02
バイト先の同僚と集まり、くだを巻く。外で飲むときは酔わないようにするのが癖になっており、私は1杯の『とりあえずビール』を舐め続けていた。他はもう、3杯はかっ食らっている。
店長が私の首に腕をかけた。
「で! あの人とはどうなってんの?」
どの人か、などとは訊き返すまでもない。数週間前にバイト先でちょっとした、笑うしかない再会を果たした話は当然スタッフには周知のもので、どこまで言えば良いものか迷いはぐらかすうちに、私たちは何やら劇的なお付き合いをしていることに落ち着いた。同居の話もあそこでまとめてしまったうえに、そのときのお茶代は同僚が払ってくれた。何も言えない。
「えーと、同居が始まりました」
事務書類を除けばカバンひとつで済む引っ越しも無事に終わり、形だけ見れば、私たちは以前と何も変わらない生活に戻った。ちょくちょく夕食どきにお邪魔していたので知っていたはずだが、『またお世話になります』と頭を下げると、優しいヴェデッドさんは我が事のように、正式な再会を喜び、ニコニコしてくれた。心癒される一幕である。
かいつまんで話したが、これは店長らの望み通りの答えではなかったらしい。
「他は?」
「なんにもないですよ。彼は忙しいし、私もこうして自由にやってますから」
一見、なんの変わりもない生活だが、そう、これがかなり大きい違いだ。かなり、というより、正反対というか、まさか、というか、驚きというか。
まあ、当たり前といえば当たり前なのだが、私はもはや誰かさんと傷を共有することも、『死にやすい』わけでもなくなった。『おまじない』が正しく作用してからずっとそうしてきたように、私は自分の意思で外に出られるし、こうしてお店が早く閉まった22時に居酒屋で同僚と飲み会を楽しむこともできる。記憶が消えていたときはもちろん感じなかったが、思い出してからは解放感にしみじみする。真面目に取り組んだことのなかったバイトも、意外にも楽しい。世界が広がるというのはこういうことを言うのだなとよく思う。夕食に合わせ、彼にさまざまなことを話せるようになったのも嬉しい。言うまでもなく話術は紙よりも薄く軽く脆く、彼にとってはあまり楽しい時間とは言えないだろうが、うんうんと耳を傾けてくれる心の広さは見習いたいところだ。
「門限とかないの?」
「ないです」
「え!? 外泊は?」
「連絡したらいいんじゃないですかね」
「なにそれ!? じゃあ合コンもありなの!?」
「たぶん……?」
気にしなさそうだ。
「フリーダム!!そんな付き合いがしたいわ!」
束縛の強い恋人に悩まされる同僚が、ジョッキを勢いよくテーブルに打ち付ける。彼女はそれを一気飲みした。
「相手はどうなの?」
「何がですか?」
「イケメンでしょ。浮気の心配とかないの?」
私は笑うしかなかった。それ以外に何ができようか。彼の素肌などとんと見ていないが、どこかしらに引っかき傷がありそうな気がしてならない。なかったとしても、こういうのはイメージだ。
泡などとっくに消えたビールを飲む。
「大丈夫ですよ。ほら、女の勘でわかるっていうじゃないですか」
「確かに」
「俺はそれでバレた」
経験談が寄越された。同僚のそんな事情などは知りたくなかった。
深く頷く店長は、私の味方である、という顔をした。
「それで? 同衾はできてんの?」
「えっ!?できてないです!なんでですか?」
「あんたが言ったんだよ!店で!!」
ああそうだった、と思い出す。
「どうしてできてないの?どっちもピュアなの?あんたはあんなことを公衆の面前でぶっちゃけられるし、相手も明らかに経験豊富なのに?スローペースなの?なんなの?」
「店長、飲み過ぎじゃないですか」
息がお酒くさかった。お水を勧める。
こういう話題で攻められるのは少しやりづらい。聞き専だったので、メインに置かれることに慣れていないのだ。
しかしどうやら、こういった話は同僚らの大好物であるようだった。
「拒まれてるの?」
「私も自爆するし普通に流されるので、そんなものかなって」
「自爆ってなに?」
この場合は、言い出しておきながら恥ずかしさで死ぬことである。
「流されるってなに?」
この場合は、軽々と許可をいただけることである。私が絶対に踏み込めないと知りながらやるのだから、これはある意味の徹底したスルーに他ならないだろう。世界一無気力な了承だ。
「つまりあんたが問題なんじゃねえかよ」
「店長、言葉が……」
浮気男子の忠言は「うるさい」と無視された。
「押さなきゃダメなんだよ!押さなきゃ!一回もできないよ!?」
「そ、そうですね」
「あんなイケメン!ただ見てるだけでいいの!?」
「え、ええー……」
それなりに爛れました、とは口が裂けてもよう言えない。人間関係はともかく、どちらかの、あるいは両者の人格が疑われる。
「そんな話やめて、楽しく飲みましょうよ!ね!次、どうします?なんかヘルサレムズ・ロットっぽいのにします!?」
「レッドアイ!……眺めてるだけで、飽きられたらどーすんの!?」
「う、うーん、ど、どうしよう?」
錯乱してきた。
「えーと、飽きそうか、本人に訊いてみます」
「あのツワモノっぽいイケメンが否定以外の言葉を吐くと思ってんのか!?脳みそユルユルか!?」
「確かに私は頭がユルいけど!」
そんな人ではないですよ、と言おうとしたが、ありそうだな、とも思えたので黙ってビールを口にした。
「でもあの、きっぱりしてますから!切るときは切りますよ!」
「切られたこともないのに言わないの!」
あります、とは口が裂けてもよう言えない。それも、かなり明確に切られた。
そのようなことを知る由もない同僚らは、口々に私の背中を押した。かなりダイレクトに声援を送られたものだから、居心地が悪い。
「あの、私、こういう話はちょっと苦手で」
「人前で恋人に『同衾しよう』とか言っておいて!?」
「いや、あれはうっかり……!ふたりきりな気がしちゃって!……と、いうか……」
恋人、ってことでいいのかな?
個人的には、ヴォイニッチ手稿と並んで世界のミステリーに数えられそうな謎だ。ヴォイニッチ手稿が何かはちょっと、知らないが。
さとられないよう言葉を濁し、浮気男子に焦点を移動させる。矛先を向けられた男子には悪いが、ちょっと知らぬところでダメージを食らったので許されたい。
日付が変わるのではという時刻まで飲みに付き合った私は、4軒目に突入するらしい彼らを見送り、タクシー代をケチって夜道を歩く。地下鉄に乗れば簡単に帰れるので、楽なものだ。
と、角を曲がったところで見知った顔と出くわした。
「うわっ、オメーこんな時間にナニしてんだよ」
「ザップさん!」
今日は薬漬けじゃないんですね!と言いかけてやめた。目にしたこともないのに、又聞きした情報だけでものを言うものではない。これでも成長したのである。
私の成長物語などにはミジンコほども興味がないであろう細身の男は、ねじくれていそうな笑みを浮かべた。
「早速夜遊びか?ジユーってのはコエエなー」
「バイト先の人と飲み会してたらこんな時間になっちゃって」
「それを夜遊びっつーんだよ」
まともなトーンで指摘されてしまった。
「カーチャンに連絡はしてんのか?誘拐されても知らねーぞ」
「カーチャン?」
ザップさんが小指で耳を掻いた。
「あの人だよあの人。名前を言ってはいけねえあの人。スカーフェイスさん」
「言ってるじゃないですか」
しましたよ、とカバンからケータイ電話を取り出す。ザップさんが覗き込み、画面を光らせる。
「ヒイッ」
ゾッと背筋を寒くした私とは対照的に、ザップさんがゲラゲラとお腹を抱えてのけぞった。
「バッカじゃね?電話出ろよお前!」
着信があった。
それも、数回。
「気づかなかった!仕方なかったんです!」
「俺に言ってもしゃーねーだろ」
これ以上なく正しい文言である。
「かけていいですか!?」
怒られそうで怖い。これは、長風呂をしていてそのまま眠ってしまったときの比ではない迷惑のかけ方なのではないだろうか。
「あの、あの人って今日は何時に上がってましたか!?」
せめて事前に情報を、とザップさんに詰め寄ると、彼は「知らねーよ。オメーが出かけるっつったんだったら遅かったんじゃねーの」と曖昧なことを言ってくれた。慰めてくれているのだろうか。
ああ、ものすごく怒られそうだ。
「ものすごい怒られたらどうしよう」
「あーヤベエよなァー。ああいう普段オンコーな人が怒るとヤベエよなァー。ものすげーっつーかメチャクチャ怒られたりしてなあ?」
「ど、どうしよう!?」
「いいからさっさと電話しろよ」
再びまともなトーンで言われてしまった。
とても連絡したくないのだが、そうもいかないだろう。最後まで知らずにいたかった気もするし、ここで発見できて命拾いしたような気もする。とりあえず、唯一の味方(……かなあ?)を逃さないよう服を掴んだ。伸びんだろーがよ、とはがされそうになったが、ここでひとりにされるわけにはいかない。
恐る恐る、リダイヤルを押す。
耳に当て、聞こえるコール音が、ギロチンの刃が軋みながら上がってゆく不吉な響きに思える。
電話はすぐにつながった。習慣か、名乗られる。私は開幕早々、何も起こらないうちに降伏した。
「ごめんなさい!」
接客中にお冷やをこぼしてしまったとしても、ここまで血の気はひかないだろうなと思った。
電話の向こうは和やかだった。
「繋がって良かった」
あれ?いける?
そんな希望を抱き、私は直後に石段を転がり落ちた。
「で、君は何が悪かったと思って謝ってるんだ?」
私の耳元に顔を寄せて盗み聞きしていたザップさんが、無言で大笑いしながら私の背を何度も叩いた。汗すら浮かばないほどに肝が冷えているうえに、緊張と恐怖で痛みも感じられない。
「あ、あのですね」
半ばパニックである。ザップさんは普段、こんな人を怒らせているのか?よく無事でいられるな、と間違った尊敬をしそうだ。怒らせているのかは、知らない。
彼は思い出したように言った。
「ああ、悪い。帰り道だったな。迎えに行く必要はあるかい?」
「な、ないです……」
向こうの態度はあまりにも普通だった。
「なにで帰る?」
「で、電車と徒歩です」
「タクシーを拾ってくれ。住所は前に教えたよな?」
「いやでも」
「言いたいことが?」
「あ、ありません」
思わず反論しかけて、やめた。これは無理だ。ザップさんが笑い過ぎて壁に肩をぶつけた。
電話を切ると、私はひたすら「やばい。やばい。やばい」と呟く壊れたオーディオプレイヤーと化した。
「いやだー!帰りたくない!帰りたくない!」
「帰らねえってのもおもしれえよな」
「面白くない!全然面白くない!」
「じゃー帰れよ」
「一緒に帰って!!」
縋りつくと、今度こそザップさんは私を振り払った。
「なんで俺が巻き込まれなきゃいけねーんだよふざけんな!会いたくねーよあんな状態で!!」
「私だっていやだ!!」
「自業自得だろーがよォ!自分が嫌なことを人にやらせんな!」
「あなたからそんな台詞が出てくるなんて!」
それでもザップさんは優しかった。タクシーをつかまえ、私を押し込んでくれる。半分くらい必死で抵抗していたが、ドアは無情に閉められた。
もちろんこれがベストな選択であり、彼を恨む筋合いなど欠片もない。むしろ一緒にいて、こうして助けてくれたことに感謝するべきだ。半泣きで窓を開けて「ありがとうございます」と言うと、「今度奢れよ」と言われた。信じるべきだが、何を奢らされるのかちょっと怖い。
涙目で震えていると、ザップさんは「仕方ねーなコイツ」と吐き捨ててから思い出したようにポケットを漁り、何かを取り出して指で弾く。放物線を描いた小さな光を両手で受け取ると、銀のそれが指輪だとわかった。女物とも男物ともとれる、細身でシンプルなデザインだ。
なんだこれ。
「幸運の指輪とかいうスピリチュアルゥなアイテム。やるよ」
「え!?なんでですか!?」
「ザップさまの優しさだよ。持っとけ。普段からつけとかなきゃ意味ねーんだとよ。知らねーけど。でも今はつけんなよ。夜につけ始めっと良くねーんだとさ。知らねーけど」
何も知らなすぎなのでは?何か裏があるのでは?厄介払いなのでは?
そのような疑念が浮かんだが、善意に対してあまりにも失礼というものだろう。
私はそれをカバンのポケットにしまい込み、「忘れなかったら、今度つけます」と頭を下げた。ザップさんは自分自身でも指輪の効果など欠片も信じていない顔で手を振る。別れた女性からのもらいもので、サイズも全然合わないので売っ払おうと思っていたところだったらしい。
運転手に大雑把な住所を告げ、身銭を切って必要のない前金を払うと、対応は目に見えて良くなった。すいすいと他の車を追い越してゆく。そんなに速くなくても……と13階段を上る気分で頭を抱えた。
そんなこんなで憶えてもいない祈りの言葉を必死に思い出すうちに近くまで来たので停めてもらい、私はすっかり軽くなったお財布と重すぎる足を引きずって、ホラーハウスの前に到着する。そして即座に踵を返しかけた。
「わ、わざわざ待っていてくださったんですか」
「そう」
「ごめんなさい……」
もう何も言えない。
「僕の話を聞くのとシャワーを浴びるのと、どっちを先にする?」と言われてシャワーを選べる人間が、この世にどれほどいるだろうか。私は選べなかった。
お水を出され、喉がからからだったのでありがたく飲んだ。
「別に、君が思うほど怒ってないよ」
どうしたものかと恐々としていたので、先にこう前置きされて、非常に安心した。人の言葉の上辺しか見ないのは私の悪癖であり、命取りである。紙に失礼になるほどペラペラで軽くて水に弱い頭が冷たい飲み水でふやけたとしか思えない。
「前もって連絡はもらっていたし」
「え、ええ、はい……」
「ここまで遅いとは思わなかったけど」
「すみません……」
小さくなるしかない。私もここまで遅くなるとは思っていなかったのだ、というのは言い訳でしかない。ならば連絡をしろという話である。
論点もそこであり、彼は短く、私を叱った。
「……次は、22時を過ぎるようならもう一度連絡を入れて、僕からの電話にはいつでも出られるようにしておいてくれ」
とても短かったので拍子抜けし、顔を上げる。
「おしまい?」
「おしまい」
終わりらしい。
「……怒ってないの?」
「怒っていたわけじゃないよ」
「すごい怖かったですけど……」
怒っていなくてあれほどの恐怖を人に与えられるというのは。
平常時は温厚。優しさと思いやりに富み、何事にも配慮が行き届き、必ず数歩先まで見越して動く。
こういった人物こそが、ザップさんの言う通り、とってもヤバいのである。私は身をもって実感した。
悄然とする私に、スティーブンはわかりやすく説明をした。
「僕は君を心配していたんだよ」
わかっていないみたいだけど、と続けられ、花火の音が光よりあとに聞こえるように、私は遅れて身を乗り出した。
「ええ!?」
「驚くようなことかな」
「い、いや、いえ、そんなことは」
萎縮しすぎてその可能性に思い至らなかった。怒られることばかり考えていた。
思えば以前から、私は何度も彼に心配されていた(……していただいていた!)のだった。
より小さくなる。
「す、すみません」
「何がかな」
「ご心配をおかけしました……」
「うん。……これはたとえばなんだけど、もしも君がどうしようもない危険にぶつかって、僕に連絡が取れないときは、躊躇わず、自分の電話を叩き壊してくれ」
……えーっと、情報保護かな?それとも局地的爆発でも起きるのだろうか?迂闊に落っことせない。
と、いうか。
凍りついていた心臓が氷解し、不謹慎な喜びが湧き上がる。心配。心配か!
場にそぐわぬ思考でドキドキし始めた私に対し、スティーブンは冷静だった。
「顔が浮かれてる」
「うわっ、ごめんなさい!」
気を引き締めて唇を引き結んだところで、ハッと、ある想像が私を襲った。
「あ、あの!呆れた?嫌いになる?」
椅子から腰を浮かせ身を乗り出すという醜い必死さである。手のひらに嫌な汗をかいた。
どのような悲壮な顔をしていたのか、私自身にはわかりかねる。
しかし彼はこちらを見て笑った。私たちの温度差が激しく、心の温度調節機能が大破寸前だ。
「どうせいつかはやるだろうなと思ってたから、別にどうとも思ってないよ」
いつかはやると思われていたのか。さすがすぎる読みである。
安心して息を吐く。
そんな私の安堵に、「でも」と低い声が続いた。
「考えていたよりも焦った」
その困ったような表情を見て、私がどのくらいびっくりした顔をしていたのか、私自身にはわかりかねる。
一難去り、シャワーを浴び、今度会ったらザップさんにお礼を言おう、と決める。
時計を見ると、こんな時間まで待たせてしまった申し訳なさがこみ上げた。忙しいのに。ものすごく忙しいのに。
深夜番組にチャンネルを合わせるスティーブンに改めて謝罪すると、彼はテレビを消して立ち上がった。軽く腕が開かれる。
「はい」
現実が遠ざかった。
「……はい?」
彼は足元を指差した。
「君はここに立つだけでいいよ。それで終わり」
「……は、……はい……?」
ゆで卵のほうが固いだろうと思われるおつむが、奇跡的に答えを導き出した。足が勝手に後ずさった。
「ま、まさかそれはその」
「そう。逃げられると傷つくなあ」
「す、すみません……」
傷ついた顔はそうつくるものではないのでは、と言うのは無神経だろうか。
「ていうか、……私が行くの!?」
「僕が行くと逃げるだろ」
「ヒイ……おっしゃる通りです」
何が起こるか理解して相手に近寄るというのは、知ってはいたが胃に来る。洗い流したはずの汗がまた滲んだ。
人語を喪失し目すら眩ませたこちらの背に腕がまわり、私はミステリーサークルよりも不可解な距離の近さに心底おののいた。相手の呼吸のリズムを感じて、寒天よりもヤワな精神が崩壊するところだった。
「このまま行くと私は明日のお日さまを見られません」
「君は意外としぶといから大丈夫だよ」
「謎の信頼!嬉しくない!」
その形容詞はハタチの乙女に向けるものとして相応しいのだろうか。
せっかくの機会なのでこっそりすり寄って余すことなく興奮していると(……余すことなく……?)、スティーブンが唐突に言った。
「君、野菜じゃないほうのホウレンソウって知ってるかい?」
「ものすごい勢いで侮られてる!?知ってます!」
たとえば双子の卵黄の魅力が3だとすると、「そう」と打たれた相槌の魅力は無量大数だった。
「じゃあ、頼むよ」
彼に対しては常に心の砦が全開であるので、このたびも見事に火矢を放たれ、堡塁が崩れ落ちた。ほぼ自滅である。
「わ、わかりました……」
こう言うほかに、私に何ができようか。
ふと、チェインさんの言葉が脳裏に蘇った。
どんなに守っても、どこからか情報を奪われてしまうように。どんなに巧妙に隠されていても、手がかりがあれば真実に辿り着ける。
人の言動のその先に何があるのか。
本人だって、気づいていないかもしれない。
なんとなく、ものすごくときめいた。
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