もしもポルポ×魔法界シリーズの舞台が親世代だったら


炸裂する玩具の爆弾と、一瞬の閃光。続いてフィルチさんの怒号が廊下の絵画を震えさせた。
騒動の原因となっている階下を眺める。動く階段の手すりに凭れていると、「危ないぜ」とメローネが私のローブを引っ張った。そう言うわりには、私よりも彼の方が身を乗り出して様子を窺っているのだが、そこは慣れの問題かしらね。メローネなら階段から落っこちても何とかなりそうな気がしてしまう。ホルマジオなんかは飛び降りてそうなイメージすらあるし。絶対に面倒がって階段をスキップした経験があると、私は勝手に思っている。運動神経の問題かな。
「ポッター!ブラック!貴様ら、いい加減にせんか!!」
悪戯仕掛人の二人は悪びれた様子もなく、捕まる前にスタコラサッサとトンズラの構え。残されたのはペンキ入りの風船爆弾を食らったセブルス・スネイプと、巻き添えを食ったギアッチョだった。本当ならギアッチョと私たちはまとまって行動しているはずだったんだけど、やっぱり普段と違う行動をとると良くないのかな。ブチ切れるギアッチョは地の果てまでも悪ガキ二人を追いかけてヌッ殺してしまいそうな勢いだ。
フーフーと肩をいからせながら、フィルチさんはモップを取りに廊下を戻って行く。その隙にペンキ溜まりから抜け出したギアッチョとスネイプ君は、周りの視線をかいくぐって、近くの男子トイレに入っていく。アッ、いやいや、何も起こらないね。うー、トイレトイレ。いやいや、だから何も起こらないってば。
もちろん、何かが起こるはずもなかった。トイレの中から不穏な声が聞こえてくることもなければ、悪戯の跡が濃い廊下に近づく誰かに深追いされることもない。事態が収まってしまえば、くすくすと笑って静観していたグリフィンドール生も、標的になるまいと身を縮めていたハッフルパフ生も、散らされるようにしてそれぞれの生活に戻る。
階段の上で待っていると、ギアッチョとスネイプ君がトイレから出てきて階段を駆け上る。見るからにもやしっ子な未来の教授は息切れしているし、憤りと憎しみで顔を歪めている。ギアッチョもすごく不愉快そうだった。
「その、すまない。僕のせいでギアッチョにまで奴らの蛮行が」
しかし、こうして非のないスネイプ君に謝られてしまっては、「まったくだクソが」と吐き捨てることもできない。ギアッチョ君は盛大に顔を歪めながら、地底がぞぞぞと唸るような声で言ったのだった。
「オメーのせいじゃねえだろ」
つまりは、"悪戯仕掛人は殺す"。このひと言に尽きるようだ。

そもそも彼らを争わしめたのは、いったい何が原因だったのか。
スリザリンとグリフィンドールの確執や、ひとりの少女をめぐる桃色ピンクの攻防だけではない何かがある。生まれつき犬猿の仲であると定められているような、複雑怪奇な人間関係だ。とにかく、セブルス・スネイプ君と悪戯仕掛人の相性は悪かった。
そして付け加えると、スネイプ君と仲良くする『スリザリンの変人』一同に対する風当たりも強かった。
スルーしまくるホルマジオはともかく、不愛想で根っからのスリザリン生に見えるイルーゾォや、いちいち律儀に反応しているギアッチョ、わざわざ火に油を注ぐメローネ、もはや言うまでもないソルベとジェラートなんかは、『変人』の名をホグワーツ中に知らしめながらの学園生活を送っている。悪戯仕掛人とぶつかりまくり、各所に被害の爪跡を残してあっさり日常に戻る姿は変人を通り越して悪夢の象徴である。
俯瞰して見ているように見える私も例外ではない。
"スリザリンっぽさ"全開のリゾット・ネエロ魔法薬学助教授の婚約者かつ『スリザリンの変人』のお仲間であるポルポ・ノタルジャコーモ以下略こと私もまた悪戯被害に遭う可哀想な一匹の羊だった。まったく勘弁して欲しいところだ。基本的には誰かと一緒に行動しているから直接的に危害を及ぼされることはないものの、持ち歩いていたジャパニーズ漫画がびしょ濡れになった時は柄にもなく可愛らしい悲鳴を上げてしまった。黒歴史。くっ、私はこんな些細な事件に屈したりはしない。四百円プラス税プラス海外パックの送料でお金が飛んだので、個人的な恨みはちょっぴり溜まっている。
「懲りねェよな」
ばっさりと子供の無謀さを切り捨てたのはホルマジオだった。大広間で朝食をとるさなか、素晴らしく爽やかな挨拶カッコ仮カッコトジを受けてしまったスネイプ君を見た感想としては、どちらに言っているのかがわからないところが非常にユーモラスで良いと思う。聞こえるようにグリフィンドールカッコ具体的にはポッターカッコトジの悪口を言ったスネイプ君も、教師陣からの大目玉を覚悟で彼にわざとゆで卵を投げつけたミスターブラックも、どっちもどっちな気がする。
ジェームズ・ポッターやシリウス・ブラック、ピーター・ペティグリュー、リーマス・ルーピン、そしてリリー・エヴァンズの未来について思うところがないわけではないけれど、ぶっちゃけもう何もかもがどうでもいい。私は根本からの善人ではないので、同じ直線上にいる人間の運命をこれ以上抱え込んだり考えを尽くしたり、優しいことをしてやれる自信がないし、そもそも相手はこっちに敵意を向けているので、余計に「知らんがな」という気持ちになってしまうんですよね。そこんところだが実は私にもよくわからないんだがね。理屈じゃない。
アバウトな感性で三度目の人生を謳歌している私は、スネイプ君のお皿に四つ目のロールパンをのせてあげた。このくらいの優しさなら余裕であるんですけどね。朝から四つもパンは食べられないと主張しているもやしっ子は無視。たんと食べて大きくおなり。多少太っておけば、灰色パンツ事件で簡単にウィンガーディアムレビられなくなるかもしれないし。ほら、重い方が持ち上げにくいじゃん。

いつも通りの朝食のあと、私はホルマジオとイルーゾォのわちゃわちゃを生ぬるく見つめながら廊下を歩いていた。授業までには一コマの空きがある。今日は絡まれないといいなあ、なんて希望を抱きながら曲がり角に差し掛かる。
「なあジェームズ。この鎧だけど、中にスニベルスを詰め込んでやったらさあ」
「あははは、それって最高にクールだね。あの顔がちょっとは凛々しくなるんじゃない?」
希望は絶望に変わるからこそ美しい。誰が言ったか諸行無常。
あちらも平穏な日常を過ごしていたようだけど、私たち三人の姿に気づいた四人組は逡巡してからニヤリと笑みを浮かべた。平穏を平穏のまま終わらせ、「ごきげんよう」を交わしながらすれ違う、みたいなうららかな午前九時を体験したいものだ。
「行こうぜ」
冷静にホルマジオのローブを引っ張ったイルーゾォの前に、おいおい、とシリウス・ワンワン・ブラックが立ちふさがる。
「挨拶もしねえで行っちまうのかよ。躾がなってねえんじゃねえの?」
「生家の血が泣いちゃうよ、イルーゾォ君」
この挑発に対してイルーゾォは、ため息も吐かずにぼそりと一発。
「うっぜえ……」
相手は十代の子供ですよ。イルーゾォは彼らとまったく目を合わせず、ホルマジオのローブをぐいぐい引っ張っている。ホルマジオが苦笑交じりにイルーゾォの肩を叩いて、しゃーねーな、と言い悪戯仕掛人の横をすり抜けようとした。
「悪ィな、今こいつ機嫌が良くねェみてーでよォ。行こうぜ、ポルポ」
そうだね、と頷く。
「イルーゾォが苛々して倒れちゃうと、ホルマジオがお姫様抱っこをしないといけないもんね」
「倒れねえし抱かせねえよ!!」
え?抱かせる?
「言ったけど!!ちげーよ!意味が!!」
「ごめんごめん」
わかっているとは思うけど、冗談なんだよ。
「そういうことだから、お先に失礼するね」
できるだけ自然な動きで手を振り、煙に巻こうとしてから、ふと疑問に思う。アレッ、そういえば私たちって彼らにどのくらい嫌われているんだろう。
スネイプ君と一緒に行動する頻度が多く、かつ、スリザリンの中でも『変人』と―――不本意ながら―――名高い私たち。グリフィンドールを誇る悪戯仕掛人がこちらを標的に据えるのはまあわからなくもないんだけど、具体的にはどのレベルまで嫌われているのかな。
疑問は解消するに限る。ポケットに手を突っ込むと、ポッター、ブラック両名は少し構えた。あちらも杖ホルダーに手が伸びている。彼らの後ろでルーピン君がローブの内側に何かを握り込んでいるように見えるのは、もしかして魔法界で最も無邪気な発明と怖れられる爆弾を準備しているのではなかろうな。このカテゴリにはいくつかの、悪気があるんだか無いんだか興味本位だったんだか、はたまた悪気があったんだかわからない発明品がカテゴライズされているけれど、その中でも有名なものは害虫の姿がゴソゴソしているお菓子と汚物の爆弾である。どっちも気が狂っていると思う。
爆発させられる前に行動を完了させる。
ポケットから取り出したキャンディを渡すついでに、さっきよりも違和感のない動きを心がけつつ、ブラック君の手を取る。なぜシーカーではない方にしたかというと、そりゃあジェームズ・ポッターの手なんか握ったら、彼にめっちゃ親密な感情を抱いてやまないシリウス・ブラックの顰蹙を買うに決まっているからだ。余計な恨みは買いたくない。
ギュッと握手をして、目を見て、ニコッと笑っておく。笑顔とおっぱいとハグはすべてを解決する。イルーゾォが白い目で私を見ているのがわかる。
ここで手を振り払われれば、ちょっと触れるのすら嫌がられるレベルでおぞましく思われていると判断できる。正直に言うと、無碍にされると思っていた。
しかし予想に反し、彼は気味悪そうな表情を浮かべるだけで、素直にキャンディを受け取った。握手をしたまま手を上下に振っても、されるがままになっている。これにはびっくりして、ポッター、ルーピン両名と謎のアイコンタクトをしてしまった。なにこれ、女子に優しい。女子に優しいなら最初っから不穏な爆弾や水風船なんか投げつけるなよと言いたい。オメーらのせいで私の漫画がダメになったんだぞ。もちろん、口には出さない。
「今日はこれで見逃してね」
笑顔を保ったまま、そっと手を離す。
ミスターポッターはブラック君の手の中にある色とりどりの飴ちゃんを覗き込む。ビミョーそうな顔で小憎らしいことも言った。
「スリザリンから貰ったものなんて信用できないよ」
気持ちはわかるよ。私も君たちから笑顔で食べ物を渡されたら裏を疑うもん。
「そりゃ、ただのアメだろ?」
「うん」
ホルマジオも、嫌がるイルーゾォを引っ張って手元を覗き込む。私の低血糖防止用として常備しているものだ。
「マグルの飴が嫌だったら、魔法界のもあるけど……」
「これ、マグルの飴?君のポケットはどうなっているんだい?」
「右がマグルで、左が魔法界」
貰い物は魔法界の物が多いんだけど、魔法界のキャンディって口の中で跳んだり跳ねたり忙しいから、間違えて食べない為に分けているんですよね。気構えなしに口に入れると後悔する。
「スリザリンなのにマグルの飴なんか持ってんのかよ。試しにお前が一個食えよ」
「じゃあそっちが食べるやつ選んで」
「赤で」
差し出された包みを開いて舐めると、ちょっぴりは警戒を解いてくれたらしい。何やらもごもご言っているけど、お礼だと解釈してもう先に進んでもいいかなあ早人。
「おい、行こうぜ」
とにかくイルーゾォはさっさと面倒から離れたい様子。私も長々と留まっていてフィルチさんに見つかり、ありもしないいざこざを捏造されるのはご免被りたいので、彼の言葉に従って今度こそ手を振った。
「それじゃあまたね」
ルーピン君は懐の爆弾から手を離してくれた。その手をひらひらと揺らす。
両手がふさがったブラック君と、少しつまらなそうなポッター君と、ひと言も喋らず『変人』を相手に顔色を悪くしていたペティグリュー君を置いて、私たちはようやくその場を後にした。

「餌づけかよ?」
獅子勢から聞こえない場所までやって来て、ホルマジオに小突かれる。否定はしなかったんだけど、素直に受け取って見逃してくれたってことは、そこまで嫌悪されているわけではないと解釈してもいいのかな。惰性でちょっかいを出されていた可能性が微レ存か。
勘弁してくれ、と微粒子レベルで気落ちしたので、この空きコマはリゾットの所で過ごすことにした。わからない問題があるんですと言えばスラグホーン先生は許してくれそうな気がする。
ホルマジオとイルーゾォを引っ張って地下教室に向かう途中にルシウス先輩とエンカウントしたりリリーちゃんと会話をしたり、魔法薬学教授執務室帰りのプロシュート先生に会ったりしたけれど、そこは割愛。同じくコマの空いていた魔法薬学教授陣と席を共にし、一限はのんびりお茶を飲んで過ごしたのだった。
これが三度目の人生を親世代で過ごす私の、とある日常の一風景だ。