プロシュートとポルポの話
プロシュートは、とっぴで、とんでもなく、恐ろしいことを考えた。
この女は何を目的としているのかがわからない。スタンドという不可思議な能力をプロシュートから引き出した女は名をポルポと言ったが、こいつはとにかく奇妙な人物だった。
度胸と金と、権力はある。それだけあればこの世界でやっていくのには充分だっただろうが、プロシュートよりも数歳若いその女には、権力を持つ者独特のにおいが感じられなかった。良く言えば無欲、悪く言えば鈍感。自分が今、どの立ち位置に居るのかを冷静に見極めていながらにして、自らその垣根を越える、上司としての自覚のない行動が目立つ奴だった。
ポルポはプロシュートたちをとても可愛がった。満足なだけの給料を与え、住処を用意し、食事に誘った。人の清濁を見極めて来たプロシュートには、彼女の意図が読めなかった。正確に言うのならば、読めてはいたが、真実そうであるのかの判別がつかなかった。なぜならプロシュートの読み通りなのであれば、彼女はただ単にプロシュートたち九人を無条件に、まるで子供でも扱うように愛しんでいるということになるのだから。
可愛いから、可愛がっている。単純な説明だ。そして、とても理解がしがたい。この世界において、精神的なつながりほど脆いものはなかった。
プロシュートは、とっぴで、とんでもなく、恐ろしいことを考えた。
この女は何を目的としているのかがわからない。もしかすると、すべてはまやかしなのかもしれない。
プロシュートには仁がある。寄せ集めのスタンド使いとはいえ、一度仲間と認識した八人のゆくすえが暗いかもしれないと察していて、危険を放置することなどできなかった。
女の正体を知る必要があった。彼女がどこまで自分たちを信頼しているのか、どこまでの打算を持って動いているのか。知る必要があると感じた。
そして、ふと思いついたのだ。
ポルポと二人きりになる機会は、すぐに訪れた。思いついたことは消えず、プロシュートの頭に絶えず在った。
「おい、手出せ」
一片も疑わず、ポルポは手を出した。差し出したプロシュートの手の上に自分の手をのせる。逃げられないように強く掴んでも、ポルポは逃げようとすらしなかった。今思えば、アレは度胸の片りんなのではない。本当に、プロシュートが自分に危害を加えるとは想像もしていなかったのだ。
零距離で発動したスタンド能力は正確に女を老化させていった。
「……え?……ああ、えっと……なるほど……」
ずるずると老いてゆく自分の指先と、痩せて緩くなりゆく袖口を見て、ポルポは納得したように呟いた。
何がなるほどだ。これから死ぬっつうのに、何を納得していやがるんだ。最後の言葉がそれで良いのか?何を考えてんだこの女は。
プロシュートは余程そう言いたかった。他に言うことはないのか。咎めはしないのか、批難は、裏切られたとは言わないのかと訊ねたかった。まっすぐに自分の『死』を見つめて揺らがない赤い瞳は、リーダーと呼ばれる男のものとは違う、夕陽のような色だった。
スタンド能力を解除し手を離すと、彼女は反対にプロシュートの指を追いかけ握りしめた。握手の真似事をして、すべてを打ち切るように数回手を振る。
「はい、終わり。なんか知らんけど、あんまりびっくりさせないでほしい」
なんだ、それは。
バカじゃねえのか、と口から心底の呆れが飛び出した。
「俺がテメーを殺そうとしたとは考えねえのか」
ポルポは首を振った。
「利がないでしょう。それに、殺されそうになったって、まだ死ねないからね。やりたいことはたくさんあるし、食べたいものもいっぱいある。できれば君たちと仲良くしていたいし、それ以外にもしなくちゃいけないことが山積みだ。どうしようかなって考えてたのよ。ありがとうね、解除してくれて。おかげで生き延びたわ」
それからからりと笑った。
「おばあちゃんになったのは、うん、初めてだったわ。それもありがとう」
誰だってそうだ。年を食ってもいないのに、老いるはずがない。
プロシュートは永遠に彼女の言葉の真意を知ることはなかったが、とにかく、その時に感じたことが一つだけあった。
こいつはバカだな。
しかし、それは不思議と嫌なバカさ加減ではなかった。ただのバカではないかもしれない。そうも直感が働いた。
そしてポルポは、今もプロシュートの上司としてここにいる。
形式上の肩書であっても上司は上司だ。もっと上司らしくしゃんとしやがれと指摘をした回数は数えきれない。ポルポはそのたびに笑って、ハイハイ兄貴、と粗雑な返事をした。
「返事は一回にしろ」
ポルポはからりと笑って片手を挙げた。いつかプロシュートが握った手だった。
「はいよ、プロシュートさん」
それでいいと、今、プロシュートはそう思っている。