ペルソナ使いシリーズ
ドリーム小説
には不満があった。
カフェテラスには日本人が二人、フランス人が一人。二人がクリームソーダをつつき、一人がアイスティーを飲んでいた。
「アヴドゥルさんが一緒に寝てくれない」
テーブルにアイスクリームが飛び散った。嫌そうにペーパーをホルダーごと押し付けた花京院は、咽るポルナレフには目もくれず自分のスプーンを動かしている。聞こえなかったふりをするようだ。
「ねえ、聞いてる?」
「聞いてない」
「聞いてっから噴いてんだろ」
二人の答えはまったく正反対だ。花京院の舌先はアイスクリームに触れたし、ポルナレフの舌先は軽妙に動いた。
「つまりどういうこった?」
「そのまんま。アヴドゥルさんが、ぜんっぜん!私と一緒に寝てくれないの。アレソレホニャララゴニョゴニョもなし!」
「聞きたくない」
青年の態度はまったくつれない。友人の恋愛事情など、申し訳ないがどうでもいいことだ。相談には乗ってやりたいし、何とかしてやれることには手を尽くしたいが、こんな話はできれば聞きたくもない。しかし、もう一人の友人は違うようだった。軽薄な男だと日頃から白けた表情を向けていたが、こうなるとテーブルを変えて他人のふりをしたくなる。
「一緒のホテルの、一緒の部屋に泊まってるのに、ベッドが違うんだよ!?信じられる!?」
「信じられねえな」
「いや、信じられるよ」
それ以外にナニがあるのか。クリームソーダに添えられたチェリーを食べる気にもならない。ひどい話だ。は共感者を得て声に勢いをつけているが、同じ日本で生まれた女子の言動とはまったくもって思えなかった。
彼女の手元で、グラスの氷がからりと音を立てる。思い出したようにストローを咥え喉を潤し、またすぐに話し出した。
そもそもあの彼が、よく同じ部屋で眠ることを許可したものだ。彼はいわゆる『きちんとしたお付き合い』を大切にしているように見える。との年齢差を考えても、彼が、少女が大人になりきるまで時間を置こうとしているのだと理解できる距離の取り方だった。
「ジョセフさんが」
みなまで言わずともよくわかった。好々爺の仕業なら、彼にはどうしようもない。ポルナレフが納得顔で頷いて、ひげを剃ったばかりの顎をつるりと撫でた。
「恋人同士なのにベッドが違うってのはカワイソーだとは思うが、相手がアヴドゥルじゃあ仕方がねぇんじゃねーか?」
かたいと言われる男だ。奔放で明るい性格の、主張が激しい少女とは合わないこともあるだろう。
「もぐりこんでも怒られるし」
「寝ているところを邪魔されたんじゃあ、僕だって怒るよ」
「まだ寝てなかったよ」
「そういう問題じゃあないだろう」
わざと言っているのだからたちが悪い。いや、本当にそう思っているのかもしれない。は飄々としていてつかみどころがなかった。ジョセフ・ジョースターと血が繋がっていないとは、とても信じられないくらいだ。
「なーんで一緒に寝てくれないのかな。折角恋人同士になったんだからもっとイチャイチャしたいのに、全然許してくれないんだよ」
私ばっかりアヴドゥルさんを好きみたいだ、とは言ったが、花京院とポルナレフは目と目で言葉を遣り交わした。気持ちがあるからこそ、踏み出しきれない一歩があるのではないだろうか。
相手を大切に想うから、少しでもペースを落としてやりたい。大人が大人らしく行動したいと考え、理性を貫いている。何のためにかと言えば、それは外聞などでは決してなく、ただひとり、心を傾ける少女の未来を考えてのことだ。もしかすると彼は、の気持ちが自分から離れた時のことも想定に入れているのかもしれなかった。いくつもの未来を見据えた、深い思慮ともいえる。
二人は同時にクリームソーダをすすった。回答は見えかけているのだが、は果たしてそれを理解できるのだろうか。直感的に生きている少女は、繊細な心の機微とは遠そうだ。
二人が言うべき言葉に悩んでいると、は、ぽん、と両手を打った。
「もしかして、一緒に寝てるとむらむらしちゃうとか!?」
間違ってはいないからこそ、どうしようもなかった。これほどまでに俗物的な言い方があるとは。さすがのポルナレフも苦く笑った。