01


基本的にご飯はきちんと食べるのだ。というのも、以前暮らしていた(……置いていただいていた!)お宅におけるヴェデッドさんの手料理が3食ともめちゃくちゃおいしかったもので、欠かすという選択肢がなかったためで。
しかし一人暮らしとなると話は別である。もともとお料理をする習慣のなかった私は、ほぼフルタイムのバイトから帰るとシャワーを浴びて、なぜか好きになっていた読書に勤しみ、翌日に備えて眠る生活を繰り返していた。体力がないので初めの頃は夜更かしもままならず、手作りのお弁当などは夢のまた夢。朝ご飯はバイト先に行きがてら購入し、お昼ご飯はそのカフェで社割を使って食べるか外に出かけてその辺の安いサンドイッチを買うか。帰宅してお風呂に入ってしまうとすべてのやる気が失われ、めんどくさい!とあれもこれも投げ出し、手軽なインスタント食品で済ませていた。安いものには明らかに異界の、名前も知らぬ食べ物が混じっていたが、まあ、ヘルサレムズ・ロットだから仕方がない。
そのような生活をしていたので、記憶を取り戻し、引っ越し前にお招きいただきスティーブンの家に行った(……戻った?)ときには感動で泣くかと思った。さまざま意味で心は震えたのだが、やはり『食』は大切である。
ヴェデッドさんお手製のグラタンを口にし、私は自分の荒れた、自堕落かつ手抜きな日々を思い出して泣きかけた。実家や庇護から離れれば、自立した暮らしなどしたことのない、頭と根性のか弱きハタチの女などは無力だ。
スティーブンは「君」と口を開いた。
「どんな生活だったんだ?」
そんなことは私が聞きたい。
忌々しき救いである『おまじない』により私の記憶がぶっ飛んだとき、私に残ったのは、異世界に来てしまったのだという自覚と、まあ生きていけるのではないのかという謎の自信だけだった。消え切らなかった何かが私を支えたのかもしれないし、単に私が現実を見られない愚者であったのかもしれない。
さて、そのような状況で『ライブラ』なる秘密結社やら秘密組織やらに保護された異世界人たる私は、彼らからの保護と支援を受けながら右も左もわからぬヘルサレムズ・ロットで生きることとなった。いきなり放り出すのは非道なのでは、などと思わなくもなかったが、ぬるま湯に浸かる生活は私のためにならないと判断されたのかもしれない。あるいは、冷静極まりない目の前の某男によって指示がなされたのかもしれない。どちらにしても私は衣食住における多少の支援とレオの手助けを受け、新しい人生へ踏み出した。心に引っかかる複雑な違和感を抱えながら。
この違和感が解消された経緯についてはどうでもよかろう。目が合い、何かをおぼえ、誰も知らない(……はずだった)フルネームを呼ばれたあのとき。一連の出来事が私の脳幹を揺さぶった衝撃は忘れがたく、そしてすべてがなかったかのように、空白を取り戻すものだった。なぜ知られていたのか、ちょっと不思議だ。
あっという間に私の進路は上空1万フィートで急旋回し、『バイトだけで食べていくのって大変そうだなあ』という漠然とした不安は、それ以上のとんでもない事態により一時的に吹き飛ばされることとなった。
記憶喪失からひと月と少しもしないうちにアパートの一部屋を離れ謎の同居を果たす約束をしてしまった私は、それからしばらくはお互いに準備もあるのではなかろうかと元のままアパートに住み、時おりあちらさまの都合が良いときにお夕飯に招かれる。そういった流れが、自然と生まれた。あれ?なにこの手腕?また転がされてやいないか? ……などの疑問が湧いたが、私ごときが何かを言えるはずもなく。『そんなもの?』とレオに相談し、『そんなもんですよ』と8割ほどどうでも良さそうなお返事をいただいて安心したところで、グラタンである。
どんな生活だったのかと問われれば、現代日本で十数年間過ごした親の手元から離れることとなった不器用な大学生そのものの生活としか言えない。もちろん、世の大学生がみな一様にそうであると言うつもりなど欠片もないが。
「やっぱり料理はできないとダメだね!」
彼は白い目で私を見た。
「想像がつくな。身体を壊すよ」
「ホントだよねー。ていうかスティーブンってホントにイケメンだね」
「ああそう」
「うん」
聞いてはいるのだが、見ると、ずっと枯れていたイケメンセンサーがびんびんに反応する気がしてたまらない。まじまじと、不躾な視線を送る。
「ていうかスティーブンさん」
「ん?」
謎の同居の話が飛び出した際は勢いのまま噛みちぎるように食らいついてしまった私だが、よく考えるとそれはどうなのだろうか。言い出したのは彼なのだから、まあ、問題はないのだろうけど。
「私が買ってもらったものとかってどうなったの?捨てた?」
「そのままにしてあるよ」
「えー!嘘!優しい!……なんで?」
「出前の電話番号を忘れたから」
「は?」
意味がよくわからず首を傾げると、「そんなことだと思ったよ」と言われてしまった。なぜか罵倒された気がする。しかし悪感情は見られない。おおかた、私がアホなことをしたのだろう。彼に間違いがあるとなるとヘルサレムズ・ロットの一角がひっくり返りかねないので(……言い過ぎか?)、原因は私に違いない。
「その不健康な生活はいつまで続けるつもりだい?」
「バイト先が遠くなるから、交通費変更のシンセーが通ったら、かなあ? ……どう?」
「わかった。荷物はどのくらいある?」
「えーと……」
ほとんどがアパート備え付けなので、住み始めたばかりということもあり、私物は非常に少ない。揃え始めた洋服類が数着、本が数冊、と数える。……あれっ、本当にそのくらいだな。実にストイックではないか。雑然としていた実家の部屋に見習わせたい。
「大きめのカバンで済むくらいかなあ」
「君、どんな生活だったんだ?」
「私にもわかんない」
何をしていたのだろうか、私は。
デザートのプリンを食べて再びむせび泣きかけながら、じっと相手を見つめる。
なんだか実感がなかったが、こんな話をしていると事実は徐々に現実味を帯び始める。
もしかすると私はとんでもない道に踏み込んでいるのでは?
そもそも、なぜ同居をするのだろう。必要なことか?彼にとっては再三の負担が増えるのみだ。
「ねー、あのさ、私まだ生活のヒツヨーケーヒ?とか払えないけどいいのかな?」
スティーブンはまるで、私がとんでもないワガママを言ったかのような顔をした。この質問のどこにその要素があったのかがさっぱりわからない。むしろ私がその顔をしたい。
彼の答えは簡潔だ。言葉のニュアンスも言い方も二の次で、単純にこちらの質問に回答を寄越す意図しかない。
「いいよ」
「ありがとう」
一安心でプリンをすくう。スティーブンが呟いた。
「……というか、僕から呼び込んでおいて払わせるっていうのは詐欺じゃないかな」
言われてみればそれもそうかもしれない。

そんな会話をしたのが1週間ほど前で、アパートの私の部屋の扉をレオが叩いたのはそんな日の夜だった。
「お待たせしました、さん。ミックスピザとポテトとナゲットです」
「やったー!ありがとう、レオ!食べてく?」
「うーん、僕、道具をバイト先に返さなくちゃいけないので」
「もし良かったら来てよー。片付けしててごちゃついてるけど、一緒に食べようよ」
レオは困った顔をしてから、ひとつ頷いてくれた。
「じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔します。30分くらいしたらまた来るので、先に食べててくださいね!」
「はーい」
ジャンクな宅配ピザを食べられる幸せというのは、体験して初めて感じるものだ。自分のお給料で買うと余計に背徳的でたまらない。こんなことにお金を使っている場合ではないのだが、無計画かつ目の前の餌にまっしぐらな私は家計簿とは無縁である。すべてが感覚。もうダメなのかもしれない。自活に向いていない。
言われた通り、備え付けのテーブルに箱を広げる。ミックスピザには野菜がのっている。引っ越しの準備をしているところなので、冷蔵庫に野菜はない。薄っぺらいピーマンとトマトでビタミンを摂った気分になろう。
20分ほどすると、電話が鳴った。レオからだ。
「もしもし」
「あ、もしもし、さん。えーと、ですね」
用件を喋りづらそうにしているので、もしや予定が入って来られなくなったのかと推理し、先に言う。無理に来させるつもりはない。ちょっと寂しいかなと思っただけである。
レオは「いえ」と否定した。
「その、途中でスティーブンさんに会ったんですけど」
「……え?」
途中と言っても、ここは彼の自宅からは遠いのでは。そこまで考えて思い至る。ああ、職場は比較的近いのかもしれない。
「……え?どうするの?呼ぶかってこと?私のこの乱れた生活を?あのイケメンに見せても大丈夫かってこと!?」
「や、そうじゃなくて……。というか、大丈夫だと思いますけど」
「ダメでしょ!下着、部屋干ししっぱなしだよ!」
「しまってくださいよ!どっちにしても僕はお邪魔するんですよ!?下着は勘弁してください!」
「ご、ごめんなさい」
ひとりで暮らしていると感覚がゆるくなるものだ。
レオが咳払いをひとつする。
「そうじゃなくて、届けものがあるらしいんです。都合が悪いなら、僕が受け取っておきましょうか?……って訊きたかったんですけど。下着はしまってください」
レオの善意はありがたく、本当ならばそうしてもらいたいところなのだが。
せっかくわざわざ忙しさの合間を縫って立ち寄ろうとしてくれたのに、とって返させるのも申し訳ない。ここはお茶のひとつでも出すべきか。外でおいしいものを飲めばいいやと思い、コーヒーは置いていないが、カモミールならある。
「カモミールでいいならお茶があるから、時間があるならどうぞって伝えてくれる?」
レオは了承し、電話を耳から離してスティーブンと何事かを話したらしかった。ヘルサレムズ・ロットの街路を貫くクラクションが騒がしい。
「行くそうです。もうさんの部屋の下の道にいるんで窓から見えると思います」
「え!?」
慌てて窓を開けて身を乗り出すと、レオと、レオよりもずっと背の高い色男がにこやかに手を振った。早く言っていただきたい。
「じゃあ鍵開けとくから勝手に入ってね。私は下着をなおします」
「はいはい。チャイム鳴らしますよ」
レオは律儀だ。
私は玄関の鍵を開け、乾いたにも関わらず小物干しに引っ掛けたままだった下着を摘み、たたんでクローゼットに突っ込んだ。他に問題になりそうなものは、と部屋を見回したが、こういうのは自分ではわからないものだ。どことなく生活感が溢れる部屋にあの妖怪ヒャクセンレンマを迎え入れるのは非常に心が痛み心臓が嫌な音を立てたが、了承してしまったのだから取り返しはつかない。とりあえず、お湯を沸かした。このケトルも備え付けである。大丈夫なのだろうか。その、家賃とか。私が支払っているのはおそらく、いくつか割引きされた家賃の一部である。負んぶに抱っこでも構わないのだろうが、多少の余裕ができると、なけなしの罪悪感も刺激されるというものだ。心からの善意だと理解できるからこそ肩身が狭い。時に良心は、何よりも人を責め立てる。
チャイムが鳴り、すぐさま駆け寄ってドアを開ける。レオが眉根を寄せた。
「だから、レンズで確認してくださいってば!」
口を酸っぱくして言われていたが、忘れがちである。訪問者など、普段はないのだ。
お邪魔します、と言ったふたりを招き入れてから気づいた。
「あ、スティーブン、お腹空いてる?ピザ食べる?」
「僕はいいよ。そう長居するつもりはないし」
「そうなの?」
「届けものを渡しに来ただけだからね」
「そうだった。それって何?」
スティーブンは提げていた紙袋を私に差し出した。
「ヴェデッドからの差し入れ。明日までもつから、好きなタイミングで食べてくれ」
私は歓喜で指先を震わせた。ヴェデッドさんからの差し入れというと、お料理以外にはありえそうにない。受け取って触れると、袋越しにタッパーの感触がした。
「嬉しい……!大好き……!!」
「誰を?」
「ヴェ、……ふたりを!!」
「ヴェデッドに伝えるよ」
華麗に受け流された。
「スティーブンも本当にありがとう!急なことでびっくりしたけど」
今なら感謝の表れとして手のひとつも握ったって誤魔化されてくれるのでは、と思わなくもなかったが勇気が出ず、片手が彷徨っただけだった。
「昼にメールしたよ」
「え!? ごめんなさい、全然気づいてなかった」
「知ってる」
とりあえずそのメールは保護しよう、と決めた。

あ、と声を上げる。
「そういえば私のマグカップしかないや。グラスならあるけど、冷たくしていい?」
「僕はなんでもいいよ」
「そ、それとも私のやつを使う!?」
「なんで食い気味なんスかさん」
「これは重要だよ!後々に、当たり前だけど私がそのカップを使うことを考えると……」
スティーブンが切り捨てた。
「長くなりそうだから冷やしてくれるかい?」
「カモミールよりスティーブンのほうが冷たい!」
3人ぶんのお茶を淹れてテーブルに並べる。食べない人の前で食事をするのはどうなのかなとは思ったが、促されたので遠慮なくいただく。少し冷めたピザは、それでもおいしかった。懐かしい。
「宅配ピザの味はどこでも変わらないね」
「異世界でもこんな感じだったんですか?」
「うん」
「まあ、そう変わりませんよね。こっちから考えても、国的には単に外国ってだけですし」
確かに、と笑う。こっちのほうがサイズが大きいが、味に大きな違いはない。
「スティーブンは帰ったらヴェデッドさんのご飯?」
「いや、職場に戻る」
「え!じゃあご飯は?」
「帰りに何か買うよ」
なんと不健康な生活なのだろう。彼は私の食生活を心配している場合だろうか。
不安になったのはレオも同じだったようで、私たちは顔を見合わせた。
「食べていけばいいのに。足りないかもだけど」
「君たちのほうが飢えていそうだからいいよ。成長期だろ」
微妙に突っ込みづらい。私はもう終わっていると思うのだが、人体のことには詳しくないので実際に曲線が下降しつつあるのかはわからない。スティーブンがそう言うのならそうなのかもしれないと思わされてしまう説得力がある。
ぴん、と思いつく。
「あ!ねえ、あーんしてあげようか!」
レオが噎せ、私は言い直した。
「……させていただいてもよろしいでしょうか!?」
詰まったものをカモミールで飲み下した少年から声が上がる。
「どう違うんですか!!」
「大違いだよ!ヒエラルキーが違うんです!」
「スティーブンさんめっちゃ笑ってますよ!」
「そうかな!?」
「そうかい?」
「スンマセン!比較的!!」
急いで振り返ったが、普段通りのハンサムスマイルであった。感情の機微を敏感に読み取れるレオナルドという少年は何者なのだろうか。これが主人公というものか、あるいはスティーブンマスターなのか。頻繁に彼と食事に出かけているそうだし、仲良しなのかもしれない。
レオのむずがゆそうな表情を残して話が終わる。私ひとりが盛大にスベったような格好だ。
しかし、考えようによってはスルーされたのは幸運だった。受け入れられてしまうとそれはそれで、心臓が肋骨を内側からへし折りかねない。トキメキ過剰で複雑骨折というのは、人類史上でも稀に見る、くだらなくて深刻な例になるだろう。
スティーブンはのんびりと、私のすぐ近くでカモミールを飲んでいる。
私はピザを一切れ食べきり、手を拭いて飲み物で味をリセットし、ナゲットに手を伸ばす。レオはポテトをかじり、「そういえばチェインさんがですね」と口を開いた。私は彼に顔を向け、ナゲットを持つ手がお留守になる。
その手が隣から引っ張られた。当然、視線はそちらに移り、私はこの人生の終わりを感じた。
ライブラの誇る、女心を手玉に取りし色男は、私の手を自分のほうへ引き寄せる。そしてあたかも私の手がフォークか何かであるかのような無造作さをもってナゲットをかじった。私は呆然とするしかない。
川の流れがとめどないのと同じようにナチュラルかつシンプル。なんの違和感も抱かせない。
硬直するこちらにはまったく構わずもぐもぐする姿勢も驚嘆に値するものである。確実に、意図的な無視だ。
「う」
ようやく時の流れが私の頭に戻ってきた。置いてけぼりにされていた精神が、脳内の混乱に追いついた。同時にレオも我に返った。
「ううううわー!!」
強く手を引くとあっさり離される。勢い余ってあわや転倒、というところで掴んで戻された。しかしこちらは手負いの獣ならぬ、弄ばれ心がひび割れかけたピエロである。ひびの隙間から羞恥という名の液体がだらだらと溢れて頬が染まる。これが私の恋の恐ろしいところである。明らかに弄ばれているというのに、ピザにのるピーマンよりも薄っぺらい脳みそは、募る恋情と結託して私を苦しめる。
「殺さ、ころ、殺される」
急に正体不明の汗が背中に浮かび始めた。
「彼女はだいたいいつもこんな感じなんだが、難儀だと思わないかい、少年」
「え、ええ?え?」
「私は悪くないよ!」
テーブルを殴りかけた。代わりに空いているほうの手で顔を覆った。私はいつか殺されると思うのだが、どうだろうか。瞳孔が開きっぱなしになりそうだ。
ナゲットを差し出した。
「これもうあげます」
「じゃあ遠慮なく」
「……いや、本当はあげたくない!私が食べたい!変態じゃなくて!」
「どっちなんだ?」
「食べ……たら死ぬ!死ぬからあげます!……あーっ!やっぱり食べたい!」
さん、僕がいたたまれないから食べてもらっていいですか?」
「全員が殺しにきてる!」
全世界を敵に回す悪事を働く気分だ。
ふた口程度で終わる揚げた肉の塊を胃袋に収める。食事前よりも5kgほど痩せた気がした。
「おいしいです。なんだろう。……恋の味がする!」
「かわいそうになってきました」
「いつもと変わらないぞ」
「大変だなあこの人」
年下にまで呆れられてしまった私の明日はどこにあるのだろう。

順調に私の胸の泉を引っ掻き回してくれた男は「よいしょ」と立ち上がる。
「それじゃあ、僕は行くよ。ご馳走さま」
喉元過ぎればなんとやら。普段からそのようにお気楽極まるメンタルで物事を綺麗さっぱり忘れ去って路を行く私は、がっかりしながら口元を拭った。
「えー、もう行くの? 残念」
「何かあったっけ?」
「何もない」
引き止めるだけの用事があるはずもなく。
「気をつけてねー」
「どうも」
「えっと……。スティーブンさん、また明日もよろしくお願いします」
「こちらこそ」
温和そうな笑みを残し、部屋からひとつ、気配が消える。
階段を降りる足音も遠ざかり、反対側の窓に寄って下を見ると、やがて姿を見せ振り返った彼と目が合った。面倒だろうに、ポケットから抜いた手を一度振ってくれるサービス付き。こちらも手を揺らす。レオは軽く会釈した。
「なんでイケメンって何してもイケメンなんだろうね」
「イケメンだからじゃないですか?」
「そうかもしれない」
くだらないことを話し、テーブルに戻る。
冷めきったピザをトースターで焼きなおす間、レオが私に問いかけた。
「元通り、同居するんですよね?」
元通りと言っていいのかは置いておく。
肯定すると、彼は思わしそうに言った。
「大丈夫なんですか?」
久しぶりだからもともと薄かった耐性が完全にはがれ落ちてこんなにも動揺したのか、私の知らないうちに(……知らないときのほうが多いけど!)彼の弄りのレベルが極限値を突破したのか、はたまた別の要因があるのか。
言われてみると、死の予感しかない。
薄情過ぎる私の心臓に生えていたはずの毛は、いつの間にか毛根が痩せて抜け落ちてしまったらしい。
「何ヶ月生き延びられるかな?」
レオはトースターのオレンジ色の光に注目するふりをした。
「……あ、あの人はそんなに悪い人じゃないですよ」
「優しさは人を殺すんだよ」
「僕にはどうにも……」
「だよね……」
ピザのいい匂いが漂う。
私たちは黙ったまま、私は胸を、レオは胃を押さえた。


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