07 幕間
異世界の迷子サン、ねえ。
ザップ・レンフロは口の中で呟いた。
「ンな話、マジで信じてるんすか?」
「少なくともこの世界の今の技術ではあの機械を作ることはできない。それは事実だ。だからと言って無条件に異世界の存在を肯定できるわけでもないが、本当にせよ嘘っぱちにせよ、彼女の身柄を確保しておく必要はある。……彼女と、あの機械のね。敵か味方かもわからないわけだしな」
。日本人。報告によると、彼女の言った住所には更地が広がっていたという。
ポッドX-12。ヨルハ型戦闘機体随行支援ユニット。人智を超えた特殊能力すらあばき立てる超高性能なスキャナーを搭載しており、また、その他の機能については謎に包まれたままである。所有者にはが登録され、基本的にはの支援を行う。
2人(……ポッドを人として数えるなら)は常に共にあり、不用意に接触を図るべきではないと考えられる。
は平和慣れした日常を送ってきた女子高生としてまだ未熟で無防備な面が多く見られるが、ポッドX-12は膨大なデータと解析能力を有するマシンである。ポッドに絶大な信頼を寄せるはそんな客観的で淡々とした分析に助けられ、『生きていく上で必要な』警戒心を抱くはずだ。
人間ではないモノが、人間を成長させてゆく。
スティーブンの頭には不思議とそんな馬鹿げた想像がひらめいたのだ。
笑い話だと思いつつも、彼はを搦めとる。
を、ポッドを、クラウスの方針どおり懐に入れたかのように見せかけながら誘導するつもりだ。
ポッドは危険だ。味方であれば頼もしいが、敵であれば厄介極まりない。不可視の人狼を見抜く力を光学機器が持ち得るなど、驚きだった。
そしてそんなポッドを所有するも危険だった。
力の使い方を知らない子供。ポッドをハイテクな友人とでも思うような笑顔は、ライブラの構成員が街中で撮影したものだった。
「かわいそうにな」
本当に異世界から来てしまったのなら。
「純粋に信じてんのは旦那と姐さんだけですか?」
「正確には『クラウスだけ』だよ。K・Kは彼女の味方だが冷静だ。言うことを信じてはいるだろうけど、『何か』別の事件に『巻き込まれて』いる可能性を視野から外してはいない。どっちみち僕たちの領分だからやることは変わらないけどね」
会ったことのない人物に対して寒々しい同情の念を抱く。
隠し撮りの写真には見るからに平和ボケしていそうな顔が写っている。周囲から警戒されているなどとはちっとも察せなさそうだ。
見ていたってつまらないので、ザップは早々に興味をなくして書類をローテーブルに放り投げた。
「ところでザップ」
紙束を回収しながら呼ばれた名前に、缶ジュースのプルタブに引っかけた指が空をかく。不穏な感じがした。
「パトリックから連絡があったんだが、最近ライター失くしたんだって?」
「……ッスね」
「いつ?」
「……ここ2日くらい……」
「理由は?」
「借金取りとのチェイスだと思います……」
「もうひとつ質問しよう。あのライターは特注品で製造にはいくらかの時間が必要だよな?その間に事件が起きたらどうするつもりだったんだ?」
「……予備はあるんですよ……」
「旧型の、だろ」
操作性に注文をつけまくって試行錯誤を繰り返し完成したのがザップのライターだ。その使い勝手の良さと手の馴染みを考えると、試作品とも言える過去作品はあまりにも稚拙だった。
「修理ならともかく、作り直すとなると骨だな」
「すんません……」
どこで落としたのか、目星はついても見つからなければ意味はない。
チクチクと刺さる刺激的な視線から逃れるように身を縮め、ザップは今度こそ缶を開けた。
冷ややかで居心地の悪い空間に小さな音が立つ。