ジョルノ




駅前の小さな広場に人だかりができていた。
「わー! すごいですねー!」
爪の切りそろえられた華奢な手が痛そうな音を立てて打ち鳴らされる。
その無邪気で必死な拍手に合わせて色とりどりの花びらがぼろぼろと零れ落ちた。
通りがかりの観衆は誰よりもまともな反応をした。
「お前のもすげえよ! なんだよそれ!」
「あっ私のは芸じゃないんです! くせなんです! すみません!」

人だかりがばらけていくと、残されるのはちょっとしたお小遣い程度の小銭や紙幣とそれを丁寧に集める少年だ。
かがみこんで一枚一枚間違いなく財布におさめた彼は、立ち去ろうとした少女を呼び止めた。
「ちょっと待ってください」
「は、はい!」
「誰も気づいていませんが、先ほどの花弁はどこへいったんですか?」
少年が石畳を視線で示す。
少女はびくりと肩を跳ねさせた。
「な、なんのことでしょうか」
へたくそに切られたしらはほとんどが無意味に終わった。
金色の腕が大きく振りかぶられ、かたく握られたこぶしが少女の目の前に突き出されたせいだ。
「……」
「うわーっ! なぐらないでー!」
「……」
「……あれ?」
身をすくめた少女からはとてもあわれな感じがした。
いたずらが露見した小動物が必死に隠れようとするのに似ている。
当人は真剣に困っていても、見ている側からは面白く思えてしまうのだ。
ジョルノ・ジョバァーナもまた、短く嘆息した。
「あなたもスタンド使いでしたか」
手品はタネがわかれば簡単だ。
攻撃されたとしても反撃は容易だと判断し、ジョルノはゴールド・エクスペリエンスのこぶしをおさめた。
「おお、スタンド! 今はもう耳慣れた単語ですね。実はそうみたいなんです」
「みたい、とは?」
「みなさんみたいに形として出てくるわけじゃないので、よくわからないんです」
「花が出たのは何なんです?」
「身体と身体を打ち合わせると出てきちゃうんですよ。こんな感じで」
手を出してほしいとジェスチャーで頼んだものの相手が一向に応えてくれないのを見て、は自分の手と手を柏手のように一度打ち鳴らした。ぽろりと花が地面に落ちる。
「へぇ、おかしなスタンドですね」
「でもナンパに役立ちますよ」
「は?」
「きれいな花を差し出すと、みんなにこにこしてくれます。 ……最近はそうでもないんですけど」
「ナンパするんですか、あなた」
「イタリアは美男美女が多いので、つい。でも痴女とか同性愛者に間違われることがあってちょっと困りますね」
「見境ないんですね」
「それを言われると……」
はしゃがみこんで花を拾った。ピンク色の薄い花びらがそよそよと風に揺れる。
がふっ、と息を吹きかけると、花はかき消えた。
「で、最近はそうでもないというのは?」
「ここ一週間くらい、ナンパするとみんな意味ありげなことを言うんですよ。この力のことをスタンドって言うっていうのも、彼らに教わって……」
「……どういう人をナンパしたんです?」
「キレ気味の眼鏡のひととか、ざんばら頭の美人さんとか、おかっぱで背が高い人とか、ものすごいきらきらしてるイケメンとか、髪の毛を民族的に結んでる人とか、チンピラみたいな……剃りこみの入った人とか、変な帽子のひととか、4って数字を嫌いな人とか、ころころした可愛い人とか、丁寧な口調なのにブチ切れると怖い人とか、音楽好きな男の子とか、髪の毛の長い人とか……」
「全員に花をあげてるんですか?」
「はい! そしたらだいたいみんな、あなたみたいに私の手を掴んで尋問してきます……正直怖いです……」
「それはすみません」
どうりで。
口元に寄せた手の下で、ジョルノは納得した。
似合うか似合わないかはさておき、どうりで周囲の男どもが揃って花を眺めているわけだ。
眉根を寄せるはジョルノの思考なんてかけらも知らずにかなしそうな声で言う。
「ナンパはやめろって言う天からのおぼしめしかなんかなんですかねぇ」
さてどうだかな、とジョルノは思った。天からのおぼしめしがあるとすれば、それはいたいけな旅行者に無謀なナンパ行為を諦めさせることよりも、スタンド使い同士を引き合わせることだったに違いない。
「……あなた、名前はなんていうんです?」
っていいます。日本からきました」
さん。いいお名前ですね。ところでちょっと僕と一緒に来てくれませんか? このあと暇でしょう?」
「なんで暇って決めつけてるのかわからないんですけど、まあ暇です」
「ですよね。じゃあこっちです」
「わ、わ、わ、引っ張らないでくださいよ」
危機感がなさすぎる気がするけれど、日本人はみんなこういう気質なのだろうか。
有無を言わせなかった自分を棚に上げ、ジョルノは内心で首を傾げた。





何か見覚えのある人がいっぱいいる部屋に連れていかれました。



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