ハローティータイム


たぶん、リゾットもわかってて遊んでるんだろうなって思った。
なぜかって、ホルマジオに付き添って医務室に行ったらマダム・ポンフリーが不在でペッシが治療をしてくれたんだけど、わざと靴音を立てて入ってきたプロシュート先生が私とホルマジオとペッシを順に見て、ホルマジオテメー何度目だ、あぁ?と柄悪く絡んだからだ。ふつう教師は生徒にそんなふうに絡まないし、絡むとしても、そこに無関係な人間がいない場合だ。この状況における無関係な人間イコール私。つまりプロシュートが"先生"の時とは違う声音、雰囲気でホルマジオに話しかけたということは、私が無関係でないと知っているということだ。なあんだばれてたのか。
「俺は疑ってただけだったが、ペッシが気づいたんだよ。こいつは間違いなくテメーだってな」
「ペッシたんすごい!」
「でも、兄貴の方がもっとすごいんだよ。レポートのPの書き方を見て、もしかしてポルポに記憶があるんじゃないかって疑念を持ったんだもん」
「オメー、P書くとぎこちなくなるもんなァ」
うっ、やっぱりポルポのPですか。プロシュートのPでもありますからね。ペッシのPでもあるしね。へたくそとは言いたくないけど決してうまくはないんだ。Pは難関なんだ。
そんなこんなでリゾット以外の全員に身バレしているわけで。ということはリゾットが気づいていないわけはない。ソルジェラはニヤニヤ笑って、リゾットが動くまで続けようぜって言ってたけど、これ知らんぷりしてる私が痛々しくないかな。まあリゾットも遊んでるんだし、いいか。
8人全員満場一致で知らんぷりゲームは続行されることになった。プロシュートはともかくペッシまで笑っていたのは意外だった。
「リーダーとは職員室で話すことが多いから、いまリーダーが知らんぷりを続けてるんだって思うとなんだか面白くって」
だ、そうだ。

朝起きてご飯を食べに広間に行ったらなんかザワザワしてた。ホグワーツ七不思議でも始まるのかなと思ったら違った。グリフィンドールが一夜にして150点を失ったらしい。おやおや大変ですねえとご飯を食べて授業を受けて、昼休みは寒空の下で楽しもうかなとランチボックスにサンドイッチとかチキンとかを取り分けて廊下を歩いていたらハーマイオニーちゃんがこっちの方向に向かって向こうから歩いてきたので手を振った。なんか2人の少年も一緒だけど私の目的はハーマイオニーちゃん。
「ハーマイオニーちゃんお久しぶりー。あと、えーっと……こんにちは。あのさ、今日のランチ、チキンとエッグのサンドイッチがあったから、せめてそれだけでも食べたほうがいいよ。味見したんだけどすごくおいしかった」
「ポルポ……」
「うん?」
おいハーマイオニースリザリンのやつと話すなよ、と赤毛の少年が嫌そうに私から遠ざかった。スリザリン生には他の寮生が近づいてこないアロマでも焚き染められてるのかな?そっちを見ると、丸眼鏡の少年が赤毛の少年に引っ張られている。ハーマイオニーちゃんは私を見て、ちょっと目をそらした。なんか私やっちゃったっけ?授業で目が合ったらニコッと微笑み合うというお嬢様学校の生徒みたいなやりとりをしているだけだったよね。ロサ・キネンシスさまー。
「……知ってるんでしょう?」
「減点のこと?」
「えぇ」
そりゃみんな話してるからね。
赤毛の少年に、寮杯が近くなってスリザリンはご満悦かよ的な野次を飛ばされた。すまん私は寮杯とかどうでもいいんだ。要するにあれってよくできました賞の規模がデカい版ですよね。たぶん私と、私の周りの6人は全員どうでもいいと思ってるだろうよ。自分の寮のためにそれほど一生懸命になれることは尊敬するけど、魔法界との馴染みが浅いからか、もともと身内以外からの評価をそれほど気にしない性格だからか、はたまた人生三周目だからか、加点減点にはこだわりがない。すまん、少年少女たちよ。私に対する加点減点は目立たない範囲におさめておくから、どうぞ私を抜きにしてやってください。そんな感じだ。やったあ寮杯とったあああというより、すげえこの子たち寮杯とってるかっけええ、という。
彼女は私にどう反応してほしいのかな。私は知り合いに会ったから挨拶と世間話を持ち掛けたつもりだったんだけど、この空気。
「ねえ、君は―――」
「やめろよハリー、スリザリンだぜ」
「待って、ロン。君、ポルポだよね。ネビルといっつも魔法薬学でペアを組んでる」
「うん、私はポルポだよ。えーっと、ハリー・ポッターくんでいいの?ごめん、話でしか聞いたことなくて顔と名前がうまく一致しなかった。なんて呼べばいい?」
丸眼鏡で黒髪でひょろいってことしか憶えてなくて、飛行術の授業の時もだいたい私は校舎を眺めながら雑念に埋もれているので、スマヌ。クィディッチは双眼鏡を持っていないから見えなかった。これが初対面だし、本当にそうかな?って自問してしまう。
どうやら本当にそうだったらしく、ハリーって呼んで、と頷かれた。ポッターって言われるとマルフォイとかスネイプに呼ばれてるみたいでむずむずするから名前で呼んでほしいそうだ。スリザリン、というくくりで話をしなかったのは私に気を遣ったのだろう。11歳の少年に気を遣われてしまった。ありがとう。おねえさんはドッキドキだよ。
「僕たち、ハーマイオニーが君のことを知っていて、君の友達とも話したことがあったから、ある事で君の友達に助けてもらったんだ。それで、前から僕、君のことが気になってて……、いつもすごくお腹が空いてるって本当?」
「うん。今これお昼ご飯を持ってるけど、これでもまだ足りないよ」
どんな気になり方なんだ。大きめのバスケットをちょっと持ち上げて示すと、うわあとハリーくんが呟いた。今引いた?少年の素直な反応で心が痛い。赤毛の少年は、どこに入ってるんだよと私の身体を上から下までまじまじと見た。胃袋だよ。
あと私の友達が君たちを助けたってナニ?誰?どの友達?パンジーなわけはないから、同年のメローネかギアッチョかな。どちらも一筋縄では行かなそうだし善意から他人を助けるようには思えないんだけど、さすがにそれは彼らに失礼か。
「ねえ、……君とネエロ先生って、その、親戚じゃないんだよね?」
「家系図がないからわからないけれど、先生がなにも言ってこないってことは、違うんじゃないかな」
それはそれで面白いですけどね。近親なのか遠縁なのかは知らないけど、ただしく純血同士が交わってしまいますね。あ、リゾット・ネエロさんは純血だそうですよ。貴族。ネエロ家の当主。ネエロさんちのリゾットくんが当主。だからスリザリンの生徒にも一目置かれているようだ。ドラコくんがパンジーと私に話してくれたことによると、ドラコくんのお父上、マルフォイ家の当主さんともそれなりに付き合いがあるらしい。クリスマスパーティに招待されたこともあるんだってよ。もしかして今年のクリスマスも行ったのかもね。見かけないなあと思ってたけどもしかしたらパーティに出席してたのかもね。うひゃあ純血貴族のパーティやべえ。ネエロさんちヤベエ。
私たち10人は周知の事実として、元々ネエロ家と親しくしていた末席の純血家系がそれぞれ離散して、そしてまたホグワーツで出会ったということになっている。ネエロ家だからなって納得されてしまうネエロ家ヤバい。
「君の、その目って……あの、気を悪くしないでほしいんだけど、例のあのひとも赤い目だって言うけど、その、なにか関係は……」
「ハリー、その訊き方じゃ、関係があってもなくても答えづらいわ。例のあのひともネエロ先生もポルポも純血だし、純血を保つために近親での婚姻を結んで続いてきた家系では突然変異が起こりやすいって聞いたことがあるから、例のあのひとがどうだかは知らないけれど2人ともそうなんじゃないかしら」
これでリゾットが例のあのひとの親戚とかだったら笑うな。ラスボスよりもラスボスっぽすぎて笑う。リゾットって絶対、例のあのひとが彼を忠臣として重用しても無言で従っているけど、いざ気にくわない命令をくだされたりもう従っている理由はないなって思ったら返す刀でざっくり主を殺すだろうしな。武器は杖じゃなくて刃物。至近距離からスパーン。
「私は突然変異だと思ってるよ。もし例のあのひとと関係があったら、ダンブルドア校長先生が教えてくれるんじゃないかな?」
「それもそうだ」
赤毛の少年がこくりと頷いた。ロンくん素直。
「それで、あの、……そのネエロ先生のことなんだけど」
「うん?」
「ネエロ先生ってスネイプの助手だよね。その、……スリザリンの君から見て、スネイプとネエロ先生に変な点ってない?」
え?2人とも属性が闇っぽいとかそういうこと?
「違うわ、ポルポ。あなた前に、クリスマス休暇の間に教官室に呼び出されたって言ってたわよね?」
おう。単語のつづり間違いでな。
「その時、2人になにか訊かれなかった?たとえば、それこそあなたの家系や親戚についてとか」
「さあ……。ただ、クィレル先生に近づくなって言われたわよ」
ハーマイオニーちゃんたちは、闇属性のスネイプ先生とネエロ先生が例のあのひとを蘇らせてその暗黒の時代を再来させるために、私がかのひとの親戚でないかと探りを入れてきたんじゃないか、と疑っているわけか。さっきハリーくんがそうしたように。
まあ。リゾットはそうだろうとそうでなかろうとどうでもよさそうだし、スネイプ先生は疑いを持ったらダンブルドア校長先生に問い合わせるだろう。直接私に訊くというリスクを負う必要はない。
ごにょごにょと額をつきあわせて相談していた3人は、私に視線を戻して言った。
「僕たち、ハーマイオニーとネビルの話を聞いていて、君のことを彼らの友人で、スリザリンだけど悪いひとじゃないって思ってるから、君に言っておきたいんだ」
「僕はスリザリンなんかほっとけって言ったんだぜ」
「ロンもこんなこと言ってるけど、君の友達の先輩に助けてもらったことがあるんだよ」
誰。友達の先輩誰。ホルイル?ソルジェラ?どっちにしてもどういう状況かわからん。ホルマジオとイルーゾォはそれなりに常識にのっとって行動しているからわからんでもないが、どういう状況なんだ。ナニを助けてもらったんだロンくんは。
3人は真剣な顔で口々に言った。
「スネイプとネエロ先生に気をつけて」
「クィレルに近づくなって言ったのはきっと自分たちにとって都合が悪いからだ」
「ポルポ、なにかあったらすぐ私たちに報せて」
みんな真面目に私のことを思いやってくれているようだったので、私も誠意をもって返答した。
「ありがとう、なにかあったらそうする」
減点の話はどこにいったんだっけね。よくわかんなかったけど、3人が使命感に突き動かされるように頷いたから、私の対応は間違っていなかったんだろう。減点の話はどこにいったんだっけね。
別れ際、チキンとエッグのサンドイッチがおいしいよともう一度おすすめしておいた。あなたって相変わらずね!とハーマイオニーちゃんが笑ってた。大人びた11歳の少女に追いつけない私の世界のスピード。鈍い。
「(つうか……)」
リゾット、お前黒幕の仲間だと思われてるぞ。