ハローサパー
ハーマイオニーちゃんにとある言葉について尋ねられたのは、彼女と一緒にお茶をしていた昼下がりだった。授業はロックハート先生のポカによってなぜか魔法薬学が休講。事情は知らないけど、スネイプ先生が休講を選ぶくらいだからよほどのことがあったのだろう。今度リゾットに聞いてみようかな。
一コマが空いた時間割を有効活用し、私たちは木陰でアフタヌーンティーを楽しんでいた。
「ねえポルポ。……あなた、『穢れた血』って言葉を使ったことはある?」
「ごめんそれどういう意味だっけ」
「……」
だから十数年前に読んだきりの原作なんて忘れちゃうんだってばあ。
微妙な沈黙が降りたけど、誰にも言い訳をすることはできない。沈黙をひたすら我慢していると、ハーマイオニーちゃんはくすりと笑った。
「そうね、あなたらしいわ」
結局意味は教えてもらえなかったし、響き的に良い言葉じゃなさそうだなと思ったので誰にも質問できないまま、図書館でそっと辞書を開いた。
あっなんかすごい侮辱の言葉だったんだね。テキトーに使ったことあるよーとか知ったかぶらないで良かった。だから私、純血だって判明してから日が浅いんだよ。そんなのは言い訳にならないかな?でもこんな専門用語みたいな悪態を、魔法族と判明して数年も経っていない子供が知っている方がおかしいと思うぜ。
それからカレンダーは進み、やがて10月がやって来た。
ハリーポッター君が2年生ということは『秘密の部屋』が開かれるのだろうけど、私はそれがいつのことなのかまったく憶えていない。せっかくの知識というアドバンテージが台無しだ。私の憶えていることなんて、スネイプ先生が死んじゃうこととダンブルドアが死んじゃうことと三校対抗試合がヤバいこととシリウスブラックが死んじゃうこととハリーポッターがなんか頑張って悪をブチ倒すということくらいだ。死に過ぎ。人死に過ぎ。
誰かを救いたいだとか、物語の羅針盤をいじくりたいだとか、そういうことを考えているわけじゃない。頭の中にいつもあるのは、大事に『彼ら』が巻き込まれなければいいなという想いだけだ。身内に手を出されたのなら、私だって立ち上がる。お金は前より少ないしおっぱいだってぺったんぺったんつるぺったんだけど、だからって黙っていられることといられないことがある。それはきっと『彼ら』も同じで、だから私は身の安全に気をつけないといけない。
時はハロウィン、私の胃袋は空っぽ。
ハロウィンと言えばナニがあるか。そりゃもちろん、トリックオアトリートだ。今日は誰にどんな状況でこの魔法の呪文を唱えても許される日。もっとも、常識の範囲内で、だけどね。
一日で自由に使える時間は限られている。
「スネイプ先生、トリックオアトリート」
寮生のレポートをまとめて提出したついでに手を出すと、スネイプ先生は唇を皮肉の形にゆがめた。
「そんな余裕があるとは……。貴様のレポートはもちろん『優等』以外在り得ない……ということだろうな?」
「Tじゃないですよ、英語は書けてますから」
スネイプ先生とリゾットは魔法薬学の教務室で机を向い合せてペンを執る。間にはファイル立てや書見台が整然と置かれ、二人の几帳面な性格がよくわかる。
黒髪の教授は羊皮紙の束を既定のホルダーに入れた。私がわざと話の論点を変えたと理解して、眉間のしわが三割増量。
引き出しに掛けた手をふと止めて、教授は向かいの助教授を見た。
「当然、ネエロにはもう言ったのだな?」
「え?ナニをですか?」
「Trick or Treatの話だろうが馬鹿者!」
素晴らしい発音だ。私の似非英語とは違った。
「言ってないですよ。ね、せんせー」
言う必要あるかな?ネエロ先生にトリックオアトリートを仕掛ける女子は多いけど、そこに昔馴染みだという設定のある私がしゃしゃり出るとあんまりよくないんじゃない?
一応、私なりに配慮をしていたのだけど、この閉鎖空間でなら問題はないのかもしれない。どのタイミングで言おうか。スネイプ先生の前でそんなふざけたやり取りをしたら怒られちゃうかな。でもスネイプ先生が『"当然"、ネエロにはもう言ったのだな』と前置きをしたというのは、私がリゾットにお菓子か悪戯か、究極の選択を持ち掛けていることは自然なことだという認識があったからかもしれん。なんであんなことを訊いたのだろう。リゾットに言ってないのにスネイプ先生に言うのって、悪いことか?
「悪くはない。スネイプ、そのまま引き出しを開ければ良い」
「……」
胡乱な目でリゾットを睨んだスネイプ先生は、本人に否定されたのでそれ以上何も言うことなく、机の引き出しから小さな薬瓶を取り出した。
「Treatの代わりだ。それを持ってさっさと寮に戻りたまえ」
薬瓶は小指ほどの大きさで、中にはピンク色の液体が入っていた。見たことのない透き通った色だ。少なくとも、私のレベルで調合できる薬ではないのだろうし、ただのイチゴジュースだっていうオチでもなさそうだ。
「何ですか、これ?媚薬?私より別の人に渡した方がいいですよ、先生」
例えば誰だろう。とりあえず、女生徒に渡すとリゾットかプロシュートが大変なことになるからそれは止めてあげてほしい。
「貴様の頭こそが桃色か?ただの薬の実験だ。空腹時に飲んで我輩に結果を知らせろ。空腹が治まれば成功、治まらなければ失敗だ」
「えっ……」
トゥンク。胸が高鳴った。
もしかして、先生は私の為にこの薬を調合してくれたのか。万年空腹エネルギー欠乏児だとでも思われているのか。言い返せない。
「私、先生のことをもっと好きになっちゃいますよ?」
「笑えないジョークは止めたまえ。我輩は罪を犯す気はない」
それ私が未成年だって話をしてる?なんかちょいちょいリゾットの方に目を向けるけど、この人は何か知っているのかな。それでリゾットをちくちくと非難しているんだろうか。なんで知ってるんだ。スネイプ先生パワーか。洞察力がマックスヤバいのか。
「……」
早速お腹が空いているので小瓶の中身をあけてしまおうかと見つめていると、リゾットの方から話しかけて来た。
「俺には言わないのか?」
「……」
えっなに言ってほしいの。どうしたらいい?今すぐ君を抱けばいいのかな?リゾットオアリゾット?
「えっと……、トリックオアトリート」
机を迂回してリゾットの椅子のわきに立つ。スネイプ先生を気にしつつ手のひらを向けると、リゾットは引き出しにすら入れていなかった、仕事にまみれたデスクには不釣合いな小箱を私に手渡した。
「これは……」
拙いんじゃないの。お前これ見るからに特別だろ。私は見たぞ、あんたが他の女子生徒にトリートを、あるいはトリックを持ち掛けられて、イチゴだかオレンジだかレモンだかのキャンディーで場を濁していた場面を。
リゾットは心を動かした様子もなく、またシンプルな黒い羽根のペンに右手を戻した。
「中身は同じだ」
「……」
あ、そう。
スネイプ先生を見ても、眉間にしわを寄せたまま黙りこくって指で退室を命じられただけだっただけだったので、おかしいのは私のような気がしてくる。
失礼しましたとお辞儀を残して、冷えた薬学教室に出る。
魔法薬学の教室は半分以上の生徒に忌避されているし、ハロウィンとはいえ、教務室に籠る助教授にあえてトリックオアトリートを仕掛けられる勇気ある女子生徒もいない。両開きの扉もきっちりと閉じ合されていて、周囲に物音もない。勝手に教室の椅子と机を使って、誰もいない教室でこっそり小箱を開けてみたって、ちょっとだけなら咎められないだろう。悪いことをしているような気分はシチュエーションを盛り上げる。背徳的なホニャララってやつだ。
箱は、端に入れられた切込みが組み合わされて閉じていた。開くと、フィルムに包まれたキャンディが、子供の片手でつかみとったくらいの量だけ詰まっていた。確かに中身は同じだ。
私は空腹を感じていた。夕食の時間まではまだ何度も長針が回らなくてはいけない。スネイプ先生の薬を飲むほうが効率的で、効能の報告もすぐにできて良いのかもしれないけど、ここはやっぱりリゾットちゃんのキャンディを食べたい。だってあのリゾットが。どこでこんなかわいいキャンディを手に入れたんだよ。ホグズミード?それともダイアゴン横丁?これを買う時にどんな顔をしていたの?誰かに頼んだの?とても知りたい。ディ・モールト知りたい。
オレンジの飴ちゃんを舐めながら寒い教室でだらだらしていると、音もなく教務室の扉が開いた。やべえスネイプ先生だったら怒られる。焦って身体がビクッと跳ねた。絶対、そこで何してんじゃワレさっさと出てかんかい暇人が、くらいの皮肉を慇懃な英語で言われてしまう。
いや、それが怖いんじゃないしむしろそういう先生は見ていたいんだけど、先生の機嫌を損ねてしばらく教務室に出入り禁止になると困る。私のホグワーツ五大癒し要素の中の一つ、『魔法薬学教授陣』という素晴らしいカードが失われてしまう。
「……な、なんだリゾットか……」
一瞬でよぎった不吉な想像を吹き飛ばしてくれたのは、白銀の髪に赤い瞳というどこかアルビノっぽい素晴らしいカラーを持つ23歳だった。なんだ猫か。あっいやネコじゃないネコじゃない。
「不満か?」
「いや……、ぜんぜん」
むしろ感謝した。
「あ……ごめん、『ネエロ先生』だったね」
大人としてけじめをつけられないとかどうなの。公私混同も甚だしいよね。情けなくてスマン。
どうしたんでしたっけネエロ先生?どこかに行くにしては軽装だけど。
魔法が掛かった教務室は暖かかったけど、シャツの上にローブを羽織っただけのリゾットはこれから校内を歩くには肌寒そうに見える。彼は私の言葉には答えずに、小さく足音を立ててこちらに向かって来た。かつかつと音に従って距離が縮まり、リゾットを見上げると、彼は私の頬に触れた。
「え、あの、ネエロ……、ちょっとネエロ先生落ち着いて」
「お前より落ち着いている」
そうだね冷静だね。
教室は静かで誰もいなくて、教務室の扉もリゾットが閉めたきり開く気配がない。これはやはり、スネイプ先生はすべてをお見通しなのでは?リゾットにロリコン疑惑がかかっちゃうね。スネイプ先生なら大丈夫なのかな。
頬に唇が寄せられて、音も立てずに、そっと離れた。
「こ……、ここは学校ですけど……?」
「そうだな。だが、誰もいない」
「それを言い始めたら取り決めなんてすべて無意味になるわよ、リゾットちゃん」
「取り決めというのは往々にして見えないところでは破られているものだ。キャンディはどうだ?お前なら最初にオレンジを選ぶと思っていた」
おいしいよ、と偽りなく答える。空いた包み紙はポケットにしまったはずだけど、どうして私が舐めているキャンディがオレンジ味だってわかったのかな。
浮かんだ疑問はすべからくすぐに解決するべきだ。
「なんで私がオレンジ味を選んだってわかったの?」
「オレンジの香りがした」
「……」
あ、そう。近づいたからね。単純明快、これ以上ないほどわかりやすい理由だった。
ネエロ先生は医務室でペッシ医療事務に足りない薬の票を取りに来て欲しいと言われていたそうだ。私とのことはついでだったのね!純情を弄ばれた!と教室を出る前に面倒くさい絡み方をしてみたら目を細めて髪を撫でられた。
「お前はせっかく静かに収まったものをわざわざ波立てて墓穴を掘ることが多いが、わざとやっているのか?」
黙ってろってことですね、わかります。今のはわざとやりました。しかし墓穴とは思っていなかった。ただのジョークだよリゾットちゃん。
二階でリゾットと別れ、三階の廊下に差し掛かる。プロシュート先生にDADAの授業について、自主課題でやっておいた方がいい範囲を教えてもらおうと思い立って階段を上ったのだ。なにせ今年の闇の魔術に対する防衛術はつぶれたも同然である。ロックハート先生かっこ涙かっこ閉じ。可哀想なことだけど、エンターテイナーとしては一流でも、教師としてはあまりよろしくない。生徒の大半から切り捨てられてしまった先生の授業で一年をうっかり無駄にしてしまうと、今後のめちゃヤバ1000%のホグワーツで生き残っていく自信がもっとなくなる。
故障中のトイレの前を通り過ぎる。ここにはゴーストの女の子がいるらしい。わざわざ騒がしくする必要もないのでスルーすると、ふらりと廊下の角から赤毛の女の子が現れた。
「あれ?ジニーちゃん」
どうしたのこんな寒い廊下で。
上着も身に着けないでぽつりと立ち尽くしていたので、小走りに近づいて肩に手を当てる。私も子供の頃は身長が伸びないタイプだったけど、ジニーちゃんは今の私よりも一回り小柄だ。その小さな身体は冷えていた。ローブを脱いで、彼女の肩に掛ける。
イケメンみたいなことをしてみると、ジニーちゃんはようやく私を見た。その瞳の彷徨い方が不自然で、気づかれない程度に眉根を寄せる。前に会った時とはずいぶん雰囲気が違うな。
「あ……ポル、ポ……さん?」
「うん、ポルポさんだよ。どうしたの、寒かったでしょ?道に迷った?」
グリフィンドールの寮室からはかなり離れているけど、大広間からの帰りかな。少女の小さな手をにぎにぎして少しでもあたためようと試みていると、ジニーちゃんはこくりと頷いた。
「そう、……寮に帰る道がわからなくなったんです」
そりゃ大変だ。
スリザリン生がグリフィンドールの寮塔に近づくのはおかしいかもしれないし、私自身三階に用事もあったけど、迷子のジニーちゃんを放っておくことはできない。プロシュート先生への質問はまた今度ということにしよう。まだ学校は始まったばかりと言っても過言では、あ、いやちょっと過言かな。まあ、終業から考えたら過言ではないし、不真面目と真面目の中間にいる私としては、自主課題なんて後回しにするに越したことはない。今日のところは縁がなかったのだとすぐに思考を切り換える。
ジニーちゃんと並んで歩く。とりとめのない話は私の口からポンポン飛び出して、ジニーちゃんは時々それに短く頷いた。その時々に違和を感じる。
まず、ジニーちゃんは新学期が始まる以前のアイスクリームパーラーで、私に丁寧な言葉なんて使わなかった。敬称も取り払って、親戚のお姉さんにでも話しかけるように、遠慮がちに、でも親しみを込めて言葉を発してくれていたはずだ。それが今は丁寧な言葉づかいで、私の名前を『ポルポさん』と呼ぶ。
「ポルポさんは普段、どうやって過ごしているんですか……?」
こんなふうに、以前のジニーちゃんとは少し違っている。学校生活で先輩と後輩の力関係を学んだ、のだろうか。
それにしても抽象的な質問だ。とらえどころがなくて戸惑ってしまう。しかし尋ねられたことには出来うる限り答えようではないか。
「ご飯を食べて過ごしているよ。ジニーちゃんは知らないかもしれないけど、私はいつもお腹が空いているの。だから色んなところで色んな物を食べてる。あとはたまに勉強をするって感じかな。普通のホグワーツの学生だよ」
「……そのキャンディも?」
「あ、これ?うん。今日はハロウィンだからね。貰ったんだよ」
ジニーちゃんとつないだ手とは反対の、右手に持っていた小箱を指さされる。ジニーちゃんに引っ張られて足を止めると、彼女は可愛らしく、ちょっとぎこちなく微笑んだ。
「ねえ、トリックオアトリートって言ったらそれをくれますか?」
「もちろん。言わなくてもあげるよ。何味がいい?」
小箱を開いて中身を見せると、ジニーちゃんは赤い包み紙を指さした。
「ポルポさんの目と同じ色。……その綺麗な目は生まれつきなんですか?」
イチゴですね。私というよりはリゾットの色に近いけれど、今は関係のない話だ。
生まれつきかと言われると、前々世の記憶がある身としてはなかなか微妙な気分だが、確かに前世も今回も、この朱に近い赤色は生まれつき宿っていたものだ。否定する必要もないので頷くと、ジニーちゃんは私の両親も同じだったのかと話を広げた。
彼女は知る由もないことだけど、私と『彼ら』九人はいわゆる『転生』をした人間だ。両親とは血縁以上の繋がりはない。遺伝的に在り得ない色が発現したとしても、それは隔世で現れる素養か、突然変異の類だろうと、魔法界ではよくあることとして処理される。もちろん全員が全員、物わかり良く済ませられるわけではないけど、これもやっぱり、いま議論すべきことじゃない。私に要求されているのは端的に回答を述べることだけだ。
「スリザリンで、赤い瞳。……そうなんですね」
「うん?ナニが?」
ぽつりと呟かれた謎の独り言の真意を追究すると、ジニーちゃんは下げていた視線を私に合わせて首を振った。
「なんでもありません、ポルポさん。キャンディをありがとうございます。もう、ここまで来たら一人で帰れます」
手が離される。イチゴ味のキャンディを握りしめたジニーちゃんは、なんだか彼女らしくない笑顔を浮かべて、ぱっと寮塔の方へ駆け出した。フィルチさんに見つかったら怒られるぞ。
ハロウィンでせわしなく動き回るグリフィンドールの子供たちにじろじろと見られる趣味はないので、ジニーちゃんの背中を見送ると、さっさとグリフィンドールの寮に背を向ける。すれ違う生徒とたまに挨拶をして「あぁなんだポルポかお腹空いてないの」と私の空腹事情を知る人に声を掛けられ、二、三言を交わして手を振り別れる。そんなことを三度ほど繰り返して、私は不便なエスカレーター、もとい動く階段を下りる。
「(……アレ?)」
そして思い当った。
去年の黒幕はクィリナス・クィレル。かの人と同じ赤い瞳を持つ私とリゾットに興味を持った後頭部の寄生虫の指示により、ネエロ先生は無理やろハハハ、ということでかっさらわれた私。おかげさまで打ち身と捻挫を負った。
今年の黒幕は、誰だっけ。
埋もれていた記憶を掘り返すまでもなく、もはや掴んだ糸口を手繰るだけで呼び起される。
「(ジ、ジジジ、ジニーちゃん……!!)」
今のもしかしてジニーちゃんじゃなくてトム・リドルの幽霊だったんじゃねえの。
0.5 がんばれ!スネイプ先生!
「ネエロ」
「何だ?」
「私はお前が誰と何をしようが、どこで何を考えようが、取り立てて関与しようとは思わん」
「そうだな、俺もお前が何をしていようと気にならない」
「……」
「……」
「だがネエロ。……確かに過去、教師と生徒が関係を結んだ歴史はある。今の世論ではそう珍しいことでもないかもしれん。ましてやお前たちは曲がりなりにも婚約者同士であるのだし、本来なら私が口を出す話でもない」
「あぁ」
「だがな、ネエロ。……校内では風紀を乱すな。はっきりと言おう。ミスポルポに手を出すな」
「気をつけよう」
「白々しいわ!!」
「そうか?真剣に答えたつもりだが」
「それは解っている!!」
「スネイプ、インクをこちらに飛ばさないでくれるか」
「飛ばしたくて飛ばしているのではない……!私のペン先を狂わせているのは誰かね。答えんでいい。貴様だ」
「……」
「仕事に戻るな!!私の話はまだ終わってはおらん」
「まだ何かあるのか?ポルポとの関係についてはこちらで充分に理解している。お前と、『俺たち』以外の誰かに、この関係に『名目』以上のものがあるとは気づかせていない筈だ」
「確かに私も貴様の手腕には信頼を置いている。しかしそれとこれとは話が別だ。私の目の届くところで、我がスリザリンの生徒に手出しをさせるわけにはゆかん」
「……」
「……」
「言いたいことは理解した。今後は考慮しよう」
「そうしたまえ」
「……」
「私の目の届かんところでなら良いという話ではないからな」
「お前が俺をどう思っているのかはよく解った」
「飢えた獣だろう」
「……」
「ため息をつきたいのは私の方だ」