04


「言い忘れてました」とメールをくれたレオが言うには、チェインさんが私をお茶に誘ってくれているらしい。
アドレスを知らないので、K・Kさんかスティーブンかレオを経由しなければ誘えないのだが、その中で選ばれるのは当然、レオだ。伝言役を果たしてくれた彼にジュースを奢り、私は日程を相手に合わせる、と更に言付けを頼んだ。
快く頷いたレオが1枚の紙と一緒に日付を持ってきたのが少し前。明日のお昼休憩に会えないか、とのことだったので了承し、紙に書かれた連絡先をスマホに登録する。名前が増えてゆくのが、世界が広がるようで嬉しい。

コーヒーカフェの入り口で待ち合わせた私は、すたすたとまっすぐに歩き、私と目を合わせて軽く手を持ち上げたチェインさんに頭を下げた。席を取って列に並ぶ。
お昼時ということもあって店内は少し混雑していたが、テイクアウトを選ぶ人が多いのか、回転は速いようだった。
「何にしますか?」
「トールのカフェラテ。は?」
「トールの……カフェモカにします」
並んだままレジで注文すると、チェインさんが全額払おうとしたので慌てて止める。彼女は「誘ったのは私だから」と頑なだった。困った私に取れた対抗策はランチのサンドイッチとドーナツをふたりぶん買うことくらいだ。スマートとは程遠い。そっちのほうが高かったねと言われたが、この集まりの貴重さに比べれば何のその。
コーヒーを受け取り、席につくと、チェインさんは「ありがと」と言って淡々とサンドイッチの包装をむいた。
「おいしいですよね、これ」
「うん、悪くないよ。はそれだけ?」
「それだけ、と言っても」
私のトレイにはサンドイッチとドーナツがきちんと鎮座ましましている。
「よく食べるのかと思ってたから……」
「普通ですよー」
どこでついたイメージなのだろう、それは。レオかザップさんがおかしな噂を立ててくれたのかもしれないが、私は食いしん坊では決してないのだ。ヴェデッドさんのお料理は別として。
「急にどうしたんですか?私に用事ですか?」
咀嚼したところで問いかけると、チェインさんが私に、どこか呆れた顔を向けた。
「あなたが言ったんだけど。女子会しよう、って」
「……え!?これ!?」
言った記憶はもちろんある。酔っていておぼろげではあるが、間違いなくアプローチをかけた。
しかし実現するとは思ってもいなかったし、ついでに言うならば私の中の『女子会』の様相からは遠く離れた状況だったので、より理解が遅れる。
チェインさんは忙しい。こんなくだらないことに時間を取る余裕などないのだろう。だからこうして、合間を縫って会ってくれた。
「ありがとうございます!すごい嬉しいです!」
「言うと思った。……それで、女子会で何を話したかったの?」
そう訊かれると言葉に詰まる。
彼女の疑問は当然だ。同時に、私もかわいたへちま同様の頭を疑問符でいっぱいにしていた。
何を話したかったのだったか、まったく憶えていないし思いつかない。
ただチェインさんとふたりで向かい合って、他愛のないお話をしたかっただけである気がする。彼女にとっては最高に最低な願望だ。
気まずくなって目をそらすと、私の計画性がプレスでペチャンコだったと察したチェインさんが「ええー……」と引いた。
「考えておいてよ」
「ごめんなさい」
無計画の塊とは私のことか。
「えっと、最近もやっぱりお忙しいですか?」
苦し紛れに話題を集める。
チェインさんは微妙そうに唸った。
「忙しいかと言われると、それは忙しいんだけど。が想像するほどじゃないよ。部屋中が未決済の書類で溢れて、パソコンは返信待ちのメールがいっぱいで、足の踏み場もなくて全員が徹夜を強いられ、頻繁に召集がかかって出撃してる……みたいなこと考えてるんでしょ?」
そこまで大げさではなかったが、概ねそのようなものだったので首を振る。チェインさんはサンドイッチにかじりつき、コーヒーを飲んだ。
「普通のオフィスって感じかな」
「へえ……」
会社に勤めたことがなく、普通のオフィスがどのような形態なのかはわからなかったが、私の中のテンプレート通りだとするならば『平穏に忙しい』といえそうだ。スティーブンの帰りが比較的早いことにも頷ける。
「あ、そうだ。チェインさんとザップさんの関係って、どんなものなんですか?チェインさんはザップさんを踏んだりしてますけど」
「道端のマンホールを避ける必要ってある?」
「な、ないかな」
有機生命体ですらない。
それでも戦いとなると、ぴたりと息は合うのだろう。
……たぶん。
信頼があるからこそできることなのだ。
……たぶん。
もあの猿に絡まれてるよね。なに言われてるの?下劣なネタかタカリしか思いつかないんだけど」
下劣なネタとタカリ、の二言で済んでしまいそうな気もする。
「あ、でも最近は助けてもらうこともあります。結果的にはバイト先で奢らされて、ついでに同僚に手を出されましたけど」
「うわっ……」
ドーナツの甘みが吹き飛ばされてしまうほどに嫌悪感たっぷりな反応だった。
「関わるのやめたほうがいいよ。むしられるよ」
「たまに思います。いい人なんですけどね」
「やっぱりってちょっとおかしい」
余波を食らって私までドン引きされた気がする。下ネタまみれのヒモであっても、私はどちらかと言えば彼の良い面ばかりを見ているのだろう。本来の彼はどのような人物であるのか。
「スターフェイズさんいわく、あいつは『度し難い人間のクズ』」
「人間の……クズ……」
なんと恐ろしい評価を下す人だ。そんな言葉を向けられた人物の話など生まれてこのかた聞いたことがない。過激極まりない。ザップさんの扱いはそれでいいのだろうか。長い付き合いのこの人たちがそう言うのなら、まあ、そんな要素も否めないのだろうけど。人間は多面的だ。
「ねえ。それで、そっちはどうなってるの?」
「どっちですか?」
「同居だよ。してるんでしょ」
この話ほどチェインさんにしづらいものがあるかな。今日の下着の色を訊くほうが余程ましである。
私はカフェモカのホイップを食べて時間を稼いだ。
「そういうのいいから」
バレバレであった。情けない声を出す。
どうなっているか、と訊かれても、短い答えしか浮かばない。
「以前と変わらないです。起きて食べて、私は外に出られるようになったので、そこは違いますけど。帰ってきてご飯を食べて寝る、……みたいな」
「ふーん。そんなものなの?」
「はあ、たぶん」
チェインさんが頬杖をついた。
「私に気、遣ってる?」
「えっ、いえいえそんな!」
「遣いなよ」
「ご、ごめんなさい」
「冗談だよ」
わかりづらいジョークは心臓に悪い。ヘルサレムズ・ロットに来てから、精神面における私の健康は破壊されまくっている気がする。
「恋人なんでしょ? デートとかしないの? あの人が抜けたら困るけど、今ならまだ時間が取れるし、できると思うけど」
彼女の真意がわからず困惑する。私は応援されているのか?なぜ?少し前まで私たちは、ある種、対立する立場だったのではないのだろうか。
惑いが顔に出ていたらしく、チェインさんはカフェラテをすすって言った。
「もちろん、簡単に整理はつかないよ。でも、あんなの見せられたらどうしようもないし。今度、自棄酒付き合ってよ」
「自棄酒!?私と!?人選を間違ってないですか!?」
「キャットファイトも悪くないよね」
「物理的にボコボコになる!」
そこでかすかに笑いかけられ、私も心を落ち着ける。人としての何かが圧倒的に違う。彼女に対して、私はひどく矮小であった。
「デートですか……」
「うん。誘えば考えてくれると思うよ」
親身になってもらいすぎて申し訳ない。
しかし、デートか。
カフェモカを口の中で転がして考える。デート。なかなかに遠い響きだ。
「恋人同士なんでしょ?」
「た、たぶん。確認したことがないんですけど、恋人……です……か?」
チェインさんはドーナツをフォークで切り、ひと口頬張った。
「スターフェイズさんにあそこまでさせて、もうるさいくらい好きでいて、両想いで同居してて、恋人じゃないって訴えるほうが無理があるよね」
確かにその通りである。他になんと言えばいいのか、私には発想がなかった。
「というか、いつもみたいにおかしいくらいテンション上げてそう名乗ってもらわないとこっちの気がおさまらないから早く認めてくれないかな」
「そんなにテンション高くないです!」
「高いし、焦点そこじゃないし」
シュガーたっぷりのドーナツは、口の中で砂糖のコーティングがさくさくと音を立てる。甘味で頭を働かせ、私はぼんやり考えた。
私が抱いている疑問は、誰に対しても失礼なものなのだなあ、と。
客観的に見ると、『コイビト』であるのだし、あちらも、何も釘を刺してこないということは、そのように認識されているのだろう。この時点で疼き始めた胸を押さえた。そ、そのように認識されているの?巻き起こった感動と興奮と、死すら感じさせるラブ・メーターの振り切りが手に取るようにわかる。急に動悸に苦しみ始めた私の向かいでは、チェインさんがスルーの一手を取る。
「しにそうです」
「だよね。顔色悪いよ」
一目でわかるらしい。
チェインさんに相談している現状は不可解なのだが。
「あ、あちらもそう思っているんでしょうか」
チェインさんは少し黙り、「私に言われても」と呟いてから時計を見た。
「気になるなら訊いてみたら?」
「えっ、今ですか?」
「や、今じゃなくてもいいでしょ。……まあ、お昼はレオと食事に行くって言ってたし、電話に出るとは思うけど」
「またレオとご飯行ってるんですか!」
仲良しにも程がある。
チェインさんもそれには同感だったのか、深く頷いた。
「ほんとに電話するんですか?」
「サジェストしただけ。家で訊くのでもいいけど、結果は教えてくれる?」
「や、やっぱり気になりますか」
「答えは知ってるけど、一応」
「そ……」
そうですか、と彼女のメンタルに底知れない畏れを感じたとき、カバンの中で電話が鳴った。ぞわりと背筋があわだつ。ドキドキしながら取り出して、不思議そうにするチェインさんに光り続ける画面を見せた。
「噂をすればなんとやら、ってホントだったんだ?」
「怖いよぉ」
「用事があるからかけてきたんでしょ。早く出なよ」
「ちょ、ちょっと席外しますね」
立ち上がって、駆け足で外に出る。ドーナツを切り刻むチェインさんの「なんかめんどくさくなってきた……」という小声は聞こえず、私は社会的な死と人間関係の崩壊を覚悟して電話を取った。
「は、はい、どちらかというと恋人寄りのです!」
言っておきながら即座に電話を切りたい。
スティーブンが「君、酒でも入ってるのか?」とまともなことを言った。私はシラフでこれなので、安心していただきたい。
「入ってないです」
「だよな。今は休憩中?」
「うん。女子会してる」
「女子会?」
うん、と繰り返す。スティーブンは穏やかに「そうかい」と言った。
「なら、忙しそうだな。またの機会にするよ」
「ちょ、ちょちょちょっと!なんだったの?」
「食事にでも誘おうかと思っただけ。今、少年と一緒にいてね。せっかくだから電話したんだ」
レオとどこでどんな食事をする予定で私に誘いをかけたのか、あちらの事情がさっぱり読めない。
「そ、そうですか……。ごめんなさい」
「気にしなくていいよ。唐突だったしね」
どんなに薄情で恩知らず、かつ性根の腐った私であっても、この場合はチェインさんが大切なのである。あちらでどのようなやりとりが繰り広げられるのか興味はあったが、断りを述べる。
スティーブンは「それじゃあ、また夜に」と会話の終わりを告げる。チェインさんのジト目がまぶたの裏に蘇り、私は慌てて追いすがった。
「あ、あの!私……」
「うん」
言えない。どう考えても言えない。言えるはずがない。はらわたが千切れそうな思いだ。
しかしいつまでも引き止めておくわけにはいかない。
今度こそ人間関係のカタストロフィを覚悟した。
「ご存知の通り、私はあなたが好きでして、あわよくばこう、……しっぽりいきたいんですよ!」
「ああ、うん、知ってるよ」
「知っているのに相変わらずのその余裕!」
「続きは?」
「あっはい」
冷静に促されてしまい、こちらも一瞬クールダウンした。
「……言っていいですか!?……いややっぱりやめようかな!?」
「なんなんだい君は。言っていいよ」
心の中で誰に助けを求めるべきか迷ったが、私はやはりこの男にしか頼れないのでもうダメかもしれない。おそらく確実にダメだ。十中八九無理である。
急に怖気付いた。
「私、そちらさまの、こ、こ、……こ、恋人を自称してもいいですか!?」
一拍、時間が飛んだ。
スティーブンの呼吸音が怖い。
「……どちらさまの話かな……。もしかして、君がずっと言いたがっていた話ってそれか?」
「そうです」
「何から突っ込めばいいのかわからないんだが、とりあえず、結論だけ言うと自称していいよ。……いや、自称ではないだろ……」
ものすごく簡単に話が収まった。
「あれっ?いいの?」
拍子抜けして、声が裏返った。
「え!?ホントにそうなんですか!?」
あちらはため息をついた。
「今の今までそう思われていなかったことに傷つけばいいのかな、僕は。少年に愚痴でも聞いてもらおう。……ああー、少年、ちょっと逃げずにそこにいてくれ。大丈夫、奢るよ」
電話の奥から「奢れば僕がなんでもすると思ってませんか!?ズルい大人だ!逃げませんよ!」と聞こえた。とばっちりを食らわせたことについてはレオに謝っておこう。
……まともな部分の私が、レオよりも先にスティーブンに謝るべきなのでは、と囁いた。
思えば、まったくひどい女もいたものである。本当に申し訳ない。この人から釘を刺されないということは、つまり、黙認と見て良かったようだ。いつかのチェインさんの言葉に従って、もう少し相手の態度を信じるべきだった、のか。いやいや、もう何もかもがあざとくて、態度も何も見抜けやしない。
「ごめんなさい」
「まあ、言いたがっていたこともわかったし、1歩進んだと思っておくよ」
個人的には10歩くらい進んだのだが、言うまい。
自棄っぱちになって恥をかなぐり捨てる。
「お昼ご飯、ごゆっくり。レオによろしくです。……あなたの、す、すご、すごーく可愛い恋人より!」
「どうも。そっちも女子会を楽しんでくれ。ちょっと落ち込んだ、君の恋人より」
「ウワア!!すみませんでした!」
電話は切れたが、動悸息切れ、冷や汗はなくならなかった。殺されそうだ。無事に生き延びたい。

席に戻ると、チェインさんはスマホをいじっていた。私の姿を見てそれを置く。カフェラテを飲みながらの上目遣いは高威力で、ウッと言葉に詰まる。
「お、お待たせしました」
「用事、なんだった?」
「……なんだっけ……」
電話の理由がポロリと抜け落ちていた。
チェインさんがカフェラテを飲んでカップを置くだけの時間を要して、「あっ」と思い出す。
呆れた眼差しが刺さる。
「あっちのほうは?言った通り?」
「えーと、……大丈夫でした」
「だと思ってた。恋人同士だって?」
「そのよう、ですけど、その……、この話って本当にチェインさんとしていいものなんでしょうか」
「嫌になったら帰るよ」
「私の周りの人って、私の扱いがどんどん雑になっていくんですけど……」
「なんでだろうね」
「なんででしょうね……」



女子会を終え、チェインさんは淡々とトレイを片付け、私を伴って外へ出た。
「それじゃあ、行くね」
「はい。ありがとうございました。楽しかったです」
「私はあんまり楽しくなかったから、次はもう少し良い話を期待してるよ」
そう言って雑踏に紛れてしまう。その背中は群衆の中でかききえるように見えなくなり、私もバイトに向かった。
途中で気づいた。
(次も会ってくれるんだ……!?)
アルカリ性の優しさが、私の脳をぬめらせた。



コーヒー店とは正反対のストリート、その一角で、レオナルドはスティーブンと並んで寿司を食べていた。久々のハマチである。
「なあ少年。これはさすがに僕が可哀想だと思わないか?」
「え、ええ……、そうですね?」
「そういえば好きだとは言ったが、関係については明確にしていなかったからなあ……。いや、でも普通……。どうかな少年。僕は異世界とのカルチャーギャップを感じればいいのか?……まあこれまでを見るに、彼女が微妙に打たれ弱いだけだとは思うんだが……。他の部分は必要以上にパワフルで燃費が悪そうなのに、どうしてそこだけ弱いんだ? 知ってるか、少年。目が合うだけで死にかけてるんだぜ。もう少しバランスが良ければ生きやすそうなものを。僕もちょっと前から実感するときはあるんだが、彼女のアレは恋っていうのが人を狂わせているのか、もともと性格が振り切れているのか、どっちなんだろうな。どう思う、少年。僕は彼女を見ていると、面白いと同時にたまに心配になるんだ。いや、だいたい最終的には笑えるんだよ。笑えるんだけどな」
「ボロクソ言ってんなーこの人……」
ちょくちょく僕に意見を求められても困るんですけど、という本音は器用に押し隠す。
「あの人も、ちょっと不安だっただけだと思いますよ、……えーと、あるじゃないですか、そういうの」
「どういうのだい?」
「ほら、さんって自分から進んで『私がスティーブンさんの恋人よ!』って言うタイプには見えなくないですか?むしろ、『え、私ってスティーブンさんとどういう関係?』みたいな感じの……、控えめ?……な。自分の立ち位置がわからなくなるって、よくありますよ」
「控えめ、ねえ。真昼間から僕と『しっぽりいきたい』とは言えるのにな」
「そんなこと言ってたんですか!?」
「うん。よく言うんだよ」
レオナルドは「うーん」と腕を組んだ。
「えっと、……スティーブンさんがそんなこんなで落ち込んで……るのかはわかんないですけど、でも好きなんですよね?」
「好きだよ。困るよなあ」
「困っ……、てますかね?」
「困ってるよ」
「こないだからずっと困ってばっかりじゃないですか?」
「困らせるほうにも責任があるんじゃないかな。今回は特に驚いた」
「……とか言っても好きなんですよね?」
「うん」
「どっちも重篤だと思いますよ」
スティーブンは大げさにかぶりを振った。
「しかし今回は、僕の独り相撲が心優しい少年に哀れまれてもいいと思うんだ」
「スティーブンさん……」
思わしげな声を聞き、長い腕がレオナルドの肩に回った。
「いいぞー、少年。そのまま素直に慰めてくれ。奢ってやるから」
「そ、それはなんか金で買われたみたいで嫌なんですけど!!」
しかし追加で中トロを差し出されてしまっては、ごくりと喉を鳴らすしかない。
(なんで僕がこんなことやってんだろなあ……しょうがないよなあ……)
放って置けない性分であるので、レオナルドは言葉を尽くして、縦から横から、スティーブンを励まし続けた。
実はそれほど気落ちしてもいない副官は、少年からの必死のエールを受け取りながら、その可愛らしい正直さに、こっそりと笑いをかみ殺す。
(これだから彼は好かれるんだよなあ)
かくいうスティーブンも、いつの間にやらお気に入りである。

面倒な色恋沙汰に巻き込まれるレオナルド・ウォッチは、とても善良な少年である。


0810