カスミ(女装少年シリーズ)
もしも告白されたらどうするんですかと訊ねる。
仗助の質問はあやふやなものだったが、煙草を煙たがってぱたぱたと顔の前を仰ぐ女は―――女にしか見えない男は―――こともなげに答えた。
「どうもしないよ。僕を好きになるのは仕方がないことだ。だってこんなにも魅力的だろ?」
少年だった頃と変わりのない口調だ。
栗色の髪は少し伸び、一つにくくられ、ふわふわと巻かれて首の横から肩に流されている。風に揺れるさまは、二十代後半という年齢には似つかわしくない幼い印象を人に与えた。目鼻立ちはずっとはっきりし、自然ふうなメイクがなくとも肌は輝く。気の強そうな表情をして威勢のいい言葉を操るので、身体以上に雰囲気が大きく見えた。
「でもッスよ、もし、相手が同じ性別の……オトコだったら?さんの正体を、あっ、スンマセン。本当の性別を知ったら、傷つくんじゃないッスか」
「かもしれないね」
杜王町の夕方は楽しげだ。買い物に出る人や、仕事を早めに終えた人、遅くに下校する生徒が絶え間なく路を行き交う。と仗助と億泰は、そんな午後を臨む喫茶店に居た。
「君ならどうする、見ず知らずの同性に好かれたら」
「エッ!?俺は、アー、ちっと気持ちわりいかなぁ。全然知らねえヤツなんスよね?」
声が小さくなったのは、そう言う自分が小さく思えたからだった。
目の前の綺麗な女装男は、まったく何も気にしていないのに、自分だけが違う世界に居るような錯覚に陥る。
しかし隣を見ると、億泰もキョトンとした顔で「フツー嫌だろ」と首を傾げていたので、仗助は少し安心した。
は空っぽになったカフェラテのカップをよけた。
「そう、まったく見たこともない……ような気がするヤツだ。僕はそういう人からストーカーをされるし、好きだと言われるし、手紙を渡される。僕は可愛いだろ?」
「ビジンって感じがすっけど」
「だろうね」
さらりと肯定する彼の口調に躊躇はかけらもない。白ずくめの偉丈夫は、こんな人と四六時中一緒にいるのか。このことだけで、仗助はここに居ない男への尊敬を深めた。
「僕を好きになるのは相手の勝手だ。男だろうと女だろうとね」
きっぱりと言い切った。それから仗助の飲み物に勝手に砂糖を入れてかき混ぜた。
「迷惑をかけられそうになったら承太郎に言えば何とかなるしね」
「女だと思ってさんに告白したのに、実はオトコで、さらに後ろから承太郎さんが出て来るってとんだ災難だよなあ」
「俺だったら悪ィ夢でも見てる気分になりそーだぜ」
友人の言葉に全面的に同意する。
仗助がふと思い立ち、投げかけた質問にも、は動揺せずに答えた。
「もし……もしですよ。もし、俺がさんに告白したらどうします?」
「ゲエッ!?仗助、マジかよ!?」
「『もし』だって言ってんだろォ!」
想像するだけで鳥肌が立つ。遠くから見ている分には最高に可愛くて美人で目の保養になるが、直に接するとなると非常に難しい人物だ。
彼女は―――彼は脚を組みかえた。
「手の甲にキスくらいなら許してやってもいいよ」
白く滑らかな肌は、手の骨ばった男らしさを押し隠している。小指に小さな指輪が煌めいている。
仗助は自分が彼の手を恭しく取り、唇をくっつける場面を思い浮かべた。
すぐに、ぞっとしない考えだったと青ざめた。