リゾット夢(ポルポシリーズ)


ソルベに思い出話をされて初めて気づいたんだけど、どうやらリゾットは私を避けていた時期があったらしい。
言われてみれば確かにナニか様子が変だなあと思ったことがある、ような気もする。当時は察していたのかもしれないけど、あまりにも些細な抵抗過ぎて綺麗に忘れていた。私の心を動揺させたいのなら完無視一年持って来いって感じだ。リゾットちゃんの可愛いスルーにはもう慣れちゃっているから、記憶を辿っても全然傷つかないぞ。
「ポルポのイイトコロはそこだよな、生きやすそう」
「喧嘩売ってんのか褒めてんのか、どっちかにしてくんない?」
「褒めてるんだって!」
追及はせず、ソルベとジェラートの語りに耳を傾ける。
リゾットが私を避けていたのは、チームメンバーが全員揃う数か月前のことだそうだ。その頃チームにはリゾット、プロシュート、ホルマジオ、ソルジェラの五人がおり、平穏極まりない日常と危険なお仕事を片付けつつ私の品定めをしていたとのこと。どうでもいいけど、そういうのは本人には言わない方が良い気がする。
「リゾットによく絡んでただろ?ほら、リゾットちゃんも多感なお年頃だったからさあ、色々あったんだよな、たぶん。うん」
嫌われていたと言うと語弊がありそうだ。そこまでひどかったらリゾットは私には一切近づいて来ないもんね。多感なお年頃のリゾットをこの目に焼き付けておかなかった後悔が今更ながらに私を苛む。くっ、おっぱい攻撃で純情を刺激される二十代前半のネエロさんちのリゾットくんをもっと見ておけばよかった。暗殺チームの初期ってまだみんな若々しいしチームに慣れてないしぎすぎすしてるし可愛いなあ、なんてほのぼのしてる場合じゃなかった。人を避けるリゾット。見ておけばよかった。最高に口惜しいのでオレンジジュースを一気飲み。
「でも、ポルポが気づいてなかったんじゃあリゾットの一人相撲か」
「逆に良かったんじゃねえの、リゾットのクロレキシにならなくて済んだんだからよ」
「ちょっと待って、私そんなに理不尽に避けられてたの」
「理不尽じゃあねーって。フツー、理想的であってほしい上司に……まあ無理だったけど。クソじゃねえ奴であればいいとちったあ思ってんのにべたべた絡んでこられたらウザいし……まあ……」
ここまで断言されると気持ちが良い。そうだよね、と同意するしかなくなる。その節もこの節もすみません。
「心当たりも全然ナシかよ?」
大きな胸に手を当てて考えてみる。うーん、心当たりねえ。
リゾットの様子がおかしいと感じたことはある。素っ気ないのはいつも通りだったから深くは考えなかったし、生理かな、程度の感想しか抱いてなかったけど、避けられていた時期があったのはわかっていた。けれど、本当に避けられていたとは。変な言い方だけど、私の気のせいで終わらせれば違和感なく流せる話だ。
「そういえば、ある時からハグを……こう……返してくれるようになったような気もする。アレ?前から返してくれてた気もするんだけど」
挨拶のハグは挨拶なので軽く抱き返してくれていたんだけど、言われてみると親愛のハグが戻って来てびっくりした時があったような。自然なふうだったからすっかり忘れていた。
「うんうん。それだな」
それかあ。
……いやいや、何がだ。私は避けられていたのか。ハグが一種のきっかけだったんですか。私には読み切れない男、リゾット・ネエロ。
ジェラートは大げさに手を広げて言う。
「ポルポってリゾットのことを気に入ってたよな。なーんか理屈があるんだろうけど、俺らにとっちゃ意味がわからねぇわけさ。リゾットなんかは特に警戒心がツエエから意味を読み取れなくって困惑してたぜ」
「そんでもって、ハグとかするじゃん?」
「してたわねえ。でもありゃあ挨拶よ」
「でもリゾットは嫌だったんだよ。後付けの理由だけどな、たぶんそんな言い訳でもしてたんじゃねえの」
滅茶苦茶ばっさり切り捨てられて、メンタルの弱い私は瀕死だ。嫌だったら言ってくれたらいいのに。
けれど、普通は言わないよな。お給料やメンバーの生殺与奪を握っている上司に嫌なことを嫌と言って気を損ねたらどうなるかわからない。リーダーとして人を率いている以上、彼は自分の行動に責任を持とうとしていた。まだ人が揃わないうちは私への信頼もほぼ/Zeroっつう攻略難易度MAXな乙女ゲー登場人物って感じだね。全員を攻略しないとルートすら開かないタイプの。数々の少年たちを手玉に取りヒイヒイ言わせてきた私が断言する。
それがどうしてこうなっているのやら。まあ、この問題はいいや。今は、何がきっかけでリゾットが私にデレたかだ。
「なんでリゾットは私にハグしてくれるようになったの?二人がナニか言ったの?」
「いんや、別に。根負けしたんじゃね?」
「あるいは悟りを開いたかだろ」
どんだけ苦痛だったんだよ。リゾットに訊くに訊けない事案なのでソルジェラの証言に頼るしかないが耳が痛い。ダメな上司ですみませんでした。お金とご飯しか有益なものがなかったんじゃないか。
「ぶっちゃけ、……元々嫌だったわけじゃねーんじゃねーかなあ」
「ん?」
元々嫌だったわけではないけど、突然ハグされるのが嫌になった。でもまた許してくれるようになった。何かな、生理かな。さっきからリゾットへの『産める』確信が強まってゆきつつある。
「急に都合が悪くなるってこともあるんだよ」
「あるんだぜ、ポルポ。知らんだろ?」
知らないわね。
「君たちが可愛すぎて理不尽な怒りが湧き上がることはあるけど、似たようなもんかな」
リゾットも私が好きすぎてフッと嫌になっちゃったのかな。私には人の心がわからない。
「ぶっ……、ぎゃはははは!」
「ひー!マジかよ!前から思ってたけど、ポルポの守備範囲って広いよな。オッサンもカワイイんだろ」
どんな人でも何歳でも可愛い人は可愛いよ。
不意に気になったので、神妙な顔をつくる。もちろん本気で思ってはいない。
「……ちょっとアレなんだけど、ソルジェラから見て、今のリゾットって私を避けてないよね?」
二人が椅子をガタガタ言わせながら笑い始めた。草が生えすぎた熱帯雨林だ。涙すら浮きそう。まるで私が稀代のコメディアンであるかのように錯覚してしまうから、あんまり盛大に笑わないでほしい。本当はここまで面白いことは言っていないんだよ。
「避けるどころか、ヒヒッ、ポルポ、言っただろ。ポルポがあの時に気づいてたら、プッ……、ありゃあリゾットちゃんのクロレキシ、ぐふ、だって」
「安心し、ブフッ、……しろよ、……ぐふっ」
笑うか喋るかどっちかにしてくれ。