もしも×魔法界でリゾットたちとポルポが同年代だったら


リゾットたちの同期である私に突っかかって来る生徒がいないわけじゃあないが、ああ、そういう見方もあるんだなあと思うだけだ。実際にあれやこれやと世話を焼いてもらっているのは事実だし、ショタから青年へ見事な羽化を遂げたイケメンやチンピラ未満の男子たちをはべらせて見えるのは仕方がない。私もたまに「もしかして私って最高に幸せな人生を送っているんじゃなイカ?」って思うもん。実際に、自分の中では満足のいく幸福感を得ているので否定もできない。
しかし、どうなんでしょうね。こうして空き教室に呼び出されるイベントが起こり、すわヤキ入れかと気合を入れて挑んだところ、その実はただの愚痴大会だった。少数の女子に加えて多数の男子。それぞれ自弁をむしゃむしゃしながら、私や私の周囲に対する文句を突きつけてくる。
「だからさあ、お前んとこのメローネ。あいつに彼女が夢中で」
「イルーゾォってマジでどうにかならねえの?ありゃあ、先輩に対する態度じゃねえよ!」
「どうしてリゾット先輩はこんな人を選んでるんですかあ」
「プロシュート君とペッシ君の仲の良さは何!?いったい何があるの!?」
「ホルマジオさんって……怖いかと思ったら優しくて……わたしすごくドキドキしちゃったんですけど、ポルポ先輩はホルマジオさんとどういう関係なんですか?」
「ギアッチョは怖い」
「ソルベとジェラートには近づきたくない」
「リゾット・ネエロってなんか嫌な感じするし……なんでお前あいつと付き合ってんの……」
至極もっともと頷きたくなる意見から、頭痛をおぼえる話題まで様々だ。私が窓口になっている現状が上手く理解できないけど、陰湿な行為を受けるよりはずっとマシなので黙ったままでいる。夕食前の大事な空き時間に頷きマシンと化したくはないが、背に腹は代えられない。元々、パッショーネでも相談窓口みたいなお仕事をやっていたしね。メールでの問い合わせを受けてはルーチンワークで「わかるってばよ」を繰り返していたのが懐かしい。市民からギャングまで手広く対応していた経験が活きています。

クソモテプロシュート兄貴はいつでも格好いい。別の層から支持の厚いメローネも、順調にイケメンである。伝われビーム。
しかし、私としてはやはりリゾットを推したい。いつもピリッとした雰囲気で、冷静で、いかにもスリザリンといった様子のリゾットだけど、仲間と一緒に食事をする時は気を抜いた姿を見せているし、寮の談話室で日刊預言者新聞のアホみたいなコラムを真面目に読んでいるところなんて微笑ましさすら感じる。ローブを脱いでネクタイをぐいっと指で緩める仕草ったらもう、なんていうのかな、ここにリゾット極まれり、と思うね。どこからどう見ても完全に攻めだ。こんなリゾットが私の脳内では時たま受けに回るのだから、あっ、いや、やめておこう。黒歴史は封印するに限る。
百味ビーンズをつまみ、ヤバそうな色をメローネに押しつける。メローネは躊躇なくギアッチョに流した。
「リゾットの学生時代に立ち会えるなんて、現実がまだ信じられないくらいよ」
「何年経ってると思ってんだよ」
五年かな。
最初の戸惑いと驚き。そして少年リゾットたちへの名状しがたい興奮のようなものは半端じゃなかった。気持ちが高まりすぎて、隙あらばくすくす笑っていたし、必要以上にニコニコしていた気がする。気味悪そうにしていたのはイルーゾォとギアッチョだけで、他は軒並み好意的に受け取ってくれたようで何よりだ。元上司としての威厳ってものがある。
談話室はスリザリン生で賑わっている。
寮の外ではそれほどははしゃがない蛇寮の生徒も、地下室ではある程度の奔放さを見せる。イイトコのお嬢ちゃんお坊ちゃんが多いので、もちろん寮内で花火が炸裂したり、蛙チョコレートが走り回ったりすることはないけれど、わいわいと楽しそうに宿題を見せ合ったり、暖炉の火に当たったりしている。地下寮はちょっぴり冷えるのでね。
私たちもそんな彼らの一員として、談話室の片隅を陣取って会話をする。会話と言っても同級生なので、日々の授業とは別の場所で培った知識や人付き合い、世間話から魔法の考察なんかの、一般的な話題が多い。黙って本を読んでいるギアッチョもいれば、率先して話の種を提供するソルジェラもいる。メローネは椅子に反対向きで座り、背もたれに腕を乗っけてむやみやたらに面白い魔法の練習をしている。イルーゾォに猫耳が生えた時は拍手した。
「とにかくね、私はリゾットの……そうね、仕事的な几帳面さと」
「"仕事的"って、そこ要らねえだろ」
私生活はたまに大雑把じゃん。面倒になるのか疲れてるのかは知らないけど、やるべきことはきっちりしているのに、物の在処を訊いたら「右」としか言わないこととか、あるじゃん。右ってどこだよ。探したら確かに私の右にあって内心でめっちゃ笑ったけど。
「本人を目の前に言うなよな」
「ごめんね、リゾットちゃん」
「気にしていない」
「ありがとう。……こういう優しさとかも!なぜ伝わらないのかが不思議なのよね。多少付き合えばわかると思わない?」
リゾットは非常にどうでも良さそうにしていたし、イルーゾォも無感動な顔をして「わからねえだろ」とにべもなく私を切り捨てた。わからないかなあ。
「そもそも内面に踏み込むほど深く付き合わねえから伝わらねえんじゃね?」
「イルーゾォのもそういう意味だろ。リゾットちゃんの『優しさ』は俺たち専用っつうの?……ブグ……ぶぐ、ぶぐぐ、ぐふっ」
「オレタチセンヨウ。ぐ、ぐふ、くくく」
何が面白いのか、ソルベとジェラートが笑いを殺し始めた。どこだって関係なく笑いまくるものだから、この年代のスリザリン生のスルースキルは上達する一方だ。
案の定ゲラゲラ言い始めたアラウンドホモ元ギャングは置いておいて、なぜこう感じたのか、できるだけ丁寧に説明する。私が愚痴の窓口になっている部分はどうでもいいし面倒なので言わないが、とにかくリゾットは怖がられている。スネイプ先生が常に苛々しているのと同じように、スリザリン寮―――ここで私は毎回腹筋が痛くなるんだけど―――ネエロ家次代当主リゾット・ネエロはピリピリした危険人物だとみなされているのだ。もちろん、密かに恋心を抱く生徒もいるけれど。
「私たちの持つリゾットのイメージと、大衆的な……って言うのも変だけど。ホグワーツ内でのイメージが違いすぎて戸惑うのよね」
「でもそりゃあ仕方ねェだろ。ソルベとジェラートが言うのと同じこったし」
まあ確かに。他人と身内の区別が明確なのは仕方ない。
「でもリゾットってたまに謎のイチャモンをつけられているし……」
これはイメージ改善でどうにかなる話なのではなかろうか。
「本人が気にしてねえんだから良いんだろ。なあリーダー?」
「……絡まれたことがあったか?」
「ほら、気づいてもねえよ」
「え!?気づいてなかったの!?」
これには私もびっくり。
思いっきり肩をぶつけられかけたり、ガンを飛ばされていたり、聞こえるように悪口を言われたり、やっかみ交じりの嫌がらせを受けたりしていた気がするぞ。
ああでも、よく考えれば肩をぶつけられかけてもスッと避けていたし、ガンを飛ばされても相手は子供だし、悪口を言われてもどうでもよさそうだし、嫌がらせと言ってもホグワーツ生は無駄に良い子が揃っているものだから「先生、この問題はミスターネエロがわかるんじゃないですかあ」としわ寄せを食らう程度で、実際にわかってしまうものだからまったく問題になっていない。アレッ、杞憂だったかな。そもそも気づいていなかったみたいだし、逆にイチャモンをつけている側が可哀想になってくる。いじめられているネエロ君なんていなかったのか。私が一人で勝手に気を揉んでいただけか。
「じゃあ、必要ないのか……」
「絡まれていたのか……」
リゾットと並んで座りながら、二人してしみじみと呟いてしまった。ソルベとジェラートがとうとう笑って、ギアッチョが手元のマグカップを思いっきり投げつけた。それ、ホルマジオのカップだよ。