チェイン・皇



どうやったらうまくいくのかなんて、誰にもわかったもんじゃあない。
やりたくもないくじ引きで大当たりを引き当てても嬉しくないし、あからさまにガッカリした少年に景品を譲ろうとしてもそれは認められないときた。手に入れたのは使い道のない新作映画のペアチケットと恨めしげな視線だけで、私はまったく喜ばしくない気持ちで封筒を受け取った。
金一封ならまだしも、厳しい社会風刺と世論を皮肉ったドキュメンタリー映画に興味はこれっぽっちも沸かないから困ってしまう。

「いる?」
「いらない」
ダメで元々と思い友人に電話をしてみたが、返事はとても端的だった。うん、そうだよね、興味ないよね。
「知り合いにもいない?」
「訊いてみるけど、期待しないほうが良いと思う」
「興味なさそう?」
「興味なさそう、プラス、興味があったら特別枠で試写会にお呼ばれできる面子だから」
「そっか、チェインの職場ってコネクションが凄いんだっけ」
「まあ、簡単に言うとね」
「そっかあ……」
陳腐なくじ引きで手に入れた無料券のお世話にならずとも望めばどうにかなってしまうと。
「三等賞の調味料詰め合わせが欲しかったんだけどなあ」
「あなたって運を無駄に使ってるよね」
「はっきり言うねえ」
でもそのとおり。
本当に欲しいものは目の前で霞になるっていうのに、他の誰しもが求める大当たりがあちらから勝手に腕の中へ飛び込んでくる。違うこれじゃない、と何回脳内で叫んだことか。
贅沢な悩みなのだろうか。ありのままを受け入れてありがたがればすべてがうまく回ったりするのか。
曇天を見上げる。
今にも雫が滴りそうな重苦しく澱んだ湿気が肺を満たした。
「雨が降って欲しいときには降らなくて、降って欲しくないときに降る」
「じゃあ降って欲しくないときは降って欲しいって思っておけばいいんじゃない?」
「降ったら困るのに?」
「困ったとしても、それで雨が降ったら、少なくとも自分の思いどおりになったってことでしょ」
難しい話をされた。
一つ一つ紐解いて、電話口じゃあ見えるはずもないけれど私はなるほどと頷いた。
望まない展開ばかりに見舞われてままならぬ日々に辟易する私にとっては、雨が降らなければ万々歳だし、降ったとしても願いは叶ったことになるから多少は気が晴れるだろう。雨が降って気が晴れるとはまたおかしな心持ちだが、悪くない提案に思えた。
「……あれ? チェイン、もしかして励ましてくれてる?」
「気づいてくれて良かったよ」
「へへ。チェインのことならなんでもわかるよ」
「よく言うわ」
私と話すチェインの声音は落ち着いていて、いつだってメトロノームのように一定を保つ。電話越しだと余計に淡々として聞こえるから、どんな表情で言葉を紡いでいるのかわからなくなるときも多い。

でもチェインは決して私を邪険にしない。

私が甘ったれたくだらない用件で電話をかけても時間があれば五分くらい付き合ってくれるし、忙しくてぱたっと連絡できなくなったら一通、ちらっとメールをくれたりする。
チェインの愚痴も聞きたいなと言った私に「私に泣きつかなくなったらね」と大人びた台詞を吐いた横顔は笑っていた。
きっと聞いてみせるんだと意気込んだ日から今日まで随分と月日が流れたけれど、まだ実現できていない。
それくらい長いあいだ、チェインと私は友だちでいる。

「チェイン、ありがと」
「急になに?」
「なんでもない。言いたくなったの」
「あ、そう。……チケットの転売はしないでね。私、友人を摘発したくないから」
「しないよ! 私も友だちに摘発されたくない!」
声を上げて笑うと、憂鬱だったポケットの中身がいくらか軽く感じられた。やっぱりチェインはすごい。
笑みを浮かべて緩んだ頬に冷たいものがポツリと当たった。
目を瞬かせるうちに、どんどん増える雫が顔や服を叩いてポツリポツリと音を立てて私を濡らす。やがて大粒の雨粒が地面を弾き始めると、道ゆく人々は揃って空を見上げ歩みを早めた。
私は降り注ぐ雨の中で茫然と立ち尽くした。
「チェイン、雨が降ってきた」
「ド迷惑」
「ごめん」
正論だなと思った。
「でもおめでとう」
「あ、うん、ありがとう!」
「じゃあ切るから。じゃあね」
「また電話する!」
「ん」
ツー、ツー、としか言わなくなった携帯電話を鞄にしまい込む。

跳ねた水飛沫が靴を濡らして、つま先に不快感が滲んだ。
私は我に返り、大慌てで駆け出した。






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