Dance Like A Gangster

ドリーム小説
ギャングに嫉妬する時がくるとは、予想できなかった。
ぽかんとしている自分の姿を俯瞰すると、いつかクラスのダンスメンバーから切り離され一人きりになってしまった時の記憶が刺激された。わたしはいつも要領が悪かった。
引っ越しを済ませ、毎朝の定期報告も十回をゆうに超えた。もうすぐひと月が経ち、わたしは何一つ情報を手に入れられていない。それでも殺されることはなく、大切な捨て牌として生活面で支援されながら日々を過ごしている。アルバイトは続ける気になれなかったので早々にやめてしまい、今は本を読んだり街に出たり、どこか遠くの景色を見たり、そんな自堕落な生き方だ。死までの猶予期間と思えば、なんと幸運で、なんと安っぽいことだろう。ただ、なんとなく気が引けたので、勉強だけは続けていた。

敬称を取り外す許可をもらってから、わたしはよく九人と出会い、会話をするようになった。
九人の中で多く喋るのは、ギアッチョとメローネとホルマジオとジェラートとペッシだ。リゾットとソルベは寡黙で、イルーゾォはじとりとしている。プロシュートは必要があれば会話に参加し、普段は相槌を打ったり会話の矛盾を指摘したり、大人な役を担っている。
わたしは早々に気がついた。
彼らもまた、突然引っ越してきたわたしを疑っているのだ。何かの回し者ではないかと疑念を抱き、接触を図って本音を探ろうとしている。だからこれほど親しく話をするし、毎日何をしているのかわからないこんな住民を飲み会の輪に入れてくれる。わかってしまえば納得だ。
同時に、ずんと胸の奥が重くなった。一瞬でも楽しく感じたわたしの気持ちはどうなるのだ。彼らは演技がうますぎて、わたしが同じ立場でなかったら一生察せないままだったに違いない。わたしは何一つうまくできないのに、なんと器用にやってのけるのか。一瞬で、フラーゴラの味がわからなくなる。甘くみずみずしかったはずの果物が、ただの水っぽい物体に変わった。
無理やり胃袋に詰め込んでいると、プロシュートがわたしにちょっとしたお酒を勧めた。何もかもを素直に白状してしまうと困るので、正直に飲めないと答えた。本当に弱かったし、飲み会ではいつも場を盛り下げると批難されていたから、今回もそうなるのかなと気落ちする。偽物の宴会とはいえ、嬉しかったのは本当だ。一気に拷問したり、詰問したりしないだけいい人たちだなとも思っている。彼らのたけなわを邪魔してしまうのは心苦しい。
プロシュートがわたしの手にグラスを握らせた。ぽん、と背中を叩かれる。
「勧められた時はひと口、飲むふりでもしとけ。グラスを傾けときゃあ相手は満足する」
「そう言われると……」
わたしはひと口、飲むふりをした。これでいいのかなと彼を見上げて、ああ、とまたさとった。やっぱり酔わせて事情を話させたかったのか。もしかすると、何か混ぜられているのかもしれない。本当に飲むふりしかしなかったわたしを、プロシュートが笑った。
わたしは何もかもがどうでもよくなってきた。
「どうして急にお酒をくれたんですか?」
プロシュートは、境界線ぎりぎりで判別しづらいことを言った。
「苺ばっかり食ってるシニョリーナに気づいたら、うるせー野郎どもが遠慮なしに飲ませてくるかもしれねえだろ」
「ああ……」
とても賑やかな方向に顔を向けると、その中の一人がわたしのグラスを見て満足そうにした。本当に危ないところだったようだ。
「プロシュートはとてもいい人ですね」
言うと、彼はちょっと眉根を寄せてから苦笑交じりに私の額を指でつついた。
「惚れ薬が入ってっかもしれねえぜ。……オメーも男だらけの飲み会にホイホイついてくんなよ」
「はあ、すみません……」
やはり、信じられないくらいいい人だ。疑っている相手を心配している。嘘かもしれないが、それでもよかった。プロシュートと話をしていると、今まで近くになかった楽しさと落ち着きを感じる。いい人だな、ともう一度ぼんやり思ってグラスに口をつけた。
なんとなく、こんないい人たちになら、もうすべて話して死んじゃっても仕方がないかな、と思い始めていた。あの老人一味と彼らを天秤にかけた時、わたしの中の比重はプロシュートたちに大きく傾く。どちらが好きかなんて考えるまでもない。どうせ何をしても死ぬのなら、それもまた悪くないのではないだろうか。
わたしは久しぶりに、自然とへたくそに微笑んでいた。プロシュートが少しだけ驚いた顔をした。