破局の女神


野郎の恋愛話に付き合った数週間後の話だ。幼馴染が泣きながら電話をかけてきた。ある意味で嫌な予感に身を震わせ、受話器を置きたい気持ちと戦いながら事情を聴くと、しゃくりあげる下手くそな声で彼女は俺に説明をした。八割が支離滅裂で不明瞭だったが、結論としてはこういうことだ。
「花京院くんが、私のことを嫌いだったって。本当に嫌いだったって」
あの時、俺は答えを出さなかった。駅での重たい会話に終止符を打つ役目を割り振られているのは俺ではないと思ったし、正直に言えばそこまでの責任を負いたくない。だから、それは本人の前で言った方がいいとアドバイスをしただけだ。これから電車に乗って帰っていく友人に向ける台詞とは思えない非情な選択である。
だが、花京院は真面目な青年だった。素直に受け取り、俺と似た色の苦笑をして改札を通って帰って行った。彼の心の中でどんな感情が展開されたのか、想像はつく。
「だけどね、だけど」
幼馴染はとうとう声を上げて泣き出した。初めての恋と、今までの報いと、受験のストレスで抑え込んでいたすべてが爆発したようだった。
「だけど、ずっと、また話したいと思ってたって。話してる時は、すごく楽しかったって」
鼻をすする音まで、受話器は丁寧に拾った。奴の声は、今までになく震えていた。
「……そう言ってくれたの……」
とんでもない能力をとんでもない形で悪用し、とんでもない業を冒し続けた少女は反省しきり、もう誰の仲も引き裂くことはない。まったくもって最低な幼馴染だったが、彼女はここに来てようやく振りだしに戻ることができた。俺は最後にこう言って電話を切った。返事は聞かなかった。
「よかったな」
これから先、花京院は何度電車に乗ってこの町を訪れるのだろう。そして俺の、馬鹿で理解不能でクソッたれな幼馴染は、花京院とどんな会話をするのだろう。
もしも三人でゲーセンに行くようなことがあれば、その時はあいつをこてんぱんに打ち負かしてやろう。
なぜか、久しぶりにすごく身の回りのすべてが面白く感じられた。