ブチャラティ




「……」
遠くからじっと見て、少し近づいてこっそり見て、はそれから声をかけた。
その気配はすでに彼に悟られていたけれど、彼女が警戒を知ることはない。
「あのー……」

声をかけられたブチャラティは振り返って少女を見下ろした。彼女は無邪気な顔で、きらきらした目をブチャラティに向けてくる。期待と希望とわくわくに満ち溢れた表情だ。なんとなくだけれど、見ている人を和ませる気すらした。
「お兄さん、今お暇ですか?余裕ありますか?私とお茶してくれませんか?」
ただブチャラティは彼女の姿をこのネアポリスで見かけた記憶がない。ネアポリスの隅から隅までを完璧に知ったつもりでは毛頭なくとも、東洋系の顔立ちはやはり記憶に残りやすいものだ。それにネアポリスに居を構える人々は多かれ少なかれブチャラティを知っている。だというのにまったくぴんとこないので、たぶん彼女は新参者か旅行者だろうとあたりをつけた。
ブチャラティが首を傾げたまま言葉の続きを促してくるのを見て、は野暮なネタばらしをする羽目になった。
「私、って言います。いま、おにいさんをナンパしてるんです」
「……ナンパ?俺を?」
「はい!」
嘘をついてはいないな、と瞬時に判断する。ぎこちなさはまったくなかった。平然とほらを吹く敵はたくさんいるが、ブチャラティはこの愛すべき勇気のかたまりに険を向けることはやめた。
「ははは。ナンパだったのか」
「だめでしょうか?」
「そうだな。俺は今……ちょっと用事が控えているから」
「そうですか……」
「君みたいな子なら、もっと良い人が見つかるさ」
「お兄さんがよかったんですけどね……」
心底残念そうに言われると心が痛む。は幼く見えたし、ブチャラティの誠実な心は、慣れないイタリア語で見知らぬ男に話しかけたがんばりに報いてやれないことにも申し訳なさを感じた。
「あっ、じゃあせめて」
やおら彼女は指を鳴らした。綺麗な音には慣れがあった。
ぱちん、という軽い音とともに、指先から花びらが降る。
「ッ……!」
ブチャラティは僅かに片足を引いた。
「はい。お兄さんに出会えたことに感謝して」
ピンク色のぽってりとした花が差し出される。
「……これは……きみはもしかして」
「私、素敵な人に出会った時は魔法を使うことにしてるんですよ!」
「……それは……スタンド……の能力か?」
「え!?おにいさん、この力のこと知ってるんですか?スタンドっていうんですか?えー、なんか運命的ですね!じゃあもう一輪」
は柏手を打った。さっきよりも多く、小さな花がぽろぽろと手のひらからあふれる。
「いや、……あ、あぁ、ありがとう。きみの力はどういうものなんだ?」
敵の攻撃かもしれないと身構えつつも、ブチャラティは両手いっぱいの花を受け取った。
「えっと……私は、身体と身体で音を鳴らすと花が出てくるんです。おにいさんは?」
「訊いておいてこう言うのもなんだが、あまり人に暴露すべきではない」
「なんというフェイント。もともと誰にも言ったことはないんですよ。おにいさんが初めてです!あ、おにさんのはおっしゃってくださらなくて結構です。人に言わない方がいいですよ」
なんだか得意げだ。
「……そうだな。この花にはなにか特別な力はあるのか?」
「いいえ。ただ、私が意識しないと枯れないってくらいです。胸にさしても髪にさしても水に活けても変わらないんですよー」
「君のつくったこの花がどこにあるのか、わかるか?」
「まったくわからないです。だって、私の力はお花を生み出すことだけですから。私から離れた花はもうただの花なので……」
「そうか」
彼女は自分の能力について深く考えていないのである。タネのないマジックとして披露したら友だちの間で驚かれるなあ、ってくらいだ。
「……花はもらっておくよ。ありがとう」
「いえいえ。また次に会う事が出来たら、その時はぜひお茶してくださいね」
「あぁ、わかった」





▼尋問されました。



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