スタンドの形状についてのお話


私のスタンドはめちゃくちゃ格好いい姿をしていた。姿だけならもう、なんていうか、グランプリじゃない?ってくらいカッコイイ。ブラックサバスを見知った人に訊ねると、戸惑いがちながらも「あ、ああ、おう、格好良かったような気がする」と言ってくれるし(無理やり言わせたのに近いというのは無視をする)持ち主に似合わぬ残酷な能力ながら(笑うところではない)ビジュアル面ではマイフェイバリットスタンドベスト5をひた走っていた。
そんなサバスがいなくなってから早数か月。広いリビングルームでぐだぐだ過ごしていた私はふとリゾットの膝から顔を上げ、フローリングに寝転がったり人を堕落させるソファにうずもれて本を読んでいたり大画面のテレビで贅沢にゲームをしていたりする我らが暗殺チームに声をかけた。
「スタンドって持ち主に似るよね?」
「ああ? 何だよ急に」
3部のスタープラチナをはじめとしたスターダストクルセイダースのスタンドは、ハミパはともかく、持ち主にどことなく雰囲気の似通った姿をしていた。4部もそうだ。5部も、スティッキーフィンガーズなんかはとても持ち主の特徴を掴んでいるし、並んでいるとしっくりくる。ムーディ・ブルースもそうじゃない?なんとなくアバッキオっぽくない?アバッキオっぽいんだよ。異論は認めるけど、私はとてもあのお茶男に似ていると思う。
ただこの、スタンドは持ち主に似る、という理屈で行くとリゾットがとんでもなく可愛いことになっちゃうんだけど、まあそれはそれで最高だからいいとして。
「面白いよね。カッコいい人にはカッコいい姿のスタンドがいてさ。可愛い子には可愛い姿のスタンドがいるって」
「オメーの好きなフーゴちゃんはどうなるんだよ」
「可愛いと思うよ」
「俺の目を見て言えよオメー」
いや、彼はね。フーゴちゃんはほら。色々あるんだよ。本人にビジュアル的な意味で似ているかと言われると躊躇わずには居れないのだけど、フーゴと、例えばエアロスミスを並べてみてもしっくりは来ないと思うのよね。パープルヘイズだからこそ合うのよ。
「合ってるからいいんじゃない?」
イルーゾォが冷やかに言い放つ。
「早速頓挫してるぞお前の理屈」
「確かに。カッコいいとかカワイイとかっていうのがそもそも私の感性に因ったものだし」
「どっちかっつうと精神に似るんじゃねえの。精神エネルギーのビジョンなんだし」
「つまりやっぱりリゾットは天使、という話をしている?」
「してねえよ!!」
ここで火に油を注ぐのがメローネである。
「え、ナニ、イルーゾォってリーダーのこと可愛くねえって思ってんの?リーダーがブスとかよく言えるよなー。俺なんか怖くて言えねえよ」
「言ってねえっつってんだろ!?お前の方が失礼じゃねえかよ!!っつうかリーダーはカッコいいし!!」
「ナイスフォロー!」
「ホントお前マジで黙ってギアッチョとゲームしててくれねえ?」
「あははは」
「あははじゃねえよ」
飛び火を食らったリゾットは素知らぬ顔でテレビ画面に展開されるRPGのムービーを眺めている。私が完全に身を起こすと、肘掛けよろしく私の肩にのせていた手をそっとどかしてソファに下ろした。こういう自然な動きに『生』を感じて泣き掛けてしまうのだがどうしようね。とりあえず抱こうかな?
「話を戻すけどさあ、スタンドの形って色々あるじゃない?それこそイルーゾォが言ったように精神の在りようによるのかもしれないけど、もしそうだとするとスタンドには嘘をつけないってことになるわよね」
ギアッチョが操る主人公の動きの巧みさに感心していたペッシが、ひょいと身を乗り出して合の手を入れる。
「自分の心に嘘がつけないように、かい?」
「そう。口ではそう言っていても身体は正直なように」
「オメー、そろそろそういうネタから卒業するトシだとは思わねェの?」
「同い年のあんたが何を言ってんの?」
「それもそうか。ワリ、今のナシな」
「二人同時に卒業しろよ」
つれないイルーゾォからのツッコミは同年齢特有の一体感のもと受け流す。聞かなかったふりをしたふたりにうんざりしたのか、おさげの彼は肩を竦めてジンジャーエールに口をつけた。直輸入のすんごくからいやつだ。最初の一口は炭酸のきつさと後味の激しさに驚くけど、後を引くおいしさがあるんだよね。イルーゾォも今回はそれの虜になったのか、さっきから手酌でグラスに注いではちびちびと舐めている。
「で、どうしようもなく疑問なのがギアッチョのネコミミスタンドの可愛さとリゾットのメタリカの可愛さなのよね。どういうこと?」
「どうもこうもないだろう」
「どういうことかは俺が聞きてぇよ」
「あ、ギアッチョ、そこの宝箱ってどうやって取るの?」
「攻略本見ろよ。あんだろ、そこによぉ。上の階から落とし穴で落ちンだよ」
「へえ」
教えてくれるギアッチョに圧倒的感謝。あえて自分から落ちるっていうのが怖いよね。下のマップと上のマップの形を呑み込めていないと失敗して振りだしに戻ってしまいそうで勇気がいる。
ちなみに今回ギアッチョが獲得したアイテムはワンランク上の盾だった。手元の攻略本で絵を確認したところ、なかなかスタイリッシュで素敵なデザインだったが、残念ながらギアッチョはそれを装備させなかった。よく見たら防御力が上がる代わりに敏捷さが下がるんですね。なるほどなー。
で、ネコミミネコミミ。スタンドは精神のビジョン。カワイイ。
「……ん!?私今、世界の真理に辿り着いたかもしれない!」
凄いことに気がついたぞとしばらく自分の中で考えを整理してから立ち上がる。ギアッチョはゲーム画面に夢中で私のことはちらとも見ない。
「スタンドは精神のビジョン、なのよね」
「あ?そうなんじゃねえの」
「ギアッチョのスタンドにはネコミミがついているのよね」
「うるせーなオメーは。ほっとけよ人のスタンドの形なんてよぉ」
「待って、大事なところなの」
ごくり。私が唾を飲んで拳を握ると、ようやくすべての視線が私に向けられた。プロシュートが一番面倒くさそうにしている。彼のスタンドはまた彼なりに闇が深そうで追求したくないのでここでは放置だ。
「ギアッチョは……ギアッチョの精神はネコミミ……つまり、ネコ……という……ことになるんじゃない!?」
ギアッチョがコントローラーのケーブルを本体から引き抜いた。そのまま思い切り私に振りかぶる。ウオッ!と身を竦めたところで慌ててホルマジオがギアッチョを羽交い絞めにした。ありがとう。自業自得とはいえちょっと怖かったよ。
ごめんごめん、本当にごめん、と謝る私に、もはやギアッチョは一瞥もくれない。しかしこの場から立ち去ったりゲームの電源を切ったりしないところを見ると、まだ愛想を尽かして出て行く、というまでには至っていないらしい。セーフセーフ。ただ単にセーブポイントまで行きたいだけな可能性もあるが、何でもいいやここにいてくれるなら。
「じゃあスタンドから見ると、俺は妖精みたいに心が清らかで可憐だってことかい?」
こう言ったのはジェラートだった。私たちはソルベも含め、笑いをかみ殺し損ねた引きつった声を上げた。ジェラートの心が綺麗か綺麗じゃないかは私に判断できることではないので置いておくが、可憐な精神をしているかと言われると咄嗟に否定したくなる実績がある。
ジェラートのスタンドは、確かに彼の言う通り妖精のような姿をとっている。『死の予約』をした人の周りをくるりと廻り魔法をかけるように舞い遊ぶ、握りこぶしくらいの大きさの生き物だ。生き物と言うのは正しいのかな。姿だけ見れば可愛いけど、本体を知っていると"何か裏があるんじゃないか"と思ってしまう罪な形状だ。
私たちは一同沈黙し、ジェラートの相棒たる氷菓子の片割れに後を任せた。
ソルベはからりと笑う。
「ジェラートは確かに天使みてえに可愛いし、やっぱり精神とスタンドの姿にはふっかぁい繋がりがあるとしか思えねえよなぁ」
ああ、と顔を逸らす。ダメだ、本気か冗談か見抜きづらいけど何となくガチっぽい。節穴なんじゃねえの、とプロシュートが呟いた。ギアッチョとネコミミ&リゾットとメタリカちゃんの可愛さ関係で確信できつつあったスタンドと精神の繋がりが一気に嘘っぱちなんじゃないかと思えてきたから不思議だ。ソルベとジェラートってスゴい。改めてそう思わされる。