はじめてのじゅぎょう01


教室に入ったら猫がいた。な、なにを言っているかわからねーと思うが俺もなにを見ているのかわからなかった。教卓の上に猫がいた。
「お猫様!!」
「ちょっとやめてよ同類に見られるでしょ」
あまりに凛々しい猫に感動していたらパンジーに後ろからどつかれてしまった。ごめん。同類って。私はどんなジャンルに位置しているの。
教科書の詰まった鞄を机に置いて、そろりそろりと教卓に近づく。拝見します、と声をかけたらやれやれと言うようにしっぽがゆれた。
「おおお、美しい……かわいい……きれい……お猫……」
横顔を眺めて、ひげも耳もまったくぴくぴくしないのを確認。アニメーガスですねわかります先生!
「先生、背中を撫でていいですか?」
「……」
先生にゃんが私を見た。ダメなんだろうか。いいんだろうか。先生とのアイコンタクトは練習していないのでわかりません。
「……ダメですか?」
お願いします!と手を合わせると、先生にゃんは諦めたように、私にほんの少し背中を向けた。では失礼して。
「あああすばらしい毛並みです……これはもう、あああー抱き寄せて頬ずりしたいやつです……」
頬ずりはさすがにマクゴナガル先生としても嫌だろうなと思ったので我慢した。大人だしね私ね。大人は相手が人間だとわかっていながら毛並みを撫でたりしないなんて言葉は聞こえない。大人だってやるよ。そこに猫がいたらやるよ。猫を撫でていたらたまたまその子が人間だったっていうだけだよ。
予鈴が鳴ってものすごくガッカリ。
「ありがとうございましたあー……」
ガッカリした気持ちが声に出てしまった。大人なのに。ウッつらい。
席に戻ったら、私の後ろの席でドラコくんとくっついて座っていたパンジーが、ぱし、と軽く教科書で私の後頭部をたたいた。なに、と振り返ると、もの凄く呆れた眼差しが降ってきた。
「スリザリン生として恥ずかしいから、猫を拝むのはひとりの時にやって」
「うむ……すまん」
それからしばらく教科書を眺めて先生の転変を待っていたら、軋むような音を立てて、眼鏡くんと赤毛くんがこっそり入ってきた。
「よかったーまだ先生来てないや」
来てるぜと私が脳内でツッコミを入れるのと同時に、教卓から猫が飛び降りてマクゴナガル先生の姿に変化した。どよめく教室内。ちょっと置いてから、私に視線が集まった。えっなにこわい。ビビったけど、ああ先生にゃんに接触してたからか、とすぐに気づいた。
マクゴナガル先生は2人の遅刻を注意して、ぴしりと背筋を伸ばしたまま教卓の前に戻った。
「この授業では、物体を別の物体に変化させる魔法を学びます。実技だけでなく、理論についての考察のレポートを提出してもらうこともあります」
厳格な細身の魔女は、ざっと生徒を見てひとつ頷いた。
「さて、あの猫が私だと気づいていたものは手を挙げなさい。あるいは、予想していたものでも構いません」
誰が挙げるのかなーと思っていたら、予想通りハーマイオニーちゃんがおずおずと手を挙げた。
「ミスグレンジャー、どの点で気がつきましたか?」
「あの、……予想でした。この授業は変身術の授業で、先生は変身術を専門とされている方ですから、当然アニメーガスの資格を持っているだろうと思って……」
「そうですね、良い予想でした。グリフィンドールに5点差し上げましょう。……他には?」
なんで手を挙げなかったかっていうと、正直、めんどくさかった、ですよね。ほら、私、ハイハイハーイ!っていうタイプじゃないじゃん。まあ私のおっぱいは大きかったんですけど。ぼくのおっぱいはおおきかったでーっす!!
「ミスポルポ」
「はい」
「……あなたは返事はいいですね」
どういう意味だろう。対応もいいと思うよ。
「しかし、きちんと手を挙げなさい。評価は正確でなくてはいけません」
「……はい、すみませんでした」
怒られてしまった。つい、と眼鏡を押し上げて、さてミスポルポ、と改めて呼ばれる。
「あなたはなぜあの猫が私だと気がついたのですか?しらを切るのはおよしなさい。私は確かにあなたが猫を"先生"と呼ぶのを聞きました」
「猫なのにひげと猫耳が全然動いてなかったので」
「なるほど。改善しましょう」
なにそれ、次に会う時はマクゴニャガル先生が完璧に猫のふりをするの?それかわいい。また見せてくださいって言ったら、あなたの成績が良ければ要望に応えることも吝かではありませんって言われた。先生厳格。

授業が終わった後に、メローネがぽつりと「俺も猫になろっかなー」って呟いていたから、ポリジュース薬はやめとけって言った。笑ってた。


はじめてのじゅぎょう02


後ろから見ていたら、ギアッチョの手首のスナップが利きすぎていて羽が踊っていた。たぶんあれは正しい浮遊呪文じゃないけど、それよりも高度な魔法なんじゃないか?て思わせる迫力。メローネがあっはははははとギアッチョを笑って素手で殴られてた。フリットウィック先生は「呪文を使いなさい!」って言ってたけど止めるところはそこじゃないと思う。
私は自分の杖を振って、なるほどビューンヒョイ、とやってはみるものの呪文の発音が悪いのか、ビューンヒョイのやり方が間違っているのか、なかなか浮かせることができなかった。隣にいたパンジーにヘルプを求めたらパンジーはドラコのを見てなさいよってドラコくんのハードルを上げた。見てたら、一回失敗して、発音を間違えてしまってねってちょっと気取って言っててかわいかった。二度目は成功して先生に褒められてた。正直、ドラコくんが11歳っぽくてかわいくてそっちに夢中だったから手つきとか見てなかった。
何回か挑戦していたら、フリットウィック先生が見かねて助けてくれたので、ビューンヒョイとやってみたらうまくいった。私、一か所左右間違えてた。ばかやろう。私ばかやろう。パンジーに笑われてしまったよ。君の笑顔が私のドジで買えるのなら私は何度でもドジをするよって言ったら調子乗ってんじゃないわよって言われた。はい。
フッと見たらメローネがギアッチョの眼鏡を浮かせていてマジで蹴り倒されていた。眼鏡はイカンよ眼鏡は。その後ろの生徒が家名で2人を呼んで、君たち空中で浮遊呪文の合戦を行ったらいいんじゃないかいって野次を飛ばしたんだが、たぶん彼らは2人をからかったり、ちょっと恥をかかせたかったんだと思うんだけど、ギアッチョはなるほどなっつって杖を構えて「ウィンガーディアムレヴィオーサアアアアア」って唱えながらメローネに殴りかかっていて耐えきれず笑った。それでも浮遊を解除しないメローネの根性ヤバい。


はじめてのじゅぎょう03


星を見るってどういうことなんだろう、天文学なんて学んだ覚えがない。私が知っているのは水金地火木土天晦冥くらいだ。冥王星が外されるのは今よりあとのことだよセーラープルート。

ソルジェラに訊いてもまともな答えは返ってこなかったので、ホルマジオの、オメーの想像より面白ェから期待しとけっていう言葉を信じてワクワクしながら臨んだ。

夜だったので眠くなるかなと思ったけど、まず導入が「天文学的数字というのがどれくらいのものなのか気になったことはありませんか?」だったので掴みはバッチリすぎた。あるあるある!食いついてしまった。オーロラ先生ヤバい。名前も天文学のために生まれてきました!って感じだし、実際に造詣が深すぎて生徒が引いてる。ホルマジオの言った通り、想像よりずっと面白かった。

ただ、私、星座を見つけるのがクソ下手。星図をつくるのが難しくて難しくて。目は良いはずなんだけどなあ。


はじめてのじゅぎょう04


魔法史って、私からするとファンタジーの物語みたいなものなんだ。私が特別授業熱心なわけじゃないんだ。想像の中の生き物が動いて歴史をつくっていたり戦いをしていたり種族が絶滅していったりする話を聞いたら楽しいだろ。それと同じなんだよ。ヨーロッパ史とは違うんだ。
ビンズ先生がゴーストだって言うのもポイントが高い。ファンタジー性に拍車をかけている。
この授業だけはノートにまとめたい。そう思ったので、羊皮紙に要点をメモして、念の為に持ってきた横書きの大学ノートに書き写すことにした。詳しい小話が知りたくてビンズ先生のところに行ったら、名前は憶えていませんがあなたと同じ目をした生徒が同じことを訊きに来たような気がしますねって言われてそれいつ?え?マジで?それネエロ?って思ったけどこのゴースト先生は生徒の名前もまったく憶えていないから、色だけ憶えていたのも奇跡的だったなあと思い直して追及するのをやめた。百数年前の話とかを持ち出されても困るしね。
魔法史のノートは、魔法史というより私だけの秘密の物語みたいな感じで―――あっやめようこの響きなんか黒歴史。
なんとなく雰囲気を出したくてカッコいい文字でイタリア語でノートのタイトルを書いてみたらパンジーにナニそれ日記?って言われたけど渡したらあんたほんっとに変わってるわねって言われてしまった。許せ。


はじめてのじゅぎょう05


私の胸は高鳴りっぱなしだ。強烈なニンニクの匂いが鼻を突くけど、それすらも気にならないほどの高揚。
「そんなにプロシュート先生が楽しみなの?」
その選択肢にクィレル先生がいないことに全私が涙。ないけど。
「だって、だって噂のプロシュート先生よ?気にならない?」
「気になるっていうか……、……」
そうだね。向こうからプロシュート先生が歩いて来たら、私、パンジーの手を握って目を閉じて見ないことにしてたからね。すれ違ったわよ、って教えてもらって目を開けたらまだすれ違いきってなくてうおあああパンジー!!!てびっくりして跳んじゃったのも良い思い出。
しかし、今日でプロシュート先生は解禁だ。先生は開襟。私は解禁。
現れたターバン姿の教師と、その後ろからかつんと靴音を軽く立てて教室に姿を見せた、衰えることなきその美貌。かっけえええ!若い。そして若い。いくつだよ。見たことあるけど、どの年齢かはわかんないな。29歳ではないのはわかる。
「や、や、闇の魔術に対するぼ、ぼ、防衛術を担当する、クィ、クィリナス・クィレルです」
「俺はクィレル教授の助手を担当する―――」
プロシュートは名前の次に知らない家名を挙げたけど、私は何より衝撃を受けた。プロシュートって、名前、だったの。
いやほら、だってギャングは過去とかぶっちぎってきてるひとがいっぱいっていうかそれがほとんどだから、ブチャラティたちは特別なんだよ。リゾットも特別なんだよ。ああでも今さらの驚きか。メローネもギアッチョもイルーゾォもホルマジオもソルベもジェラートも名前だもんな。でも!彼らは!名前っぽいじゃん!!
「(プロシュートって名前だったのか……)」
小さくない動揺が胸を揺らした。けど、点呼、じゃなかった出席確認ではちゃんと返事が出来たよ。私、大人だからこれくらいできないと恥ずかしいよな。この中の誰よりも年数生きてまーっす!!
授業が始まって、感心してしまった。
さすがスリザリン、女子のアピールがあからさまじゃあない。上品だ。
たとえば、クィレル先生が「羊皮紙が足りない人はプロシュート先生のところに取りに行ってください」(直訳)と言うとすると、きちんと自分の羊皮紙を2巻きくらい使ってからプロシュート先生のところに取りに行く。渡されて、丁寧にお礼を言って、最高に可愛い笑顔でフィニッシュ。11歳ながらその手腕、将来が期待されますね。
あ、私は羊皮紙なくなったけど、自分からあえて近づくこともないなって思って、提出用じゃない羊皮紙の裏に書いたよ。どうせ部屋に戻ったらノートに書くんだからどこにメモしたって変わんないさ。
などと思っていたらクィレル先生が生徒の進み具合を見回りに来て私ピンチ。周りの生徒よりも数枚足りない羊皮紙の枚数に首を傾げたクィレル先生。
「ミ、ミスポルポ、あ、あなたは羊皮紙が足りていますか?」
「えーっと、この調子で行くと、足りてます」
「し、し、し、失礼」
ぺらり、とクィレル先生が、乾かしている最中の私の羊皮紙をめくった。表と裏にインクで書かれた黒い文字。
「……」
「……」
クィレル先生が静かに戻した。吃音もなく私を微妙な眼差しで見下ろして、私も羽根ペンを置いた。
「ミスポルポ、に、荷物と枚数をさく、削減したいのはよくわかりますが、い、いつ提出を求められてもた、対応できるようにしてくださいね」
そっとプロシュート先生を示されたので、あえて近づかないこともないなって思って立ち上がったよ。でも先生が言ったんじゃん、これは初めての授業なのでペースをつかむために教科書の内容を要点だけまとめる練習をしましょうね、って。先生が!言ったんじゃん!
「羊皮紙2巻きくださいー」
「2巻きで足りんのか?3巻き持ってけ」
「はーい」
なんという気遣い。これが漢ってやつなんですか兄貴?

教室から出ようと、黒板の文字を消しているプロシュート先生(チョークの粉がローブに降ってこないのかなと思ったら杖で動かしてたうわあああ魔法だああああ)の横を通る時、パンジーが耐えきれないというふうにけらけら笑った。
「あんたホント、変わってるっていうかバカね!ふつう、羊皮紙の裏に文字を書こうなんて思わないわ!バカね!」
「そんなに褒められると照れる」
「うっふふふ、褒めてないわよバカ!」
笑ってるよパンジー。