リゾットと買い物をする話
大きな窓に映るリゾットは、いくつかの紙袋を手に提げている。リゾット自身の洋服だったり(なんとユニクロではなかった)、お風呂グッズだったり、まあなにやら色々なものだ。隣を歩く私はショルダーバッグを持っただけの身軽さ。自分で持つよとは言ったけれど、こういうのも優しさなのだろう。善意を否定するのも申し訳ないので、素直に持ってもらうことにしていた。
「次はここに入ろ!」
提案したのは私なのに、店のドアを開ける時も、リゾットが開けてくれる。これはいつものことなんだけど、何だろうね。不思議なことに今日は特別にそういう気分のようで、語弊があるかもしれないけれど、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。
広々とした店内で気合を入れて服を選ぶ。これから先の季節の変わり目に対応する為に、新しい服を仕入れなくてはならないのだ。胸が痩せたなんてことは幻想で、ちょっとサイズを変えた下着もすぐに苦しいことになってしまったから、買うものはたくさんある。カードで一括、そんなことを言ってみたいと思っていた大学生の私はすでにおらず、ここにいるのは値札とパーセント割りをせせこましく確認してしまう小心者の元ギャングである。服のデザインを確認がてら、ちらりと見た値札にはそれなりの数字が書いてあったので、逡巡する。うーん、買えるんだよ。それこそこの店の端から端まで全部下さいと言っても買える。店ごと買える。でも、無駄な出費はしたくないじゃない?
「リゾットはどっちがいいと思う?」
二つのチュニックを身体にあててリゾットの方を向く。彼は店員の生ぬるい、恋人さんとお買い物ですか、そうですか、リア充は幸せに爆発してください、というそんな微笑みを受けながら私の動きを見ていた。わずかに首を傾げて品定めし、答えてくれる。
「右の方が似合っていると、俺は思う」
「ん?リゾットにとっての右?」
「お前にとっての右だ」
こういうところまで私目線。どういうことなの。どんだけ気遣いができる男なの。戦慄を抱きながらありがとうとお礼を言い、左手のハンガーをラックに戻した。
「上に合わせてこちらのパンツなどはいかがでしょうか?」
完全に客と見做したか、暇そうにしていた店員さんがわらわらと近寄って来る。苦手ではないけど、今は別に大丈夫です。連れがいるからね。
「彼の好みに合わせたものを買いたいので」
「マンマミヤ!素晴らしい!」
半ば冗談で戯言をぶっ込んだらガチの反応が戻って来た。なんだかすみません。
リゾットは平然とした様子で別のラックを指さした。
「あの色はお前に似合う」
それから一拍を置く。
「……と、俺は思うが、お前はどうだ?」
思わず内心でクソ萌えた。おっと、クソだなんて言っちゃあいけないわね。めっちゃ萌えた。リゾットってあの色が好きなのかな。『好み』の話の流れだったもんね。
「私もあの色が好きだよ。以心伝心だね」
「……」
リゾットが視線を逸らす。照れるな照れるな。うるさすぎる絡み方をしたくて仕方がなかったが、外出先なのでぐっとこらえた。
試着を済ませ、フィッティングルームで元の洋服に着替えをしている間に、なんとお会計が済んでいた。スマートすぎてびっくりした。
「え、いや、自分の洋服くらい自分で払うよ」
「今日はいい」
「なんで?」
それならせめて袋を持とう、と伸ばした手をやんわり拒まれ、手持無沙汰に怪訝な表情を浮かべる。なんかあったっけ。結婚記念日か?そもそも結婚をしていませんけど。
「『あの日』が近い。お前は花は要らないだろう?欲しいものを渡すのが一番だ」
「花?」
そう言われてぴんときた。フェスタ・デッラ・ドンナ。『女性の日』が近いのだ。
イタリアの行事として、その日は男性が女性にミモザの花を贈る。私も何度か贈られたことがあるけれど、ついつい忘れがちなイベントですね。私の場合はほら、三月と言えばひな祭りなので。日本人としての記憶は濃い。
「花の代わりにお洋服、ってこと?」
「代わりになるかは解らないが」
どう考えても花より服の方が高いですよ。いえ、いいならいいんですけど。気持ちはすごく嬉しい。
「ありがとうね、リゾット。愛してるよ!」
ん?この言い方だと洋服を買ってもらったから愛を囁いた、なあんてニュアンスに聞こえてしまうかな?まあいい、リゾットはそんなふうには受け取らないだろう。
案の定彼は、紙袋を持ったまま背をかがめて、私の頬にキスをした。