ハローヌーン


まったく自慢じゃないし困っていることなんだが、私の身体はかなり貧相。ボンキュッボンだった肉体をかえして!ふわっすとーんぺたーん、って感じ。心なしかおっぱいが年頃にしては大きめ、っていうくらいだね。手首とか細い。同じ部屋だったパンジーに羨ましがられたけど、自分のトランクを持ち上げられなくて段差に苦労していた私を見て、あんたも残念な女子ねって言われた。腕力がないくらいで残念って言われた。

並んで朝食食べに行く?って朝起きて訊ねたら、悪いけどあたしはドラコと一緒にいたいからドラコと一緒に行くってサラッと告げられた。ドラコって誰やねん。首を傾げていたら、そういえばあんたは魔法と離れた生活をしてたんだっけ純血のくせに、と腰に手を当てたパンジーがツンツンしながら教えてくれた。
「マルフォイ家のひとり息子であたしたちと同い年。あたしはドラコが昔っから好きなの」
へえー!身近に恋愛してるひとがいなかったからものすごくテンションが上がった。私君のこと応援する!
パンジーの手を両手で握って言った。もし2人組をつくることがあったり、班で分けられたりすることがあったら、できるだけパンジーとマルフォイくんが一緒になれるようにするね!!
「……あんたって、やっぱり変わってるわね。ま、期待してないけどありがと」
「なんで期待してくれないの?」
「トランクが持ち上げられなくて筋肉痛になってる同い年に期待できるわけないでしょ」
腕力は関係ないだろ。朝からへこんだ。

パンジーが談話室でマルフォイくんにひっついて先に出て行ったので、私も続いて大広間に向かうことにした。朝ごはんガッツリ行きたいね。食に貪欲な日本人、そしてイッタリアーンな国に生まれた女だった身としてはイギリスの料理ってどうなんだろうと不安だったけど、レパートリーが少なくて芋ばっかりだという点を除けばまったく問題ない。最悪、カロリーが摂れればいいから芋だけかじって油飲めばいいんじゃない?油飲んだことないけど。
スリザリンの寮は地下にあるんだよねえ。階段を上るのが億劫だ。お腹もすいていたのでえっちらおっちらゆっくり上っていると、ガッと後ろからものすごい勢いで押された。
つんのめって転びそうになったところを、両側から腕を掴まれて事なきを得る。
「悪ぃ悪ぃ、ちっと勢いづいちまった」
「グッモーニン、ミスポルポ」
見なくてもわかる。ソルベとジェラートの声だ。グッモーニンじゃねえよ。
すたすたと両腕を掴まれて持ち上げられ、床から足が浮く。やっぱり転生しても力が強いんだ?男にしては本当にほっそりしているのにね。廊下におろされて、両手を握られる。一応私たち初対面ですよね?初対面の新入生の手を握って歩く3年生の男子どうなの?え?ていうか今あんたらいくつ?え?ペッシが職員やってるのにあんたらが生徒とかまじでばくしょうものなんだけど。
言いたいことは山ほどあるけど、当たり障りのない挨拶をした。グッモーニンソルジェラ先輩。
ぴた、と2人の歩みが同時に止まった。私も釣られて止まる。ひょろりと背の高い2人を見上げると、2人は私を見て、それから顔を見合わせた。
「ポルポ?」
ソルベが首を傾げた。おっす。ポルポだよ。
「……女王さん?」
「……」
呼びかけられて、一拍開いた。
「は?」
ざあああとつむじ風のように言葉が廻った。でも何を口に出していいのかわからなくて、私は一歩後ろに下がった。
「ジェラー、ト?」
淡い髪の男子生徒を見上げると、その眉がへなりと下がって、そうだぜ、と口元が笑みを刻んだ。
「ソルベ、……って、ソルベ?」
「ははっ、……俺ら以外に、誰がいるんだよ、ポルポ」
私が目をまるくして驚いていると、2人は揃った動きで背をかがめて、誰もいない廊下でそっと私の頬にキスをした。待ってたぜ。
待たれてたのか。なんか、ごめん。

下ろしてくださいせんぱあああいと冗談めかして半分本気でソルベに担がれて大広間に入場(もはや拉致)したからか、心なしかソルジェラを知る生徒は私に同情的な雰囲気だ。
スリザリンのテーブルの前ですとんと降ろされ、腹減ってるかと思ってさあと悪びれない笑顔で、心もち、ものっすごく楽しそうにしながらぽんぽんと2人に肩を叩かれた。
向かいの席にはイルーゾォの面影たっぷりな大人びた眼差しを半目で眇めてソルジェラを見る少年と、その隣で朝っぱらからよくンな元気が出んなァと苦笑するその年頃にしては筋肉のついた剃り込みのハゲ、じゃなかったホルマジオにそっくりな少年がいる。一瞬2人と目が合って、すぐに逸らされた。なにか複雑な感情の籠められた瞳だった。だよね、私も君たちが記憶を持ったままの"マジ"な転生だって知らなかったら、同じ視線を送ったと思う。裏表なく教えてくれたソルジェラは、きっとかなりテンションのボルテージが開かれていたんだと思う。

ソルベとジェラートの隣、ソルベ側に座らされる。向かいにはホルマジオ。ソルベの正面にはイルーゾォ。
ジェラートの前には知らん生徒。でも、ミスポルポ君はこれからの学生生活を苦労すると思うけど気を落とさずにがんばってくれと優しい言葉をかけてくれた。ソルジェラ、お前何したんだ。
パンにジャムを塗っていたら、かなり自然に、ホルマジオの隣にもじゃもじゃ赤眼鏡ギアッチョが陣取った。低血圧ちゃんなのでかなり機嫌が悪そうだ。見ていたら睨まれた。ごめん。
私は入り口とは反対の方向の席に座っている。入り口側から、ジェラート、ソルベ、私。向かいに知らん生徒(ジェラートが3年のエルリックくんだぜと紹介してくれたけどどこの錬金術師だよ)、イルーゾォ、ホルマジオ、ギアッチョの並びだ。私の隣、すなわちギアッチョの向かいの席は空いている。朝食を摂るタイミングは時間内ならみんなバラバラだもんなあと思っていると、私は彼らの顔と挨拶の変化でしか気づかなかったんだけど、やあ、と少し幼い聞いたことのある声がした。あっさり、空いていた私の隣に座る不揃いな金髪、何そのマスク。
「おはよう、セ、ン、パ、イ」
「俺らのが年上だぞ、もっと敬意をもって挨拶しろよ」
「どうしたらいい?もっと取引先の上司に言うみたいにしようか?」
「いらねェよさっさとメシ食え」
しっし、とホルマジオが面倒くさそうに手を振る。ジェラートとソルベはまだなにも口にせず、同じ側の肘をついてにやにやとこちらを見ている。その笑顔の意味はナニ?誰に対して面白さを抱いているの?
「……なんか企んでんの?私のジャムになんかした?」
眉根を寄せて訊ねると、ぶくっ、とソルベが笑いを堪えた。堪え切れなくて噴いた。
「ぶはっ!なんだその発想!!」
「してねえー!朝から絶好調だなポルポ!」
「私じゃなくてあんたらが絶好調なんだよ。朝からテンション高い。いたいけな新入生を、こう、なんか、気遣おうみたいな気持ちはないんですか先輩?」
「気遣ってほしいんだってよ、イルーゾォ」
「レジーナは魔法の授業に不安でいっぱいらしいぜ?なんかアドバイスしてやれよ、ホルマジオ」
そっちかよ。そっちじゃねえよ。いやそっちも気遣ってほしいけど。私は新しい人間関係を築くのが面倒な人間だからそっちも心配だけど。
ソルベとジェラートの言葉に、4対の目が私に向いた。おおそうだったイルーゾォもホルマジオも、たぶんギアッチョもメローネも私が"私"だって知らないんだった。パンにジャムを塗るのに夢中で忘れていた。パン食べていいかな?リゾットの瞳と似たような色の甘いジェルを見下ろしたら、ガッ、と思いっきり肩を掴まれた。メローネが私の身体を自分のほうに向けようとしたのだ。はい、パン食べちゃダメなんですね。
「俺のこと、……呼んで」
抽象的ー!!私が何も知らない女生徒だったらドン引きしてるところだからなミスターメローネ。でも私は前世の記憶を2つ持ってるポルポさんなのでドン引きはしない。ビビったけど。
「メローネたん」
「……ポルポ……」
ぐ、とメローネが唇を噛んだ。おいおい血が出たらおいしくないぜ、と噛み締められている下唇を、むに、と軽く摘まんだ。やべえ柔らけえ。少年。
こういうわけなんですよ、と向かいの席の3人を見ると、びっくり顔だったイルーゾォが怒ったように眉間にしわをつくって、ホルマジオがニカッと苦笑して(歯並びいいよな)、ギアッチョがガンッと膝でテーブルを下から蹴った。やめてオレンジジュース零れちゃう。
「お前かよ!ソルベ、ジェラート、あんたらわかってたなら言えよ!!」
「先輩を呼び捨てにすんなよイルーゾォ」
「減点しちまうぜ?」
「うるせえトリックスターどもが!」
落ち着きなよとエルリック先輩に宥められるイルーゾォ。すみませんとぜはぜはしながら謝って割ってしまいそうなくらい強くコップを握っている。
「オメー、……俺らが列車のコンパートメントの外を通ったの気づいてなかっただろ?あ?」
「し、知らんかった。ごめん」
「……オメーだけ"違え"のかと思ってたぜ。早く言えよバカ女」
それは理不尽だろ。私の代わりにホルマジオが指摘してくれた。オメーも最後まで俺らに言わなかっただろォーが。
「ま、……久しぶり、っつーのが相応しいンかな?」
「そうねえ。また会えて、ディ・モールト嬉しいよ」
この会話全部イタリア語。きょとんとしてるエルリック先輩かわいい。
知り合いだったの?とエルリック先輩に訊ねられたソルベとジェラートは、言語を英語に切り替えて答えた。
「ほら、俺ら9人って家の都合で離散した幼馴染だっつったことあるだろ?」
「そうだね、ネエロ助教授とプロシュート先生とペッシさんもそうなんだってね」
パンに噎せるかと思ったけどそこは食への執着で抑えて飲みこんだ。メローネがせっせと私のためにジャムパンを量産してくれるのでもぐもぐ食べまくっている。たまにメローネにあーんするとニコニコしながらあーんし返してくれる。あんたにまた会えて本当によかった。私もだぜ。
「ポルポは俺らの女王さんなのさ」
「一番年下だけどな。わかるかい?」
「あぁ、わかるよ。親戚に小さい女の子がいるけど、きょうだいたちはみんなその子にメロメロだ。そういうことだね」
納得したらしい。
「ネエロ先生とプロシュート先生とペッシ医療事務はみんなのことを知ってるってこと?」
記憶持ちであることも、自分が転生したことも?言外にそういう意味を含ませて、一番落ち着いているホルマジオに問いかける。イルーゾォはむすっとしてぼそぼそとソルジェラへの毒をコップの中に吐き出している。さっさと水飲めよ。
「知ってるぜェ、オメーとギアッチョ、メローネの入学もな。ただ、こいつらのことは判ってっけど、3人はオメーがここに"いる"ってことは知らねェ」
ホルマジオはフォークでハムを突き刺して、言葉遊びをするように、英語とイタリア語を混ぜこぜにしてニヤリと笑った。
全員に滞りなく記憶があるようなので、リゾットは私たちがホグワーツに入学したということは知っているだろう。リゾット経由で、たぶんプロシュートもペッシも知っている。でも、ホルマジオが言いたいことはこうだろう。9人の状況の把握は済んでいるけど(顔合わせはともかく)、私が記憶を持って転生したことは3人とも知らない、と。
そりゃそうだ。6枚目のパンを食べながら頷く。だってその情報がソルジェラと同期し、ここにいる6人に伝わったのはたった今なのだから。
教師陣の席に3人の姿はないし(リゾットは人混みを避けて早い時間に食事を済ませるし、プロシュートも自分の人気を把握しているから目立たない時間にちゃっちゃか終わらせ、ペッシはプロシュートと一緒に動く、ということらしい)、さて、いつ情報が交わるだろうか。
どうしましょうね、と8枚目のパンを食べ終えて首を傾げると、全員の意見が一致した。
「俺ら全員、しらんぷりするから」
全力でスルーしろと、そういうことですね。


1年生の時間割は寮ごとに違うだけで、科目はまったく同じだ。選択授業は3年からなんですってよ奥さん。へえ。
さらに、スリザリンとグリフィンドールは大概の場合合同授業だ。なんで反りの合わない寮をくっつけるんでしょうか。レイブンクローとハッフルパフのほのぼの空間に混ざりたい。誰だよスリザリンに組み分けされたやつ。私だよ。やだよーお互いギスギスしてるんでしょ?
1、2限の魔法史を終えてのんびり廊下を歩く。当たり前だけどソルジェラは3年の授業に向かったし、イルホル、いやホルイルかな?イルーゾォは受け。ごめん雑念だった。2年コンビは2年の授業に向かった。
地下教室だから湿っぽいかと思いきや、ちょっとひんやりするだけで特にそんなことはなかったぜ。そりゃそうだ。材料(って言っていいの?)の保管はきっちりやらないと調合に支障が出るからね。お察しの通り魔法薬学です。わくわく。
私は席に着いた。後ろの席に、ギアッチョとメローネが並ぶ。隣に座ればいいのにと思ったけど、そうだった私はリゾットを知らんふりするんだったと思い出して言うのをやめた。リゾットは知らないひとリゾットは知らないひと。私は知らんひとにどんな対応してるかなあ。そもそもちらっと見て目を合わさないか。会釈されたらニコッてして会釈し返す、とかそんな感じよね。
あ、そうそう。プロシュート先生は闇の魔術に対する防衛術の助教授らしいですよ。クッソ笑った。マジで?DADA?マジか。どんな顔して教壇の隣に立ってんの?すごく楽しみである。闇の魔術に対する防衛術の授業は明日だ。ワクワクしすぎて眠れないかもしれない。
前の席にパンジーと少年と大きな少年2人が座ったので、振り返ったパンジーに手を振った。
「なんかここひんやりしてて過ごしやすいね」
「あんたはトカゲか何かなの?あたしはちょっと肌寒くてごめんだわ」
辛らつに聞こえるけど、ただツン、としてるだけなので問題なし。むしろ可愛い。もっと罵って。我業界褒美。
隣にいた少年が振り返って、ああ、と私の家名を挙げた。
「確か、ポルポとか言ったっけ。君の家の話は母上から聞いたことがあるよ。魔法の研究のために世界を転々とした研究者なんだって?」
「(そうなの?)」
わっかんねえなと思いながら、物心つく前に亡くなったからよく知らないんだ、と適当なことを言っておいた。そうだった、これは失礼残念だったねと軽すぎるお悔やみを言われた。どんな研究してたんだろうね。マルフォイ家って凄い名家だけど、その当主の奥方がぽろっとこぼすってどんなんやねん。気にはなったけど、あんまりぺらぺら喋るのって貴族的じゃなくて嫌われそうだなと思ったのでパンジーに話の矛先を向けて時間を過ごした。嫌われてもどうでもいいけど、長い物には巻かれろっていうか、あえて波風立てる必要もないっていうかね。穏便にいきまっしょい。
お腹すいて頑張れないよーとべったり机に突っ伏していたら、背後からバアアンとものすごい音がしてビクッと身体が跳ねた。スネイプ先生がガツガツ靴音鳴らして入って来た。今のもしかしてドアをぶち開けた音だったの?どんだけ気合入ってんだ。みんなに倣って振り返ると、壁に当たって跳ね返った両開きのドアが一度軽く閉まって、それを静かに押し開けてネエロ先生(ダメだ笑う)が入ってきた。音を立てないようにドアを閉めていたけど、やっぱりきっちりしてるのね。みんなと同じタイミングで前を向いた。後ろでメローネがくすくす笑ってる。ソルジェラはスネイプ先生の初登場で笑い転げなかったんだろうか。もし笑い転げてたらブラックリスト入りだぞ。スリザリン生でありながらブラックリスト入り。レアリティ高すぎる。ていうかこれ毎回やるのかな?ていうか毎授業やってるんかな?開け方と勢いでスネイプ先生の体調とテンションがわかっちゃうね。スネイプ先生日記とかつけられちゃうだろ。笑う。やめよう。考えるのやめよう。笑ってしまう。
「この授業では杖を振ったり、ばかげた呪文を唱えたりしない。魔法薬調合の微妙な科学と芸術的な技を諸君が理解できるとは期待していない。だが一部の素質のある選ばれた者には伝授してやろう、人の心を操り感覚を惑わせる技を。名声を瓶の中に詰め栄光を醸造し死にすら蓋をする技を」
笑わなかったよ。カッコよかったから音が出ないように指先だけで拍手した。私も言ってみたい。栄光を醸造し死にすら蓋をするとか言ってみたい。
前向きなゲンドウポーズ(肘をついて指は組むけど顔は上げてるよ)でふらふらと視線を彷徨わせてガラス棚とか黒板とか煤けたような壁の汚れを眺めていると名前を呼ばれた。はい、と真面目ぶってお返事。名簿を見ているだけで出欠を取っている様子はないんだけど、いいのか?入ってきた瞬間に人数を把握しているのか?
「ハリー・ポッター。我らが新しい……スターだね」
どうしたスネイプ。二度見してしまった。ポッターくんってあれか。主人公あれか。へー。
ポッターくんよりスネイプ先生の甘く囁くような声のほうが気になったのでスネイプ先生を目で追う。なんで今ローブの袖払ったの?カッコいいな。私もやりたいな。自分の袖をぴらりとつまむ。難しそう。
スネイプ先生がハッスルしてポッターくんに色々質問を投げかけているわけだが、こっちとしては非常に退屈な時間だ。目立たないようにそーっと教科書を開いて、開いたページを見る。資料集とかないのかな。資料集を読むのってめちゃくちゃ面白いよね。社会科とか生物とか。でも教科書購入リストには資料集がなかった。ポルポしょんぼり。図書室で借りる文献しかないのかな。通い詰めちゃうよ?私、文学科だったからね。日本文学。小説とかあるかなー。魔法界の小説はどんなんなんかなー。
「さて、ネエロ助教授。君はスリザリンにこの質問に答えうる生徒がいると思うかね?」
「いるだろうな。……ミスターメローネ、1つ目の質問に答えるように」
ミスター発言に脳内の初号機が暴走するかと思ったけど、自分で自分を褒めてしまうほど完璧に抑え込んだ。メローネは立ち上がることもなく、おそらく笑みを浮かべながら(声がニヤニヤしてた)答えた。
「生ける屍の水薬だね」
「ほう、見事だ。スリザリンに5点与えよう」
スネイプ先生は本当に少し驚いたようだった。これって上級生の教科書に載ってるんだよね?なんでメローネは知ってるんだろう。私もびっくりしたよ。
「では2つ目は?」
「山羊の胃の中。解毒剤になるって言っても、山羊の胃から取り出した石なんて飲みたくないね」
飲みたくないなんてまったく思っていなさそうな声だ。スネイプ先生がまたスリザリンに加点した。ハーマイオニーちゃんを当ててあげればいいのにねえ。あ、ハーマイオニーちゃんとはコンパートメントで一緒になったから名前を知ってるんだぜ。ていうかハーマイオニーちゃんもなんで知ってるんだ。メローネとギアッチョは規格外として、それについていけてるハーマイオニーちゃんヤバい。努力の秀才。私もだらけてるだけじゃなくてちゃんとお勉強しなくちゃねえ。まじゅちゅのおべんきょうたのしいれす。興味は深々だから楽しくやってます。
3つ目も、どっちも同じトリカブトだぜーとニコニコ答えたメローネたんのおかげでスネイプ先生が意気揚々とスリザリンに加点した。楽しそうで何よりです。
おできを治す薬をつくれって言われたんだけど私ナニコレぼっちじゃね?パンジーはドラコくんと組むしドラコくんのお付きの2人はコンビ組めるしメローネはギアッチョとだろ?やだ奇数だから私あぶれてる。
「ミスポルポ、君はロングボトムと組みたまえ」
昨日からちょいちょい違和感あったんだけど、ポルポって家名じゃなくて私の名前だからな?なんでそれにミスつけるんだよ。勘違いされてる?それともこのタコが!って罵られてる?もっとやってくれスネイプたん。
「よろしくね、ミスターロングボトム。私ポルポっての。列車でちょっと顔合わせたんだけど憶えてる?」
「あ、うん、憶えてるよポルポ。ハーマイオニーと仲良く話してたよね?」
「そうそう!寮が分かれちゃって残念だったんだけど、まあ、よかったら仲良くしよー。あ……、目、赤いから嫌かな?」
材料を棚から取りながら、ちょっと態度を引いてみる。嫌なら嫌でオッケーだったんだけど、ロングボトムくんは大きく首を振った。
「ううん、あの、僕、ちょっとしか話してないけど、君がスリザリンの……その、えーっと、ちょっと苦手なタイプじゃないのはすごくよくわかるし、その目も、びっくりしたけどポルポに似合ってると思うから、嫌じゃないよ」
干しイラクサを数えながらお互いニッコリ。ロングボトムくんはおずおずとニッコリ。これ私、やっぱり未成年相手だから犯罪になるよな。可愛がりすぎて略取しないように気をつけよう。
材料を取り終わって、教卓の横を通り抜ける時にロングボトムくんがちらりとリゾットを見て、私を見て、「親戚かと思ったけど、違うんだ?」と首を傾げたのには腹筋痛めた。
「私も驚いたけど、違うんじゃないかな?」
それはそれで面白いですけどね。

調合してたらロングボトムくんがうっかりをやらかしかけたのでそおい!!と阻止。それ爆発しちゃうからもうちょっと後だぜと冗談っぽく笑うと、わああごめんうわああとびっくりして椅子を蹴倒してた。大丈夫か落ち着け。ドキドキハプニングでお互いの距離が縮まったねとポルポジョークを飛ばすと、そ、そうかな?とちょっと照れられてしまった。え?10代的にそれは照れるところ?私の周りにいる10代ってまともな10代じゃないからポルポわかんない。おできを治す薬は10点満点で言えば8点くらいだった。スネイプ先生が私とロングボトムくんをチラリと見て、羊皮紙に何か書き込みながら「ミスポルポ、ロングボトムの調合ミスに逸早く気づいた君に加点しよう」と言いだしたので、その点数は代わりに私とロングボトムくんの成績に加算しといてくださいっつって逃げた。先生はグリフィンドールに親の仇でもいるのかな?
バイバーイとコンビを解消して自分の席に戻って、余った時間は教科書を眺めて過ごした。私にとっては知らない世界(魔法界ってお前……)の教科書なんて興味深い読み物だ。購入したその日に読んじゃうよね。面白かったです。憶えてるかどうかは別として。
頬杖をついていたら、つんつん、と背中をつっつかれた。なんじゃい。
「はい、ミスタ―メローネ。何か用かな?」
私と同じように頬杖をついていたギアッチョがチッと軽く舌を打った。暇つぶししてんじゃねぇよって意味かな?でも呼んだのはメローネで呼ばれたのは私だよ。
「ミスポルポ、さっきスネイプ先生がため息吐いてたけど、あんた何て言ったんだい?」
「加点するって言われたから、そのぶん私らの成績に色つけてくださいって言った」
「ははっ、なるほどね。あんたやっぱ変わってる」
メローネの声音がうますぎる。私は彼のことを知らないけど、彼は私のことを知って何かを懐かしんでいる、そんな雰囲気がある。やだこの子役者。暗殺者って演技もうまいの?うまいんだろうな。演技の都合上めっちゃにこやかに会話してるギアッチョ見たい。その役にはそもそもギアッチョが選ばれないか。
声かけて悪かったねとひらひら手を振られたので、私もニッコリ笑ってから会釈して前を向いた。美少年だなあ、とぽつりとつぶやく。
「(おっぱいを失った私には金しかないよお)」
せめてもうちょっと可愛い少女だったら人生楽しかったかな?教室を眺めて、スネイプ先生の隣で、生徒が提出した薬の検分をして何かを書き込んでいるリゾット―――否、ネエロ先生に目が留まる。もちろんあのコートじゃないけど、ローブの前は開いていてシャツが見える。けどすぐに視線が逸れた。だってスネイプ先生に薬を提出したふわふわ栗毛のハーマイオニーちゃんが振り返ったんだもん。顔を向けて小さく手を振ったら、ぱちりと瞬きしてから小さく頷いてニコッと手を振りかえしてくれた。やったー。元気出た。
にしても、リゾットの経歴が気になる。魔法界って大学がないし、ホグワーツを(あるいは別の学校?)卒業して即魔法薬学教師を志してインターンに入ったのかな?実習中のネエロくん気になる。ていうか学生時代気になる。あっ、卒業アルバム?!私いますごいこと思いついた。卒業アルバムって絶対図書室にあるよね?それ見たらネエロくんが見られるじゃん!興奮した。私の頭仕事した。お昼休みに行けそうだったら図書室に行こう。無理だったら今度の日曜日に行こう。
忘れないように気をつけようと脳内メモに刻んで、またぺらぺらと教科書を読んでいたら、スネイプ先生が突然言った。今日の授業はこれで終わりだ。私は机の上で小さくガッツポーズ。
お昼ごはんだー!
テンションが上がったので、出口に向かいざま、そこにいたハーマイオニーちゃんにハイタッチを求めた。そんなにお腹が空いているの?と訊かれた。空いてるんだよ。カロリーが足りねえー。成長期だからかな?ポルポだからかな?
るんるん気分で軽くスキップしながら教科書の入った鞄を抱えて廊下を歩いていたら曲がり角でひとに出くわした。
「おっとすみません」
「い、いえ、こち、こちらも前を見ていませんでした、し、失礼」
おお、クィレル先生ですか。なんか刺激臭がしますね。お昼ご飯にニンニク料理でも食べたのかな?ばっちり目が合ったのでとりあえずニコッとしておいた。人付き合いを円滑に。そのまますれ違おうとしたら呼びとめられてしまった。
「ミ、ミ、ミスポルポ、き、君の目はその、い、い、遺伝かね?」
「え?さあ……家系図を辿ったことがないからわかんないです。両親は違ったので、隔世遺伝じゃなければ突然変異ですかね?」
「そ、そ、そうかい、と、突然こんなことをき、訊いてわ、悪いね」
「いえいえ」
よく不吉だって言われたんですけど、カッコいいから気に入ってるんですよ。ここでドヤ顔。それじゃあ私はご飯を食べたいんでアディオス。
お昼ご飯はやっぱり芋まみれだった。フィッシュアンドチップス寄越せ。