ハロースナック
車が空を飛んだんだとさ。へえ。
空飛ぶ車に乗ってダイナミック登校をしてきたのはかの有名なハリー・ポッター君とロン・ウィーズリー君だそうだ。朝から真っ赤な封筒がグリフィンドール席に投げ込まれて大騒ぎだった。ソルベとジェラートがニヤニヤしながらそれを傍観し、これだから魔法界って面白えんだよなあと適当なことをふかしていたのをなんとなく記憶している。
私はといえば、その日の朝もあまりおいしくないマッシュポテトをいかにおいしく食べるかということに注力していたので、うわ吼えメールうるさい、という程度にしか事態を認識していなかった。まったくもって流行に乗り遅れている。マッシュポテトは結局美味しくならなかった。いっそのことラズベリーのジャムでも乗っけてみたらどうだろうね。マイナス×マイナスはプラスだ。マイナスにマイナスを足しても答えはマイナスだという冷静な自分の意見は無視をする。
大広間を揺らすほどの大声で息子をしかりつけたウィーズリー夫人の吼えメールは発火する音を残して跡形もなく消えてしまったらしい。一瞬の沈黙を経てようやく、ひそひそ笑いだったり、揶揄だったり、びっくりしたねえ、なんていう平穏な感想のざわめきが戻る。
それを尻目に、私の隣に座るパンジーは心底から嫌そうに顔をゆがめた。
「これだからグリフィンドールは嫌なのよ。家の恥は家の中で処理すればいいのに、こうして他に迷惑をかけるなんて信じられないわ」
それは寮の特色の問題かな?人それぞれだと思うよ。でも私もびっくりしたから、他のみんなにはドッキリでも吼えメールは送らないでねって言っておこう。
「同じ寮にいる奴に送るわけねェーだろ」
そりゃそうなんだけどね。若干名、そういう悪ふざけをしそうな人がいるからね。吼えメールで愛を叫ばれちゃ堪らんよ。
「ンなこたぁどうでもいいんだがよお……」
朝食の卓にオレンジジュースとミルクしかないことに文句をつけ、ソルベとジェラートの案内で厨房まで押しかけてリンゴジュースを発注した伝説の元一年生現二年生たるギアッチョは、ゴブレットになみなみとリンゴジュースを注ぎ込んだ。向かいに座るメローネに一枚の羊皮紙を押し付けると、少年はそれにざっと目を通した。あぁ時間割だね、とマスクの下で面白そうに目を閉じる。ナニを想像しているんだ。
「クソみてーな授業が混じってんのは、学校が自主休講でも推奨してんのか?」
「そんな失礼なことを言うなんてひどいぜギアッチョ。ロックハート先生は素晴らしい教師かもしれないだろ?」
「ッんなわきゃああねええだろうがよお!!」
ギアッチョは座った姿勢のまま膝だけでテーブルを蹴り上げる。慌てて自分のカップとパンジーのシリアルを避難させる。パンジーの隣にはドラコ君が座っていたけど、彼は思いっきりミルクをこぼしていた。ごめん、そこまで手を伸ばすのは無理だ。あとそのミルクって背を伸ばすために飲んでるのかな。恥ずかしがって答えてはくれないだろうけど、今のドラコ君はパンジーより背が少し低いもんね。気にしてるんだとしたら、この少年には非常に萌えが詰まっている。君の成長性に期待。
「あー……面倒だからもう突っ込まねえけど。……お前らってDADAの前に薬草学が入ってるよな?」
「そうだね、入ってるよ」
新しい時間割に慣れるまでは時間がかかるだろうけど、まあ、一日分のスケジュールを覚えるくらいの頭の空き容量はありますよ。
朝食の後に地下の寮まで戻るのも手間だと思って、すでにトートバッグに詰めてある教科書をぽんぽんと叩いて見せると、イルーゾォは食後のラッテに三つめの砂糖を投入してから言葉をつづけた。カッフェは飲めるのに甘くないと嫌なのかな。
「どのタイミングかは知らねえけど、今年の薬草学はちょっと面白え授業があるぜ。お前、ファンタジー好きだったよな?絶対知ってる植物が出るから楽しみにしとけば?」
へえ、ファンタジーでおなじみの植物。やくそうかな?トーンかな?はたまた噛むと元気が出るタイプのあやしい草かな?
答えはすぐにやって来た。
薬草学を受け持つ女性教師はふくふくとした身体に余裕のあるローブを羽織って、分厚い手袋を嵌めている。花壇を囲むように生徒を並ばせて、目の前に植わるものはナニかと想像を巡らせる子供たちを落ち着かせる。慣れたやり方だ。
「さあ皆さん、今ここに植わっているものが何か判りますか?ヒントなく正解できた生徒には10点を差し上げましょう」
さて誰が手を挙げるか、とあたりを見まわしたら、全員の視線が一斉にメローネに集中する瞬間を目撃してしまって思わず笑った。そうだね、去年初っ端の魔法薬学で、上級生の問題に答えうる生徒として助教授に指名されたミスターメローネならね、植物の名前くらい簡単に答えられると思うよね。
その期待を裏切ろうか裏切るまいか、へらへらとした締まりのない笑顔の下で打算したメローネは、私に決断を委ねるように視線を寄越した。好きにしてくれていいんだけどな。
ここで私がメローネの能力を出し惜しみして、彼への羨望を無碍にすることもあるまい。
どうぞお答えくださいという意図を込めて頷くと、メローネはやっぱりへらへら笑いながら挙手をした。
「マンドラゴラだね」
「見事です、メローネ。スリザリンに10点。どこで判ったか、とお聞きしましょう」
つらつらとマンドラゴラの特徴を並べ立てた金髪の美少年に更なる加点がなされ、授業はようやっと始まりを迎える。
それにしてもマンドラゴラとは。確かにイルーゾォの言葉通り、ファンタジーの物語には万能薬としてよく出てくる。私が気に入りそうな魔法植物だ。ずっと昔に好んでプレイしていた某アトリエゲームにも重要な調合材料として登場していたし、マンドラゴラの根というのは貴重で有名な薬草。それを目前にして、なんと実際に植え替えてみることが出来るなんてこりゃまあ感動。耳にすると死んでしまうマンドラゴラの鳴き声も耳当てで完璧にガードされるようだし、安心じゃないか。やはりこういうのは教師の監督のもとで行うのが一番だね。
ピンクでもこもこでふあふあな耳当てを嫌がったのは思春期の男子生徒と一部の少女たちだけだった。特にパンジーなどはこだわりがないようだったので、あんまりオシャレじゃないけどいいのかと疑問に思う。普通女の子って見た目を気にするんじゃないのかな。
「自分だって取りに行ってないくせに」
「そりゃまあ、私は死ななければ何でもいいというかね」
大人ですからね、一応。
残り数の少なくなった耳当てにようやく手を伸ばしたパンジーは、指先を彷徨わせることもなく、しつけのなった行儀の良さで黄色と黒色の、まさにパンジーの花みたいな配色の耳当てを手にした。私にピンクでもこもこでふあふあな耳当てを押し付けてくる。
「それに、あんな風に物を争うなんて優雅じゃないわ」
争奪戦に参加した少女たちに聞こえるように言ったパンジーは、良家の、ちょっと意地悪なお嬢様らしいつんとした表情で鼻を鳴らした。
恥じ入ったように俯いてしまう少女たち。
ぱん、ぱん、と手を叩いてそんな場の空気を霧散すると、スプラウト先生は、いいですか、と低い声で生徒たちを脅しつけた。
「いいですか皆さん。このマンドラゴラはまだ植え替え前で育ち切っていません。鳴き声を聞いても死ぬことはなく、精々が気絶する程度です。しかし!しかし、決して自分から気絶しようなどとは思わないように!!」
凄く力のこもった忠告だった。そんなことするやつはいないだろ常識的に考えて。と思ったら該当する人物が二人思い当ったので首を振った。ヤバいやりそう。あのホモたちやりそう。
「現4年次には、わざと耳当てを外した生徒が4人もいました。皆さんが賢明であることを祈ります」
4人もいたのかよ。誰だよ。ソルベとジェラートと……、あ、なるほど。現代の悪戯仕掛人ですね、わかりました。
耳当てをつけて、周りの音を遮断する。何も聞こえなくなることに感動した。
先生の身振り手振りに合わせて苗に手を掛け、ぎゅっと握りしめて引き上げる。きっと温室にはつんざくようなマンドラゴラの悲鳴が響いたことだろう。
幸いなことにマンドラゴラの鳴き声を聞こうとする生徒はメローネ以外おらず、そのメローネも隣にいたギアッチョに肘鉄と蹴りで制止されたので試みは失敗に終わっていた。授業中に暴力沙汰が起こったというのにスプラウト先生がギアッチョに2点加点してたので腹筋が痛くなってしまったが、それは余談というものか。
無事に植え替えを済ませると、終業のチャイムが鳴った。興味深い授業が惜しまれながら終わる。
温室から出る折、パンジーと私は顔を見合わせた。
パンジーはドラコ君と一緒に行動をするし、私もメローネ、ギアッチョ両名と共に厨房を経由した移動をするので道筋は分かれることとなる。しかし教室までの道のりは違えど、私たちの想いは繋がっていた。
「不安だね」
「期待できないわ」
ギルデロイ・ロックハート先生の授業の話だ。
私たちの(悪い)期待などどこ吹く風。ギルデロイ・ロックハート先生はマイウェイをゴーイングしながら白い歯を煌めかせて螺旋階段の上から躍り出た。地上階の控室から現れて出席を取っていたプロシュートが、おっと、プロシュート先生がロックハート先生に道を開けると、そのスペースをパリコレモデルのように闊歩して胸を張る。
「皆さん!私がギルデロイ・ロックハートです!チャーミングスマイル賞を5回受賞した闇の力に対する防衛術連盟名誉会員であり、勲三等マーリン勲章を授与されたギルデロイ・ロックハートです。皆さんのような可憐なファンに出会えて嬉しいですよ。ああ、もちろん青少年もね!さあ、私の姿が見えますか?声が聞こえますか?そこの女の子は眩しくて私が見られないのかな?フフッ、なんてね」
声を掛けられた女子、ミリセント・ブルストロードは激しく気のない様子でYesと答えた。彼女の、「そんなわけねえだろ目玉ちゃんとついてんのかこの野郎」という副音声が教室中に広がった気がする。
「待ちに待った私の授業ですよ。皆さんは予習を済ませましたか?済ませていない人には可哀想ですが、これから抜き打ちでペーパーテストを行いますよ。さあ、プロシュート先生。ペーパーを配っていただけますか?私が配っても良いんですが、女子達が私に夢中でテストに集中できなくなっては困りますからね」
「……」
さすがのプロシュート先生も閉口した。彼が黙って杖を振ると、テスト用紙がふわりと浮かんで生徒たちの机にやってくる。
教科書を鞄にしまって羽根ペンを取り出すスリザリン生の、"少なくともこの教科書を音読させられることにはならなさそうだ"という安心した空気は、問題文をちらりと見たその瞬間に凍りつく。
私のおぼろげな記憶によると、彼のテストはとんでもなく自己主張にあふれたものだったはずだ。
裏返っていたテスト用紙をひっくり返し、羽根ペンの先をインクに浸したスリザリン性の硬直に遅れること、およそ一拍半。私も羊皮紙をひっくり返して、目を瞬かせる。
「(ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何か)」
そうそう、そういえばこんな内容だった。好きな言葉や最適なプレゼント、著書で最も気に入っている一文など、どうでもよすぎるクエスチョンが羊皮紙3枚に渡って連ねられていた。
これは面白い。
うんざりした様子の周囲には申し訳ないが、この教室の中で、ロックハートの出題を面白がっている生徒は確実に二人いた。私とメローネだ。メローネと自分を同じ枠組みに嵌めるのは非常に躊躇われるけど、やっぱり彼と私の感性ってちょっと似ている。同人誌の趣味とか、合うし。
彼のつくったテスト問題は、読み物としてたいへん面白かった。小説家になるべきだ。あっいや、ある意味で小説家だったっけ。確か功績は全部でたらめなんだったよね。
ギルデロイ・ロックハートの好きな色、尊敬する人物、好きな食べ物。大望、嫌いな食べ物、好きな性格。最も気に入っている洋服、月刊魔女にインタビューが掲載された回数、その中で何度「しかし」と言ったか。ギルデロイ・ロックハートが初めて使った魔法、好ましいプレゼント、近年一番嬉しかったこと。数多くある功績を憶えているだけ書くこと、などなど、羊皮紙3枚分の問題は時間をいっぱい使っても書ききれなさそうなくらい種類が多かった。
もちろん私は彼の著書を少しかじった程度のぺーぺーなのでこんなものにすべて答えられるはずもない。隣で猛烈に羽根ペンを動かしているメローネにドン引き。たぶん教室中の全員がドン引き。ペンが羊皮紙をこする音を生み出しているのは君だけだよ。
メローネがペンを置くのとほとんど同時に、ロックハートがテスト時間の終わりを告げる。どうやら熱心なファンであるメローネくんのことを待っていてくれたらしい。ファンに優しいアイドルである。
「さてさて、私に熱い想いをぶつけてくれたのは……、おやおや!このクラスはシャイな子ばかりだ!そんな中で……えー、ミスメローネ?」
「なんだい?」
耐え切れずに数人が笑った。咳払いでは私の耳は誤魔化しきれないぞ。かくいう私も笑っている。ミスじゃないだろお前は。メローネという名前が中性的な響きなのはともかく、平然と返事をするのはやめてください腹筋がしんでしまいます。
「ロックハート先生。" 彼 " は " ミスター " メローネだ」
HeとMr.を強調して訂正したプロシュート。イタリア訛りなんてない綺麗な英語が、彼がここに生まれついて長いことを表している。一応、転生してもイタリア人として生まれてるのに優秀だね。私なんて人生何回か体験してるけど、どの人生でも母国語の習得が遅いよ。
「ミ、ミスター……?」
「そうだね」
美しすぎる少年は性別を超える。女子生徒ではなく男子生徒が自分のテストをコンプリートしたことにかなりのショックを受けたらしく、ギルデロイ・ロックハートは軽くよろめいていた。すぐに気を取り直したところはさすがアイドル。
「失礼。えー、ミスターメローネ。君は私のことが好きなようですね?」
「ん?んー、好きか嫌いかで言われたら、どうでもいいかな」
今度こそロックハートの笑顔が硬直した。どうでもいい相手のプロフィールを網羅してテストで満点を取る理屈で測り切れない少年に思考回路がショート。私もショートしそうだよ。
「あれ?ポルポ、俺今イタリア語使っちゃった?」
いや、綺麗なクイーンズイングリッシュでしたよ。
今度こそスリザリン生はくすくす笑いを堪えなかった。風が吹き、原っぱの草が擦れて音を立てるように、笑いが教室にさざめく。ある面では上品な笑い方だけど、TPOを考えると陰湿な笑いに聞こえてしまうこともなくはないだろうなあと考えさせられるね。うーんしかしパンジーの笑顔が可愛い。
「そ……そうですか、少し驚いてしまいましたが、君も恥ずかしがり屋さんなんですね。私としたことが、配慮を忘れていたようだ、ははは」
我に返ったロックハートはチャーミングスマイル賞を5回もぎとった笑顔を浮かべて白い歯を輝かせた。ポジティブシンキング。
「さてさて、しかし見る限りミスターメローネは満点だ。これは誇って構いませんよ、ミスターメローネ!君に20点を差し上げましょう!」
午前中の授業だけでメローネが30点をもぎ取った件について。点数のインフレがヤバい。
それからロックハート先生は、プロシュート先生に『例の物』を用意するように言いつけた。
「アレは……授業には適さねぇだろ」
「私がいるんです、大丈夫ですよ。プロシュート先生は心配性ですね。自分の実力に不安を感じてしまう気持ちはよく、よーくわかりますよ。しかし、この私がいますからね!」
ここにソルベとジェラートがいなくて良かった。バカにされるプロシュートを見て、彼らが冷静でいられるはずがない。
絶対にひきつけを起こすまで笑い転げる。
ところでナニが出てくるのかな。
原作の出来事などすっかり忘れていた私は、プロシュートがどうしてブツを出し渋ったのか、まったくわかっていなかった。ただ、彼が拒むということは生徒にとってあまりよくないことなのだな、としか思わず、その点だけで先行きに暗雲を感じていた。
ピイピイキイキイとナニかが泣き喚く鳥籠が運ばれて初めて、私の海馬は刺激された。あっヤバいこれピクシーじゃん。
いつぞや映画で見たことのある阿鼻叫喚がようやく記憶に蘇る。思わず隣に座るメローネに身を寄せた。
「どうしたんだよポルポ?怖いのか?」
「や、なんかね……プロシュートが眉間にしわを寄せているとね、いやな感じがね」
するよね。
曖昧に説明すると、メローネは後ろの席を振り返った。ギアッチョはすでに机の下で杖を握っているらしい。ピクシーが飛んできたら魔法より先に杖で殴り倒しそう。偏見です。
「ねえちょっとポルポ、あんたこそこそ話してないでこっちにも……」
通路を挟んで左側に座るパンジーが、身体を傾けて私のローブを小さく引いた時だった。ロックハートが鳥籠を覆っていた布を取り去り、籠の口を開いたのは。
悲鳴を上げるスリザリンの純血女子。貴族として退くわけにはいかないけど対抗策を思い出せない男子。そりゃそうだ。私だってエクスペリア―ムズしか捻り出せないし、これだって主人公が多用していたから咄嗟に連想できるだけだ。しかもこの場合まったく役に立たない。
ロックハート先生いわく、この世で最も醜悪な生き物ピクシーは、ドラコ君の整えられたプラチナブロンドを引っ張って乱そうとしている。それを叩き落としたドラコ君はピクシー妖精の到底妖精とは言えない醜さにおののいて手をひっこめ、また別のピクシーに髪の毛をいじられていた。整えられているものがあると崩したくなるのは、人間だけじゃないらしい。
「どうしたんです、ピクシー妖精くらい簡単に撃退できるでしょう!」
数分で生徒全員がピクシーの恐ろしさとロックハートの無能さを実感すると、闇の魔術に対する防衛術の教諭から許可を得ることを諦めたプロシュートは、自ら杖を振った。桜の木と不死鳥の灰で出来ているという杖は正確に魔法の力を発し、ピクシーは彼らの時間を何よりも遅く変えられる。
初めてこの杖の話を聞いた時はとても驚いた。桜の木と不死鳥の灰って。桜の木と不死鳥の灰って。びっくりしたことなので二回言ったけど、元日本人としては桜の木に反応せざるを得ないし、不死鳥の灰という部分では、尾羽を芯にする主人公を完全に食う勢いだ。さすがのプロシュート、イケメンパワーと実力と、それから手にするアイテムまで、レベルが高すぎる。閑話休題。
イモビラスという魔法はつまり、某ファイナル幻想RPGでいうスロウだ。相手のターンをすっ飛ばしてずっと俺のターンにすると考えても良い。
そんな魔法を教室全体、ピクシーだけに効果を限定して発動した金髪の美丈夫は、再び杖を一振りして鳥籠を持ち上げた。開かれたままの口にピクシー妖精が次々詰められて、時間の動きが元に戻る前に、鳥籠には鍵がかけられた。
「3年ならともかく2年にはまだ難しい課題だったな。それならまだ教科書を音読させる方が簡単じゃねぇか?……どう思う、ミスターマルフォイ?」
ここは理事会においても権力を持つマルフォイ家の息子に意見を求めてさっさと事態をおさめようという魂胆か、このイケメン。
ドラコ君は髪の乱れを整えてから、マルフォイ家のプライドを以てキリリと頷いた。
「難しいとは思いませんけどね、一番初めの授業で取り扱うには相応しくない生き物だったと、僕は思います」
さりげなく『本気を出せば僕はできましたけど』みたいなニュアンスを差し込んでくるところは、さすがのドラコ君だ。
ロックハート先生はマルフォイ家の威光を知ってか知らずか、ちょっぴり青くなった顔で鷹揚に頷く。
「そうとも言えますね。では残りの時間はせっかくですから、ミスターマルフォイに『グールお化けとのクールな散策』を音読してもらいましょう」
ドラコ君が物凄い勢いでプロシュート先生を振り返る。うん、完全にドラコ君に被害が飛び火したね。プロシュート先生も、悪いな、と言うように苦笑していた。
そのイケメンパワーに推されたのか、それとも彼自身の思い切りがよいのか。ドラコ君は鞄の中から分厚い本を取り出すと、嫌味をたっぷりこめた声でそれを音読し始めた。
結構、上手だった。