男女逆転ポルポシリーズ


やあやあ、私は××という名前の前世女、そして今はポルポという名前の22歳男性かつ大学中退さんなんだけどね。端的に言うと今はギャングの幹部をやっています。お金だけはがっぽがぽ、金に物を言わせて部下を買い、女ボスディアボロのもとであくせく働いているよ。うん、なんていうか、私の知ってるディアボロがこのディアボロだったら、私はこのディアボロを知らない。何を言っているかわからないと思うけど私も何が起こっているのかわからなかったよ。数年前の混乱をどうしてくれよう。

呼び鈴も鳴らさずにドアを開けようとすると、がちゃりと鍵のかかっている音がした。そうだよね、女の人ばかりなのに無施錠じゃあ不用心だ。私も女だったからわかるよ。ごめんね、野郎なのに女所帯に踏み込もうとしちゃってさ。
「リーゾットたん、開けてー」
連絡はしたのでいない筈はない。案の定、呼び鈴越しに声をかけるとすぐに鍵が開いた。黒いフードをかぶった美女が現れ、キュートカップの胸が目にまぶしい。黒地の洋服だから、所々に入った白い模様やむき出しの素肌が愛おしい。なんだこりゃ、いつものことながら可愛いぞリゾットちゃん。
「やっほう、リゾット。来ちゃった。入れてくれる?」
「……」
リゾットは無言で道を開けてくれる。ずかずか入り込み、靴の土を落とす。細身のズボンはどことなく女性的なデザインなんだけど、それは私が女性性を捨てきれないからなのかなあ。男っぽいものが似合わないんだよ、残念なことに。時計も細身だし、鞄もシンプルだ。シャツもごついものはなんとなく浮いてしまうし、せっかく性別が変わったって言うのに面白くない。確実な違いはまあ、その、アレよ。言わずもがな。
「あ、ポルポじゃん。またメシ食いに来たの?」
「オメーは相変わらず貧相な身体してんなー」
パソコンの画面から顔を上げたメローネが破顔し、ホルマジオが私の肩の薄っぺらさを掴んで揶揄した。鍛えたりしてないからね。書類を運んだりするのは全部ビアンコがやってくれるし。あっ、ビアンコって言うのは私の部下なんだけどね。最近ホモなんじゃないかって思い始めてお尻が怖い。どう考えても彼はガン攻めだし、私は貧相なので逃げられない。襲われたらリゾットに電話をかけられるように緊急連絡先ボタンに彼女の番号を登録しているよ。
「ねえみんな、花を受け取ってくれない?」
紙袋から四輪の花を取り出して、メローネと、ホルマジオと、プロシュートとリゾットに見せる。今日はバレンタインデーだ。イタリアの男として生まれたからには、プレゼントをしたいじゃないか。去年はうっかり忘れてしまったから、今年こそはばっちりキメたい。
「いいよ、受け取ってあげる。跪いて渡してくれる?」
メローネが床を指さした。いったいどんなプレイなんだと言いたいところだが、イタリア男としてはそういうのが正式なのかもしれない。私はどうにも染まり切れない。
花を片手に膝をついて、椅子に座るメローネに、はい、と差し出す。
「シニョリーナ、プレゼントだよ」
「……ん、まあ合格でいいよ。許したげる」
言葉とは裏腹に、なんだか嬉しそうな顔をしている。黄色の花に負けず劣らじかんばせの可憐さは私の心を和ませた。立ち上がって貧乳少女に抱き付くと、彼女も私に抱き付き返してくれる。すべすべの肌にすり寄って、可愛いねえと呟くと、メローネは得意げに口角を上げた。
「誰よりも可愛いでしょ?リーダーよりもさ」
「別の種類の可愛さなんだよねえ。ホルマジオも可愛いし、プロシュートは美しい。リゾットは格好よくてセクシー」
メローネはぷぅと頬を膨らませた。可愛らしすぎたので指で突いてしおれさせておく。
「プロシュートにも跪いて渡した方が良い?そういうのがマナーなの?」
「なよなよした言葉で喋ってないできちんと発音しろ」
「そういうあんたがイケ女過ぎるんだよ……」
歯切れの良いイタリア語は耳に心地よい。押し付けるように花を渡すと、プロシュートはくくった金髪を陽に輝かせ、整った横顔をつんとさせて花の香りを嗅いだ。いいんじゃないの、とオッケーサインを出して貰えて安心する。選んだ甲斐があったよ。
ホルマジオちゃんは普通に受け取ってくれた。小ざっぱりとした短髪の少し筋肉質な女性は、丁重な手つきで花をくるりと回し、部屋に生けて来る、と言ってひらひらと手を振る。なんでだろう、男性の私よりもクールに決まっている。私がおかしいのか彼女たちがおかしいのか。
「リゾット、受け取ってくれる?」
その中でも際立って鋭い雰囲気を持つ女性を振り返り、白色の花をそっと手渡す。リゾットはまつげの長い無感動な目を花びらに向けた。何も感じていなさそうな手つきで受け取ってくれて、私はやっぱり安心した。断られるとは思っていなかったけど、受け取ってもらえるとやっぱり嬉しい。
「ありがとう、これからもよろしくね」
なぜだかこのジョジョ世界ではメインキャラクターの性別が逆転しているようだけど、いったいどうしたことなのかしらね。まあいい、私は男として生きていくだけだし、彼らも女性として生きていくだけだ。
「ん、もし私が」
「なよなよ喋ってんじゃねえよ」
「うっ、すみません」
だって『僕』も『俺』も似合わないんだよ、私。ごほん、と言い換える。
「もし僕が誰かに花を贈ってプロポーズをするとしたら、いったいどんな風になるんだろうなって思ったんだよ。こうして馴染みのあるみんなに花をプレゼントするだけで緊張していたのにさ」
「……案外、お前なら容易くやってのけるんじゃないか?」
「そうかな?」
私はリゾットの、鍛えられているのにたおやかさを失わない白い手を両手で包み込んだ。
「リゾット、僕と結婚して。一生幸せにするなんて断言はできないけど、僕は絶対に君たちを離さないし、いつまでだって愛し続ける自信がある。僕と一緒に生きていこう」
リゾットが瞬きをした。目が細められて、やっぱり不合格かな、と私が言う前に、つんと手を払われてしまった。
「私にプロポーズの真似事をしている間に、他の女の名前を出すな」
「あっ、『君たち』って言っちゃったね。ごめんリゾット、リテイク!」
「一度きりだ」
「あああ、やっぱり失敗した……。ほら、うまく行かないじゃん!?気心の知れたリゾットに対してもこうなんだからなー」
メローネが手を挙げた。こっちにもやってよ。はいと返事をして、さっき言われたように椅子の前に跪く。こうかな、なんて確認を取ると、メローネは私の頭を上から押さえて角度を調節した。女王様かよ。
「これでいいよ。言って」
「えーっと、……なんかうまく思い浮かばないな。さっきのリゾットちゃんへのプロポーズで全力を使い果たした感じがある。えーっと、"好きだよメローネ、結婚して"」
「不合格!あーッ、いや、合格!?うーん!結婚してやりたい気持ちは山々なんだけど、まだ技術が足りないね。修業してから出直して」
本当に口惜しそうにしているので、私もちょっと引きながら頷く。こんなガチにならなくても。イタリア人のプロポーズはとんでもない価値があるとはいえ、私と君たちの間柄じゃあこんなことは日常茶飯事だろうに。元の出会いが口説いたようなものだ。
「わかった、練習しておくね」
「誰で練習するんだよ」
プロシュートの疑問はもっともだ。私も首を傾げて、そうだなあ、と周囲にいる女性を思い浮かべた。
「ギアッチョはやめておく」
「賢明だな」
怒られちゃうどころか沈められそうだもんね、意識を。