きらいと言ったら

ドリーム小説
畳は綺麗に掃除され、目にも埃はちらとも見えなかった。指でなぞるとつるつる気持ちがいい。時計の秒針は静かで、漫画のページを読み進める音も聞こえなくなっている。承太郎が手を止めたから、の丸く見開かれた目が部屋の沈黙を映す。
「お前、スタンド使いに洗脳でもされたのか」
じいさんを呼んでくる、と立ち上がりかけたを制するのは花京院だ。こちらも承太郎の発言に驚いているが、真意を読み取るつもりでの手首を握って座らせた。
「もう一度言ってくれるか、承太郎」
青年は躊躇しなかった。
「俺はが嫌いだと言ったんだぜ」
今日のはレモン色のスカートを履いている。ふわりと広がる素材は肌触りが良く、フリルのついたブラウスの胸元を飾るのは細く青いリボンだ。いつもと同じようにきちんと左右均等な蝶結びにされている。
その薄絹を重ねたようなスカートを握りしめ、はぶるぶると震えていた。悲しみなのか屈辱なのか、花京院には判別がつかない。ここにジョセフ・ジョースターを呼ぶことは火に油を注ぐ結果しかもたらさない。とにかくそれだけを思い、障子の向こうを気に掛ける。誰も居ないようだ。
「花京院!スタンド使いを探せ」
「洗脳とは限らないよ、
むしろしっくりくる。花京院は承太郎が真顔で冗談を言えると知っていたが、それにしても動揺がなかった。花京院は困り切ってしまう。度胸はこんなところで発揮するものじゃない。
「承太郎が僕を嫌いになるわけがない。つまりこいつは偽物か、洗脳を受けた承太郎だ」
「いったいその確信はどこから来るんだ……」
畳の上で豪快に胡坐をかき、少年は花京院の手を振り払う。可憐な見た目とは裏腹に態度は荒っぽい。
「いいか。まず初めに、僕を嫌いになる奴はいるかもしれない」
「うん」
「でも承太郎は違う」
「うん。……うん?いや、そこが解らないんだけど」
の理屈はいつも突拍子がない。花京院は必死に少年の言いたいことを呑み込もうと苦労を重ねた。
滔々と言い連ねたところによると、の主張はこうだ。は他人に興味がない。だから自分がどう思われようと気にならない。好かれるのは当然だと思うし、嫌われたところで相手に見る目がないのだと呆れすら抱く。
しかし同時に、自分が少なからず"認めた"相手から嫌われるはずはないとも思っている。自分が気に掛ける相手が自分に心を砕かないはずがないと信じ込んでいるのだ。冗談じみた傲慢さに花京院は閉口した。言葉を失う傍ら、こうも思ったけれど。
「(まあ、……なら妥当な所かな……)」
承太郎は漫画雑誌を放り捨てた。こんなの性格に付き合って何年になるか。慣れ切ってしまったが、改めて聞くと馬鹿らしい。
は花京院の制止を振り切る。四つん這いで承太郎に近づき、顔を覗き込んだ。逸らされてもめげないところが、たるゆえんだ。
「冗談が下手だぜ、承太郎。お前が偽物でもなければ洗脳されてもいないのなら、あんまりにも下手くそな冗談だ」
承太郎は目を逸らしたまま返事をしなかった。否定もなかったので、は満足そうに清楚な微笑みを浮かべる。この面の下に粘っこい驕りが隠れているのかと思うと、花京院は気が遠くなった。