ジョルノとポルポの初対面の話


今日が私の命日か?
激しくドキドキしながら、その時を待つ。紹介したい人がいるんだ、とブチャラティに言われ、もちろん私は「あ、彼女さん?」だなんてアホなことは訊かなかった。ハハハと乾いた声を立て、「新人でも入れたいの?」と物わかりのいい言葉で先回りをする。ブチャラティは少し驚いて、さすがだな、と私を褒めた。お礼の代わりに、これがラストチャンスかもしれない、と囁くガイアに従ってブチャラティの細い身体に抱き付く。ハグをして、『その人』の入室を待つ。
私の隣の席にはアバッキオがいて、向かいにはナランチャがいる。その隣にはフーゴ、それからミスタがショートケーキを切り分けて、ブチャラティが立ったままドアの外に声をかけた。固唾をのんで見守る私の頭の端を、もしもその少年がジョルノではなかったら、という考えが過って寒気がした。アカン、それはアカン。
輝かしい金髪を見てホッとする。良かった、ジョルノだ。この特徴的な髪形はジョルノ以外にはできないだろう。正しく、彼は自ら名乗った。ジョルノ・ジョバァーナかあ、ハハハ、殺さないでね。年の功をくらえとばかりにポーカーフェイスで押し隠し、笑みを浮かべて私も名を言う。ポルポ、ですか。ジョルノは呟いて、キラキラした笑顔で「いい名前ですね」とお世辞を寄越した。ありがとな、おねえさんは君の優しさが痛いよ。いい名前だろうか。
「ブチャラティ、彼に問題はないのかしら」
ブチャラティは私の質問に的確に答えた。
「ああ、『問題ない』。ジョルノ、俺はお前に、このチームに入るために必要な条件を言ったな?」
「はい。今お見せしますか」
そうね、と少し悩む。ブチャラティたちがいる前で殺したりはしないだろうし、麻薬取引のアレソレについて彼らがどんな会話を繰り広げたのかは知らない。涙目のルカが殺された件で、私は一応、ブチャラティに捜査のお願いをしたけれど、いったいどんな経緯で彼らが出会い、もしかすると戦い、こうしてここにやって来たのかは知るはずもない。知るつもりもない。話したいなら話してくれりゃあいいとは思うけど、悪いが私は、私とブチャラティたちと暗殺チームの彼らが死にさえしなければ、ジョルノなんてどうでもいいのだ。ドン・パッショーネとして頑張ってくれ、とは思うし、ディアボロに目にモノ見せてやれ、とも思うけど、特別親しくなりたいかと言えばそうではない。美少年を囲いたい願望もないし、たまに眺めさせてくれればじゅうぶんだ。そして、眺めるために、私がここで彼に殺されなければじゅうぶんだ。
アバッキオが、私の方にカップを押しやってからジョルノに目を向けた。
「ジョルノとか言ったか?まあ来な。茶でも飲んで……話でもしようや」
紅茶を噴きかけた。アバッキオ、ちょっと待って。今淹れてくれたこのお茶マジでお茶?紅茶の香りしかしないけど大丈夫?
まさか訊ねるわけにはいかない。私は部下を信頼していますからね。アバッキオ汁から紅茶の香りがするわけはない、と思いたいし、上司にそんなことをする男ではないとも知っている。知ってるけどビビるからやめてほしい。
ジョルノはブチャラティの許可を取ってから、私の勧めた席に腰を下ろした。
「ポルポ、と呼んでも?」
「どうぞ。私もジョルノって呼んでいいかな」
「ええ、もちろんです」
ドキドキしながらアバッキオの淹れた紅茶を飲むよう促すと、ジョルノは疑うことなくカップを手に取った。ゴクリ。じーっと見ないように気をつけながら、自分もカップに口をつける。アバッキオも飲んで、ナランチャも飲んだ。ジョルノも飲んだ。飲んだよ。飲んだよこの子。ウッ、とか言わなかったよ。アバッキオが"俺の淹れた茶が飲めねえってのか"と新人をいびり倒すこともなかった。私は別にアバブともブチャアバとも言わないが、絶対に、ブチャラティに近づくどこの馬の骨とも知れねえ野郎さんたちを苛め抜いて退散させたことがあると思うのよね、彼。
ジョルノはカップを置いた。
「志望動機を話した方が?」
「いや、いいよ。私は面接は得意じゃないし、もうブチャラティがやってくれたんでしょう?」
「信用できるかどうかを試しただけだ」
物理で、かな?殴られた痕はないようだけど。
「『刺す』必要があるのかどうか、見せてもらいましょう、ポルポ」
フーゴが結論を急ぐ。私はサバスちゃんの能力を説明することもなく、それじゃあ見せていただきましょう、黄金の体験を。あと、手近にバナナがないか確認した。私はバナナが嫌いだと思われているので、当然部屋の中にはなかった。
ジョルノの背後に立つモノが現れる。音も風もなく現れたスタンドは、いつか漫画で見た格好をしていた。
「ありがとう、出せるならいいよ。ブチャラティのお眼鏡にかなったなら、私が何かを言う必要もない。あとはチームのみんなで決めてくれて構わないわ」
「……へえ……」
ジョルノが意外そうに首を傾げた。
「あなたは能力については訊かないんですね」
「無駄なことはしないことにしているからね」
知ってるし、とは嘘でも言わん。ジョークだと笑い飛ばされてもこっちのメンタルが削れる。何が悲しくてそんな自傷行為をしなくてはならないのか。
ジョルノは綺麗に笑った。
「僕もです」
彼はスタンドを消し、おもむろに立ち上がった。アバッキオの鋭い視線と、ミスタののんびりを装った眼差し、ナランチャの無垢な瞳とフーゴの無表情が突き刺さったが、彼は気にするそぶりなんか見せなかった。うわジョルノつよい。確信した。
「よろしくお願いします。親愛の握手をしましょう」
それって本当にただの握手かな?ビビっちまって声が出なかったので、黙って微笑んで手を差し出した。あたたかい少年の手が私の手を握って、軽く振る。うわ、すべすべじゃん。なんなの。
「どんなお手入れしてるの?」
ついつい質問をしてしまう。ジョルノはきょとんとした。
「手ですか?」
「そう。すごく触り心地が良いよ」
少年は、凄絶な美しさに一滴の親しみを浮かべた。
「何もしていませんよ。それに、僕からすればあなたの手の方がずっときれいです」
やだ、すべてを超越するカリスマとお世辞にときめいた。