暗殺チーム+ポルポin原作5部
記憶の中に確かにあるのはよォ、とホルマジオがリゾットの携帯電話を鳴らした。
「記憶にあるのは、俺らがパッショーネの麻薬ルートを乗っ取ろうとしていたっつうことなんだが」
私は少し寒々しいアパートでリゾットと並んで立ち尽くしながら状況を把握しきれず目を白黒させていたのだけど、それは私たち全員が同じだったらしい。リゾットの電話はさっきから鳴りっぱなしで、着信履歴には知らない番号だけが残っていく。
「どうやら俺たちは信じられない状況に置かれているらしいな」
ようやく九人の間で事情を交換し終わり、リゾットが電話を閉じる頃には、一番最初に電話をかけて来たホルマジオが傷だらけの身体で部屋のドアを開けていた。
私以外の全員には、"今までの"記憶が確かに、記録のように残っているのだという。それはソルベとジェラートが死んだ記憶であり、ボスに反旗を翻すことの決意でもある。私たちが回避したはずの未来がここにはあり、なぜか私一人が共有できていない。理由は簡単だ。私は"この世界"の"ポルポ"と同期できなかった。私は私として存在してしまい、いわゆるパラレルワールドの自分の肉体を乗っ取り憑依してしまった彼らとはシチュエーションが違う。よって、私は何も知らないふりを貫かざるを得なくなっている。
ホルマジオはハチの巣にされかかった身体に手洗い治療を受けながら、推察した事実を語り始めた。"これまでの"自分たちがボスの娘を確保しようと動いていたこと、その為に護衛チームを追跡したこと、そしてナランチャに敗北しかかったこと。
「ガキに負けてんのかよ、情けねえ」
「うるせェよ」
いや、しかし死ぬ前に逃走できてよかった、ほんとに。マジで。ガチで。いや、死ぬからね君ね。危ないところだったんだよ本当に。言わないけど。
言わない代わりにホルマジオを精一杯労わってコーヒーを淹れた。あっこれいつもお得なインスタントのやつだ、と気づいて胸が苦しくなった。なんかボスがすみません。
「で……どうすんだよ?ボスの娘を奪うのか?」
どっかりと椅子の背もたれに凭れるギアッチョは、訳の分からない現実にがりがりと噛みつくように機嫌が悪い。そういえば君たちの中での私の扱いってどうなってるんだろうね。この世界でのポルポって、いったい。
「胸糞悪ィデブ」
「俺の記憶によるとデブだったぜ」
「常に物食ってたな」
「ポルポとは似てなかったぜ」
「なんか変な人だったよね……」
「『変人』ではあるんじゃあねぇのか」
「変な奴だったおぼえがある……みたいだぜ、この身体には」
「キモかったよな!」
なぜか自分が貶されているような気がしてくる。は、はい、そうなんですね、すみません。
「トリッシュちゃんのことは、個人的には、その、ボスには渡したくないんですけど」
「俺もそいつは同感だな」
肯定してくれたのはプロシュートだ。さすが、イタリア男の粋を集めて建造されたような兄貴。
「ルートとしちゃあ、俺らが辿ったのと同じなんかな?」
「だったら先回りが可能なんじゃねえ?敵対の意思がないっつってよォ」
そんな護衛チームのみんながチョロいみたいな言い方やめたげてよ……。みんな全然チョロくないんだよ。好感度アップとしては凄い苦労した、ん?あれ?苦労はしてないな。なんかみんな良い子だったからな。でもチョロくないんだよ。高潔すぎる男たちなだけだよ。
きつい。
サン・ジョルジョ・マジョーレ島に追いつくことができなかったので、かなりつらい展開になることは理解できていた。
シルバー・チャリオッツ・レクイエムの効果で精神が入れ替わった私は非戦闘員として頭を抱えてしゃがみ込んでいる。だって、これみんな死ぬ。
フーゴは離脱して恥パルートまっしぐら猫まっしぐらだし、私たち暗殺チームもあまり信用を得ることができず、協力体制とはいえどお互いの間に絆はなさそうだ。ひどすぎる。散々な結果である。あまりにも時間が足りな過ぎた。
夢を見ていたような気持だったけど、もし、これが戻れない現実なら。いや、この世界は現実であると理解はできているのだけど、私たちが生きていた世界とはやはり異なっている。現実味がなかった。だけど、実際にブチャラティは九割がた死んでいて、アバッキオはかろうじてホルマジオのポケットの中で生きているけど(リトルフィート様様)、これから先、ナランチャも死ぬ。暗殺チームのみんなが生きているのは麻薬ルートの奪取から手を引き、護衛チームのみんなとコミュニケートをしたからだ。
うう、ボスを倒すのに協力して、と言って暗殺チームの彼らが死んでしまう可能性を考えると迂闊なことはできないし、かといってナランチャを。ナランチャを見殺しに。あああ。
「こんな現実きつすぎる……」
この世界で生きていくのか、私たちは。なぜこうなってしまったんだ。いったい誰のせいか、議論することは無駄極まりない。それならば、どうすれば元に戻れるのかを考えるべきだ。うう、苦しい。
夜のコロッセオで、私にとってのバッドエンドを迎えて、もういやだかえりたい、と十割本気で涙が浮かんだ。
ふと気が付くと、風の音は止んでいた。
しゃがみこんだ姿勢のまま目を開けて見えたのは、目がくらみそうになるほど懐かしいカーペット。え、と声が出た。立ち上がると、そこは私の家だった。
隣にはリゾットがいて、中途半端に浮かせた手を見下ろしている。すっと下ろして、戻ったのか、と呟いた。
「も、もどった?ここ、……えっと、ここはどこで私は誰?」
「ここは俺たちの家で、お前はポルポだ」
ありがとう。俺たちの家ってところに何かグッとくるものを感じたけど今はそんな場合じゃないね。私は家の電話に駆け寄り、震える手で番号を押した。どちらにしようか迷って、リゾットが生きているのだから他のみんなも生きていてくれるだろうと判断し、別の番号を選んだ。
コール音がして、五回目で電話が取られる。
「俺だ。どうしたんだ、ポルポ?」
ブチャラティの声だった。
「なんでもない……。ア、アバッキオは?ナランチャも、みんないる?トリッシュも?」
「あぁ。アバッキオはついさっきまでここにいたが……用事があったか?」
「いや、ちょっとね、ごめん。声が聞きたくなっちゃっただけ」
他愛のない話をして、電話を切る。
電話台に手を置いたままため息を吐いた。ああああ、危ねえ!戻って来られてよかった。
そわそわと落ち着かない手つきでもう一つの連絡先に電話をかけ、こちらも無事と、共通する『あの世界』での記憶を確認する。不思議だよなと首を傾げているようだったけど、そうしたいのは私も同じだ。
不思議な体験だったけど、もう二度としたくない。
今夜はみんなで集まる約束をして、電話を切った。