ハロードーン
抱っこされながら医務室に運びこまれるとか、どんな羞恥プレイだよ。深夜だったっていうのが救いだわ。抱っこが嫌なんじゃなくてね、隣にダンブルドア校長先生とスネイプ先生がいて、抱っこされたまま医務室のベッドに連れられてね、座らされたっていうのがね、精神年齢ななじゅう、ああやめよう。
「あぁ!怪我をしてやってくるのはあの子だけかと思っていたら!あなたもですか!」
あの子ってホルマジオのことですかね。マダム・ポンフリーはぷんすかしながらペッシに私を任せて、意識を失っているハリーくんにとりかかった。
ペッシは私のブラウスのボタンをぷちぷちと外して(全然照れなくなったんだねって言ったら、今のポルポ相手に照れてるほうがおかしくないかな?って返された。そうだね、11歳の少女のシャツをはだけながら照れてたらおかしいよね)打ち身の様子を確かめた。痛いなと思っていたらやっぱり嫌な色になっていて、魔法のおくすりをぬりぬりされてしまった。痛いから触らないでって言いたかったけど大人だから言うのをやめたよ。治療だから仕方ないのは知っている。この間、リゾットはカーテンの外に出されていた。「リーダー、教師としてそれはダメだよ」って言われてて笑った。
足首の捻挫には湿布が一枚と、それを固定するためにきつく包帯を巻かれた。どれくらいで治るのか訊ねたら、明日にはよくなっていると思うよと言われたので安心した。早く動けるようになりたいもんね。だって医務室のごはんって想像できない。いっぱい食べようとしたら怒られそうだ。マダム・ポンフリーは厳しいってよく聞くし。
怪我とその原因について書類に記入する決まりらしいのだけど、この場合は怪我の原因をなんて書いたらいいんだろう。クィレル先生に突き飛ばされました、って言うのもクィレル先生もうこの世にいないしな。ペン先を紙にくっつけたまま考えていたら、「転ばされた、でいいよ」とペッシがヘルプを入れてくれた。そんな可愛い理由で良いんだ?
さあ、灯りを落としますよとマダム・ポンフリーが苛立ち混じりにダンブルドア校長先生をせっついた。リゾットももちろん出なくちゃいけないんだけれど、ダンブルドア校長先生がマダム・ポンフリーと少し会話をしている間に、ベッドに寝ている私の頭を一度撫でた。撫でるだけで終わりかなと思っていたらその手があまりにも自然な動きで頬に滑ってきた。お前ここ医務室だしカーテンの向こうには教師が3人とペッシがいるぞ。
リゾットからしてみると、少なくとも22年ぶりの触れ合いなわけだ。気持ちはわからなくもないし私も体温気持ちいいよーとかそのまま寝たい。リゾットアロマに包まれながら寝たい。すんげえ安眠できそう。駄菓子菓子、だがしかし。二度目になるがここは医務室でカーテンの向こうにはダンブルドア校長先生、スネイプ先生、マダム・ポンフリー、ペッシがいる。あえて今じゃなくてもいいだろ。もっとのんびりしようぜ。
と、いうことで私はへらーっと笑って、私の頬を包んでいる(これがマジで私今11歳だから包んでる感じなんだよ)リゾットの手に自分の手を重ねておいた。手を繋ごうとしてくれたのか、ちょっと頬から手のひらが離れて、あぁっもったいないよおもっと体温うあああと恋しくなったので手で軽くとどめて、すり、と頬ずりをした。ごめん気持ち悪くて。でも体温がベネ。
「ネエロ、今のミスポルポは生徒だということは承知しているな?」
「……」
一拍。
「当然だろう」
その間。マダム・ポンフリーが言葉の意味に気づく前に、リゾットの手はするりと私から離れた。私が唇の動きだけで「また明日ね」と言うと、ゆっくり瞬きをしてから頷いて、カーテンの隙間から出て行った。猫なの?
「あっ」
一個忘れてた。歩き出そうとしたダンブルドア校長先生の衣擦れの音を呼びとめる。すみません、校長先生、ひと言だけ。マダム・ポンフリーの苦言をいなしたダンブルドア校長先生は、いやいいやもうめんどくさい、ダンブルドアはカーテンの内に入ってきた。
「どうしたんじゃね?」
「年度末のことです」
私が思い出したのは、この学校は寮への加減点を行なっているのだということだ。あんまり馴染みがないから忘れていた。「ミス(ミスター)ホニャララ、ン点加点(減点)」は聞きすぎてもうBGMみたいなものだ。
「今回のこと、私は関わっていないことにしてもらえませんか」
「ふむ……なぜかね?君の受けた苦痛は、その忍耐を評価すべきものだとわしは思うのじゃが」
なぜと言われると単純だ。私が目だった加点をされることは、今年一年、あまりなかった。ゼロだと思う。加点もされなければ減点もされない、平平凡凡な生徒だ。
平凡を愛する、というわけではない。ただ、必要以上に目立つ必要はないだろうと思うだけだった。
「(敵に捕らわれて暴力を受けた女子生徒なんて、ヒーロー活劇には必要ないだろ)」
それがヒーローにとって大切な人物ならまだしも、違う寮のなんか知らん友達の知り合いだなんて面白くないし。
「君がそう望むなら、わしは君を名指しして加点することをやめよう」
「(引っかかる言い方だな)」
ダンブルドアの意思がどこにあったのかを私が理解するのは、寮杯のゆくえに生徒が固唾をのむ、まさにその時だった。
312点だったグリフィンドールに駆け込みで170点が加点されて一転1位に躍り出た。完全に勝利したと思っていたスリザリンは愕然として、もう言葉も出ない。
「進む勇気もあれば、動かぬ勇気もある。大切なもののために"動かない"ことを選ぶことは、時になにより難しい」
おいおい爺さん何を言い出すんだい、と、寮杯獲得に湧いていたグリフィンドールがしんとした。私はカボチャジュースをくぴくぴと飲みながら、名指しして加点しないってこういうことか、とダンブルドアの狙いを理解した。私個人に加点しない代わりに、私のために異常を報せた彼らにねぎらいを送るのだ。
「結果は揺らがん。じゃが、わしはあえて加点しよう。スリザリン、彼らのために9点」
どんでん返しで谷底に突き落とされるかと思ったら落とされなかったでござる、と拍子抜けしたグリフィンドールは、この空気に、騒ぎ立てていいのかどうしようか困惑したようだった。私も困惑している。ダンブルドアこの空気どうするの?私以上に空気読めてなくない?
ダンブルドアがひとつ手を鳴らすと、緑一色だった旗が赤色のそれに変化した。ようやく、グリフィンドールが再び歓喜の声を上げ始める。
一方スリザリンは、負けたことは悔しいんだけど9点加点されたやつ誰だよ、この疑問で全員の思考が一致した。
私の意思とダンブルドアの意思がぶつかった結果の好々爺の折衷案は、彼らには正しく伝わっているだろうけれど、誰もが点数に興味を示さないタイプなので、もしかしたらアホらしいと思っているかもしれない。私は加点をねじ込んできたダンブルドアに驚いたよ。そこまでするかな、普通。あ、私たちはひよっこの1年、2年、3年生だから、どんな形であれ働きは点数で報われるのだと教えたかったのかな。なるほどそれなら頷ける、ような。
「ちょっと」
パンジーに小突かれた。
「あれあんたたち変人組の話じゃないの?」
変人組とは。
「あんたと、あの残念なイケメン集団のことに決まってんでしょ。……ま、いいけど。あたしに隠し事なんかできないって憶えておきなさいよ」
「心配してくれてありがとうね、パンジー」
「ばっ、……ふん、どうせ加点させるなら、あんな中途半端な点数でグリフィンドールに寮杯を獲らせるより、ガッと100点入れさせなさいよね。じゃないと怪我のし損じゃない」
ほっぺが赤かった。
ホグワーツ特急の出発までそれなりの空き時間ができたので、魔法薬学の教室を訪ねた。奥の扉をノックして名乗ると、不機嫌そうなスネイプ先生の声で入室が許可された。入ると、ひんやりした教官室にはスネイプ先生しかいなかった。夏、窓もないのにこの涼しさは魔法のクーラーでもあるんだろうか。
「帰りの準備はできたのかね?」
「はい。ここは寮監のスネイプ先生に挨拶するべきかなと思いまして」
スネイプ先生は羽ペンを置いて、私のほうに身体を向けた。イギリス紳士だからきちんとしているのか、スネイプ先生が几帳面な性格なのか。
「殊勝な心がけだ、と言いたいところだがね、私は―――」
「"私"?」
英語なので、もちろんすべて"I"なのだけど、私はニュアンスで判断している。いま、スネイプ先生は自分のことを"私"と言った。今までは"我輩"だったと記憶しているのだけど。
言葉を拾い上げてスネイプ先生に近づく。先生はチッと舌打ちでもせんばかりに顔をしかめて、額を押さえて俯いてしまったので、足元にしゃがみこんで下から覗き込んだ。眉間に、顔全体に、全身に"不愉快だ"と書いてある。そんなに嫌がらなくても。
「先生は普段自分のことを"私"って言ってるんですか?"我輩"はポーズなんですか?」
「……ミスポルポ、その質問に"我輩"が答えることは、いったい"我輩"にどういうメリットをもたらすのかね?」
「先生と私の距離がぐーんと縮まって、先生は私ともっと楽しくお話ができるようになります」
「貴様と楽しくお喋りをしたことは今までに一度もないが」
「そうでしたか?」
だんだん自分の言動が幼くなっているような気がして、話しながらちょっと恥ずかしくなった。もう少し大人っぽく喋りたい。あ、イタリア語ならイケる気がする。でも11歳だからこちらのほうが自然かな?私が11歳の精神じゃないっていうことは、彼らと、うーん、ダンブルドアは察しているかな?まあ、察されていても見た目は11歳なんだからしらをきればいい話だ。
スネイプ先生はどうだろう。メローネのことを稀代の天才(お近づきになりたくないタイプ)だと評しているということは、年齢については見た目通りに受け取っているのか。
しゃがんでいると足がしびれる。
よっこいしょと立ち上がって、嫌そうに私を見ていたスネイプ先生に笑ってしまった。そんなに嫌がらなくても。
「先生」
じろりと、剣呑な目つきで視線を合わされて、私はやっぱり笑ってしまった。だってスネイプ先生、生きた年数で言えば、私よりずっと年下なんだもん。
生徒相手に大人げないとか、相手は一回り以上年下だぞとか、そんなことは関係ない。私は自分で思っているよりスネイプ先生のことが好きみたいだ。
「私、先生のこと好きです。また来年も、再来年も、私が卒業するまで、よろしくお願いします」
スネイプ先生は、ぴ、と片眉を跳ね上げた。
「おっと……列車の時間が来ちゃうので、このあたりで失礼しますね。お邪魔してすみませんでした」
良い夏をお過ごしください、と言い添えてきびすを返す。そうそう、夏だし、もう帰るだけだし、私はローブを脱いでいる。ふわりとゆるく絞られた半袖のブラウスと、11歳だから許されるような明るいパステルカラーのスカートにしか見えないキュロット。くるっと回ると広がるし、ぺらりとめくるとパンツも見えるよ。
失礼しました、と部屋を出ようとして、「ポルポ」と背中に声がかけられた。振り返ると、いつも通り皮肉っぽく口元を笑みにゆがめたスネイプ先生が、片腕を机に載せて指を組んでいた。
「"よろしく"をするのは君だけだ、ミスポルポ。もしも君が、魔法薬学という我輩の授業に、これから6年間ついて来られれば、の話だがね」
私はちょっとだけぽかんとして、それから嬉しくなった。
教師とこんな距離で、こんなふうに話をしたことはなかった。返事を期待していたわけでもなかったし、まさかこんな優しい"See you again"が待っているなんて思わなかった。
「はい、先生!」
きっと私の表情はバカみたいに明るかったのだろう。スネイプ先生は、ふ、とため息をついて、さっさと行きたまえと言って身体を机に向けた。私は扉を開けて、教室を抜けて、廊下に置いてあったトランクを持ち上げた。
帰りの列車の中で私が何をするかというと、もちろんお菓子を食べまくるのだ。大鍋ケーキどんとこい。3つ買って、1つはギアッチョとイルーゾォとホルマジオが分けて食べる。1つは隣のコンパートメントにいるソルベとジェラートとメローネが。メローネがコンパートメントを分かれたのは意外だったけれど、ソルジェラはナニで彼を釣ったのかな。
カエルチョコのカードは、みんなで見せ合って、全部をホルマジオが引き取っている。前も瓶とかいっぱい集めていたし、ハマったのかな、カード収集に。
「ねえ、ホルマジオとイルーゾォは去年入学して、新任のネエロ先生とプロシュート先生とペッシ医療事務を見てどう思った?」
イルーゾォは水のボトルから口を離して(カボチャジュースは口に残るから嫌なんだってさ)、どうってお前、とまぶたを半分くらい下ろした。
「そもそもその前に、ソルベとジェラートが魔法学校に入学するって聞いて意味がわかんなすぎて1年間魔法界について調べまくってたから、そんなに驚かなかったよな」
「まさかリーダーが純血貴族の名家の当主だとは思ってなかったけどなァ」
「あれは笑ったっつーか引いた。プロシュートならまだしも、リーダーってそんな柄じゃねえだろ」
私も腹が引きつれるかと思うくらい腹筋使ったよ。
「魔法魔術学校に就職するっつう選択も、スタンド使いだった自分らが魔法使いとして生まれたなら、まだ入学した形跡のねぇ俺らもそーだろうなって予想した結果だしよお」
「ソルベとジェラートが半年くらい"ネエロ先生"の響きに毎回爆笑したもんだから、ソルベとジェラートが出席する授業にはリーダーが出ねえようになったんだよ」
やっぱりブラックリスト入りしてたか。
ホルマジオが百味ビーンズの箱に手を突っ込んだ。ピンクの粒をつまみあげて、どうするのかと思ったら隣にいるイルーゾォに渡した。いらねえよ自分で食え。俺の勘が言ってんだよ、こいつァ不味いってなァ……だがよォ、取ったモンを戻すってのは行儀悪ィだろ?不味いのを俺にまわすなっつうの。
なんだかんだで食べてあげるイルーゾォは優しい。くっそまずいじゃねえかこのハゲ!!って言いながら思いっきり足を踏んでたけど優しい。何味だったんだろう。これをつくったひとは百味を整えるために試食をしまくったのかな。それか完全にお遊びでつくっていて、もうどうでもよくなってるのかな。こだわりを持っていてほしいという希望。
イルーゾォは水で口をリセットしようとして、どれだけ飲んでもどうしても味が消えなかったようでげっそりした顔になった。気を紛らわせるように口を開く。
「はあ……。驚いたって言うなら、リーダーが一番驚いただろうぜ」
リゾットか。それもそうだね、私たち3人が入学して全員が揃ったんだもんな。
「違ェよ」
私が百味ビーンズの箱に手を伸ばすと、ホルマジオが苦笑しながら箱を傾けてくれた。ざらざらとこぼれてきたいくつかの粒を手のひらで受け止める。
「じゃあ、リゾットは何に驚いたの?」
ひと粒食べると、牛肉味だった。口の中に広がる茹でた牛肉のフレーバー。これは予想以上においしくない。
ホルマジオは私の手のひらからひと粒取り上げた。黄色のタフィー。指で口に押し込んできたので牛肉の味を口に残したまま食べた。レモンだった。おあああ、牛肉とレモン、合わねえ。
「なんて言うべきだ?俺たちは全員、なんとなくオメーが前とおんなじ、27歳くれェの年齢でフラッと現れるんじゃねェか、って思ってたんだよ」
どんな期待を受けていたんだ私は。やっぱり、私イコールおっぱい、みたいなところがあると思う。今の私ただの没個性な赤目だよね。
「新入生リストに目を通したリーダーが連絡してきて、俺らも驚いたよ。……お前が記憶を持ってなかったら、お前にとってはある意味幸運だったのかもしれねえな」
「どういうこと?みんなのことを忘れてる、んー……知らない、ほうが幸せなんて、私にはそうは思えないよ」
だって君たちは私の家族で、私は君たちの人生を、君たちは私の人生を、お互いに交換したじゃん。こんな言葉を使うのはおかしいかもしれないけど、私たちがお互いを想っている以上、私たちが出会うのは運命なんじゃないかな。
「……ん、悪い。お前って結構、そういうトコは真剣に考えてるよな」
「私いつでも真剣だよ」
「グッと来た俺の気持ちを返せよ」
「なんで!?」
グッと来たっていうのちょっとキュンとした。グッと来てるイルーゾォをもっと見ておけばよかった。ギアッチョに小突かれた。すみません。
カエルチョコの箱を近づけてくれたホルマジオにお礼を言ってひとつ貰う。ひとつっていうか、一匹……?
これを食べていると野性的な気分になるね。イルーゾォが手足を一本ずつもぎながら食べていたのがすごく怖かったよ。ホルマジオが大鍋ケーキについていたナイフでカエル(チョコ)の腹をぐっさり貫いてめんどくせェからとか言ってまっぷたつにして食べていたのにはイルーゾォがお前コエエよ!って突っ込んでたけどこのコンパートメントにいる3人の心境一致した。お前も同じだよ。
それで、どうしてそんな、記憶がなかったほうが幸せ、なんて言うのさ。
「オメーよォ、リーダーがいくつか知ってっか?」
「22歳でしょ」
「オウ。オメーいくつだ?」
「ビミョーな気分だけど、11歳よ」
「どっからどう見ても11歳だよな」
「あんたは12歳だけどね」
「うるせえな。12歳のこいつも13歳のソルベとジェラートも見たくなかったよ」
「一ッ番ありえねぇのはメローネが11歳だっつうことだろ。なんっも知らねぇガキの顔して中身がアレじゃあな」
全員、系統は違うけど美少年だからね、見た目に騙されちゃうことってあるよね。中身はアレだけどね。1年生にして忘却の呪文を使いこなしてワクテカしてるかなり危ない変態だけどね。見た目がかなりいたいけな11歳の美少年だからね。もう女の子なんじゃねえのってくらい可愛いからね。頭もいいからもう、年上キラーよね。
忘却の呪文、悪用ダメ絶対。
ホルマジオが背もたれに体重を預けた。脚の開き方が12歳じゃない。イルーゾォに靴を蹴られている。
「リーダー、まあ、少なく。オメーのために22年っつーことにしとくわ」
気になる言い方やめてくださあい!
「リーダーは22年、オメーのことを待ってたワケだ。魔法界は風俗も"特殊"だしなァ。22歳、まあ、……若ェよなァ?」
ナニを言いたいのか察した。
「……あのさ、ホルマジオくん?私はいま、11歳よ?」
「そーなんだよなァー……。さすがに、……オメー、小せェしなァ……腰もなァ……」
「あのさあ……」
なんでそっちなの?え?そっち?普通なの?え?イタリア人そういうもんなの?今の君たちイギリス人?イタリア人?え?
11歳の、うすっぺらい身体。背筋を伸ばして、フウーと息を吐く。ブフウーじゃないよ。
あのね、ホルマジオくん。
「私は11歳で、リゾットは22歳。胸が小さいとか背が小さいとかは関係なく、私の骨格は子供。リゾットは大人。リゾットはもともと、落ち着きすぎるほど、精神面でも大人。もちろんお互いの状況はきっちり理解してるはず」
誰がどう考えてもないよ。
「そういう発想はあるかもしれないけど、すぐ却下するって」
だってそれ明らかにアウトだろ。マグルの倫理でも魔法界の倫理でもアウトだろ。
ホルマジオは、腕を組んだまま眉根を寄せて唸っている。イルーゾォはちらりと私を見て、何か言いたげに薄く唇を開いてそのまま視線を逸らした。ギアッチョは、あー、と眼鏡を押し上げた。
一呼吸ぶん沈黙が降りて、それから3人が同時に頷いた。
「そーだな。ねぇな」
「あーあー。ねえ。ねえな」
「悪ィ、ねェーわ」
逆に不安。
駅での別れ際に、メローネが私のブラウスの裾を引いた。かわいい仕草にきゅんと来てハグしたら、そのまま、私の肩口に顔をうずめたまま喋り出した。
「ポルポの家の暖炉って、煙突飛行ネットワークに繋がってる?」
「つながってない」
魔法界のことを知ったのも今年、いや去年だもんな。暖炉を見てなにかを思い出しかけたのはこれか。便利なシステムもあるものよねえ。
「じゃあ住所教えて。俺たち、休みの間行く」
「うん。えっと……嫌だったら言わなくていいんだけど、みんな親御さんは?」
メローネの腰に手を置きながら、メローネを含めて、その場にいる6人に問いかける。家族とか家の話なんて、そういえばする機会がなくてスルーしていたけど、リゾットが純血貴族(ダメだなんかこの響きがリゾット・ネエロとマッチしなくて笑ってしまう)だというトンデモがあるくらいだから、彼らもなにかあるんじゃないだろうか。純血、なんだし。
「純血の家だしなァ、もちろんいるぜ、知らねェオッサンだから馴染まねェし馴染む気もねェけど」
「俺も俺も。弟に期待がかかってっから、俺は学費だけもらって放置されてるけど。いっそそのまま放逐してくれたらやりやすいのにな」
「ちょ、ちょちょちょ、え?弟?え?」
イルーゾォの弟っていったい。イルーゾォはあぁ、とまったく変わらず肩をすくめた。ソルジェラが笑う。女王さん動揺しすぎ!そりゃ動揺するだろ。
「そのうち入学してくるんじゃねえ?あー……何歳か忘れちまったけど」
マジか。気になるわ。弟のほうが期待されてるってもう、気になるわ。イルーゾォの白け具合と言い、良い家庭環境じゃなさそうで気になるわ。ごめんね。
「俺は去年母親と父親が死んだからね。ギアッチョの家に転がり込んだんだよ」
「えっ、そういうことできるの?純血同士のつながり?」
「そ。母親がギアッチョの母親と義姉妹のちぎりを交わしたんだってさ。好きに生きようって思った矢先に引き取りに来られてさあ。言っちゃ悪いけど迷惑だよな」
言っちゃ悪いとは思ってなさそうな声だ。
「つまり俺とメローネは、実質上の……チッ……きょうだいっつーことだ」
わあ凄い嫌そう。
ホルマジオはソルジェラから受け取った紙片に、トランクを台にしてなにか文字を書いている。そのままの体勢でギアッチョに続く。
「あァー、ギアッチョんちは俺ンちと絡んでんだよなァ。貴族っつっても末席だがよォ、会合かパーティーかに出る時着飾るだろ?ギアッチョんちは母ひとりだから、俺ンちの親父がちーっと世話してンだよ。……ただそんだけじゃアーねェだろーが」
「純血同士なんてどっかしら繋がってんだからよお、その気持ち悪さに気づかねえのが不思議だよなあア?」
「だよなあ!俺らのトコもヤバいぜ!聞いてくれよ女王さん」
ジェラートとはやけに楽しそうだ。とんでもない爆弾を落とすつもりじゃなかろうな。たとえば、ソルベとジェラートも一家の大黒柱だ、とか。ああでもそういう噂は聞かなかったか。
メローネが離れてくれないので、そのままの格好でジェラートに顔を向ける。その隣にいたソルベが、自分のカートの小さな車輪に足をかけた。
「俺らの家は、系図で言やあ正反対なんだけどな。父親がジェラートんトコの母親と。母親がジェラートんトコの父親と」
「関係を持ってんだぜ」
「……ええええ!?」
びっくりして全員を見回したら、周知の事実だったようで、6人ともがそいつら頭おかしいよな、と頷きを返してくれた。どういうことなんだ。
「ぶっ、くくく、めっちゃ驚いてんなポルポ」
「これ、いつ言おうかタイミング図ってたんだよなあ!予想通り目ぇまんまるくして驚いてくれて嬉しいぜ!」
まんまるくもするわよ。どんな不倫の仕方なんだ。血が離れてるからヨカッタネーなんて問題じゃないぞ。これ、ソルベとジェラートが記憶持ってないただの13歳だったら精神荒みきってるぞ絶対。この2人だから、いや、この6人だから自分たちの境遇を笑い話にできるのであって。
メローネは私の匂いをすはすはと嗅ぎながら(やめてー)あははと笑った。
「そういう意味ではプロシュートとペッシは身軽だよな。兄弟2人混血で、レイブンクローだもん」
「(レイブンクローだったの……)」
ペッシはスリザリンっぽくないなと思ったけど兄貴もか。確かに、スリザリン、という感じはしない。グリフィンドールに振り分けられるには冷徹で、スリザリンに行くにはその魂の置場が違う、そんなイメージだもんな。折半してレイブンクローは妥当か。
ハッフルパフ生がいないなあ。私はどちらかというとのんびりが好きだし楽天的だし、ハッフルパフに組み分けされそうだったけれど、どうしてだかスリザリンだ。
「10人で4つの寮をコンプリート出来たら面白かったかな?」
「それはそれで面白えなー」
「けど、まあ、さ。女王さんはスリザリンだろ」
「オメーはどっちかっつうと、俺ら側だしなァ」
どういう反応をするべきなのか迷っていると、ホルマジオがぴらりと、さっきまで何かを書きつけていたメモ用紙を私に渡した。見ると、5軒分の住所が書かれている。
「ふくろう便なんかを送る時に使えよ。お前の住所は憶えたから、あとでリーダーたちにも伝えとく。煙突飛行ネットワークの手続きは、明日から申請するとしてだいたい一週間かかるから気をつけろよ」
「オメーのことだから帰ってすぐにやるんだろうけどよお。気ィつけろよ、羽ペンとインクじゃねぇと受理されねえぞ」
なにその魔法社会住みにくい。
いくつか教えられた注意事項を忘れないように心掛けて、私たちはようやく帰路についた。
はー、やることはたくさんあるなあ。
「(まずネットワーク登録して、それから……)」
早いうちに、自分が純血のどの位置に属しているのかを調べねばならんね。入学した時に、「君の家の噂は聞いているよ」と言われたような気がするのだけど、魔法魔術の研究のために世界を飛び回っていた血族って。
貴族的には野蛮でアウト、かもな。
あ、パンジーのアドレスはゲットしたよ。夏休みに手紙送るねって言ったら、あたしのPはきちんと書きなさいよきちんと、と念を押された。私は真面目に書いてあのPなんです。