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本編後 付き合っている
書いたのがパンツの日でした
スティーブンがかっこわるいです


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和やかな夕食どき。
「そういえば今日さー、『パンツ売ってください!』ってお願いされてびっくりしちゃった」
「そりゃまた凄い頼みごとだな。どこでだい?」
「公園。買い物したあとにジュース飲んでたら男の人が近づいてきたの。モジモジしたかと思ったら急に手を握ってきてびっくりしたよ」
随分と積極的な変質者だ。蒸し暑くなると思考が飛躍して一線を越えてしまう者が増えるのだろうか。
不穏な体験に見舞われた異世界人は、それでもケロリとした顔をしている。ということはひどい事態に発展する前に逃げ切れたのだろう。
安堵のため息はこっそりついて、スティーブンは恋人の災難を労おうと口を開いた。
そんなスティーブンの脳をものすごい勢いで混乱させるひと言が真正面から飛び出した。
「売ったんだけどさ」
「……すまない、文脈を理解し損ねた。……何を売ったんだ?」
「パンツ」
「……えーと……、どうして……、売ったんだ?まさか金に困ってたのか?」
「ううん。どーしても欲しい!って言うから。結構高い値段つけてくれたし」
「幾らだ?」
彼女は指折り数えた手をあっさり突き出した。結構高い値段だった。
スティーブンはめまぐるしく考えた。フォークとナイフは既に皿に立てかけて手離している。
これはどの部署に通報するのが適当だろうか。刑事事件では勿論ない。お馴染みの警部補に連絡する必要もなくライブラで処理すべき問題とも思えないし、この程度でライブラが動いていたら忙しなすぎて過労死者が出るかもしれないし、いやそれよりも真っ先に被害者からより詳しい状況を聞き出すべきか。いやいやそれはさておき兎にも角にもこの軽率な行為の危険性と異常さについて彼女を叱るべきなのか。
「あ、でも売ったっていうか!そこまで大したモノじゃないからタダであげたよ!」
顔を上げた彼は第二撃を食らって額を手で押さえた。
「君、それは……、いや、それでその男は……、え?いや、どうしたんだ?」
「『ありがとう!』って言ってトイレに入ってった」
「……とりあえず、その男の特徴を憶えている限りでいいから教えてくれ」
「なんで?」
それはこちらのセリフである。
彼女のいた世界ではこういった取り引きの異常性は取り沙汰されないのかもしれない。
スティーブンは頭を振った。
どうやら自分は混乱しすぎているらしい。
しかしもしもこういったことが倫理的に問題のない世界だったとしても、スティーブンの感情はそのやりとりを許しがたく感じた。理由は単純。対象が彼女だからである。
どうしたものかと悩む男に、彼女はうーんとうなって答えた。
「綺麗な人だった。言われなかったら男の人だってわかんないくらい。ロリータ?っていうの?フリフリが似合ってた」
「女装ってことかい?」
「うん。脱ぐときに引っ掛けてパンツが破けちゃったんだって。替えのパンツが欲しかったんだけどパンツが破けて脱いだからノーパン状態で歩くのが恥ずかしくてお店まで行けなかったらしくて、私がソルピケの袋持ってたから藁にもすがる気持ちで話しかけたって言ってたから可哀想だしあげちゃった」
「……ん?」
ソルピケが何か、本来ならばすぐにわかるはずのスティーブンはいつもより長い時間をかけて店のロゴを思い出した。
話を整理すると、要するに。
「……うん、何だろうな。良いことをしたんだな」
「ねえスティーブン、なんか元気なくない?」
「いや、問題ないよ」
「……もしかして、パンツ売っちゃダメだった?テンバイ?犯罪になったりする?」
「いや……、その売り方なら大丈夫だ。売ってないしな……」
「ごめんなさい、あなたがなにを言ってるのかちょっとわからないんだけどホントにどしたの?」
「訊かないでくれ」
異世界人は首を傾げ、素直に黙って魚の切り身を食べ始めた。

疲れた。

スティーブンは少し食欲を失ったので、食べ終わったのは珍しく、恋人よりも後だった。



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