Dance Like A Gangster

ドリーム小説
宙ぶらりんなまま、わたしは同じアパートで生活を続けていた。わたしの事情を知るのはプロシュートだけだ。わたしはてっきり全員に暴露し、裁きを待つのみだと覚悟を決めていたのだが、プロシュートはわたしに沈黙を厳命したし、彼自身も誰にも何も言わなかった。許されているのか同情してくれたのか、彼の気風がそうさせるのか、態度も何も変わらない。
なぜこうなったのか、予想だにしない展開で拘束から解放されたわたしは、三日経ってもよくわからないまま首を傾げていた。
わたしが月明かりの下でプロシュートを垣間見た日、彼は単騎で一つの組織に乗り込んだらしい。それがわたしの人生を狂わせたグループで、一晩で見事に裏社会からいくつもの命が消えたのだそうだ。反応を見るように言われ、わたしは気の抜けた相槌しか打てなかった。簡単に説明されたので余計に現実味がない。
わたしはどうすることもできない。引っ越しもしなかったし、遠くへ逃げもしなかった。ただ、じわじわと訪れる実感が凍りついていた指先を溶かした頃、わたしはフィレンツェに手紙を送った。捨てた遺書とは違う、書きなおした変哲のない手紙だ。わたしは元気だと書いた瞬間、へたくそな涙がこぼれ落ちた。
やめてしまったアルバイトを再開し、組織から振り込まれていた当面の生活費を切り崩しながら細々と息を繋ぐ。わたしにできることはそのくらいで、ゆっくりと日常が取り戻されていった。
プロシュートはよくわたしに気を遣ってくれた。たまに部屋でお茶をご馳走してもらう時がご褒美のようで嬉しい。

わたしはプロシュートと街を歩いていた。わたしのいたバルのドアをプロシュートが開け、目が合って一緒に帰ることにした。ただそれだけだ。晴れた空がプロシュートの魅力を際立たせた。豪快なシャツの隙間から日焼けをしないのか、わたしには心配する余裕ができていた。表情もやわらかくなったと言われる。九人の中でもどことなく奇抜な青年の評価を信じていいのかは迷ったが、彼は悪い嘘はつかない人だった。なにせ彼らは、紛うことなくいい人たちだ。
「質問なんだが、
プロシュートはわたしをちらりと見る。
「俺はてっきり、『定例報告』の時間が恋人との待ち合わせだと思ってたんだが、ンなこたあないんだな?」
「な、ないです」
わたしはすぐに答えた。
「好きなやつは?」
「……さあ……。わたしはこんなですし、いたとしてもだめですよ、きっと」
やる気がないのではない。わたしは今まで、あまりにもへたくそに生きてきた。何もうまくできなかったし、初めての恋愛だって夢も見られずに終わってしまった。
相変わらずぎこちない笑顔のわたしを見て、プロシュートはわたしの背中をぽんと叩いた。
「そのうちできるぜ」
あたたかい慰めは優しかったし、皮肉でもなんでもないとわかっていたので、わたしは素直に受け取ることにした。
「ありがとう。プロシュートはいい人ですね」
アパートまで戻って、わたしたちは手を振って別れた。この回り始めたわたしの世界で明日も顔を合わせるのだから、少しもさみしくなかった。