誰かさんの荒んだ話
誰も声を出さなかった。
人はいずれ死ぬ。けれど、今でなくてもよかっただろう。
そんな想いの中にたゆたって、なぜだか急におぼろげになった思い出を掴もうと手を伸ばし、指先からすり抜けた温度のない霞の残滓を見て、瞼を下ろす。
そんなことを幾度か繰り返し、期待と感動はしだいに薄れていった。
その仕事を続けていたのは、金に困っていたからではない。いなくなってしまった女の記憶が染みついているからだ。彼らの仕事を手配していたのは失せた女であり、仕事の書類を見るたび、まるでまだ何も終わっていないような気がした。そんな浅はかな感情は、落書きや労いの添えられることのない無情な余白に容赦なく現実を突きつけられていたが、彼らはどうしてもこの繋がりを断ち切れずにいた。
自分が死ぬとわかった時、彼らの胸に浮かんだ想いはそれぞれ異なっていたが、一つだけ共通していたのは自嘲だった。生き長らえる努力をしない自分に対する、嘲り。
誰も、仲間ですら自分たちの身を顧みず、無謀ともいえる仕事に挑み続けていた。組織の若き幹部に言わせればそれは自傷行為にも似ていたが、結局のところ、誰にも止めることはできなかった。その結果として彼らは次々に命を落としたが、悼む者はいても、留めようと努力をする者はいなかったように思える。
最後まで立っていた者も、女が大切にしていたもう一つのかたまりを庇って命を潰えさせた。それが正しい形だったのか、ブチャラティには年を経ても理解ができなかった。理解など、したくはなかった。
ポルポがそんなことを望むのか?
何度も口にしようとしてやめた問いを、彼はいつまでも胸に持ち続けた。
とある世界には、同じ名前を持つ男がいた。
差異のある世界で彼らは期待をし、大きく失望させられることとなる。騙された思いで、慣れたスタンドの感覚を取り戻し、仲間と再び道を共にする。環境の悪さも気にならないほど、達観した精神が確立されていった。
もしかすると、と言い出したのはメローネだった。無駄な希望を抱きたくなどなかったが、もしかすると、と言わずにはいられない薄暗さがあった。
「もしかすると、別の場所で生まれてくるかもしれない」
名前は違っても、記憶がなくても。あの髪の色と瞳の色と声と笑顔があれば、自分たちは彼女の存在に気づくことができる。もしそれが違う国だったとしても、探して見せよう。
ばかばかしいと吐き捨てる。それでも視線は女を探して街をさまよった。そんな自分を笑った。
けれど、いくら探しても見つけることはできなかった。同じ名を持つ男が死んでも、どんなにイタリア中を周っても。仲間の一人は遠い地へ向かったが、帰ってくることはなかった。メローネが乾いた声で笑った。まさか飛行機がね、と笑った。俯いた表情は誰からも見えなかった。
時折、忘れてしまいそうになる。笑顔も、声も、振り返る仕草も、触れた感覚も。すべてを忘れてしまえたら楽なのかもしれないとも考えた。
どうしても捨てきれない想いを抱いて、そうしてまた彼らは世界を巡った。三度目の世界には、不思議な力に溢れていた。
スタンドはいなくて、空想上の魔法が存在して、それから―――……