拍手お礼 ポルポ


ディアボロを頂点としてネアポリスを牛耳った旧いパッショーネの時代に引き続き、ブラスコという男は今も組織に籍を置いていた。
いささか不正に厳しくなった新生パッショーネでの身分を確立するため、これまでに手を染めた汚職の情報を断捨離の如く売り払い、盃さえ交わした取引先をも切り捨てて、顔色ひとつ変えることなくのらりくらりと生きている。
表面上は床屋を営み、その後ろ手で疚しいアレソレを弄っては、いわゆる"ブローノ・ブチャラティは唾棄するがジョルノ・ジョバァーナは目溢しをする"絶妙なラインで世渡りをする上手な奴だ。真似も尊敬もしたくないけど感動だけはいつも抱く。そんなに綱渡りしてて人生疲れないの?
「疲れないんですよねーこれが」
理解不能。
渡された情報は有難く横流しさせて貰ってるから助かるっちゃあ助かるが。
「じゃあこれジョルノに渡しとくね。あ、この地図の縮尺だけお願い」
「話変わりますけどポルポさん、最近コイビトにサービスしてあげてます?」
「変わりすぎだろ」
「やー、客がよくマンネリ化の話をするもんで」
いま生存戦略と人生設計と不正融資の話してたよね?私の気のせいだったのか?手元の資料と照らし合わせていくつか質疑応答も行ったはずだぞ?何なら質疑応答の途中だよ?ハンドサインで答えるんじゃない。盗聴対策してるかっこいい感じの雰囲気が出ちゃうだろ。
軽くwktkしたので私もハンドサインで了解の返事をしておいた。心踊るわ。こういう遊び心は必要だ。

しかしマンネリ。
マンネリか。
こういう想像は以前にも巡らせた覚えがある。お互いに飽きたら相手に伝えて具体的な改善案を考える方向で行こうと言い交わして、それからは何にも起こっていない。つまりあちら側に不満はないと思って良いのだと判断していたけれど、もしかすると言いづらいから黙っているだけで思う所はあるのだろうか。議論しても改善が難しい部分に飽きを感じたとしたら、リゾットは自分の中で割り切ってしまいそうだ。たとえば……うーん……そうだな……巨乳が目に煩くなってきたとか?確かにこれはどうにもできないからな……。リゾットも口には出さんわな……。
疑問は解消するに限る。
「リゾットってまだ巨乳すき?」
「……質問の意図がわからないんだが」
「巨乳って私のアイデンティティの一つだからさ……飽きられても無くせないから申し訳ないじゃない?でも、ちょっと恥ずかしいけど、リゾットに他の女の子のところに行って欲しくないなーなあんて考えるようになっちゃったわけよ。だからこう、マンネリを感じていたら別ベクトルからのアプローチでリゾットの不満を軽減できたら良いなって思って」
「……」
「で、まだ巨乳すき?」
「……ポルポ。初めに言うが、この場合、俺の性癖は関係ない」
言いたいことはわかる。わかっているとも。スゴクわかる。とってもわかる。
同時に私の不安もわかって欲しい。
おっぱいは大兼小兼の法則に洩れる物体なのだ。
持つ者も持たざる者も持ちたい者も持ちたくない者も、逃れられないイレギュラーアクセサリー。それが胸部装甲なのである。
私はリゾットの胸にぺたりと手を当てた。
むちむちしていて張りがある。からあげにしたら絶対においしい。ああなんかからあげ食べたいな。今日の夕ご飯は油淋鶏にしよう。おねぎあったかな。
リゾットがむにりと私の頬をつまんだ。勝手に別のことを考え始めるなと言いたげな瞳と視線が合った。ごもっともだ。
「俺はお前がお前だから六年も執着していたのであって、特定の部位を注視しようとは思わなかったし、これからも思わない。だからそれについてお前が不安になる必要はない」
頑なに"おっぱい"って言わないリゾットちゃんが本当に可愛くて愛おしい。どんなに回りくどくなっても絶対に"おっぱい"って言わない二十八歳の男=リゾット・ネエロがソーキュート過ぎて心のバタフライがめっちゃ羽ばたいてるからたぶんこれ別の世界線で違う私に死ぬほどバタフライエフェクト起きてるわ。よくわかんないけどごめんな。
「でもあえて言うとしたら?」
「……」
「巨乳すき?」
「……」
「それとも苦手?」
「……」
「飽きた?」
「……」
「リゾットちゃん?」
「……」
「リゾットちゃんこっち見て」
「……」
「ねえー」
「……」
しつこく追うと、超ぼそりと言われた。
「……まあ」
それ以降はべしべし叩いても揺さぶっても揉ませても揉んでも無視を決め込まれたので、どっちの「まあ」だったのかはわからずじまいである。