男女逆転ポルポシリーズ


突然、ホルマジオがひどいことを言い出した。
「下品な話だけどさァ、ポルポってまだ童貞なの?」
オレンジジュースに噎せた。メローネがハンカチを渡してくれる。マスクの向こうの目はニヤニヤと笑っていた。
「付き合い始めて何日だっけ?リーダーが可哀想だろ」
「あんたの方からリード出来んの?指南してあげよっか」
「うっさいメローネ」
放っておいてくれ。私の童貞なんかどうだっていいだろ。
「オメーの童貞なんかはどうだっていいんだけど、リーダーが可哀想だろ」
ホルマジオはテーブルに肘をつく。筋肉のついたしなやかな腕は、健康的な肌色をしていて太陽に良く似合っている。しかし、その口から飛び出る言葉の数々は、太陽の麗らかさとは正反対にぐさぐさと私を貫いた。
「六年だからねえ」
それを言われると立場が弱いよね。一気に私が劣勢になる。
とはいえ、そう簡単に卒業が叶うのなら私は今頃経験豊富なオトコとしてイタリア中に名を馳せているだろう。これは誇張だ。それが不可能だったからこそ、浴びるほど金があるのに風俗の一つも満足に行ったことのないギャングの幹部が完成しているのである。泣いてないよ。
「そういう雰囲気になったことはないワケ?」
「良いムードっつうやつね」
メローネとホルマジオからの畳みかけるような攻撃に、腰を引きながら首を振る。リゾットはそういった素振りを見せないし、私も『自分がされて嬉しいこと』の中にセックスアピールの項目がなかったものだから、そこんところについては私もようわからん、という状況に落ち着いてしまっている。
「じゃあ、どうしてるの?」
「何を?」
「ナニを」
非情なまでに可憐な女性の口から、とんでもなく下品な言葉が飛び出した。つまり、ムラムラした時はどうしているのかと訊ねられている。
「それこそメローネに関係のある話かな?」
「ただの興味」
「じゃあ言わない」
何が悲しくて、自分のリアルな下ネタでテーブルをドッカンドッカン沸かさねばならんのか。この二人なら違いなく爆笑してくれるだろうけど、それじゃあ一片の慰めにもならない。
「けどさ、いつまでもこのままにはできないよ」
ジッと真摯な視線を向けられ、たじろいだ。
確かに、メローネの言う通りだ。このままでいられるはずがない。
私たちならたぶん、プラトニックなラブを貫くことも不可能ではないだろうけれど、不可能ではないだけで、困難な道になりそうな予感はする。お互い健康な男女なのだし、私の方には少なからず欲求があるもんでね。なんつうか、精神的には百合なので、時折下世話なことを考えてしまっては死にたくなっているんだけどさ。
リゾットがどう思っているのかを、一度訊く必要があるよなあ。
「あたしには想像がつくけどな」
ホルマジオが、ざっくばらんな口調で言った。
「ポルポのハジメテも想像ができるね。どっちが突っ込まれる方なんだかわかったもんじゃないんじゃあないかな?」
私が経験のない童貞だっていう話はもういいじゃん!放っておいてよお!
「これは……恥も外聞もかきすてて、リゾット以外で卒業して来るべき?」
ちょっぴり思いつめてしまったので、正直に相談を持ち掛ける。リゾットに迷惑をかけない為に、できる限りの手を尽くした方がいいよね。でももう、今更感は否めない。今更どうするんだよ私は。付け焼刃でどうにかなる話じゃあない。男として生まれ直したのなら男としての経験を積んでおけばよかった。ちくしょう。
二人は顔を見合わせた。
「止めといた方がいいんじゃない?」
「止めときな」
ばっちり揃った声で否定される。
「リーダーにとっちゃあそっちのがヒサンだし」
「童貞の方が面白いよ」
「それな!」
ホルマジオがメローネに賛同したのを見て、私は両手を組んで肘をついた。こっちは現実の話をしてんだ。笑い話じゃねえんだよ。