ドキドキスケルツォ



11



あまりの言葉に愕然とする。
がたんと椅子を蹴って立ち上がりたくなるのを堪える。今すぐに逃げ出したい。ノートの上でシャーペンを握りしめ、カッと熱くなった顔を隠して下を向く。
(落ち着け)
少女は自分に言い聞かせた。都合の悪いことが起こったら逃げるなんて、今までと何も変わらない。ちっとも成長していない証ではないか。最後までメローネの話を聞き、泣くのはその後だと我慢する。
メローネは繰り返した。どこにいたってうまくいかないのは一緒だろ、と。
「だって、どこにいたって変わらないぜ。あんたのその態度じゃあ、ジャッポーネだろうがこっちだろうが、うまくやっていけるとは思えねえし」
わざわざ、ゆっくりとした英語で話している。悪気があると判断したくなる言い方だった。
ただひと言で終えれば良かったのに。ただひと言、慰めのように「あんたの好きにしなよ」と言えばそれで終わる話なのに、なぜ辛辣な表現を余計に付け加えるのか、彼女には理解できなかった。ただわかるのは、メローネに少女を優しく励ますつもりなど、毛頭ないということだけだ。
彼から飛び出した棘は少女に深々と突き刺さった。
けれど、同時に納得もする。
自分に勇気がない自覚はあったし、何事にも逃げ腰な姿勢は人に好かれるものではないだろう。誰かの優しさの上で、生活が成り立っているのだ。自分一人の力で新しい友情を構築し、世界を広げ、努力を続けていくのはまだ難しかった。
それでも少女は、つい言ってしまった。今までになくハッキリとした口調だった。
「やってみないとわからない」
勢いに任せた発言は、なぜかすとんと胸に落ちる。やってみないとわからない。無謀に見える決意の表明は、これまでの少女に足りていなかった部分を補ってくれる気がした。
呆然とする少女を置いて、メローネは感慨を受けた様子もなく、「あっそう」と頷いた。
ラッテをひと口飲んで、秋の装いを見せ始めた中庭に目をやる。つられて顔を動かした少女と向かい側のメローネが窓ガラスに映っている。
影の落ちた庭が風に吹かれ、やがて晴れていく。少女はひどい顔をしていたし、メローネは目元の布の下で、何を考えているのかわからない目をしていた。本当に、少女の人生などどうでもいいのだろう。
「それもそうだよな。だったらやってみりゃあいいんじゃねえの」
あっさりと話題を切り上げられてしまい、目を瞬かせる。メローネはまた、口角を上げた。今度は生理的に受け付けない笑顔だった。
「ホルマジオがプロシュートと話してるのを聞いたんだよ。ガキがうだうだ悩んでるみてえだから、ちょっと励ましてやろうと思って」
少女は閉口した。イケメンであっても許しがたい言い草だ。
様子を窺うに、ただ単に善意を働かせたわけではないのだろう。『仲間』の口の端にのぼっていた事案にちょっかいを出して、面白がりたかったに違いない。結果として、少女はメローネの挑発により自分の新たな道に気づいたが、まったく感謝する気にはなれなかった。
かろうじて「そうですか」と相槌を打つ。一瞬で湧き上がった反骨の気持ちはやり場を失って萎れていく。
後にはたった一つ、「やってみないとわからない」と、その決意だけが残っていた。