13 幕間
「面白い話、ですか……。うーん……、じゃあ、あの、僕、相手のオーラが見えたりするんですけど、それについて2つ。……あっ、スピリチュアルな話じゃなくて!見えるオーラは個人個人によって色味が違うんです。でもその中でもこの間、めちゃくちゃ綺麗な赤色の羽みたいなオーラを持つ人を見かけて、もう僕すっかり見惚れちゃいました。それからもうひとつは不思議な話になりますけど、……って、……えっ?あれ?皆さん?」
「そういえば聞き損ねてたな。『もうひとつの不思議な話』っていうのは何だい?」
怪我の具合が良くなるころ、大破した地下鉄の駅の修繕に必要な費用と人員の補填作業を終わらせたスティーブンはレオナルドに顔を向けた。
かなり昔の話のように思えてしまってすぐにはピンと来なかったものの、レオナルドは彼の質問を反芻して何度かこくこく首を振る。
「『オーラがない』人がいたんです。初めて見たときは具合が悪いのかと思って焦りましたよ。でも何もないみたいだったので、そういう人もいるんだなーと」
パソコンの画面から目を離したクラウスが深く頷いた。
「確かに不思議な話だ」
血界の眷属が持つ気配すら映すことのできる神々の義眼が読み取れないオーラなど、そうそうありはしないだろう。
敵となりうる存在だろうか。
スティーブンは頭の中でいくつか可能性を列挙したあと、むしろこれは単純に考えるべき問題ではないだろうかと笑ってみせた。
「実は死んでるんじゃないか?」
仮に、オーラが生命エネルギーだと断定してしまうならば。
見えないということは生命エネルギーが枯渇しているか、元よりあり得ないものなのに他なるまい。
冗談っぽく言ったスティーブンに、レオナルドは予想外の勢いで噛みついた。
「いやいやいや!生きてますよ!あったかかったし、血も通ってます。息もしてて喋りますから!」
「そうかい?ここは何が居てもおかしくない街だよ」
「はフツーの人間ですって!」
「……んっ?」
「今、さんと言ったかね?」
「……知ってるんですか?」
3人は同時に同じ少女を思い浮かべた。
もっともスティーブンだけは少女よりも彼女の隣でいつもふよふよしているハコ型機械のほうが印象深いのでついそちらに視点が向きがちになったものの。
全員の認識する『』が同一人物であると確認すると、どことない困惑の空気がたちこめる。
「無機物であるポッド氏はともかく、さんにオーラが見られないというのは本人も気づかない不調がどこかに隠れているということだろうか……」
懸念を抱いて顎に手を寄せたクラウスを見ながら、スティーブンは記憶を辿った。
は異世界の日本からこの場所へ来てしまったときのことをどう説明していただろう。
(歩いていて、車に……)
撥ねられた。
さすがのスティーブンもちょっぴし言葉を選んでしまう。
「……やっぱり死んでるんじゃないか?」
「もー!!」
選びきれなかったせいで、彼は眉尻を吊り上げたレオナルドから轟々の非難を受けた。仕方ないけど理不尽だ。
(しかしなあ)
なんかすごく死んでいる気がする。
死んでいる可能性が出てきてしまうと少しマズい。
元の世界に戻してやれるようになれば、は喜んで帰還を選ぶだろう。
だが『この世界』に移動してしまう直前、『元の世界』で彼女は事故に遭っているわけだ。どれほどの衝撃だったかは本人すら正確には知らないようだが無傷ではあるまい。
そしてレオナルドの持つ義眼によれば、彼女に生命エネルギーとおぼしきものは見つからない。
もちろん偶然かもしれない。
振り払えない嫌な予感がしてしまっただけだ。
まあその、なんだ。
戻った瞬間、死ぬだとか。
この事案を解決するのはライブラの急務であるので中断はしないが、その結果、1人のいたいけな被害者がなけなしの命を失ってしまう結末となるかもしれないと考えると複雑な気分だ。
(かわいそうにな)
スティーブンは、いつか口にした憐れみを胸の中で呟いた。
(ポッドは……)
あの機械は気づいていないだろう。
あれの搭載するセンサーは生命エネルギーを感じることができないのだ。
「レオナルドくん」
「はい?」
「さんとポッド氏はこのことについて何と言っていたかね?」
「たちには言ってませんから、なんにも……」
「そうか……」
しばらくは黙っておくほうが良さそうだとスティーブンもクラウスも判断したが、スティーブンには不安が残った。
(隠し事……)
クラウスに向いていないことトップ10にランクインする難問だった。