。一瞬よぎったけれど、そんなこと心配してうなっていても仕方ないし、死んでいたらこんなふうにはならないだろう。私は二度死んだけどこんなふうにはならなかったよ。経験者だから語ってみた。
石化が解呪されるまでの間、ただここでのんびりだらだら寝て過ごすわけにもいかない。こっそりこっそり、うっすらと残る記憶を辿って本棚の奥から小説を取り出す。イエス、ハリポタ。
筋道がわからなくて困ってたんだよね。こうすりゃいいんじゃん。やっぱり私って頭いいわー困っちゃうわー!たははー!自画自賛。
とりあえず賢者の石から読み直してみると、当然のことながらリゾットもプロシュートもペッシもホルマジオもイルーゾォもソルベもジェラートもメローネもギアッチョもいない。私もいない。そりゃあそうなんだけど、九人+一人の存在って結構大きいから、なんだか変な気分だ。まあここで私たちの活躍かっこ笑いかっことじが描かれていても目玉が飛び出してしまうので、そういう意味では助かった。
秘密の部屋を読む。
ハーマイオニーちゃんに投げかけられた「『穢れた血』という言葉を使ったことがあるか」という質問はここから来ていたのか。へえ。まったく憶えていなかったのが恥ずかしい。ちなみにハリー君が相談してきたことは、バジリスクの声が聞こえるけど校長に話すのは怖いからオコトワリーAA略の追い詰められた彼の心情に由来するのだろう。違ったらゴメン。
次だ次、アズカバン。よくわかんないけどまとめると知らんオッサンが実は知らんオッサンじゃなくて最終的に死ぬフラグをめちゃくちゃ立てまくったってことでファイナルアンサー?ここに出てきた人だいたい死ぬよな。世知辛い。
えーっと、四巻。三校対抗試合ってこれか!お前か!お前が犯人か!やだなあ例のあの人が復活しちゃったらリゾットとかどうなっちゃうんだ。死喰い人リゾットとか、似合いすぎて困る。
五巻は不死鳥の騎士団か。なるほど、どの巻でもだいたいそうだけどハリー君の不遇さヤバい。あとアンブリッジめちゃくちゃ面白い。現実にいたらマジで傍に近寄りたくないタイプだけど、こうして見ていると自分の胸が悪くなっていくこの感覚が面白い。私たちスリザリンだから当たり強そうだなあ。ソルベとジェラートがめっちゃ目つけられそう。プロシュート兄貴のイケメンパワーで何とかしてくださいよお。あと校長免職され過ぎ。
半純血のプリンスキター。スネイプ先生って混血だったのか。半純血とは物は言いようですな。このあたりからスネイプ先生にガツンガツン死亡フラグが立ち始める、というね。私一年の終わりの時にスネイプ先生に「これから卒業までお世話になります」とかほざいちゃった気がするんだけど卒業より先に先生死ぬよねこれね。
死んだー!
七巻を読んでグロッキー。ほとんど死んでる。何より双子の死が一番つらかった。ソルジェラレベルでこの二人は分けちゃイカンだろ……。
しかしここで私たちの存在がある。
ほぼ全員が闇の陣営に属するわけだけどさあ。
有力優秀なネエロ家の若きご当主リゾット(ダメだ笑う)、稀代の天才メローネ、ギアッチョ、ソルベ、ジェラートの物理トリオ、闇の魔術大得意イルーゾォセンパイ、抑止力にならないホルマジオ。これ主人公チーム詰むよね。やっぱり元暗殺のプロは違うわ……。上司だったけど私も怖いもん。狙われたくなさすぎる。悪いことはしないようにしようね。
っていうか私とリゾット、例のあの人に目つけられてるじゃん。やだー!雨が降らないと予報されていたのにどしゃ降りになった気分だ。闇の陣営すらも安寧の地ではなかったか。
「(まあ)」
なるようになるでしょ。
ぱたんと本を閉じる。私の灰色の脳細胞はある程度の流れを把握したよ。スネイプ先生が可愛いんでしょ?全部わかったわかった。
ぶっ通しで流し読みをしたから疲れちゃったな。
激しい眠気に流されるように、本棚にもたれて目を閉じる。肌寒さも何も感じないので、私はやがてそのまま目を閉じた。私が眠りにつくのと同時に起き上がった過去の『私』には気づかず、過去の『私』も私には気づかず、二人の時間は結局交差しない。